注目度急上昇中バンド・PompadollSが2nd EP「Fantasism」で見せた成長と、ツアーへの覚悟ーー「ここでちゃんとバンドになる」

12:00
インタビュー
音楽

撮影=桃子

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東京発、五十嵐五十(Vo.Gt)、青木廉太郎(Gt)、サイカワタル(Ba)、但馬馨(Dr)、小松里菜(Key)からなる5ピースバンド・PompadollS。2024年春に結成した彼らは、現在事務所やレーベルに所属せずにセルフマネジメントで都内中心に活動を続けているのだが、今年はじめに楽曲「悪食」がバイラルヒットを飛ばして快進撃が始まった。発表するツアーは全てソールドアウト、4月に大阪・梅田一帯で行われた『OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2025』こと『ジャイガ』のスピンオフイベント『GIGANTIC TOWN MEETING』の来場者アンケートで票を集め、夏の『ジャイガ』に初出演。秋のツアーも既に全箇所完売状態で、まさに勢いに乗る若手バンドだ。五十嵐の手がける楽曲は童話をモチーフにしながら、現代で暮らす我々にも共感できるような生きづらさやリアルな本音が散りばめられている。上品かつ攻撃的に鳴らされるピアノロックサウンド、ハイレベルな演奏力、情感豊かに突き抜ける五十嵐の歌声に夢中になるリスナーが続出している。PompadollSは一体どんなバンドなのか。今回は五十嵐とリーダーの青木に、近況やバンドの躍進について思うこと、2nd EP「Fantasism」について話を訊いた。

初夏フェスは夢見心地。ファンのみんなと一緒に行けた『ジャイガ』

ーーこの夏の『ジャイガ』はバンド史上初の夏フェスだったそうですね。終えてみていかがですか?

五十嵐:暑かった(笑)。直接日が当たる状態でライブしたことなかったので、びっくりしました。
青木:午後1番の直射日光が、30分の出番の間でも角度が変わって、どんどん日なたがステージに浸食していって。暑いのなんのって話でしたよ。

ーー暑いと逆に燃え上がるものですか?それともやはりしんどいですか?

青木:僕はそもそも暑いのが超嫌いで。出る前は「これはしんどいなあ」と思ったんですけど、夏フェスの空気は素人ながらも知れたというか。やっぱり結構テンションが上がっちゃってたんだろうな。ステージの上手から下手までがーっと歩いていったりして、普段しないことまでしてました(笑)。

ーーお客さんも盛り上がってらしたでしょう。

五十嵐:結構リアルタイムでお客さんの出入りがわかったので、新鮮で面白かったですね。途中から入ってきてくださる方も結構いて、それは漏れてた音楽で来てくれたのかなと思ったりして、素直に嬉しかったです。

ーー手応えは感じましたか?

青木:まあまあ、夢見心地でしたね。SNSで関係者の方やファンの方が撮ってくれた写真や動画を見て「これ、立ってんの俺たちか?」みたいな気持ちの方が強いというか。夢見心地であり、あとはSNSの反響や実際ライブに来てくれた方たちの上がる腕を見て、すごく「やってきてよかったな」と思いました。夏フェス出れるって、ねえ。

ーーやはり夢でした?

青木:ないと思ってたんですよ。自分の人生で演者側でフェス出るって、実現可能だと思ってなくなかった?(と五十嵐に同意を求める)「夢なんじゃないかな」ぐらいの感じですね。

ーー2024年に『ROCK IN JAPAN』出演をかけたオーディションに出られたんですよね。

青木:すごい調べていただいて(笑)。そう、その時は負けたんだよね。負けたからやっぱり、「まあ無理なんだろうな」と思ってたんですけど、今回はほんといろんな人のお力添えもあって、ねじ込んでいただけました。

ーーでも『GIGANTIC TOWN MEETING』の(毎年『ジャイガ』に出演してほしいアーティストとして来場者にアンケートを実施し、『ジャイガ』本編・BASE STAGEへの出演者を決定する)のアンケートでは、人気がすごかったらしいですよ。

五十嵐:たくさんの方が投票してくださったおかげで出られたので、それもすごく嬉しいですね。

青木:僕たちは本当にただ頑張るしかできないですけど、お客さんの声がちゃんと運営の方やブッキングの方に届いて、僕たちを呼んでくれたのは嬉しかったですね。

五十嵐:ファンのみんなと一緒に(フェスに)行った感がありましたね。

「日の東、月の西」のMV誕生秘話

PompadollS「日の東、月の西」MV

ーー夢心地とおっしゃいましたが、これから夢が現実として叶っていくでしょうね。今年の初めにTikTokで「悪食」(2024年11月)がバズったことも人気の後押しになったと思いますが、もちろん皆さんの演奏力や楽曲の良さ、実力の高さがあってこそだと思います。結成した時から「これはいけるぞ」という感覚はありました?

