梅田修一朗「成瀬がもっと身近に感じられる朗読劇に」 朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』稽古場レポート&インタビュー

レポート
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18:13
梅田修一朗

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本屋大賞を受賞した青春小説『成瀬は天下を取りにいく』が朗読劇として2025年9月13日(土)~15日(月祝)まで全6公演で上演される。

我が道を貫く主人公・成瀬あかりと、彼女を取り巻く登場人物たちとの関わりを通して、その魅力を立体的に描き出す連作短編集が原作だ。メインキャストの組み合わせは日替わりとなっており、成瀬あかり役を岩田陽葵、安済知佳、若山詩音が担当。島崎みゆき役は紡木吏佐、諏訪ななか、青木陽菜。西浦航一郎役は梅田修一朗、今井文也、石谷春貴がそれぞれ演じる。

今回は9月15日公演にて成瀬役を演じる若山詩音、9月13日公演にて西浦役を演じる梅田修一朗が参加した稽古場を取材。稽古の様子をお届けするとともに、稽古を終えた梅田に話を聞いた。

稽古場レポート

取材時に稽古をしていたのは、原作の「レッツゴーミシガン」にあたるエピソード。西浦(梅田修一朗)が1年前を振り返る形で、成瀬(若山詩音)との出会いや思い出深い2人の琵琶湖観光の様子が描かれていく。

梅田はこの日が稽古初参加。インタビューでは「緊張した」と語っていたが、そんなことは感じさせない様子で西浦に芽生えた成瀬への想いを言葉に乗せていく。序盤は西浦の幼馴染・中橋結希人(渡邉秀哉)とのテンポの良い掛け合いが続く。ノリが良くコミュニケーション能力も高い結希人の後押しを受けて、西浦が初々しく成瀬と会話をする様子が微笑ましい。成瀬と時間を共有する中で、西浦は彼女の一見すると突拍子もないように思える“夢”を知り、その裏にある彼女なりの理屈を知り、ますます彼女に魅了されていく。恋をすると世界が色づいて見えると言われるが、梅田の芝居からはその様子が手に取るように伝わってきた。なぜこんなにも成瀬という人物が魅力的なのか。原作を読んで言語化できなかった感情が、梅田の演じる西浦を通してストンと胸に落ちてきたのが印象的だ。

稽古後半では原作の「ときめき江州音頭」を軸としたエピソードの通し稽古が行われた。ここまでブレずに自分の道を進んできた成瀬の心の揺らぎが鍵となる物語だ。周りから「変わっている」と言われる感性を持ち、その感性の赴くまま生きている成瀬を、若山は持ち前の凛とした声を活かし、芯のある芝居で表現。周りに左右されない成瀬の強さが、短い稽古時間でも伝わってきただけに、このエピソードで自分のペースが崩れて焦っている様子の成瀬がとても愛おしく感じられる。この日は大貫かえでなどを演じるアンサンブルの藤寺美徳が、成瀬の幼馴染・島崎みゆきも担当。2人のセリフのキャッチボールからは、幼馴染として長い時間を積み重ねてきた成瀬と島崎の関係性がまざまざと浮かび上がった。

休憩を挟んで、演出・野坂実によるフィードバックの時間へ。野坂は台本には書かれていない原作の地の文を拾いながら、そのシーンでの登場人物の心情や、セリフに乗せるテンションを丁寧に説明していく。

例えば「レッツゴーミシガン」での、西浦と結希人が成瀬に声を掛けにいくシーン。野坂が2人の性格の対比を、原作の表現を引用しながら説明すると、キャスト陣はメモを取りながら大きく頷く。さらに梅田が「もっと結希人に引っ張られるようなイメージのほうがいいですか?」と自身の解釈を確認すると、野坂が「そうそう。なおかつ……」と、もう一歩踏み込んでの解説を返す。

一方、若山は成瀬役として膨大なセリフ量をこなす。彼女が演じる成瀬の魅力がそのまま作品の魅力につながるといっても過言ではないだろう。それだけに、野坂からもセリフごとの丁寧なフィードバックが入り、文字で描かれた成瀬像がより立体的に肉付けされていく。「口調はサバサバしていてぶっきらぼうに聞こえるところもあるけれど、成瀬の持っている喜怒哀楽を大切に」という言葉に、若山が前のめりになりながら「はい!」と返事をする姿が印象的だった。

制作陣の原作愛があってこそ生まれる粒度の細かなディスカッションに、完成形への期待が高まった。一通りのフィードバックが終わると、この日の同シーンの稽古は終了。野坂の言葉を受け、本番ではどんな芝居をみせてくれるのか楽しみでならない。

