拠点をドイツへ移したトランペット奏者・児玉隼人16歳、 根底にあるのは「音楽を楽しみたい」という素直な想い

インタビュー
クラシック
2025.7.9
児玉隼人 撮影=福家信哉

児玉隼人 撮影=福家信哉

画像を全て表示(6件)

トランペット奏者・児玉隼人。当時15歳になったばかりだった彼にトランペットとの出会いをはじめ、楽器と向き合う日々について話を聞いたのはちょうど1年前だった。その時は地元の北海道から関東へと拠点を移した直後かつ、管楽器および打楽器の各分野から国際的視野に立ち有能なソリストを発掘することを目的とした『日本管打楽器コンクール』を控えていた頃。取材時にはコンクールで優勝を目指すと語っていた児玉だったが、秋に開催された『第39回日本管打楽器コンクール』トランペット部門で全部門にわたっての史上最年少優勝を果たし、見事目標を叶えた。その後の彼も止まらない。リサイタルを活発化させ初のアルバム『Reverberate』をリリースすると、今年4月にはトランペットの演奏技術を学ぶためドイツに渡り拠点を移したのだ。目まぐるしいほど忙しい日々を過ごす児玉隼人が、この5月に一時帰国したタイミングでインタビューができる好機に恵まれた。昨年のインタビューからの1年をどう過ごしてきたのか、ドイツへ渡った理由など16歳になった彼の声を届けたいと思う。

児玉隼人

児玉隼人

――昨年インタビューさせていただいてから約1年、あの頃は関東へ拠点を移された直後で『日本管打楽器コンクール』を控えているという時期でした。まずはコンクール優勝おめでとうございます。

ありがとうございます!

――優勝はまさに有言実行となったわけですが、コンクールはどのような心境で臨まれたのでしょうか。

心境というか、あの時に一番驚いたのはステージに出ていっても拍手がなかったことでした。コンクールだと普通なのかもしれませんがリサイタルだと拍手をいただけるので……拍手がないことに慣れていなかったので動揺してしまって。シーン……あれ? というところから緊張が解けないまま約4分間吹き切りました。

――吹いている心境がいつもと全然違う感じというか。

そうです。いつも吹いている時はすごく楽しめるんですけど、あの時は楽しむという感覚が得られないままでした。かっちりとしたコンクールへの出場も小学生の時以来だったので雰囲気を忘れていましたし。とにかく緊張していたので覚えていないというのが思い出です。

――審査が進むにつれて緊張は解けましたか?

2次予選は拍手がないことも覚悟して出ていって、当然来なかったのでなんとか自分のモチベーションを上げることに必死でした。そんな感じなので、2次を吹き終えた時は「あぁ……終わった」と思いましたけど、その瞬間に大きな拍手をいただいてそれはうれしかったです。

――そういう思いを抱えながら優勝まで辿り着いたわけですが、児玉さんの感覚で言うと優勝は意外なものでしたか。

いや、落ちるとは思っていませんでした(笑)。言葉にするのは難しいのですが、1位を獲るとはずっと思っていたし自信はあったんです。2次までは感覚的なギャップを感じて自信が揺らいだのですが、2次の結果を聞いてからは自信が回復した気がします。ファイナルへ向けては誰よりも準備をしてきた自信もあったし、ハッピーな気持ちで挑めました。

児玉隼人

児玉隼人

――優勝という結果を受けた時は、率直にどんなことを思われたのでしょう。

素直にうれしかったです。ただ結果発表が少し独特で、ホワイトボードをひっくり返してそこに結果が貼ってあるというもので。

――方法がアナログですね。

そうなんです。そこに1位と書いてあって「……あ!」みたいな感じだったから、優勝を実感するまでなんとなく時間がかかりました。ホールを出て帰る時に、たくさんの人におめでとうと声をかけてもらってようやく。その夜はこれまでで一番楽しい気持ちで寝られたと思います。

――目指していた優勝を手にすることができて、ならば次はどこに向かって行こうというようなイメージは早々に描くことはできましたか?

