菜月チョビ・丸尾丸一郎インタビュー 「ショルダーパッズ」で海外公演を経た、劇団鹿殺しの現在地

19:00
インタビュー
舞台

(左から)菜月チョビ、丸尾丸一郎

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劇団鹿殺しは2025年夏、世界最大の芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」に初参戦し、全21ステージ完売、複数の演劇メディアで最高評価を獲得した。さらには「Mervyn Stutter’s Spirit of the Fringe Award」を受賞するという、前代未聞の快挙を成し遂げている。

その凱旋公演を英語と日本語の両バージョンで準備し、さらに新作を書き下ろした三作品同時上演を前に、劇団員で脚本・出演の丸尾丸一郎と、演出・出演の菜月チョビにインタビューを敢行。海外公演に挑戦した理由、約1ヶ月の長期遠征となったエディンバラの滞在、そして凱旋公演にかける意気込みについて、二人に語ってもらった。

エディンバラでも、体一つでどこまで表現できるのか

ーー劇団の代表的な表現スタイル「Shoulderpads」で、世界最大の芸術見本市であるエディンバラ・フェスティバル・フリンジへの挑戦を決めた一番の動機は何だったのでしょうか。

菜月:もともと路上からお客さんを劇場に連れてこようと取り組んでいた頃、演劇の魅力や可能性を探求していた中で、「肩パッドだけで、体一つでどこまで表現できるのか」というアイデアから『銀河鉄道の夜』を初めて上演しました。そのときにすごく手応えがあり、演劇ってやっぱり面白いな、素敵だなと力をもらっていたのが今でも原点です。コロナ禍の活動休止から再開したときの一発目、2023年の本多劇場の公演にも選ぶほど、ショルダーパッズは自分たちらしさの詰まった演目だと思っています。その本多劇場の公演に参加していたスタッフさんたちが、「絶対に海外でやったほうがいいよ」と言ってくれたんです。身体表現や宮沢賢治作品の日本らしいスピリッツも「特にヨーロッパの人たちに響くと思う」と聞いて、やってみたいと思い、そこから2年がかりで準備しました。

菜月チョビ

ーー海外では、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は知られているのでしょうか?

丸尾:有名ではないですね。そこで、英語版のざっくりしたあらすじを上演前にお渡ししていました。僕たちの英語もどこまで伝わるかが分からなかったので、初めて観る方にも伝わりやすいように、シーンごとにスケッチブックで今いる場所を説明する工夫もしましたね。

ーーエディンバラでShoulderpads「Galaxy Train」(English Japanese Mix)を観たお客さんは、どのような反応でしたか。

菜月:すごいと思ったら素直にワーッと手を叩いたり、ヒュー! と言ったりしますが、私たちが丁寧にお芝居として作った演劇的なこだわりや、体一つで伝えたいところもすごく一生懸命見てくれました。子どもみたいな感覚で集中してくれて、終盤までよく笑っているのに、お別れの場面では泣いているみたいな。ただ盛り上がって騒がれて終わることを最初は懸念していたのですが、現地のお客さんがしっかりと演劇を観に来ていたのは意外でしたね。終演後には「あの場面に『千と千尋の神隠し』のような切なさと美しさを感じた」など、お芝居としての感想をいただけて、『銀河鉄道の夜』の世界にどっぷり浸ってくれたのがすごく嬉しかったです。

丸尾:日本で元々「ここはこういう風にお客さんにウケるだろう」と思っていたところが、見事に当たったというか。僕たちのストライクゾーンがインターナショナルでも通じると分かり、脚本家としても自信になりました。

ーーフリンジ全体から受けたインスピレーションや、日本の演劇界との違いで特に印象に残った点はありましたか。

丸尾:お客さんにとってお芝居はすごく身近なもので、フリンジも2,000円から3,000円以内の代で見られる。みんな外で軽くお酒を飲んで観に来られるので、観劇が日常生活の一部になっているように感じました。年中そうなのかは分からないけど、フリンジの期間は少なくともそうだったなと思います。楽しみ方も自由で、例えばスタンディングオベーションをする人が自分の前で立ったとしても、別に立とうとは思わない。笑い声も自分が面白いと思った瞬間に笑うだけ。他のお客さんのことを気にしていないというか、まず自分自身がすごく楽しんでいる感じが羨ましいと思いました。また、お客さんの年齢も幅広い中で、シニアの方が多かった印象もあります。

