ばぶれるりぐる新作『なるべく大きな水槽を』/ 竹田モモコ(脚本・出演)&チャーハン・ラモーン(演出)に聞く~「怒りが執筆の原動力」

インタビュー
舞台
12:00
竹田モモコ(脚本・出演)、チャーハン・ラモーン(演出) (撮影:池上夢貢)

竹田モモコ(脚本・出演)、チャーハン・ラモーン(演出) (撮影:池上夢貢)

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演劇ユニット・ばぶれるりぐるの第6回公演『なるべく大きな水槽を』が、東京は下北沢のシアター711で、2025年10月8日(水)〜13日(月・祝)に上演される。本作は、ばぶれるりぐるが活動の拠点を大阪から東京に移して以降初の公演となる。脚本は主宰の竹田モモコ、演出はチャーハン・ラモーン。ふたりの興味深い経歴、拠点を移した経緯、出産や育児をテーマにした新作への思いなどを、公私ともにパートナー関係にあるという竹田とチャーハンに聞いた。


 

■「デザイナーとして売れっ子になりたかった」(チャーハン)

──昨年末に大阪から東京ヘ活動拠点を移されたそうですね。

竹田 そうなんです。

チャーハン 僕も一緒に出てきました。

竹田 私たちはパートナー関係なので、公私ともに一緒で。

── そうだったのですね! お二人とも高知県ご出身とのことですが、昔からお知り合いなんですか?

竹田 ではないんですよ。私は「東京から一番遠い」という異名を持つ土佐清水市ってところの生まれで。

チャーハン 僕は宿毛市で生まれて、すぐ大阪に引っ越しました。

竹田 私が大阪で役者をやっていた時、チャーハンさんが作・演出をしている作品に出させてもらって。その時に地元の話をしたら「え、めちゃくちゃ近いじゃん!」ってことで意気投合し、そこからですね。

── チャーハンさんのお名前を私が最初に知ったのは、演劇パンフレットのデザイナーさんとしてだったので、演出もされる方と知って驚いたのですが、チャーハンさんの経歴をお聞かせいただけますか?

チャーハン 高校がデザイン科で、その頃から大学演劇に関わり、当時は役者をやったり脚本を書いたり演出をしたり、まあ“やりたがり”で何でもやっていたんです。デザイン科だったから、チラシも同時に作って。大阪にいた頃は不条理もののコントの作・演出もやっていましたが、これが、あの、ちょっと難しい言葉で言うと「鳴かず飛ばず」で。

竹田 何も難しくない(笑)!

チャーハン そっか(笑)。で、演出家として多くの方に僕の名前が届くことはなかったのですが、チラシデザインの方でKERAさんに見つけてもらって、お仕事をいただくようになりました。そこから東京の仕事が少しずつ増えて、演出はもうやめようと思っていた頃、竹田さんから「劇団を作るから演出をやってほしい」と頼まれて。

竹田 それで2018年に劇団を旗揚げしました。でも、最初は何回も断られたんですよ。

チャーハン そう、僕はデザイナーとして売れっ子になりたかったから。一つの分野で名を馳せて、偉そうな顔をしたいじゃないですか(笑)。

竹田 それを私がしつこくお願いして引っ張りこみました。そこから今回でもう6回目の公演ですよ。

チャーハン 早いね。すごい。

── ご自身で演出しようと思わなかったのは?

竹田 なんか……恥ずかしいじゃないですか。

チャーハン 恥ずかしいことを人にやらせないで(笑)。

竹田 あ、そうか。いや、演出は本当にいろんな知識がないとできないですから。チャーハンさんは映画とかカルチャー全般に詳しいし、私が手を広げられなかった不条理劇とか悪趣味カルチャーにも造詣が深い。って、身内を褒めるみたいであれですけど……。

チャーハン いいよ、どんどん褒めて(笑)。

── (笑)。

竹田 それに、自分の思っていることを的確な言葉にして役者に指示するなんて、もう特殊技能としか言えないです。私にはできない。あと、自分の書く台本って字面だと重たいんですよ。それをただただ重たいだけじゃなく、エンタメにしてくれるのがチャーハンさんの演出の力だと思ってます。