コンクールが終わってからはリサイタルや学校もあったので、目標は今もまだ掲げることはしていないです。国際コンクールで優勝したいなとは思いますけど、今は留学をしていて学ぶことが自分の中で一番大切なことになっています。それを含め多方面のことに挑戦している真っ最中です。

――超お忙しそうですもんね、今。

日本にいる時は毎週リサイタルがありますし、それを完成させるために練習も重ねているので……忙しくしています。

――コンクールの後の活動のトピックスとしては1stアルバムをリリースされたことだと思います。まず、作品の制作にあたってどんな構想から始まったのか伺えますか。

そもそも僕の中でのCDとは音楽家としても名刺のようなものかなと考えました。1枚目のアルバムだし、15歳という若い年齢でリリースするものなので、余計にそう感じたのかもしれません。だからアルバムにテーマを持たせることは今後もできるだろうから、まずは自己紹介として今までやってきた僕の音楽の歴史を辿れるものにしたいと思ったんです。最初に取り組んだ曲からこの間の『管打楽器コンクール』のファイナルで演奏した曲まで時代を辿って作りたいと考えました。やっぱり音楽家としてCD制作はすごく大切なものだし、まだ自分が世間の方に知られていないこともあるので、まずは自分の音を伝えるためにも自信のあるレパートリーを詰め込んで、僕の魅力を知っていただきたいと思いました。

――ということは1曲目からラストまで取り組んだ曲の順に時系列で収録されているのですか?

そうですね。ただラストの曲はアンコール的な感じで考えて、実はこれが最初に取り組んだ曲ではあるんです。小さい頃から演奏し続けている大好きな曲なので最後に持ってきていますが、そのほかはほぼ時系列です。

――ご自身が何歳になっても立ち返ることができる作品になりそうですね。ちなみにこの作品の中では自分のどんな音を聴かせたいかなど、制作への想いはありましたか?

今回は聴いてもらう人のためにというよりは自分の歴史を刻むことや自分のために作るという気持ちが大きかったかもしれません。15歳で作ることができる作品の最高のものをという感じで。

――ちなみに昨年お話を聞いた時、自分がイメージする音を出すための口の形を練習し続けているとおっしゃっていたこともあって、まだまだ音も進化の途中にある印象でした。昨年からここに至るまで、ご自身の中で音に変化を持たせたりはされているのでしょうか。

はい、ずっと変化し続けていると思います。常に自分のベストを探っているような感じですね。日々少しずつ変わっていくので、1カ月前の僕の音と今の僕の音では全然違うものになっているかなと思います。

――素人耳で聴かせていただいて、前回もトランペットが柔らかい音をしているとお伝えしたのですが、今回のアルバムでは音のまろやかさに拍車がかかったというか優しさがもう1歩先へ進んだようなイメージの音に聴こえました。だからこそ、何か吹き方に変化があったのかな? と聞きたくて。

おそらくレコーディングの3日間だけに限定しても音の出し方には変化があると思います。同じ場所で演奏し続けることで、吹き方の新しいアイデアも生まれてくるんです。まろやかな音と言っていただけるのはうれしいです。

――個人的には音のまろやかさをたっぷりと感じられた「トランペットラブレター」がとても好きで、何度もリピートさせていただいています。この曲のSpotifyの再生回数を見ましたが、児玉さんの楽曲の中でダントツの再生回数で「やっぱり!」と思わされました。

僕は……ちょっと恥ずかしくて自分の音源を聴けていないんですけど(笑)。

――恥ずかしいというのは、反省点が見えてくるからですか?

やっぱり最近録音したものなので、なんでここはこうしなかったかなという思いも湧いてきたりするので、今のところはまだ……。時間が経てば落ち着いて聴けるようになるのかな。トマジの「トランペット協奏曲」はオーケストラと演奏するために書かれたものなので、今回はピアノで収録していますけどいつかオーケストラと一緒にやりたいなとも思います。

児玉隼人

児玉隼人

――そして2024年に北海道から関東へと拠点を移されて、さらに今年の春に留学のためドイツへとまた拠点を移されました。まずは今、留学を選んだ理由を伺えますか。

今トランペットを習っているのがラインホルト・フリードリヒ先生なのですが、彼が2026年の7月で教授を辞めてしまうことが決まっているんです。実はもう定年を過ぎているのですがそれをすでに2年延長していて、再延長はないと宣言しています。定期的に教えるのは一旦終わりにすると聞いて、今ドイツに行かないと、一生彼の生徒になれないと思いました。そこで直接「高校からそちらでトランペットを勉強したいです」と伝えたら喜んでくれました。

――直接交渉されたんですね!

はい。今はラインホルトの家に住んでいます。

――同居されているんですか?

そうですね、もう家族みたいに朝昼晩一緒にご飯を食べて、レッスンをしてもらって、夜ご飯後で自分の部屋にいるのは寝る時だけというほど一緒に過ごしています。僕は未成年でドイツに留学しているので、身元引受人が必要なんです。それもあって彼と日本人の奥さんが、ドイツで親代わりをしてくれています。そういう環境で学べているので、本当に充実した毎日を過ごせています。

――ラインホルトさんから学びたい一番の技術というと……?

