松岡充主演、デヴィッド・ボウイの遺作ミュージカル『LAZARUS』が大阪でまもなく開幕、オフィシャル観劇レポートが到着

2025.6.20
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6月28日(土)から大阪・フェスティバルホールにて、ミュージカル『LAZARUS』が開幕する。先に上演されたKAAT神奈川芸術劇場での観劇レポートが到着したので紹介する。(囲み取材の模様はこちら


ミュージカル『LAZARUS』がKAAT神奈川芸術劇場にて幕を開けた。この作品は、伝説的なロックスター、デヴィッド・ボウイが、最後のアルバム『★(ブラックスター)』と同時期に、エンダ・ウォルシュに脚本を依頼して共作したもの。ボウイがオフ・ブロードウェイで初演中の2016年1月に亡くなったため遺作となった。今回が日本初演となる。

今作の創作にあたってボウイがベースとしたのは、自身が主演した映画『地球に落ちて来た男』(1976年)である。主人公は、干ばつにより不毛な地となりつつある星から地球に落ちてきたトーマス・ニュートン。地球人には未知な技術で巨万の富を築いて帰還するためのロケットを建設するも、正体を怪しまれて拉致監禁されてしまい、地球で恋した女性メリー・ルウとの関係も壊れ、覚えた酒に溺れながら地球に取り残される。彼のその後を描こうと、この舞台の制作は始まったのだ。劇中で歌われるのは、今作のために書き下ろされた「Lazarus」「No Plan」「Killing a Little Time」のほか、「Changes」「Absolute Beginners」「Heroes」をはじめとするボウイの代表曲を含む全17曲。今回の上演では、彼の遺志を尊重して英語の歌詞で歌われ、字幕でその内容が紹介される。ただし、既存の楽曲を使ういわゆるジュークボックス・ミュージカルとは一線を画していて、もとの印象が一新されるほどのアレンジで物語に曲が溶け込み、なおかつ、これこそがボウイが伝えたかったことなのかもしれないとまで感じさせてくれるのだ。

では、映画の続きとなる物語とはどういうものなのか。ニュートンは変わらず軟禁され、帰る手段もなく、救うべき故郷の星もそこにいる家族も遠いものとなり、酒浸りの毎日を送っている。演じるのは、SOPHIAのヴォーカリスト松岡充。そのニュートンの日々に登場してくるのが、仕事としてニュートンの世話しているエリー(鈴木瑛美子)、彼女の夫でありニュートンとの仲を疑うザック(渡部豪太)、昔の同僚だというマイケル(遠山裕介)、ラブラブカップルのベン(崎山つばさ)とマエミ(小南満佑子)、そして、ふわりと現れて「あなたをこの家から助け出すためにいる」と語る少女(豊原江理佳)と、得体の知れない怪しい男バレンタイン(上原理生)である。彼らによって、封じ込めていた感情を蘇らせるニュートンは、その内にあるものを歌によって表現していくことになるが、何しろ、演じているのが松岡である。デヴィッド・ボウイをリスペクトし、初日前日会見で「僕が14歳の時にデヴィッド・ボウイと出会わなかったら、おそらくバンドマンになっていなかったし、SOPHIAも存在しなかったし、デビューもしていなかったと思う」と語った彼の歌声には、そこにボウイの精神が見えると言っても過言ではないほど切実さと迫力がある。また、ニュートンを翻弄する人物を演じる俳優陣も実力者揃い。抜群の歌唱力で楽曲の奥にあるものを表出させ、それぞれの人物と物語を膨らませていく。字幕で歌詞を追わずとも、心震える瞬間が何度もあった。

とはいえ、その字幕にもぜひ注目してみてほしい。演出の白井晃が、曲によって字幕の映し出し方を様々に変化させ、まるで字幕が踊って演技しているようにも感じられるのだ。驚きの演出はもちろん字幕のみではない。これまでも、『バリーターク』(2018年)などでエンダ・ウォルシュの戯曲を演出し、その行間にあるものを探りながら作品を立ち上げてきた白井。テレビモニターの山、簡易ベッド、椅子、ライト、冷蔵庫、洗面台があるだけの無機質な舞台空間を多層的に使い、紗幕などを利用しながら、バンド、ダンサー、映像、俳優が自在に現れては消える演出を施した。現実の場面だと思って観ていると、一瞬にしてそこがニュートンの妄想の世界に変わったりするのである。いや、何が現実で何が妄想かその判別さえなく、混沌とした世界をボウイは作ろうとしたのかもしれないが……。でも、わからないというのは自由に解釈していいということでもある。一見難解に感じるものほど、想像の翼を広げるチャンスを与えてくれている。

その想像の種として、これはボウイが自身の死を覚悟しながら創作したものだということは、やはり意識したい。タイトルの『LAZARUS』は、死後4日後にイエスによって蘇ったと聖書にあるラザロから取ったものを想起させる。生、死、再生といった人間の根源的な問いが投げかけられた作品であることは間違いない。総合芸術たる舞台を最期の作品としたのも、存在そのものがアートだったボウイらしいと言えるだろう。そこに何かを遺そうとした。決して死んで終わりではない。そんな希望も見える。デヴィッド・ボウイはこの作品のなかに再生し問い続けている。どう生きてどう死ぬのか。私たちの生きる意味を。

文:大内弓子

ミュージカル『LAZARUS』はフェスティバルホールにて、6月28日(土)~29日(日)に上演。はイープラスにて販売中。

公演情報

ミュージカル『LAZARUS』
【大阪公演】
日程:2025年6月28日(土)~29日(日)
会場:フェスティバルホール
 
音楽・脚本:デヴィッド・ボウイ
脚本:エンダ・ウォルシュ
演出:白井 晃
出演:
松岡 充
豊原江理佳 鈴木瑛美子 小南満佑子
崎山つばさ 遠山裕介
柳沢明璃咲 渡来美友 小形さくら
渡部豪太 上原理生
[ダンサー]Nami Monroe ANRI KANNA
[演奏]益田トッシュ [Bandmaster] フィリップ・ウー [Key.] 松原”マツキチ”寛 [Dr.]
        Hank 西山 [Gt.] 三尾悠介 [Key.] フユミカワカミ(おふゆ) [Ba.]
[スウィング]塩 顕治 加瀬友音
 
料金(全席指定・税込):S 席 13,800 円 A 席 10,000 円
主催:サンライズプロモーション大阪
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日 12:00~17:00 土日祝休業)
 
公式サイト:https://lazarus-stage.jp
宣伝:キョードーメディアス
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