── 信頼を置いているんですね。

竹田 そうですね。書いた本人としては「ここは泣けるぞ〜」と思ってるシーンでも割とさらっと演出されてることがあって、でもそれも面白かったりするんですよね。そういうバランス感覚を信頼してます。

── 演出だけでなく、チラシデザイン、イラスト、音楽もチャーハンさんが担当されています。

竹田 世界観が統一されるので、絶対チャーハンさんにお願いしようと最初から決めてましたね。

── だけど、チャーハンさんは劇団所属ではないんですね。

竹田 ではないです。外注です。

チャーハン 害のある虫と書いて?

竹田 そっちじゃない(笑)。

チャーハン そう、僕は外注なので極力脚本に口を出さないようにしてきたのですが、最近はお話の始まり方と終わり方だけを意見するようになりました。

竹田 そのアドバイスを受けて、私はなんとかその終わり方にたどり着けるように会話劇を考えてます。


 

■演劇に目醒める前はヒッピーだった(竹田)

── 竹田さんが演劇に携わろうと思ったきっかけはラーメンズだったとか。

竹田 そうなんですよ。大阪に住んでいた時、高槻駅前のTSUTAYAでたまたまラーメンズさんのDVDを見つけて、「うわ、めちゃくちゃ面白い!」と思って。で、当時私は半分ヒッピーみたいな暮らしをしていたんですよ。

── ヒッピーですか?

竹田 はい。自分たちが食べる野菜やお米を無農薬で育てたり、白いものを食べないようにしたり、ボットン便所の長屋に住んだり、そういうナチュラル系の暮らしをしていました。でもラーメンズさんのDVDを観て、「いや、私、こんなことしてる場合じゃない!」と急に思い立って。それで当時婚約していた相手とも別れたのです。

── おおっ!

竹田 当時ヒッピー同士で結婚の約束をしていたのですが、「演劇とか舞台をやってみたい」と言ったら、別れることになりました。その後、役者を募集していた劇団「売込隊ビーム」にオーディションで入って、という感じです。

── 以前のインタビューで「ヤンキーだった」と書いてあるのを読んでいたのですが、まさかヒッピー時代もあったとは……。

竹田 ヤンキーは高校時代ですね。

── ヤンキー → ヒッピー → ラーメンズなんですね。

竹田 ヤンキーとヒッピーの間にはラッパーの時期もありました。

── なんと!

チャーハン この人、チャラいんですよ(笑)。

竹田 20歳くらいの時にラッパーの彼氏ができて、真似してラップしてみたり、クラブに行ったりしていた時期があります。そうですね、チャラチャラしておりました……。

── そこから色々あって昨年末に上京されていますが、どういう経緯でしたか?

チャーハン 竹田さんが売れたかったからじゃないですか?

竹田 恥っずかしい〜……いや、でも、本当に売れたかったんですよ。住んでいたUR賃貸住宅の更新が切れるからどうしようって時に、別のURを探すか、それとも、いっそ東京に行くかって考えて。それで腹を括って出てくることにしました。

チャーハン 僕も東京の仕事がほとんどだったので、じゃあ行くかと。

── ちなみに、「売れる」の具体的なイメージは?

竹田 うーん。私も漠然としてるのですが、作品としての賞をいただきたいなという気持ちはあります。戯曲の賞をいただいたことはあるのですが、座組全体で喜びたいので、上演作品自体を評価される場所に行きたいと思っていました。

── ドラマや映画の脚本への意欲もありますか?

チャーハン そうだと思います。さっきの答えはカッコつけてたと思う(笑)。

竹田 (笑)。はい、朝ドラ書きたいです!

── 目標が具体的で素敵です!


 

■なぜ出産や育児で女性ばかりが大変な思いをさせられるのか(竹田)

── 竹田さんの作品にはよく家族内の甘えや行き違いが描かれています。そういったモチーフが多いことに理由はありますか?