彼は本当にバロック時代の音楽からロマン派、そして現代音楽まで本当にその時代に生きているような演奏ができるんです。技術を研究して演奏することはできる人もいますが、作曲者の気持ちを理解して演奏ができるというのは僕が思うに世界中で彼しかいないと思います。僕が目指すアーティスト像がそこにあるので、ラインホルトから学びたい、近くで見てみたいと思ったのは大きかったです。

――学び方としては日本でいう師匠と弟子のような関係ですね。

もう孫みたいな感じでもあります(笑)。とにかく本当にたくさんのことを学ばせてもらっているのを実感していますね。

――言葉にするのは難しいかもしれませんが、ラインホルトさんはなぜ作曲者の気持ちを理解したとこちらが感じるような演奏ができると思われますか?

多分……彼もそれがなぜかを言葉で全て説明することはできると思うんです。でもやっぱり生徒である僕には教えてくれません。僕もいつも「どうしてそんな演奏ができるんですか?」と聞くんですよ。そうしたら「僕はトランペットが大好きなんだよ」と返されて。「トランペットを吹くために生まれてきたんだよ〜」と、それで終わってしまうんです。

――雲を掴むような話ですね。でもそういう回答をもらったうえで、彼のような奏法を得るには今の自分にどんなことが必要なのでしょうか。

いろいろな音楽と触れ合うのが大事なのかなと思うのと、今の僕のようにソリストとしての動きを続けていると、絶対に辿り着けないと思うんです。だからこそ今後はオーケストラの中に入っていくことも必要かなと思っています。そうすれば時代ごとに使われていた楽器を使ったり学んだりすることもできるので、演奏の仕方も変わってくると思います。ラインホルトが進んだ道とは違うと思うのですが、自分の世界が作れるようになるまで勉強を続けたいですね。いろいろなことに貪欲に挑戦していけば、そこに辿り着けるのかなと思っています。……わかんないですけど(笑)。

――今、やるべきことはしっかりと見えている状況なんですね。

そうですね、わかっていると思います。ただオーケストラをやるべきとは分かりつつ、片手間でやれることではないので今はまずソロをやって、ソロをやっているうちにいろいろなことに挑戦できたらと考えています。

――それは現段階でどんなトランペッターになりたいという像を描いたうえで、なのでしょうか。

最終的にはソリストとして世界中の素晴らしいアーティストと共演して、音楽を演奏する側としても聴く側としても楽しみたいという思いが強いですね。音楽は知識が増えることでもっと楽しめると思うんです。…うん、僕は音楽を楽しみたいだけなんです。学んでいるのも楽しいし、ただ単に楽しいことをやり続けていたらまたやりたいことが見えてくるんです。あと僕がずっと言っているのは、80歳になった時にリサイタルをやりたいんですね。

――80歳、ですか?

はい。その時に信じられないようなリサイタルがしたいんです。まぁちょっとふわっとしていますけど。

――ただ、先ほどの「僕は音楽を楽しみたいだけなんです」という言葉は、ラインホルトさんの「トランペットが好きなんだ」に通ずる精神性があるようにも感じました。ちなみにドイツで音楽を学ぶ以外の時間はどう過ごされていますか?

家の周りを散歩したり、ご近所さんとお話ししたりしています。暇さえあれば散歩しているんです。家の近くに湖があるので、そこまで行ったりして。今、滞在しているのが小さな村なので、みんなファミリーみたいにフレンドリーにしてくれています。小さい村だからこそ、小さなアジア人がいることも不思議なんじゃないかな。でもみんなが僕のことを大切にしてくれていて楽しいです。本当に日本では味わえないことばかりですね。家もちょっとお城みたいなんです。築500年って聞いたかな。

――500年!

僕の部屋もすごく斜めになっているんです(笑)。集中して練習していたら倒れそうになったこともありますよ。でもドイツでいろいろな風景を見せてもらったり、いろいろなご飯を食べたり、そのひとつひとつが自分のためになっているなと実感できています。

児玉隼人

児玉隼人

――日本を離れたからこそ、日本のよさも見えてきたりしていますか?

よさ……まだ見えてないですかね……。よさというより日本の湿度が気になるようになっています。ドイツは湿度がないのでカラッとしていて音の調子もいいんです。音の違いに驚いています。

――どう違うのでしょうか。

ドイツやヨーロッパだと「音が飛んでいく」感覚があります。演奏に支障があるわけではありませんが、感覚的な違いは感じますね。

――そしてこのあと7月から約1カ月をかけて国内7カ所でリサイタルが始まりますね。

みなさんが聴き馴染みのある、名曲と言われるような曲からトランペットを演奏する人だけが知っているようないい曲もあって、どんな人にも楽しんでもらえるようなプログラムになっていると思います。今回は初めての全国ツアーなので、聴いてもらいやすい構成を意識しました。

――ちなみに演奏すると公表できる曲目はありますか?