丸尾丸一郎

菜月:現地の新聞や批評が、私たちの演劇を「正しい演劇の形だ」と評価してくれましたが、やっぱりマイノリティだとは思います。でも、「クラスの中心人物じゃないけれど、実はめっちゃ熱く生きたい」みたいな、そういう生を感じたい人ってきっと世界中に点在していて、その人たちに会いたいと思ったのも海外を目指した理由でした。そして、エディンバラで実際に会えた。だからこの先も、色々な国で私たちのスピリッツが通じることを実感して、劇団鹿殺しの作るものをもっと見たいと思ってくれる仲間を世界中で見つけられたら嬉しいなと思っています。

ーー長期間、異国の地で公演を続けたことで、ご自身の創作や表現について新たな気づきや変化はありましたか。

菜月:私は40代半ばを超えていますが、「正直、爆死するかも」と思って海外に来ていたし、劇団の指導者としてこうじゃないととか、そろそろ目標をどうやって人に譲っていくかとか、色々な考えもありました。でも、エディンバラに来たら70代のおばあさんが夜10時台に元気に公演をしていて、舞台上で大胆な格好をしながらお姫様役をしていたのが、すごく綺麗に見えて。それを見たときに何だか吹っ切れて、本当に自分がしたいことをすればいいんだなと思えたのは大きかったですね。「丸さん、やりましょう」と言って劇団を作った当時の感覚を思い出しました。

凱旋公演と新作、三作品同時上演への熱意

ーー今回、エディンバラ公演をそのままのスタイルで上演するUK Versionと、日本語版のJapanese Versionを同時に上演する狙いは何でしょうか。

菜月:まずは、海外で評価されたエディンバラ公演を実際に観たいと思ってくれる人もいるだろうというのと、国内の外国人の方にお芝居を英語で見られる機会を作りたかった。一方で、日本語版も必要だなと思いました。UK Versionは全編ほぼ英語ですが、わざと少し日本語交じりにしているので、英語も日本語も分かる人が一番混乱するんですよ。でもシンプルにすごくいいお話なので、今までショルダーパッズを観ていない人はJapanese Versionから入っていただいて、その後にUK Versionを観てほしい。「これで海外に行ったの?」と思うはずです(笑)

菜月チョビ

丸尾:最初はUK Versionだけでやりたいと構想していましたが、僕がお客さんの立場だったら、まあ日本語版を観に行くだろうなと思ったんですよ。だからお客さんが選べたほうがいいかなと思い、両方を作りました。は3,000円台で自由席なので、僕たちがエディンバラで感じたままの、身近なお芝居を気軽に観る楽しみ方をしてもらえたらと思います。もう一本見たいな、と思ったら、下北沢でご飯食べてまた劇場に戻ってきてもらって、みたいなことができるといいなと。

菜月:旅行で日本に来た外国の人が、日中どこかに出かけた後でも観られるように、夜の開演は8時と遅めです。上演時間は60分で夜9時には終わるので、なるべく海外の人にも見てもらいたいなという挑戦があります。

ーー新作の劇団鹿殺しabnormals『銀河鉄道の朝』は、どのような発想から生まれた作品ですか。

丸尾:劇団員たちと凱旋公演の話をしていたときに「それとは別立てで、新作を作ったほうがいいと思います」と二人くらいから言われたんですよ。そこで、エディンバラで見てきたものを作品に込めました。現地でいくつか他団体の公演を観に行ったのですが、すごく自由だった。例えば、クラブ音楽でただ踊っているだけの演目があって、本当にただ大音量で踊っているだけなんですよ。でも、やりたいことがこれなんだからいいじゃない、という感じが舞台上から伝わってくるというか。下半身も丸出しにするし、お客さんのビールを勝手に飲むし、好かれようとしないし媚びてない。僕が思っていた日本の演劇界はもっと自由になれるんだ、と自分の中で幅が広がった印象がありますね。自分たちのやりたいことが最重要であって、嫌われたら仕方がない。そのスタンスにもう一回立ち返れないかな、と改めて思いました。

