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高島健一郎が語る、リアル・トラウム結成2周年記念企画ミュージカペラ『メリー・ウィドウ』

2025.7.18
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リアル・トラウム・シアター=ミュージカペラ『メリー・ウィドウ』


IL DIVOに始まり、日本でもLE VELVETSやTHE LEGENDなど多くのフォロワーを生んできたクラシカル・クロスオーヴァーの男性ヴォーカル・ユニット。メルビッシュ湖上音楽祭やドイツのオペレッタツアーに参加するなど国際的なキャリアを歩むテノールの高島健一郎をリーダーとして、東京芸術大学を卒業した同門の声楽家たち4人が集まって結成されたREAL TRAUM(リアル・トラウム)。ドイツ語で「正夢・夢を実現する」といった意味のグループ名通りに、25年2月には夢の舞台Bunkamuraオーチャードホールでの公演を完売し大好評のうちに終え、5月には葛飾でウィーン・ヨハン・シュトラウス・ヴィルトオーゾと共演、先日7月13日には新日本フィルハーモニー交響楽団との共演を果たした。

グループ結成2周年記念企画として、先日緊急発表された、リアル・トラウム・シアター=ミュージカペラ『メリー・ウィドウ』(レハール作曲のオペレッタの翻案)全5公演について、リアル・トラウムのメンバーおよびプロデューサーに取材し、詳細についてここにお伝えしたい。

夢を正夢として実現し続けてきたリアル・トラウムではあるが、リーダー高島健一郎がウィーンで研鑽を続けてきたオペレッタを題材として、しかも年末からオーチャード・ガラ直前までドイツ44か所でのツアーでこの『メリー・ウィドウ』のカミーユ役をやりきった流れの中、またしても大きな夢を現実のものとしたことにはファンも含めてクラシック音楽業界も驚きをもってこの報せを受け止めたのではないだろうか。まずは、実現に至る経緯をリーダーの高島とプロデューサーの青木聡(ライブエグザム)に聞いた。

――オーチャード・ガラ、ウィーン・ヨハン・シュトラウス・ヴィルトオーゾや新日本フィルとの共演と立て続けに新しい挑戦に取り組まれる中、いったいつごろからこの計画をされていたのでしょうか?

高島:三越伊勢丹さんからは24年の1月に綱町三井倶楽部でのコンサートをご一緒した際に、日本橋三越にある三越劇場で何か一緒にできないかとお声がけを頂いて、一年前のリアルトラウム浜離宮公演を完売出来たあたりから、本格的に時期や具体的に何をやるかというご相談を始めました。25年の秋に三越さんのフランスフェアのタイミングで、パリを舞台したレハール作曲の『メリー・ウィドウ』を上演できないかという話になったのはちょうど僕がメリー・ウィドウのリハーサルを年末にウィーンでやっていた頃だったと思います。そこから半年以上かけて、どんな形でどんなキャスティングでやるのが一番良いのか、メンバーやプロデューサーとオーチャード・ガラやプリンス・ガラをやりながら、徐々に固めていきました。

――なるほど。1年半以上の時間をかけて徐々に煮詰めていった企画だったのですね。それにしても、ご自分がウィーンに留学されてまで研鑽を積んで、いつか日本でも演じてみたいとおっしゃっていたレハールのオペレッタをこんなに早く実現出来たのは凄いことですね。

高島:ウィーンで専門的に勉強し舞台経験を積んだオペレッタを日本で上演する事は僕の念願でした。こんなに早く実現出来る事は本当に有難いことだと思いますし、上演するチャンスをくれた三越劇場さんには本当に感謝しています。そしてこんなに早く実現できたのは、ファンの皆様が僕らをいつも熱く応援してくれるおかげだと強く実感しています。

――レハールのオペレッタ『メリー・ウィドウ』を翻案して、ミュージカペラとして上演するという発表でしたが、このあたりについても教えていただけますか?