青木:僕はずっとあって(笑)。結成したどころか、初めてスタジオに入って「悪食」を作った時から「これは何か良いことが起こるんじゃないかな」という空気感はありました。ただ、メンバーは外での活動をしてきた人たちではなかったので、俺が「多分これいけるよ。良いんじゃない」と言っても「いや〜そうか?」みたいな(笑)。最初は「全然無理だと思うけど」みたいな感じはあったんですけど、あの時のみんなに負けずに「曲を出そう」「MVを出そう」と言い続けて良かったなと思いますね。

ーー青木さんは最初からリーダーの役割なんですか?

青木:そういうふうに集まったわけではなかったんですけど、(リーダーになったのは)バンド経験や社会人経験が功を奏した感じはありますね。

ーー「これをやろう」と発案するのも青木さんが多いですか?

青木:そうですね。僕たち、そもそもはMVを撮りたいと言って集まったんです。

ーーへえ!

五十嵐:「バンドをやりたい」とは思いつつも、メンバーが集まらなかったり結構難航していて、「もうバンドできないんだろうな」と思ってて。でもMVだけは1本でいいから撮りたくて、それでメンバーを集めたのが今のPompadollSです。

ーー「バンドできないかも」と思いつつも、曲はずっと書かれていたんですよね。

五十嵐:そうですね。バンドを組めなかった期間もずっと1人で曲を作っていて。それを青木と初めて会った時に聴かせたら「やろう」と言ってくれて、そこからですね。

青木:MVを撮ろうと言って集まって、僕もMVは絶対に必要だと思っていたので「いいね!」となって。で、2〜3曲作って「どの曲MVにする?」と聞いたら「まだMVにしたい曲はできてない」と言ってて。

ーー完成していたのはデモのようなものですか?

青木:バンドアレンジが終わった曲ですね。当時「日の東、月の西」と「みにくいアヒルの子」があって。ただ「どっちがいい?」と聞いても、五十嵐は最初「まだ違うかもしれない」と言ってましたね。だけど僕が「いや、「日の東、月の西」で1曲目を撮ろう」と。これをやらなかったら多分始まらないなと思ったので、そう言ったのは覚えてますね。だから「日の東、月の西」がMV1作目になってます。

ーー五十嵐さんはその時、作品としてMVを残したいと思われていたんですか。

五十嵐:自分の中で「こういうものが作りたい」という構想はあったので、それが形になってるところをとにかく見たいと思っていましたね。それにその時は「もうMV1本作ったらやめよう。そこまでできれば最低限いい」ぐらいに思っていて。1本目にかける想いが強かったからこそ、なかなか踏み切れなかったというか。

ーー今はバンドを続けていきたいなと思われているわけですよね。

五十嵐:そうですね(笑)。メンバーたちが「これからもやっていきたい」と言ってくれていて、これ以上ないすごく嬉しいことなので、自分でも続けようと思っています。

ーー実際にMVを作ってみたら、バンド活動にギアが入った感じはありました?

五十嵐:バンドメンバーたちの力を借りて、いろんなものがどんどん形になっていくのを見ていると、やっぱり気合が入りますね。すごく良いものにしてくれるので。

周りの人やお客さんに支えられたからこそ、実現できたものばかり

ーー今はそこに周りの協力も加わっていると思います。こんなスピード感で大きくなっていたら、少しぐらい調子に乗っても良さそうな感じがしますが、皆さんは客観的にご自分たちを見ておられる印象があります。

青木:客観視は、昔漫画編集者をやっていた時に「読者目線」という言葉に置き換えられてましたけど(笑)。そこで学んだことをずっと忘れずにいようとは思ってます。確かにバンドマン目線で見ちゃうと、「こんなスピードで」とか「この規模で」とか「2年目で夏フェス出られて」という事実は多分調子に乗っちゃうんですけど、リスナーから見たら、バカでかいバンドはもっと上にいるわけで。今リスナーとしてついてきてくれてる子たちが文句なく「PompadollSが最高だ!」と言えるようなランクになれるまでは、調子に乗れないなって。まあ、上には上がいますし。

