戸塚祥太「自分の中にも怪物がいる」——感情を知らない青年と向き合いながら、“人生の脚本は自分で書ける”と伝えたい 舞台『アーモンド』インタビュー

インタビュー
舞台
12:00
戸塚祥太

戸塚祥太


感情を持たない少年が、何を思い、どう生きるのか——。
2020年に本屋大賞〈翻訳小説部門〉第1位を受賞した、韓国発のベストセラー小説「アーモンド」。その舞台版が、2025年夏、新たなキャストとともに帰ってくる。初演(2022年)はコロナ禍で半分以上の公演が中止になりながらも、読売演劇大賞・演出/振付部門で上半期ベスト5に選出された注目作だ。

主演のユンジェを演じるのは、A.B.C-Zの戸塚祥太。数々の舞台で繊細かつ芯の通った役を演じてきた彼が、扁桃体(アーモンド)が人より小さく、怒りや恐怖といった感情をうまく感じることができない16歳の高校生という難役に挑む。共演には、感情をむき出しに生きる少年・ゴニ役の崎山つばさ、さらに水夏希、松村優、平川結月、首藤康之、久世星佳といった実力派キャストが集結し、物語を多層的に彩る。
脚本・演出は板垣恭一。音楽は板垣と数多くタッグを組んできた桑原まこが手がけ、生演奏とコンテンポラリーダンスを織り交ぜながら、言葉だけでは伝えきれない“共感”や“愛”の本質を、より深く、鮮やかに描き出す。

感情とは何か。人と分かち合うとはどういうことか。静かに胸を打つこの物語の“中心”に立つユンジェ役の戸塚に、稽古を控えた心境を語ってもらった。

ーーまず、台本を読まれた感想をお聞かせいただけますか?

自分の役だけにとらわれず、「全員でひとつのものを作り上げる」という力強さを感じました。ユンジェのセリフを共演者のみなさんと分けて話すシーンもあるので、“全員野球”と言いますか。僕が好きなアプローチの作品になると思っています。

ーーユンジェについても伺いたいのですが、その前に…。リリースに掲載されたコメントによると、戸塚さんの手のひらには長い感情線が刻まれているそうですね。

そうなんです、くっきりと。関係があるのかはわかりませんが、授業中にじっとしていられない子どもで、先生や両親にしょっちゅう叱られていました。そう考えると、子どもの頃の僕は、むしろゴニに近かったのかも。でも、いつの間にか…確か12歳くらいを境に、だんだん内向的になっていったんです(笑)。もちろん感情はありますし、心も動きますが、ユンジェのように無表情とまではいかなくても、“自分を出さない”ことは得意かもしれません。

ーーコメントでは「湧いてきたものを外に出すアウトプットの作業が苦手なのかも」とも話されていましたね。

そうなんですよ、アウトプットが雑になりがちで(笑)。日々、もう少し丁寧にできるようにしたいなと思っています。

ーー作詞・作曲もされていますし、アウトプットはお得意な印象ですが…。

うーん、どうでしょう(笑)。でも、もっと丁寧に出力したいと思うようになったのは、触れているものがより繊細になってきたからかもしれません。

ーーそんな戸塚さんだからこそ、ユンジェとゴニ、両方の気持ちに寄り添えるのでは?

そうですね。ただ、誰の中にもユンジェとゴニ、両方の面があると思うんです。生きていると、すべてをシャットアウトしたくなる——ユンジェのようなモードが必要になることってありますよね。

ーー心を無にするといいますか。

はい。でも「心を無にする」って、究極の奥義ですよね。だって、心って絶対にズキズキしちゃうから。大丈夫なフリをしながら「マジか~」「きついな~」って思ってる。それでしんどくなったら、とりあえずお酒を飲んで一旦忘れるんですよ(笑)。

ーーそれでリセットですね(笑)。我々は意識的に“無”を目指しますが、ユンジェにとってはそれがニュートラルなのかもしれません。

確かに。そもそも感情の振れ幅が少ないんですよね。でも、ゴニやドラ(平川結月)たちと出会うことで、その振れ幅が少しずつ広がっていく。

ーーその振れ幅を表現する難しい役どころかと思いますが、現時点での演技プランは?

僕はいつも、自分を“入れ物”のようにとらえていて。新しい作品が始まるときは、その作品を自分の中に入れて、終わったら空にして、次の作品を取り込む。そのためにも、今回はなるべく“空”の状態でいたいと思っています。全キャストのフィルターというか、舞台セットの一部になるというか…すみません、今思いついたことをしゃべっているだけで、板垣(恭一)さんにも伝えていないんですけど(笑)。

ーーまだ稽古前(※取材は7月上旬)ですもんね。板垣さんとは、2022年の『今度は愛妻家』以来のタッグになります。

はい。板垣さんはとてもロジカルな方。前回は、本当に腑に落ちる演出をしてくださって。自分の感情を100%正確に伝えるって、現実でも舞台でも難しいですよね。どうしても“伝わりやすい表現”を選びがちになるけど、そういう部分をシンプルにそぎ落とす大切さを教えてもらった気がします。あと、改めて感じたのは“呼吸”の重要性。舞台の上で過度に緊張すると、呼吸が浅くなって演技に影響が出てしまうんです。

ーー自然に呼吸できている状態がベストなんですね。

はい、そう思います。

ーー「シンプルにそぎ落とす」というのは、舞台上でつい見落としがちなことにも通じますか?