青木P:これについてはプロデューサーの立場から説明させてください。高島さんが参加されていたメルビッシュ湖上音楽祭も70年近い歴史の中でずっとオペレッタを主に上演してきましたが、コロナ以降はついに5年連続ミュージカルを上演するようになりました。本場のウィーンでもオペレッタの勢いには衰えが見えます。日本でも浅草オペラなどでブームになった時代はありましたが、オペラやオペレッタはどうしても少し言葉からも敷居の高いものになっています。そこでミュージカルのような感覚でオペラやオペレッタを楽しんでもらえるような、新しいエンターテインメントのスタイルを提案できたら良いのではないかと思い、「ミュージカペラ」というネーミングで、ミュージカルとオペレッタをハイブリッドした形で楽しめるものに仕上げたいと思っています。

――なるほど。「ミュージカペラ」という言葉は、この企画のために新しく生まれた造語なのですね。具体的にはどんな特徴があるのでしょうか?

青木P:日本の観客の皆さんに、カジュアルに違和感なく楽しんでもらうために、言葉も全編日本語で翻訳をやり直し、舞台もパリにあるポンテヴェロ公国の大使館だったものを、パリの日本大使館の設定にしました。主役の名前も、ハンナ・グラヴァリが倉田華奈に、ダニロが谷朗希と思い切って日本人にできるところは日本人にしてみました。2時間30分以上かかる上演時間も、思い切って2時間以内になるように大胆にカット。もちろんレハールの素晴らしい音楽を改変したりはせず、音楽はできるだけストレートにお届けしたいと思っています。歌詞にはセリフ同様新しい試みをしています。

――かなりイメージが一新されそうですね。オペレッタを愛する高島さんとしてはどう感じてらっしゃるのでしょうか?

高島:青木Pからも話されたように、残念ながらオペレッタは時代と共に人気が衰退しています。ウィーンでもOperette ist tot(オペレッタは死んでしまった)と言われるくらい劇場や音楽祭での集客に苦戦していますが、このジャンルを愛し人生を賭けて勉強し舞台で歌ってきた身としては歯がゆい思いです。

ヨハン・シュトラウス2世の『こうもり』や『ジプシー男爵』のようにオペラに匹敵する名作や、レハールの『メリー・ウィドウ』『微笑みの国』などの傑作、そして僕の大好きなロベルト・シュトルツが生み出した作品はウィーンが最もウィーンらしかった時代の華やかさと哀愁に満ちています。その音楽の美しさや輝きは普遍的で色褪せていないと僕は信じているので、新しい形で現代に引き継ぎ、誰もが楽しめるエンターテインメントとして自分たちの手で生まれ変わらせたいのです。

『メリー・ウィドウ』は、お金持ちの未亡人とかつての恋人である貴族の男が、互いに惹かれあいながらも、財産や立場の違いで素直になれずにすれ違い続けるラブ・コメディです。相手の事は好きだけれど、素直に想い伝える事ができない。これって今も同じような経験をしている人がたくさんいますよね。120年前の作品ですが現代でも多くの人が共感できる恋愛コメディなんです。

――なるほど。だからご自身でも脚本を翻訳されたわけですね。

高島:はい。若い世代の新しい感覚で舞台を作るために、キャストやスタッフは僕が共演した事のある実力と経験のあるメンバーにお願いしました。演出は演劇やミュージカルでの舞台経験が豊富な杉浦奎介(リアル・トラウム)が担当します。音楽監督はコンサートで何度も共演している追川礼章くん、女性キャストにはオペラ界の若手として活躍している小川栞奈さんとミュージカル・タリータウンで共演させて頂いた田代明さんが出演してくれます。全員僕の芸大同期や後輩ですが、みんな本当に素晴らしいアーティストなので一緒に舞台を作れる事が今から楽しみです。是非多くの方にレハールの美しい音楽とラブ・コメディを堪能していただきたいですし、三越さんのフランスフェアを9月に楽しんだ後に、三越劇場でもパリの空気を感じていただきたいです。

文:神山薫

公演情報

リアル・トラウム・シアター=ミュージカペラ『メリー・ウィドウ』 
 
日程:2025年10月13日(月・祝) ~ 10月15日(水)
会場:三越劇場 (東京都)
 
ドイツ語翻訳:高島健一郎
演出:杉浦奎介
音楽監督:追川礼章
出演:高島健一郎(REAL TRAUM)、堺 裕馬(REAL TRAUM)、杉浦奎介(REAL TRAUM)、鳥尾匠海(REAL TRAUM)
小川栞奈、田代明、追川礼章(Pf) 他
 
オフィシャル先行:7/19(土)12:00~