スーパー登山部とNatsudaidaiが相思相愛のハロウィンライブーー『T.B.O presents #心斎橋界隈 ver1031』興奮と多幸感の余韻が残るお祭り騒ぎに
10月31日(金)、Music Club JANUSにて『T.B.O presents #心斎橋界隈 ver1031』が行われた。本イベントは大阪のイベンター・夢番地の大野氏が「関西で魅力的なキモチいいフェスがしたい」という想いから2016年に始動させた『たとえばボクが踊ったら、(以下、ボク踊)』のスピンオフ企画。ハロウィン当日の今回は、ちょっと特別な展開もありながら、スーパー登山部とNatsudaidaiが、相思相愛のライブで心地良く会場を盛り上げた。
『T.B.O presents #心斎橋界隈 ver1031』2025.10.31(FRI)大阪・心斎橋Music Club JANUS
10月最後の金曜日。天気はあいにくの雨模様。しかしこの日はハロウィンだ。会場のJANUSに向かう途中で心斎橋筋を通り過ぎると、ゾンビやキャラクターのメイクで仮装した人々で混雑していた。
この日のJANUSは着席スタイル。会場内は和やかな雰囲気で、席についたオーディエンスはどこかウキウキした様子で開演の時を待っていた。
Natsudaidai
先攻はNatsudaidai。2023年に結成されたシンガーのヨウとトラックメーカーのNanaeによるユニットで、この日はサポートメンバーにアツムワンダフル(Gt.Mnp)、山本甫(Ba)、和田拓斗(Dr)が脇を固めた。大阪でのライブは10月に行われた『MINAMI WHEEL 2025』以来まだ2度目ということで、初見のオーディエンスが多い様子。青く染まったステージにずらりと並んだ機材、全員グラサン姿で現れたメンバーを見て「一体どんなバンドだろう」という空気が少しだけ客席を包み込んだ。
1曲目に投下されたのは「Escape Plan」。立体的でダンサブルなサウンドに、ヨウが響かせる低音ボーカルとスキャットがクールでカッコ良い。そして全員の演奏レベルが高い。筆者も初見だったのだが、早速目と耳を奪われてしまった。ヨウが「雨の中お越しいただいてありがとうございます。今日は踊っちゃおうぜ、立っちゃおうぜ〜」と煽ると、心を掴まれたオーディエンスが続々と立ち上がり、続く「Dusky dolphin」でどんどん会場の熱を高めていく。楽しそうに踊りながら歌うヨウに、淡々とシンセを弾くNanaeの対比も面白い。
MCでヨウは「改めましてこんばんは〜、Natsudaidaiと申します。大阪の皆さんこんばんはです〜。会えてよかった〜! 今日はなんとスーパー登山部とツーマンですよ! こんな特別な日はないんだから、楽しんで踊っていきましょう、よろしく」と独特のテンションの高さで挨拶。
よりグルーヴィーに踊らせた「青果店」が終わる頃には、客席から「めっちゃ良い!」と漏れる声が聞こえてきた。アーバンでソウルフルな「Just mean」から、疾走感たっぷりの「スイマー」への繋ぎは見事。クラップでシームレスにオーディエンスを巻き込んでいった。ヨウの滑らかな歌声にNanaeのコーラスとシンセが溶け合った「白雨」は、ムーディーかつメロウ。歌謡テイストも感じられるメロディーラインや、囁くようなヨウの歌い方がノスタルジックでセクシーで、ぐっと惹き込まれた。
Natsudaidaiのギャップはトークにある。ヨウは「楽しいです〜!」と喜びを爆発させ、スーパー登山部との関係性を話し始める。2人ともスーパー登山部の大ファンで、今年4月に下北沢ADRIFTで開催したNatsudaidaiの自主企画のゲストに呼んだという。大阪でもう一度対バンが実現したことについて、ヨウは天まで飛び上がりそうな高い声で「超〜特別!」と嬉しそう。Nanaeも「まさかこんな日が来るなんて」と感慨深げ。ライブとは違う、ふわふわのんびりしたヨウの話し方は、周囲の人をあっという間に笑顔にさせる力がある。
寒くなったからこそ夏の曲を、とトロピカルなサマーソング「サマー・ソルト」を披露した後は、スーパー登山部の「スーパー銭湯もある」をカバー。オーディエンスは歓喜と驚きの声を上げ、ゆったりとリズムに身体を揺らす。さらに次の「Cold Butter」のアウトロでも「スーパー銭湯もある」をマッシュアップ。これにはファンも大喜びで大喝采を贈っていた。ちなみにスーパー登山部も、自身のSNSで対バン相手の楽曲をカメラ目線でカバーする「眼力カバー」にて、Natsudaidaiの「スイマー」をカバーしていた。