竹田 私自身は家族に縁がないんです。親もほぼいないような感じで。でも、だからこそ羨ましいのだと思います。雑に扱ってもいいという関係性が羨ましいし、家族に対する憧れが強い。

一時期親戚の家に身を置いていた時期があって。その3年間で家族というものを少しだけ離れた場所から見つめていました。そのお家はお母さんが長男をものすごく甘やかしていて、上げ膳据え膳状態でした。なのに娘に対してはもう全部自分でやらせて、何もしてあげない。それを見て「うわ、えげつな」と思ったけど、大人になってからは割とよくあることだと知って。男の子ばかりが大事にされている家の文化が、将来の男の人の態度にも繋がってくるんじゃないかなとか、そういうことは考えましたね。

── 新作の『なるべく大きな水槽を』も出産や育児をめぐるお話ですね。どんな思いで書かれましたか?

竹田 作品を書く時はいつも「怒り」が最初にあるんですよね。今回だったら「なんで子どもを産んで育てるのに、女性ばかりが大変な思いをしないといけないんだ」という怒りです。公衆トイレみたいな場所で赤ちゃんを産んで、そのお母さんが罪に問われることがあるけれど、「なんでだよ」って。赤ちゃんの父親は何してるんだよっていう。産むのも育てるのも大変なんだから、男の人もその立場になってみろよ、という思いがあってこういうお話になりました。男の人を困らせたかったんです。

── たしかに、作中で男性たちが大いに困ってますね。

竹田 閉じ込めて、困らせてやれ、と。

チャーハン 罵声を浴びせてやれ、と(笑)。

── 執筆はスムーズに進みましたか?

竹田 いや、それが自分としては過去イチ遅かったんですよ。迷いに迷っちゃって。

チャーハン 最初はSFを書いてたね。

竹田 そうそう、50年先の日本の話で、ディストピア系のものにしようとしたけれど、書けなくて。

チャーハン テーマは同じく出産や育児だったけれど、不慣れなSFにするよりは、現代劇のほうがいいよっていう話をしました。

── 竹田さんとしては、今回の作品をどんな方に観てほしいですか?

竹田 今回に限らず、いつも私と同い歳の女性の人に観てほしいと思って書いているところがあるんですよね。わたしは今44歳で、劇作家という肩書きでこうやってお話をしていますが、普段はクリーニング屋さんで受付の仕事をしているんです。だから、クリーニング屋で働いているお金のない竹田モモコに観てほしいなと思って書いてますね。そこはもう絞りに絞ってピンポイントに書いてますが、チャーハンさんの演出で間口を広げてもらっているので、今回もエンタメとして色んな方々に楽しんでいただけると思っています。

取材・文=碇雪恵  撮影=池上夢貢

公演情報

ばぶれるりぐる 第6回公演
『なるべく大きな水槽を』

 
■脚本:竹田モモコ
■演出:チャーハン・ラモーン

■出演:
竹田モモコ
窪田道聡(劇団5454)
原田樹里(演劇集団キャラメルボックス)
内藤裕志(クリオネ)
石住昭彦(演劇集団円)

 
■会場:シアター711(下北沢)
■公演日程:2025年10月8日(水)~10月13日(月祝)
10月8日(水) 19:00
10月9日(木) 14:00 / 19:00
10月10日(金) 19:00
10月11日(土) 13:00 / 18:00
10月12日(日) 13:00
10月13日(月祝) 13:00
全8ステージ
■料金(全席自由席・税込):
前売:4,000円/当日:4,500円
U-22  3,000円 [前売・当日共]・・・22歳以下の方対象の割引
※U-22の方は、当日受付にて年齢を確認できるものをご提示ください。

 
​<STAFF>
■舞台監督:久保克司(スタッフステーション)
■舞台美術:柴田隆弘
■照明:葛西健一
■音響:今里愛(Sugar Sound)
■照明オペレーション:吉田一弥(DEZAR inc.)
■映像撮影・編集:武信貴行(U.M.I Film makers)
■イラストとチラシと音楽:チャーハン・ラモーン
■制作:安井和恵(クロムモリブデン)、寺井ゆうこ
■企画・製作・主催:ばぶれるりぐる
■協力:演劇集団キャラメルボックス、㈱クリオネ、劇団5454、㈱NAPPOS UNITED(50音順)

 
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