根っからの正真正銘のロックンローラーパンクロッカーが叫ぶ、a flood of circle、PK shampoo、オレンジスパイニクラブが味園ユニバース『Next To 湯(You)#5』に揃い踏み
『Next To 湯(You)#5』 写真=清水音泉 提供(撮影:渡邉一生)
『Next To 湯(You)#5』2025.4.29(TUE)大阪・味園ユニバース
2025年4月29日(火祝)に大阪・味園ユニバースにて、関西の名物イベンターである清水音泉によるイベント『Next To 湯(You)#5』が開催された。出演者はa flood of circle、PK shampoo、オレンジスパイニクラブの3組。
昨年3月の『#1』には崎山蒼志、Helsinki Lambda Club、リーガルリリーが出演。昨年8月の『#2』にはZAZEN BOYSとドレスコーズが出演して、今年2月の『#3』にはTESTSET(砂原良徳×LEO今井×白根賢一×永井聖一)、LAUSBUB、また、高野寛 MVF UNIT with 白根賢一が高野の体調不良で見合わせて、崎山蒼志が急遽出演した。そして、4月6日(日)の『#4』にはQoodow、ゲシュタルト乙女、CheChe、DYGL、Helsinki Lambda Clubが出演したばかり。閉館間近の味園ユニバースではあるが、名物イベントとなった。
開演前に清水音泉の『Next To 湯(You)』担当女史による前説を兼ねた挨拶が行なわれたのだが、この日、会場で流れていた音楽は全てロックンロールであり、全て彼女による選曲であった。アナーキー、THE MODS、LAUGHIN' NOSE、ザ・スターリン、INU、ザ・ルースターズ、SUNHOUSE、シーナ&ロケッツなどなど錚々たる面子が並ぶ。彼女が何か言葉を発さなくても、このロックンロールナンバーたちを聴けば、『Next To 湯(You)#5』がどのようなイベントかは理解できたはずだ。
a flood of circle
挨拶が終わり、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが流れたかと思えばすぐ止まり、壱番風呂のa flood of circleが登場する。佐々木亮介(Vo.Gt)が「イエー!」と叫ぶだけで、何だか全てが持っていかれてしまう。
<俺の夢を叶えるやつは俺しかいない 俺は行く いつもの道を Rock 'n' Roll>
「月夜の道を俺が行く」を歌い叫び出した瞬間、確かに完全に空気が変わった。てか、今更だがこの日、一番キャリアがあるfloodがトップバッターなんて誰が予想しただろうか。はっきり言って反則だろう。でも、この時に全ての人がわかったはずだ、このイベントは何が飛び出すかわからないって。そして、一番最初に飛び出してきたのがRock 'n' Rollなんだから、たまったもんじゃない。最高である。
ギターを下げながらも両手を自由に動かしたり、舞台の端から端まで自由に動き、自由にアルコール缶を飲み干して、観客フロアに投げ入れる。観客に向かって小さくゴメンと謝罪しているのも茶目っ気があるし、とにかく自由に暴れている。多分それがRock 'n' Rollなんだろう。渡邊一丘のドラムもHISAYOのベースもアオキテツのギターも全てがキレッキレ。まるで重戦車かの如く怒涛の突入でライブが進んでいく。「D E K O T O R A」で、佐々木は右手にハンドマイク左手にアルコール缶を持ち、観客フロアへと突入する。まるでモーゼが海を真ん中から割った様に、観客が二手に分かれ、その真ん中を突き進んでいく。観客が興奮しきっているのも手に取るようにわかる。
「後輩の下駄履いて、ここに立ってますんで」
