マイナー楽器?……だけどホントは面白い!ファゴットの多面的な魅力を世界各国の音楽で~古谷拳一×ニュウニュウインタビュー
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反田恭平率いるJNO(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)メンバーによる室内楽シリーズ「反田恭平プロデュース JNO室内楽シリーズ JNO Chamber Colors」。第2弾は2025年11月、ファゴット奏者・古谷拳一が登場する。
ファゴットの様々な魅力を披露する非常に多彩なプログラムが組まれている本公演。出演は古谷のほか、八木瑛子(フルート)、西久保知広(パーカッション)、そしてニュウニュウ(ピアノ)。ニュウニュウはプログラムの一部編曲も手掛けている。コンサートについて、古谷拳一とニュウニュウに話をきいた。
――お二人が初めて会ったのはいつですか?
古谷:6月に今回の曲について打ち合わせをしたとき初めて会いました。
――お互いの印象は?
ニュウニュウ:フレンドリーで素晴らしい個性の人だと思いました。今回のプログラムは、いろいろな国の音楽を組み合わせると聞きまして、僕はすぐに「バタフライ・ラヴァーズ・コンチェルト(梁山泊と祝英台)」を思いついたのですが、僕がそれを提案する間に、古谷さんから「中国の作品を是非提案してほしい」と頼まれたので、うれしかったです。
古谷:僕も中国の曲をやりたいと思っていたので、会ってすぐに言いました。ニュウニュウさんは、CDのジャケットで見た小さい頃のイメージが強くて、大きいな、とびっくりしました(笑)。優しいハートを持った方ですね、すぐに意気投合しました。
――今回のコンサートのプログラムについて話していただけますか?
古谷:ファゴットのオリジナルの曲は少ないのですが、いろんな国の音楽や、様々な奏法、リズムなどを組み合わせて、たくさんの角度からファゴットの多様な魅力をみなさんにお伝えできればと思いプログラムを決めました。
ニュウニュウ:多くのスタイルが含まれたプログラムは僕も好きです。僕も、最新のソロ・アルバム『Lifetime』(2023)では17人の作曲家の作品を取り上げました。数多くの国の作曲家の曲を組み合わせたプログラムは、出演者も聴衆も楽しめると思います。
古谷:聞きどころのひとつは、カプースチンのトリオです。もともとファゴットの曲ではないのですが、僕はカプースチンのピアノ曲を普段からよく聴いていて、やってみたいと思いました。カプースチンはクールだし、僕にとって元気をくれる作曲家です。オリジナルのチェロのパートをファゴットで吹くのは前代未聞ですが、チェロの重音やピッツィカート、駒寄りの音をファゴットでうまく表現したいなと思います。
ニュウニュウ:僕もカプースチンはすごく好きで、ジュリアード音楽院時代、彼のピアノ・ソロ作品をたくさん練習室で弾きました。でも、演奏会でカプースチンを弾くのは今回が初めてです。僕は、ジャズなどクラシック以外の音楽も好きで、彼の曲の即興性やリズム感が気に入っています。トリオでは、楽器と楽器のコール&レスポンスが楽しいですね。
古谷:この曲はジャズ的なリズムやアクセントがポイントです。フルート、ファゴット、ピアノの一人ひとりが主張したり、合わさったり、形態の面白さを聴いていただければと思います。
――ニュウニュウさんは、今回一部楽曲の編曲も手掛けているそうですね。
ニュウニュウ:僕は「バタフライ・ラヴァーズ・コンチェルト」と、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲第18変奏を編曲しています。
第18変奏は、ピアノ・ソロ版を『Lifetime』に収めていますが、今回のファゴット、フルート、ピアノのトリオ・バージョンでは、ファゴットとフルートがロマンティックな会話をします。
そして「バタフライ・ラヴァーズ・コンチェルト」も同じく、フルート、ファゴット、ピアノのトリオのバージョンで、今回のコンサートのために新しく編曲しました。演奏ができてすごくうれしいです。実はこの曲は、去年、香港でフルートのCocomiさんと、フルートとピアノと弦楽八重奏のバージョンに編曲して演奏しました。聴衆からは、もとのヴァイオリンのバージョンよりも美しいと好評でした。ファゴットとフルートとのたくさんの音楽での会話も書きましたのでどうなるか、三人の楽しい会話を楽しんでください。
古谷:僕も化学反応が楽しみです。
――ニュウニュウさんは、作曲や編曲をいつからしているのですか?