ーー既作『銀河鉄道の夜』とは、どのような関連性がありますか。

丸尾:原作の『銀河鉄道の夜』は星祭りの物語ですが、その祭りがまったく違う世界観で行われていたらいいなと思い立ちました。未来なのか過去なのか、海外なのか日本なのかも分からない世界観で、狂った祭りが開かれている。そこで「本当は誰がカムパネルラを殺したんだ?」と痴話喧嘩みたいなものがずっと行われている。昔に立ち返って直感のまま脚本を作ろうと思い、ラストシーンを考えずに書き始めたので、ちょっとトチ狂っています。途中で賢治とトシの物語にもなる。とにかくやりたいことを詰め込んだので、客イジリも多いし癖が強いです(笑)

丸尾丸一郎

ーーエディンバラ公演を経験したメンバーと、今回新しく加わるメンバーが共演する今作。座組全体を見て、パワーアップしたと感じる点はどのようなところでしょうか。

丸尾:エディンバラに行ったメンバーはお芝居の強度がすごく上がっているし、自分たちの英語が拙いことを重々理解しているからこそ、感情を伝えることを強く前面に出してきました。それを皆が稽古場で見て、感じてもらえるところがあるのではないかなと期待しています。

菜月:劇団員の半数ほどがエディンバラで刺激をもらい、演劇に対するエネルギーが上がっていて、作品を創っていく大変さの中でも「楽しい」と思う気持ちをチャージして帰ってきたところがあります。劇団の中でちょっと元気になってる奴らがいる、目的意識がちょっとクリアになった人たちがいる、というのは伝わるのかなと思います。

最高にピュアな『銀河鉄道の夜』を、気軽な気持ちで楽しんで

ーー最後に、三作品同時上演を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。

丸尾:僕たちはエディンバラで洗練してきた強度の高いエンターテインメントの作品を上演しますので、皆さんには本当に気軽な気持ちで楽しみに来てほしいですね。ショルダーパッズもabnormalsも全部癖は強いけど、お芝居の楽しみ方を変えたい想いから、料金や時間帯も工夫した企画です。これを機にもっと気軽にお芝居を楽しめるような環境を作っていきたいので、フラッと来てもらえると嬉しいです。

菜月:私もそうですね。演劇をめちゃくちゃ愛する人しかいないので、見た目は奇抜ですが、最高にピュアな『銀河鉄道の夜』をお届けします。演劇の最初の出会いとして良いものだと思うので、安心して来てください。UK Versionは身の回りの外国の方も連れて来てもらえたらきっと楽しいし、日本人と外国人が混ざった客席が作れるのも今回ならではと思うので、そういう楽しみ方もしてみてほしいです。

(左から)菜月チョビ、丸尾丸一郎

取材・文=さつま瑠璃    撮影=奥野倫

公演情報

劇団鹿殺し3作品同時上演
 
日程・会場:2025年11月30日(日)〜12月7日(日)下北沢 駅前劇場

1.Shoulderpads 凱旋公演UK Version
『Galaxy Train』(English Japanese Mix)  
原作 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
(北村想 作「想稿銀河鉄道の夜」からの⼀部引⽤あり)
脚本 丸尾丸⼀郎
演出 菜⽉チョビ
⾳楽 タテタカコ、伊真吾
振付 伊藤今⼈、浅野康之
出演
菜⽉チョビ、丸尾丸⼀郎、橘輝、浅野康之、島⽥惇平、⾕⼭知宏
上演時間は60分を予定しております。
 
2.Shoulderpads SP Japanese Version
『銀河鉄道の夜』(Japanese only)
原作 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
(北村想 作「想稿銀河鉄道の夜」からの⼀部引⽤あり)
脚本 丸尾丸⼀郎
演出 菜⽉チョビ
⾳楽 タテタカコ、伊真吾
振付 伊藤今⼈、浅野康之
出演
菜⽉チョビ、丸尾丸⼀郎、橘輝、浅野康之、島⽥惇平、後藤恭路、佐久本歩夢
上演時間は60分を予定しております。
 
3.劇団鹿殺しabnormals (アブノーマルズ)
『銀河鉄道の朝』
脚本・演出 丸尾丸⼀郎
出演
橘輝、浅野康之、藤綾近、メガマスミ、川平花/
島⽥惇平、後藤恭路、丸尾丸一郎/
町⽥⻘、東美伽
上演時間は60分を予定しております。
 
 
⼀般 3,900円 / パンフ付き 5,800円 / U-25 2,500円 / U-18 1,000円
(税込・全席⾃由・整理番号付・前売当⽇共通)
 
※パンフレットは、公演当⽇に受付でお渡しをさせていただきます。

 
公式X : @shika564 お問い合わせ : ticket@shika564.com
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