それもありますし、意識の持ち方にも関わってくると思います。僕はつい、“自分の思い”を出しすぎちゃうタイプで。でも板垣さんは、それを“観客に伝わる方向”に導いてくれました。やっぱり、どんなに感情がこもっていても、伝わらなければ意味がない。せっかくやるなら、ちゃんと伝えたい。今回も、その姿勢で臨みたいですね。

ーーこの作品で、戸塚さんが特に心を動かされた点、あるいは伝えたいと思ったことは何でしょうか?

いちばん考えたのは、「もし自分が親だったら…」という視点でした。友達の子どもの顔も自然と浮かんできて。最終的に湧き上がってきた思いは、「生まれてきたことには意味があると信じたい」ということでしたね。意味なんて、自分でつくっていいと思うんです。例えば、同じ事務所の寺西(拓人)君や原(嘉孝)君。彼らはtimeleszのオーディションに挑戦して、新メンバーになった。その姿を見て、“自分の人生の脚本を、自分で書いたな”と感じたんです。ユンジェやゴニも同じで、自分の人生に意味を持たせることができる。だからこそ、「生まれてこなければ良かった」なんて思わなくていいし、親の立場としても「この子がいなければ」なんて考えてしまうと、ネガティブな物語を引き寄せてしまうような気がして。もちろん、「絶対に何とかなる」と思い続ける強さが試される部分もあるとは思いますけどね。

ーー戸塚さんにとって、「自分の脚本を書いた」と思えるような転機はありましたか?

いや~、それはきっとこれからじゃないですかね。じつは最近、“ゴニモード”に入ろうと思っているところなんです(笑)。

ーーそれはいつ頃から?

うーん…わかりません(笑)。

ーー今後の作品に向けて? それとも人生観の話ですか?

人生観ですね。あ、今ふと思い出したんですけど、今日見た夢の話をしてもいいですか? マネージャーさんに「A.B.C-Zで新しいレギュラー番組が決まりました。バラエティです」と言われたんですけど、僕、「ダンスがやりたいから参加できません」って断ってたんですよ(笑)。多分、それくらい今はダンスをやりたいんでしょうね。バラエティに関しては、「あっぱれ!A.B.C-Z」(テレビ熊本)やYouTubeなど、すでにやらせてもらっているので、これ以上増えると消費カロリーが大きすぎて、ダンスの時間がとれなくなっちゃう。ダンスは肉体年齢に左右されるところがあるので、リミットも近づいている気がするんです。最近は、「もしかしたら“役者”にはなれてきたかもしれないけど、“ダンサー”としては、まだ確立しきれていないかも」と思い始めていて。だからこそ『アーモンド』には、身体表現の多い作品として、“ダンサーへの道”という意識も持って臨むつもりです。

ーー共演には、バレエダンサーの首藤康之さんもいらっしゃいます。

じつは以前、お話しさせていただいたことがあって。そのとき、ダンス歴やダンスを始めたきっかけなども伺ったんですが、本当に感銘を受けました。僕、ダンサーの身体ってすごく好きなんですよ。とにかく“美しいもの”に惹かれるんでしょうね。ただ、自分が表現するときには、あまりにも綺麗すぎるのはちょっとイヤで(笑)。少し“汚す”というか、生々しさを求めてしまうんです。

ーー先ほどの「アウトプットが苦手」というお話にも通じますが、この作品でも踊るシーンがあるコンテンポラリーダンスは、まさに“感情のアウトプット”という印象があります。

そうですね。ダンスは、確実にうまくなってきている実感があります。動きの解像度も上がってきたし、以前よりずっと丁寧に踊れるようになった。昔は力任せだったものが、今はちゃんと頭で考えて踊れているし、身体の使い方に関しても理解が深まっていますね。正直、今のダンスのレベルはかなり飛躍していて…2023年あたりと比べると、次元が違うと思います。

ーーそれは、身体を鍛えた成果ですか?

むしろ逆ですね。「鍛える」ことをやめて、柔軟性を重視するようになったんです。

ーーソロライブ『Solo Tour 2024 guerrilla love』(2024)でのダンスも印象的でした。

ソロライブは振りをガチガチに決めず、その場の即興でやっていた部分も多かったんです。今は、あのときよりももっと身体の扱い方がわかってきています。

ーーそんなふうに身体と向き合う秘訣は?