ニュウニュウ:作曲は小さい頃からしていましたが、ジュリアード音楽院であらためて勉強をしました。コロナ禍の2020年に、世界の人々を励ましたいと思い、初めての自作『HOPE』の動画をSNSに投稿しました。その後、ロンドンのユニバーサルミュージックから、ベートーヴェンの曲と一緒に録音してほしいという話をいただき、うれしかったですね(アルバム『フェイト&ホープ』(2021))。新しい作品を作るのは、何百年にわたるクラシックの歴史を続ける上で重要だと思っています。
――そのほかにもいろいろ演奏されますね。
古谷:僕の友だちのホルヘ・サントスさんの作品も演奏します。彼はホンジュラスの人で、僕が作曲を依頼してこのコンサートのために作品を書いてくれました。ファゴットとピアノのための「トルヒージョ」は、ホンジュラスのガリフナというダンスをテーマにした曲です。
ニュウニュウ:リズムが難しい曲です。
古谷:足など身体を使ったりもして、面白いかなと思います。ジャノーラの「アボリジニ・ダンス」は、ファゴットのソロ曲ですが、リードでは吹かないで、上の2本で直接吹くというファゴットの特殊な奏法を使います。ジャノーラの「アフロ・クバーナ」も踊りながら吹いたり、最後にちょっとした演出が入ります。
「アボリジニ・ダンス」で行う特殊奏法を実演する古谷。果たして音は出るのか…!? 真相は会場で。
ニュウニュウ:マスネの「タイスの瞑想曲」はヴァイオリンで弾いていたので、小さい頃から馴染みがあります。僕は10歳から8年間くらい、ヴァイオリンを練習していました。今年からまた練習しています。ファゴットでどうなるのか楽しみです。
古谷:そして「日本の秋の童謡メドレー」は、秋の風景にぴったりな唱歌を揃えました。かつて、老人ホームでボランティアで童謡を演奏していた時期がありまして、お年寄りの方が泣いて喜んでくれるんですね。日本の童謡は名曲揃いですから、日本人として広めていかないといけないと思って演奏することにしました。このメドレーのピアノ伴奏は、まさにニュウニュウさんという感じで。彼に合っていると思います。
フォーレの『夢のあとに』では音の色の変化を楽しんでいただきたいですね。
――古谷さんはジャパン・ナショナル・オーケストラに参加しながら、今年、読売日本交響楽団に入団されましたね。
古谷:楽しいけど、たいへんです(笑)。ハードなプログラムが多くて、学生時代に練習したオーケストラ・スタディ(教本)の成果を読響で毎週のように吹いているという感じです。
でも、JNOで普段やらないような自分のキャパシティを越えるツアーを経験すると、他のことがへっちゃらに思えてきますから(笑)。どんどん自分が強くなれる感じです。
――ニュウニュウさんの近況は? 日本語がお上手ですが、いつから勉強をしているのですか?
ニュウニュウ:日本語は3年前に勉強を始めました。日本のお客さまが大好きなので、ステージ上で演奏する曲を日本語で説明したり、しゃべったりしたいと思ったからです。今年は日本で30公演以上ありますし、この2か月はずっと東京に滞在しています。日本の聴衆は、オープンマインドなので、うれしいです。
僕は2018年までニューヨークのジュリアード音楽院にいて、その年にユニバーサルと契約しました。現在は香港を拠点にして、世界のいろいろなところでコンサート・ツアーをしています。香港は国際都市で、中国と世界との橋になっています。反田恭平さんや角野隼斗さんも香港に来てコンサートをひらいているので、彼らとは香港で会ったりしました。
――最後に今回のコンサートへの抱負をお願いします。
古谷:ファゴットはとてもマイナーな楽器ですので、この演奏会を通じてスポットライトが当てられることに喜びを感じています。ファゴットのコンサートだけどファゴットじゃないみたいなものを自分自身が求めていて、そういう演奏をしたいという思いもあります。
そして、素晴らしいピアニストのニュウニュウさん、読響の西久保友広さん、JNOで一緒に演奏している八木瑛子さんという、自分の周りの音楽のベースとなっている人々からサポートを受けてこういうセッションができるのは本当にうれしいです。待ちきれないです。
ニュウニュウ:このコンサートではいくつもの世界初演の曲があります。このプログラムでみなさんが世界旅行しているような感覚になっていただけるように、がんばります。
取材・文=山田治生 撮影=敷地沙織
公演情報
『ファゴット古谷拳一× JNO Chamber Colors』
奈良:2025年11月21日(金)19時開演 会場:学園前ホール(奈良市西部会館市民ホール)
ヴィラロボス:ブラジル風バッハより第6曲
フォーレ:夢のあとに
マスネ:タイスの瞑想曲
コシンスキー:Get it
カプースチン:フルートとチェロとピアノのためのトリオ ほか
東京:https://www.jno.co.jp/ja/concert/245
奈良:https://www.jno.co.jp/ja/concert/246