シュトラウスによるソナタというシュトラウスのメロディーを集めて作ったトランペット・ソナタをやる予定です。本当にすごく深い曲になっていて大好きなんですけど、トランペットで30分くらいの曲なので、なかなか演奏する人はいないんです。でも僕はそれがすごく好きで、素晴らしいメロディーとトランペットとピアノとの掛け合いも楽しんでもらえるので今回メインで演奏するつもりです。

――なかなか演奏されないのは長いから、ですか?

それもありますし、実は唇の形をキープするのが難易度としても高くてそこがネックなのですが、挑戦するつもりです。

――そして今回ご一緒されるピアニストの山中惇史さんですが、彼の音の魅力を教えてください。

ソリスティックではあるんですけど、室内楽のピアニストとしても活躍されていてアンサンブル技術もとても高い方です。とにかくいろいろな要素を兼ね備えたピアニストですが、まさかご一緒できると思っていなかったのでうれしいです。

――初共演、そして最新の児玉さんの音を聴くことができるいい機会になりそうです。公演が始まるのを楽しみにしています!

児玉隼人

児玉隼人

取材・文=桃井麻依子 写真=福家信哉

ツアー情報

児玉隼人 トランペットリサイタルツアー2025
出演/児玉隼人(トランペット)、山中惇史(ピアノ)
予定曲目/ガーシュウィン(ドクシツェル編曲):ラプソディー・イン・ブルー、ワックスマン:カルメン・ファンタジー、R.シュトラウス:トランペット・ソナタ、シャルリエ:ソロ・ド・コンクール 第2番、シャルリエ:36の超絶技巧練習曲 第2番、シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70ほか
 
2025年7月22日(火)  神奈川:相模女子大学グリーンホール
開場18:00/開演18:30
全席指定¥3000、学生¥1500 (学生は高校生以下)
(問) 相模女子大学グリーンホール 042-749-2200
https://hall-net.or.jp/01greenhall/
 
2025年7月26日(土)  宮城・仙台電力ホール
開場12:45/開演13:30
料金…全席指定¥5000、学生¥3000
(問) 仙台放送 事業部 022-268-2174
https://www.ox-tv.jp/sys_event/p/
 
2025年7月30日(水)  島根・さんびる文化センター プラバホール
開場18:00/開演18:30
料金…全席指定¥3000、高校生以下¥1500
(問) プラバコーナー 0852- 27-6400
https://www.ploverhall.jp/
 
2025年8月1日(金)  愛知・電気文化会館 ザ・コンサートホール
開場18:00/開演18:30
料金…全席指定¥5000、U18¥2500 ※予定枚数終了
(問) CBCテレビ 事業部 052-241-8118
https://hicbc.com/event/
 
 
2025年8月8日(金)  北海道・札幌コンサートホールKitara 小ホール
開場18:00/開演18:30
料金…全席指定¥5000、学生¥3000 ※予定枚数終了
(問) 道新プレイガイド 0570-00-3871
 
2025年8月10日(日)  大阪・住友生命いずみホール
開場13:15/開演14:00
料金…全席指定¥5000、学生¥3000
(問) イープラス kodamahayato-info@eplus.co.jp
https://eplus.jp/sf/word/0000156087
 
2025年8月17日(日) @東京・浜離宮朝日ホール
開場13:30/開演14:00
料金…全席指定¥5000、学生¥3000 ※予定枚数終了
(問) イープラス kodamahayato-info@eplus.co.jp
https://eplus.jp/sf/word/0000156087

リリース情報

児玉隼人
1st Album『Reverberate』
発売中
 
1. G.F.ヘンデル:調子の良い鍛冶屋
2. H.L.クラーク:霧の乙女
3. C.ヘーネ:スラヴ幻想曲
4. E.ボザ:ルスティーク
 
O.ベーメ:トランペット協奏曲 ヘ短調 作品18
5. Ⅰ. Allegro moderato
6. Ⅱ. Adagio religioso – Allegretto
7. Ⅲ. Rondo - Allegro scherzando
8. A.グラズノフ:アルバムブラット
 
H.トマジ:トランペット協奏曲
9. I. Allegro – Cadenza
10. Ⅱ. Nocturne: Andante
11. Ⅲ. Finale: Allegro Giocoso
 
12. 石川亮太:トランペットラブレター
 
【CD】3000円/em-0044
eplus music
シェア / 保存先を選択