シンガーソングライターの山本大斗をフューチャーした「アイス夏」をキレキレのビートで駆け抜けると、ラストスパートへ。実はヨウとNanaeは生年月日が全く同じだという。その誕生日である11月21日(金)に三軒茶屋・GRAPEFRUIT MOONで『Natsudaidai 収穫祭 2025 〜私たち誕生日一緒なんです〜』を開催するとアナウンス。そして「みんなと歌いたいなと思ってさ〜」と披露された、リリース前の新曲「徒歩7分」では、<ラララ>のシンガロングとクラップで明るく巻き込んでひとつに。最後は振付をレクチャーし、ファンクチューン「Tasting!」でもうひと盛り上げ。初見の人もすっかり虜にしたNatsudaidaiだった。
確かな歌唱力と、枠にハマらない上質な楽曲、サポートメンバーを含めた演奏力の高さ。この場を全力で楽しむヨウの人柄に心がほぐれ、会場全体を自然とホームに変えてしまう。今後の躍進が期待できる新進気鋭のアーティストだ。鳴り止まぬ拍手がライブの良さを証明していた。
スーパー登山部
後攻はスーパー登山部。『界隈』シリーズには度々出演している、音楽と登山をこよなく愛す5人組バンドだ。今年8月にはツアーファイナル公演として、標高2,832mの白馬山荘で前代未聞の5daysライブを見事達成した。そんな彼らは、この日が今年の大阪ラストライブ。
Natsudaidaiのライブであたたまった会場に流れてきたのは、風のささやきと鳥のさえずり。山の空気を感じつつメモを取っていると、どよめきが聞こえて顔を上げる。なんとメンバー全員が登山ウェアで登場。ザックに帽子にアウターにサングラス。まるっきり登山の格好だ。中でも小田智之(Key)は、キーボードの巨大なケース(中身はステージにあるため空)を歩荷スタイルで運んでくる。「これが山頂か……」という小芝居も挟みつつ、定位置に着いた小田は嬉しそうに「こんなにたくさんのお客さんが。ありがとうございます。スーパー登山部です」と挨拶し、「これね、僕ら完全に登山する時の格好。今初めてやっております。今日は何の日かご存知ですか?ハッピーハロウィンです!」と述べる。どうやらハロウィンだからと仮装(?)して来たそう。こういうところが彼らを愛すべき所以なのだ。そして、ここは大阪。ケースを背負ったままでライブに臨もうとする小田に「下ろさんのかい!」とオーディエンスからツッコミが入っていた。
演奏を終えた小田が「いや〜、ちょっと重くて……」とケースを下ろそうとすると「え〜?」とオーディエンス。まさかの下ろさせてくれない事態になり「これでも30kg背負って山登ってますからね!(小田)」と半ば耐久戦に突入。時には共に山に登る関係性のオーディエンスとの距離の近さは、彼らならでは。いじられる小田を優しく見守るメンバーの眼差しもあたたかい。
Natsudaidaiもライブとトークのギャップがあるが、スーパー登山部も同様だ。直前まで和やかにトークを展開していたのに、次なる「hatoba」では瞬時に表情を変えて一気に楽曲の世界に入り込ませていく。この振り幅も大きな魅力だ。
小田がメインボーカルをとる「秋の海藻」では、いしはまの浮遊するギターと上質な小田のキーボードプレイ、Hinaの高音コーラスが美しく混ざり合う。そこから森の中を歩くような音景色を漂わせ、今年8月の山の日に配信リリースされた「燕」を披露。長野県の燕岳からの景色にインスピレーションを受けて書かれた人生応援歌で、軽やかに跳ねるサウンドを聴いていると、新緑の山々と、空を切って悠々と飛び回る燕の姿が浮かぶようだ。
アコギを持ったHinaが「毎年すぐに過ぎ去ってしまうこの季節にぴったりな曲」と言葉を添えた「木枯らし」は、初めてHinaが作詞を担当した楽曲。7月に大阪で行われた『2nd EP Release Traverse』公演では、この曲にまつわる想いを口にして、高まる感情を抑えきれず涙を流していたが、切なげに目を閉じてゆっくりと丁寧に歌声を紡ぐ様子からは、彼女の繊細さと逞しさを垣間見た気がした。後半の「ギャラクシーゾーン」も絶好調で、炸裂するギターリフ、パワフルな鍵盤、グルーヴィーなベースライン、リバーブのかかったビートが心地良いアンサンブルを作り上げた。
MCでは「この中で登山したことある人〜!(小田)」といつものアンケートを実施。「登山人口が増えてきている実感がある」と話す通り、山界隈と音楽界隈、彼らの存在はどちらにも着実に広がっている。この日初めてスーパー登山部のライブを観る人の手も挙がっていたが、今後さらに彼らに魅了される人が増えると思うとワクワクする。
