らそんぶる、自身初となる全国ツアーファイナルで示した音を鳴らす喜びとロックバンドの覚悟「信じたものは曲げない!」
らそんぶる『月夜の下、私たちは離ればなれにならないツアー』
2025.11.28(FRI)東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE
2025年11月28日(金)、らそんぶるが東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて『月夜の下、私たちは離ればなれにならないツアー』のツアーファイナルを開催した(※福岡公演は12月11日に延期)。8カ所9公演を回るこの旅は、彼女たちにとって初めての全国ツアー。9月に東京・府中Flightを出発してから約2カ月、各地の人と出会い、会話を交わす中で獲得した経験値が、そのまま実を結んでいくような瑞々しい一夜だった。
バッグドロップに描かれた満月が光ると、ゆー(Gt)の澄んだアルペジオが緊張で満ちた会場へダイブした。オープニングナンバーに選ばれたのは「START DASH★」だ。《ぼやけて見えた 私のヒーローが 今は澄んだ視界に映る憧れになった》とロックバンドへの羨望がステージへ立つ者としての決心に移ろっていくこの曲は、これ以上ない開幕宣言であり、《自分で精一杯だけど あなたの人生も 背負う覚悟で今ここに立っている》の数行に合わせてフロアを指差すそら(Gt, Vo)の姿は、「あなたの為に音を鳴らしたくて仕方がない」と語っているようである。その姿勢は続く「風船」も同様で、ジャキジャキと乾いたギターを携え、《これが私の音だ》と断言していく。その情熱の純粋さにも胸を打たれるところだが、決して特別じゃない少女たちがありふれた光景をドカンと鳴らすことでここまで格好良くなってしまう事実に、否応なくバンドが秘めた可能性を感じてしまう。
「私たちを離ればなれにしたピンクの月も、誰かにとってはきっと恋を叶えたり、仲を大切にするキッカケを与えてくれる光だったはずで。私たちにとってのピンクの光が、離れ離れにならないための温かい光になったら良いな」とツアータイトルに込めた思いを語り、「ストロベリームーン」を表題通りピンクに染められた月の下で歌い上げると、「もしも」へ。星々と大切な人の存在を照らし合わせるこのナンバーからも窺い知れるように、4人にとって月や星といった表象は、誰かと誰かの関係を映し出す鏡なのだろう。それは「もしも」のアウトロにて「ダイヤモンドなんかなくても夜空に浮かぶ星を見て、これをプレゼントとしたいと思うのが大切ってことなのかな」と呟いた言葉にも端的に表れている。
「ガールズバンドだし、若いし、色んな嫌なことも言われるけれど、信じたものは曲げない!」と覚悟を剥き出しにドロップされたのは「ロックンロールに恋をしたんだ!」。この曲には、《掻き鳴らすギター古びたアンプで 壊れるほどの爆音を》《ロックンロールが私を見つけて あの音楽が私に手を差し伸べた》と純度100パーセントの音楽愛が閉じ込められているけれど、ここまでらそんぶるを目撃してきたオーディエンスならそんなことは百も承知のはず。なんせ、何度もお立ち台に上り、少し眩しそうな目でギターを掻き鳴らすゆーも、スポットライトを浴びてドラムソロを気持ちよさそうにぶちかますみやび(Dr)も、そらへ目線をやりつつ、冷静に可憐なコーラスを加えていくなんちー(Ba)も、バンドが好きで好きで堪らないといった表情だし、彼女らの楽曲に織り込まれたいくつものソロや強靭なアンサンブルは4人のバンド美学を照射しているのだから。こうしてロックバンドとしてどうありたいかを表明したゆえに、「私の中のルールやみんなにこうあってほしいという思いを詰め込んだ曲」と補填された新曲「カラフル」が、力強く響いていく。バンドマンとしてだけではなく、1人の人間として自由に生きたいのだと、理不尽や不幸に歯向かって、抗っていこうと歌いあげるナンバーは、バンドに憧れ、その存在に近づくべく走り続けてきたらそんぶるが、生き抜くための術を手渡すバンドへ進化を遂げていることを裏付けていた。
ちょっとの独占欲とさらなる愛情を求める思いを8ビートに乗せた「ロングヘアー」、「世界一幸せな歌!」と《幸せ全開オーライです》の特大チャントがフロアを満たした「オーライ」を終えると、「大人になっても夢を見ていよう!」と「夢を見よう!」がエンディングを飾る。《何歳だって夢を見よう》の大熱唱は、夢の途中であがき、時には派手に転ぶ風姿を見せつけている4人だからこそ、生み出せたもの。リトライを続け、全身全霊で上昇していくらそんぶるは、最初の一歩を踏み出すためのエネルギーを分け与えんとしているのだ。
アンコールにて、2ndミニアルバム『心の隙間を埋めるのは』のリリースと「恋する少女はヒーローだった」の購入者特典配布、そして東名阪ワンマンツアーの開催を発表すると、興奮収まらぬ客席にそらはこんな言葉を投げかけた。
「周りからみた私はきっと、明るくて悩みなんかない人だと思われていて。そして、そんな風に思われていることが自分も好きで。だけど、本当は弱くてネガティブな部分を見せられなかっただけ。自分の嫌いな部分を好きだと言ってくれる人がいたから、ネガティブなところも含めて自分をまた好きになれました。みんなが隠したいところを曝け出せるような存在が、ライブハウスやらそんぶるの曲だったら凄く嬉しいです」
このMCに続く形でプレイされた「私のB面」は、ここまでハッピーを体現し続けてきたひとつのパブリックイメージをひっくり返し、その背後に隠れた葛藤と負の部分を受け入れてくれる存在への愛を書き記した1曲。これまで表現してこなかった新たな一面を示し、この日2度目の「コンティニューして!」でゴールテープを切った。
フィナーレを彩った、12月10日リリースの新曲「私のB面」からも垣間見えるように、このツアーを経て、らそんぶるは少しずつ変わり始めている。無邪気さを欠かさぬまま、暗くて目を向けたくない側面へ光を当てられるバンドに。そんな4人の次なる行き先は、東名阪を巡るツアー『心のピースを探しに』。心の隙間に手を入れた先で、らそんぶるはどんな発見を得るのだろうか。
取材・文=横堀つばさ 撮影=西 光史郎(@koshiro_nishi)
ライブ情報
12/11(木) 福岡 LIVE HOUSE Queblick (振替公演)
開場 18:00 / 開演 18:30
w/ Lala
5/23(土)大阪
5/31 (日)東京 LIQUIDROOM
リリース情報
2026年1月28日発売