そんな言葉も全く嫌味や弱気では無く、強気であり、何よりも真摯にうつる。清水音泉の担当女史が学生時代、机にスターリンのロゴを彫っていた話を聞いて、格好良く見えたと明かす。昔の自分自身のことを、人と違うものをたいして好きでも無いのに好きと言っていると格好良く見えるかなと思っていたとも打ち明ける。そのまま歌われた「くたばれマイダーリン」での「くたばれ」の箇所が涙腺にくる……。自分自身や色々なものに向けた「くたばれ」という言葉の誠実さを物凄く感じてしまった。ここからは何を書いても嘘臭くなるくらいに、ただただ本物のRock 'n' Rollが疾走しきっていた。
「今日の正解の態度って兄貴感?」なんてラストナンバー前に唐突に言い出す。「MCで上手いことを言われたいタイプ? 上手いことを言われたら冷めるタイプ?」なんて続けて、「明日のことわからないってゾッとしない?」と言うが、思わずゾクッとした。そのまま「本気で生きているのなら」を歌う。緩やかなメロディーながらも語気は強くて、これぞブルースとしか言えない…。静かに歌いながらも徐々に熱も帯びていく。ずっと歌い語りかけてくれる。その声はしっかりと我々に響き届く。最後、少し咳込んで終わったのも、それくらい全身全霊だったことが証明された感じがしてリアルでしかなかった。
最後に佐々木は6月6日(金)大阪・梅田クラブクアトロのワンマンライブについて少しだけ喋って去っていった。SNSが存在する今、いつでも演者がライブ動員についてなど発信できる。だが、佐々木の言葉はライブという観客と生のコミュニケーションが出来る場で直接伝えられたもの。あの言葉を聴いたら、行くしか無いだろう、そう本気で想う。
PK shampoo
弐番風呂はPK shampoo。ステージが真っ暗になり、真っ赤な照明が照らされた中、メンバーが現れる。ボーカルのヤマトパンクスは松葉杖をついている。ドラムだけが鳴らされて、ヤマトパンクスが腕を組んで歌う。1行目から耳に残る強烈な歌詞だが、その楽曲はメロディアスであり、その歌とその声からは湿り気も感じて、何とも言えず居心地が良い不思議な感覚。それは生々しい歌詞であり、その生々しさからは本物の風景がくっきりと観えて、温度を感じるからなのかも知れない。始まったばかりだが、色々な事を勝手ながら考えてしまう。それくらい歌に威力があるのだろう。
気が付くとスタッフがヤマトパンクスの汗を拭いている。松葉杖をついているから何かと不自由なのかと思いきや、どうやら血も出ているらしい。それくらい一心不乱にギターを弾いていたのだろう。だが、ヤマトパンクスは、そんな不安も良い意味でする必要がなかったと思うくらいに、マイペースにダラダラとメンバーと喋っている。それこそスタジオや道端で喋っているくらいに、ダラダラと。何で松葉杖なのか、簡単に言うと投げ飛ばされたから、そして昨夜大阪に前乗りしての宗右衛門町や道頓堀での若者たちの様子を自然体で延々と立ち話をしている。歌でも立ち話でも、この人は街の描写をし続けるんだなと感心して聞いていたが、メンバーが忠告する様に時間がなくなっていく。それでもヤマトパンクスは懲りずにビートたけしのモノマネをして、それがいつの間にやら「天使になるかもしれない」に繋がっていた。歌と立ち話のギャップが凄いと思いつつも、これはもしかしたら地続きかも知れないと逡巡していると、ロマンチックナンバー「君の秘密になりたい」が歌われていた。
次のアルバムにも入り、ヤマトパンクス本人が「いい曲やね」と自画自賛太鼓判を押す新曲「君が望む永遠」から「夜間通用口」へ。本人たちも曲をカットするかもと言っていたので、老婆心ながら心配していたが、当初の予定通り、後2曲というわけで、まずは「天王寺減衰曲線」へ。ラストナンバーは、これまた新曲「旧世界紀行」で〆られる。最後に控えるオレンジスパイニクラブに対して、「オレスパは、もういいんじゃないかな!?」なんて仲が良いからこその憎まれ口を叩いたりと、MCでは良い意味でずっとふざけたりかましていたヤマトパンクス。