シンプルに…ヨガですね(笑)! そうそう、ダンスについていろいろ語りましたけど、前回公演の映像を見た方から「ユンジェはそんなに踊ってなかった」と聞いたのを思い出しました(笑)。まあでも、上手から下手に行くだけでも立派な“動き”ですから…!

ーー前回公演の映像を見ると、ユンジェの“目”の演技がとても印象的でした。どこか、光がないような目といいますか。

原作の表紙に描かれている、ユンジェのイラストのイメージが強いんでしょうね。今回のチラシのビジュアルも、それに寄せるイメージで撮影しました。

ーーそうだったんですね! また、この作品ならではですが、セリフの中でモノローグと会話が自在に切り替わりますよね。

そういった新しい取り組みや、ひとつギミックが入るような形式は大好きです。複雑さはスパイスになると思うし、「もう1回観たい」と思ってもらえるきっかけになるかもしれないので。

ーーゴニという存在については、どんなイメージをお持ちですか?

感情をむき出しにするゴニは、ユンジェにとって衝撃的な存在だったと思います。でも、そのゴニと少しずつ友情を築いていく。誰かと一緒にいないと知れないこと、学べないことってありますよね。それがお母さんやおばあちゃんではなく、同世代の友達に出会えた…ゴニはユンジェにとって、いちばん大事な“ピース”だと思います。きっとゴニから見ても同じ。孤独——つまり“自分だけの世界”も美しいけれど、誰かといることで世界が広がって、掛け算のように新しい方向へ転がっていける。ユンジェも、ゴニに出会ったことで少しずつ変わっていって、それまで感じられなかった言葉を受け取れるようになっていくんだと思います。ゴニ役の崎山つばささんとは今回が初共演なので、どんな関係性を築いていけるか、今からとても楽しみにしています。

ーーこの作品のキーワードのひとつに“怪物”がありますが、ご自身の中にも怪物はいますか?

めちゃくちゃいますよ(笑)。満月の夜は本当に大変。月が視界に入らないように、両腕で目を覆って歩いています(笑)。

ーー内側に、ふつふつとした“狂気”のようなものがある?

あると思います。むしろ、そういう怪物的な部分を持っていないといけない気もしています。優しさだけじゃ解決できないこともありますしね。そういう意味では、自分の中にいろんな怪物を飼っていて、それを描いている“作者”でもある感覚です。

ーーでは、ご自身の周りにゴニのような存在はいますか?

いますよ。これが当てはまるかはわからないけど、以前、泥酔した友達が僕の部屋をめちゃくちゃにしちゃったことがあって(笑)。止めようとしつつも、ケガの心配はなさそうだったから、そのまま静かに見守ってました。彼、普段は全然そんなタイプじゃないんですよ。だから意外ではあったけど、失望はしなかった。ただただ見守っていられたのも、信頼関係ができていたからこそですけどね。

ーーユンジェがゴニから多くを学ぶように、戸塚さんも友人から影響を受けてきた?

友達には本当に教えられてばかりです。彼らと出会っていなかったら…と思うと、正直ちょっと怖いくらい。感謝してもしきれません。本来の僕は、感覚的でアクション型の人間。さっきも言いましたが、じっと座っているのがあまり得意じゃなくて(笑)。でも、友達に出会ったことでアウトプットが丁寧になったり、行間を読む力がついてきたり、少しずつ変われた気がします。

ーー“狂気”と“繊細さ”の両面を持つ戸塚さんのユンジェ、今から楽しみです。では最後に、公演を心待ちにしているみなさんへのメッセージをお願いします。

今年の夏もすごく暑くなりそうなので、水分補給や体調管理に気をつけてくださいね。ぜひ万全のコンディションで劇場へ足を運んで、生の舞台だからこその感動を体感していただけたらと思います。うなぎを食べるかわりに、『アーモンド』を観て、心の栄養を補給してください(笑)!
 

ヘアメイク:奥山信次(barrel)
スタイリスト:野友健二(UM)

 

文:豊泉彩乃

公演情報

『アーモンド』

原作:ソン・ウォンピョン
翻訳:矢島暁子(祥伝社刊)

脚本・演出:板垣恭一
 
出演:
戸塚祥太
 
崎山つばさ
水夏希
松村優
平川結月
 
首藤康之
久世星佳
 
[東京公演]
日程:2025年8月30日(土)~9月14日(日)
会場:シアタートラム
席種:全席指定12,000円 トラムシート(半立見):10,000円(税込)
主催・企画・製作:エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ/NHKエンタープライズ
お問い合わせ:公演事務局 https://supportform.jp/event (平日10:00~17:00)
 
[大阪公演]
日程:2025年9月19日(金)~9月21日(日)
会場:近鉄アート館
席種:全席指定12,000円
主催・企画・製作:エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ/NHKエンタープライズ
お問い合わせ:キョードーインフォメーション:0570-200-888 (12:00~17:00 ※土日祝休み)
 
オフィシャルHP:https://almond-stage.jp
オフィシャルX(旧Twitter):@almond_stage 
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