梅田修一朗、稽古後インタビュー

――本日が稽古初参加とのこと。稽古を終えてみていかがですか。

数少ない貴重な稽古時間だったので、今日をすごく楽しみにしていました。すごく順調だったのでほっとした反面、もっと稽古したかったなという寂しさもあります(笑)。僕が演じる西浦くんは、これまで僕が演じたキャラクターの中にはあまりいないような男の子で。それもあってすごくドキドキして稽古に臨んだのですが、自分で思い出しても笑っちゃうくらい、最初噛み倒してしまいました(苦笑)。でも無事、稽古が終わってよかったです。

――西浦航一郎という役をどう捉えて稽古に臨まれましたか。

原作と朗読劇の脚本を読んで、西浦くんの真っ直ぐなところはすごく大事にしたいなと思いました。女の子に慣れていなくて赤くなっちゃうという描写もありますが、すごく年相応だと思ったんですよね。なので、過剰にオドオドした感じの子にはしたくないなと。一見すると体格が良くてどっしり見えるけれど、恋をして体温が一気に上がる感じを出せたら面白いんじゃないかなと思っています。

――西浦に共感できる部分はありますか。

僕も学生時代はすぐ顔が赤くなるタイプだったので、そこは共感できますね。あとは西浦くんが成瀬さんを好きになるところは共感できるかもしれません。結希人からは「ちょっと変だよな」と言われてしまう成瀬さんに対して、「いや、そこがいいんだよ」と思う。そういうところは、推しを見つける感覚に近い気がするので共感できますね。

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』(C)宮島未奈/ざしきわらし/新潮社

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』(C)宮島未奈/ざしきわらし/新潮社

――実際に稽古をされてみて、抱いていた西浦像から変化した部分や、新たに発見したことがあれば教えてください。

演出の野坂さんからは「イメージはその通りで大丈夫です」と言っていただけたので、役の捉え方が同じ方向を向いていてよかったなと安心しました。今日は本番とは違う若山さんが演じる成瀬とのやり取りでしたが、若山さんの芝居を受けて、自分で用意していた芝居とは温度感の違うセリフが出てきたり、自分が楽しいと思えるアドリブが出たりしたので、すごく楽しかったのが印象的でした。なので、西浦くんのキャラクター像自体は変わっていないんですが、お芝居は若山さんとの掛け合いで変わったなと思います。

――朗読劇として表現することで、どんな魅力や面白さが加わったと感じますか。

原作でももちろん成瀬というキャラクターが魅力的なんですが、朗読劇になると、成瀬のキャラクターっぽい部分が、もっと身近に感じられるなと思いました。「すごく個性的だけど、こういう女の子っているよね」と。やっぱり読書するときって、多くの人が静かな環境で読むと思うんです。だから自分の中では読んでいて気持ちが昂っていても、外から見たらそうと分からない。でも、朗読劇だと目の前に役者がいるし、言葉も聴こえてくるので、成瀬の熱い部分とか年相応な部分も、よりいっそう感じてもらえるんじゃないかと思います。

――本作への意気込みとともに、公演を楽しみにしているファンへのメッセージをお願いします。

体が大きくて頼もしくもありながら、初心なところもある西浦くんを、今回は3人の役者が演じます。なので、「梅田の演じた西浦くんは、ここが印象に残った」と思ってもらえるように演じたいです。現役の学生の方から、社会に出ている方まで、さまざまな立場の方がいらっしゃると思いますが、本作で描かれる、自分を信じたままに貫く成瀬という女の子の姿は、非日常なようでいて日常的で、すごく励まされるものがあると思います。もちろん、シンプルに会話の面白さや西浦くんの奥手なところを楽しんでもらえるのも嬉しいです。観た方の気分がリフレッシュするような朗読劇になると思うので、ぜひ楽しんでもらえたらなと思います。劇場でお待ちしています。

取材・文・撮影=双海しお

公演情報

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』
朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』(C)宮島未奈/ざしきわらし/新潮社

朗読劇『成瀬は天下を取りにいく』(C)宮島未奈/ざしきわらし/新潮社

公演日:2025年9月13日(土)~15日(月・祝)
 9月13日(土) 昼の部:開演 14:30、夜の部:開演 18:30
 9月14日(日) 昼の部:開演 14:30、夜の部:開演 18:30
 9月15日(月・祝) 昼の部:開演 13:00、夜の部:開演 17:00
※開場は、開演の30分前を予定しております。
会場:草月ホール

原作:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮文庫刊)
演出:野坂実
脚本:土城温美
主催・製作:松竹株式会社
後援:日本テレビ放送網株式会社

出演:
9月13日(土)岩田陽葵/紡木吏佐/梅田修一朗 他
9月14日(日)安済知佳/諏訪ななか/今井文也 他
9月15日(月・祝)若山詩音/青木陽菜/石谷春貴 他
 
情報
料金:全席指定 SS席:11,000円(税込)、S席:9,900円(税込)
 A席:8,800円(税込)、B席:6,600円(税込)
 
■公演公式 HP・公式 X
・公式 HP:https://plan.shochiku.co.jp/naruseakari_roudoku/
・公式 X(旧 Twitter): https://x.com/naruse_roudoku
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