「そろそろ下ろしたら? しんみりした曲で笑いそうになっちゃう」という深谷のパスで、小田がようやくキーボードのケースを肩から外す。そしてここからは、再びどっぷりと音に浸るゾーンへ。Hinaのアカペラから始まる「火花」では極上のメロディーと歌声に酔いしれ、爆音の中で揺蕩う「樹海」では圧倒的な表現力に感情が揺さぶられた。
そしていよいよラストスパート。「意志拾い」ではお馴染みの「意志拾いチャレンジ」も実施。7拍子のリズムに合わせて小田がカウベルを叩き、それをオーディエンスがクラップで追いかける。小田は難解なお題にも食らいつくオーディエンスを満足そうに見つめ、「ばっちりです!」と破顔した。
本編ラストの曲は、代表曲のひとつである「頂き」。登山ウェアを着てのライブだったからか、小田が「白馬を思い出すね」とHinaと言い合っていたのが印象的だった。2番ではAメロから客席がシンガロング。どこまでも伸びていく歌声に、徐々に力強く変化するアンサンブル。スーパー登山部のライブを「いつまでも聴いていたい、終わってほしくない」と思ってしまうのはいつものこと。最高の多幸感と余韻を残し、本編は幕を閉じた。
大きな拍手は、すぐさまアンコールを求めるクラップに変化。すると一部のオーディエンスが「スーパー銭湯もある」の<たらったらったったー>を歌い始め、それがじわじわと伝播して会場を一体にするというムーブも見られたのだった。
アンコールは、本家本元の「スーパー銭湯もある」を披露。この曲は、いしはまのソロ曲「銭湯がある」をスーパー登山部が再解釈したもの。チルであたたかな空気の中にレゲエやダブの要素が加わったサウンドで身体を揺らしていると曲調が変わり、小田がドラムスティックを手に深谷のドラムセットの元へ。一礼ののち、太鼓のようにフロアタムを叩きはじめた。小田と深谷のドラムセッションに湧き立つフロア。
ここでHinaが「チームNatsudaidai!」とヨウ、Nanaeとサポートメンバーの3人を呼び込む。全員笠帽子を被っての登場で、ステージは一気に賑やかに。「対決しましょう!(Hina)」との提案で、チーム小田&深谷 VS チームNatsudaidaiで、それぞれに思い切り盛り上げる。楽しそうに笑い合うHina、ヨウ、Nanaeの女子トリオがキュートだった。
やがてリズムはいつの間にかサンバに。お祭り騒ぎ状態で、最高潮の熱でフィニッシュした。「スーパー銭湯もある」のポテンシャルの高さに脱帽するとともに、スーパー登山部のステージ力がまたひとつ引き上げられていることを感じさせられた。
こうして『T.B.O presents #心斎橋界隈 ver1031』は大団円で終了した。今後も両組の交流が続けばいいーーそう思える、とびきりハッピーなハロウィンナイトだった。
次回は、12月12日(金)、12月14日(日)には心斎橋・CONPASSで『T.B.O presents #長堀界隈』が行われる。さらに、来年3月20日(金祝)には、梅田3会場でのサーキットフェス『梅田界隈 THE CIRCUIT '26』の開催も決定。ぜひそちらもチェックしよう。
取材・文=久保田瑛理 写真=T.B.O 提供
イベント情報
#長堀界隈 ver1212』
日程:2025年12月12日(金)
会場:大阪・Live Space CONPASS
時間:OPEN/18:30 START/19:00
出演:Doona、Redhair Rosy
料金:スタンディング(Dr別・整理番号付)¥3,500
日程:2025年12月14日(日)
会場:大阪・Live Space CONPASS
時間:OPEN/17:00 START/17:30
出演:SUKISHA(Band Set)、TiDE
料金:スタンディング(Dr別・整理番号付)¥3,500
企画制作:たとえばボクが踊ったら
ライブ情報
『梅田界隈 THE CIRCUIT '26』
日時:2026年3月20日(金祝)OPEN/START13:00
会場:梅田BananaHall、梅田Zeela、梅田BANGBOO
出演:BESPER/oops cool/QOOPIE/S.A.R./スーパー登山部/and more
ADV¥5000(早割¥4300)/U-25 ¥3500
※未就学児入場不可 ※25歳以下はU-25
主催:YUMEBANCHI/企画・制作:たとえばボクが踊ったら、
X:@odd_talla / instagram:@tbo_0fficial