五十嵐:今まで自分たちがやってきたことをたまに振り返るんですけど、全部確定していたものはなかったというか。『ジャイガ』に関しても、もともと出られるものではなかったり、自分たちは今事務所に所属せずに自主でやってるんですけど、だからこそ「絶対にできる」と思って臨んだものはなくて。周りの人たちやお客さんに支えられたからこそ実現できたものばかりなので、やっぱりどうしても調子には乗れないというか。私たちの活動は、それらなしでは何も語れないです。

青木:素晴らしいことを言っているね、今ね。

ーーとても大事な気持ちですね。

青木:大事ですね。ほんとにファンやスタッフ、自分以外のメンバーに支えられているなと思いますね。

ーーちなみに今の勢いのままどんどん行きたいという気持ちは、皆さんおありですか。

青木:それはもう。そうじゃないと、それこそ日本の音楽界を上から見下ろせるようなランクのバンドにはなれないと思うので。だから、早けりゃいいとは思わないけど、適切にバンドを大きくしていきたいなとは思います。

バンドとしての成熟をみせた2nd EP「Fantasism」

ーーそんな中で、6月には2nd EP「Fantasism」がリリースになりました。バンドとしてはどんな1枚にしたいと思われていましたか?

五十嵐:1枚目から成長した姿が見せられるようなCDにしたいと思っていて。編曲の面でも1枚目からかなり変わったのかな。

青木:そうですね。編曲的には1枚目は本当に衝動的というか、全然今も衝動だけど、ごちゃごちゃして詰め切れてなかったり。みんなほとんどバンド経験がなかったので、自分流の音楽でやってきたものをぐちゃっとしたのが1枚目だったんですけど、2枚目はしっかりした、説得力のあるサウンドにしたいなと思っていました。かつ、1枚目は今までやってきた1番良いものや自信があるところをかき集めたんですけど、2枚目は「この曲をどうしたいか」みたいなことから考えて。「ライブでどうしたいか」「この曲はライブではあまりやらないけど、CDやサブスクで聴いた時に人にどう思われる流れやテンション感にしていきたいか」ということはちゃんと考えつつ、それをメンバーにも伝えて実現してもらう感じでしたね。2枚目の方が地に足がついたというか、現実的で、PompadollSがバンドとして成熟してきている音になっております。

ーー具体的な制作過程はどんなものでしたか?

青木:まず(五十嵐から)弾き語りで曲が送られてきて、それをみんなで考えてアレンジするというベースの作り方は変わらないんですけど、1曲目の「赤ずきんはエンドロールの夢を見るか?」とかは、弾き語りは普通にジャカジャカやっていたけども、「もうちょっとノレる感じのリズムにしてみよう」とか「ライブでみんなが手を上げられるような曲にしよう」とか。結構紆余曲折あったというか、色々考えてアレンジした感じはありましたね。

ーー説得力のある音作りも意識して組み立てられたと。

青木:そうですね。ノリで「これでいっしょ」というよりは「こうだからこう、こうしたいからこう」みたいなことをやっていった気がします。密度のある曲になってますね。

ーーどの曲もサウンドのまとまりがあって、それぞれのパートの音1つずつがちゃんと聴こえました。ギターソロなど聴かせるところもしっかりあって。

青木:ありがとうございます(笑)。

ーー気持ち良さそうでしたね。

青木:でも流行らなさそうだけど、これは。

ーー流行らせたいという気持ちがあるんですか?「伝説のリフを作りたい」みたいな。

青木:僕はギタリストとして、そう思ってますね。ギターヒーローっぽい邦楽ロックのバンドってあまりいないかなと僕は思ってるんですけど、ギターだけじゃないすけど、ロックスター感のある音にしたいなと思いました。

「まえがき」は童話の外から自分を俯瞰して、創造の原点を見つめた曲

ーー五十嵐さんにお聞きしたいのですが、童話の登場人物に五十嵐さんの内面を投影して歌詞を書いておられるのかなと思いましたが、「このことについて歌おう」と決めてから童話を決めるんですか。

五十嵐:そっちの方が多いかもしれないです。日常で気付くことがあった時に「あれって童話と場面がちょっと似てるな」とか。童話は大体教訓が元になってるんですよ。だから「教訓と似たようなことを思ったな」と思ってから、曲を作ります。

ーー先ほどお話にあった「まえがき」は歌詞の内容が人間的でリアルというか、他の楽曲と雰囲気が違う気がします。これも童話が題材になっているんですか?