あくまで余談ではあるものの、後日、ヤマトパンクスがXで、清水音泉の担当女史が昔、自分のライブを観てバンド活動を諦めたと明かされたことを記していた。そこから自分も諦めた経験があることを記していたが、この素直で正直な人間臭さが、このバンドの、このヤマトパンクスの魅力なのだろうなと、後日のXからではあるが改めて感じてしまった。
オレンジスパイニクラブ
ルースターズが流れている。参番風呂はオレンジスパイニクラブ。つまりは大トリである。既にメンバー4人全員が舞台上に立っている。そのまま1曲目「ガマズミ」が歌われる。しっかりと歌を聴かせてくれる。兎にも角にもグッドメロディー。壱番風呂から弐番風呂の激しい湯加減とは、また違う良き湯加減を感じさせてくれる。グッドメロディーでありながら、どこか気怠さがあるのが残ったし、その気怠さが心地好い。一転して2曲目「君のいる方へ」は激しさと衝動性があり、シャウトも気持ち良く決まっていく。一気に突っ走る感じ、そうロックンロールしている。そりゃそうか、このイベントはロックンロールイベントであり、ロックンロールバンドしか出ていないと自分内で納得する。
「敏感少女」はリズムもビートもメロディーも全て気持ち良くて、決して激しいわけでは無いのに勝手にリズムもビートもメロディーも転がっていく。いつしか最後には「敏感少女!」と叫ばれて、物凄いロックンロールで転がっている、やっぱり。要は物凄く大トリを背負っている。その気概をビシバシと感じる事が出来た。何度かライブは以前から観た事はあるが、スズキユウスケ(Vo.Gt)が紛れも無いロックンロールバンドのボーカルとして燦然と輝いている。前述した気怠さはやさぐれ感でもあり、それがロックンロールしているという事なんだろう、きっと。中盤で歌われた「GET THE GLORY」は、聴いているだけで出不精の私でもどこかに飛び出したくなるほどの勢い良くて格好良いナンバー。続く「正体」も含めた上で、オレスパが伝えたい事が本気で届いてくる。
「長い時間かけて、ここに来た人の気持ちとか声とか音とか歌とか……」とスズキが言っていたら、どうやら袖から(多分ヤマトパンクスから愛ある)野次が飛んできたらしく、何を言うか忘れてしまったという。いやいや、もう充分に伝わっていますし、その後の「一生懸命歌います」が全てであった。我々は演者の一生懸命を観に来ているのだから、これでいいのだ。そこからの「モザイク」では、早口だからこそ届けられるグッシャグッシャ感も心と脳を刺激しまくってくれた。人気曲「キンモクセイ」では歌い出されると、観客から歓声が上がり、待ってました感が伝わってくる。いい歌…。観客を見回していると、みんな歌っている。ふと視界に入った清水音泉担当女史も観客と同じく嬉しそうに歌っている。いい光景。
ラストナンバー「Last Night」。全ての楽器がどこか凶暴性も持って鳴り出して、最後の最後でとんでもない衝撃を食らう。スズキユウスケもハンドマイクであり、最後の最後まで暴れてぶっ放してやるという気合いを食らわせてくれた。大トリを見事に請け負い、見事にやりきった。スズキユウスケからはロックスターの風格を感じた。彼のジャケットから何気にTシャツへとデザインされたOASISという文字が。そりゃ間違いなくロックスターを伝承しているわけだ。
アンコール。a flood of circle、PK shampooの名前を出して、「根っからの正真正銘のロックンローラーパンクロッカー、そのバンドたち皆さんの気持ちを代弁」と「急ショック死寸前」へ。歌詞でも「ロックンローラーパンクロッカー」と歌われるが、ここに全てが詰まっていた。
まもなく閉館を味園ユニバースは控えているので、『Next To 湯(You)』というイベントを次はどこで観られるかは今現在は未定だが、それでも僕らは『Next To 湯(You)』を心から期待してしまう。何故ならば本物のロックンローラー(ジャンルという意味合いだけではなく、精神性という意味合いも含む)しか出ないから。
取材・文=鈴木淳史 写真=清水音泉 提供(撮影:渡邉一生)