五十嵐:「まえがき」は今まで作ってきたものたちとは違って、ちょっとメタ的な曲なんです。さっき「2枚目で成長した姿を見せたかった」と言ったんですけど、歌詞としても、1歩下がって今までの衝動で書いた歌詞に少し客観性を持たせて、より作品として洗練していくことを意識してるんですけど、「まえがき」はそれを実現したというか。童話の外に一歩下がって、曲を作ってる自分も俯瞰して、それをまとめて「なぜ自分がこういうふうに曲を作っているのか」という原点に立ち返る曲になっていると思います。

青木:そうですね。唯一童話モチーフじゃない。長尺だから楽器隊も色々やってるし。

ーー1歩引いて見てみたという点で、何か感じたことはありましたか?

五十嵐:1歩下がったからこそ見えた、余分なものや過剰なものを、今後はできるだけ削いでいき、より洗練していきたいなと思ってます。

青木:音的には、やりたいことも弾きたいギターももちろん沢山あるんですけど、ここから多分どんどん難しくなっていくなと思って。2枚のEPは、自分たちの中で最高の作品だとは思っていますが、今後はそれをまた超えるような作品を作りたいです。「これも良いと思ってたけど、こんなこともできんのかよ」と思ってもらえるようなバンドサウンドにしていきたいですね。

ーー次はどんな作品が生まれるのか楽しみですね。そして11月からは東名阪ツアー『Courtesy Call』が始まります。

青木:11月からのツアーは、全てソールドアウトしていますね。

ーー素晴らしい! 「Courtesy Call」は「表敬訪問」という意味ですか?

青木:挨拶回り的な意味を持たせたくて。「PompadollSに合う優雅な雰囲気の単語がいいよね」みたいなことを言って考えてましたね。

ーーさらに年明け3月からのワンマンツアー『SOUND OF ROCK』は、大阪・名古屋がクアトロで、ファイナル東京がZepp Shinjukuです。バンド最大規模ですね。

青木:そうなんです。『SOUND OF ROCK』に関しては大きく出たなというか、カッコ良いタイトルをつけてしまったなって。さっきもちょっと話しましたけど、もともとロックバンドをやってきた人たちでないメンバーが集まってロックバンドをやっているので、このツアーを経て、「名実ともにロックな音楽を奏でよう」という意味で『SOUND OF ROCK』とつけたと思います。タイトルを考えるのはいつも五十嵐で、僕はその意味の言葉を探す担当です。

ーー五十嵐さんはどんな想いでツアータイトルをつけたんですか?

五十嵐:「ここでちゃんとバンドになる」と自分たちに言い聞かせるというか、宣言みたいな感じですね。

青木:バンドを組んでバンドとして活動してるから、世間的にはバンドと見られてますが、ただやっぱり周りの先輩のバンドを見ると「これぞバンドだな」と思ったりするので。自分たちも「これぞバンド」になっていけるといいのかなという感じですね。

ーー「これぞバンド」をもう少し言語化するとしたら?

青木:難しいですね。これも言語化してるか怪しいですけど(笑)、ライブで言うとカリスマ感みたいなロックスター感がある人のたちのことを「これぞバンドだな」と僕は思います。だからそういうものにPompadollSもなれるといいな。ステージに出てきただけで歓声が上がる人たちもいるわけで、僕たちも徐々にそうなってきている感じはありますが、やっぱりまだまだなので、「いるだけですごいじゃん」かつ「音楽を鳴らしたらもっとすごいじゃん」、「歌い出したらもうわけわかんないじゃん」みたいな感じの、かっけえバンドになれるといいなと思いますね。

ーー東名阪ツアーを経た来年春のツアーの頃には、また成長していそうですね。

青木:その時には「もうZepp Shinjukuも小せえな」と思える感じにしていきたいですね。

取材・文=久保田瑛理 撮影=桃子

ライブ情報

PompadollS One Man Tour 「SOUND OF ROCK」
・2026年3月29日(日) 名古屋・名古屋CLUB QUATTRO
 OPEN/17:00 START/18:00
・2026年4月11日(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
 OPEN/17:00 START/18:00
・2026年6月6日(土)東京・Zepp Shinjuku
 OPEN/17:00 START/18:00
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