the paddles、新EP「結婚とかできないなら」に詰め込んだ新たなアンセムーー変化と充実の2025年を振り返り、さらなる高みを目指すメンバー全員インタビュー
the paddles 撮影=桃子
前身バンドの誕生から数えて11年を経た2025年、初のワンマンツアーを全公演ソールドアウトで完遂したthe paddles。メンバーの脱退を受けて、サポートメンバーだった渡邊剣人(Dr)が今年前半に正式に加入。再び3ピースとしてスタートを切った彼らの今現在の思いや熱、息遣いを新作3rd EP「結婚とかできないなら」は余すところなく伝えてくれる。今回のインタビューはメンバー全員が登場。バンドの未来を大きく切り拓くに違いない新作EPとその歌詞の魅力を探りながら、変化と充実の2025年を振り返り、来年のツアーに向けて語ってもらった。
柄須賀皇司(Vo.Gt)
ーー初のワンマンツアー『余白を埋める-ONEMAN LIVE TOUR-5大都市編-』が11月30日に大阪でファイナルを迎えました。振り返ってみて、いかがでしたか?
松嶋航大(Ba):今まではほとんどが対バンライブだったからthe paddlesが目当てじゃないお客さんもいる中でライブをやってきたけど、ワンマンは目の前にいる人たち全員がthe paddlesを観に来てくれた人たちで。そういう人たちの前でライブをして、お客さんの顔を見ながら「the paddlesのこういうところに胸打たれてくれてんねやな」とか、「あぁ、ここが刺さるんや」みたいな意外なポイントがあったりもして。各地でお客さんの顔や表情がよく見えましたね。
渡邊剣人(Dr):個人的にはthe paddles加入後初ツアーで、これまでサポートで2回ツアーに参加させてもらってるんですけど、正式に加入したことで自分もバンドの一員としてツアーを回れてる感がすごくあって。しかもワンマンツアーということで自分の気持ち的にもこれまでとは全然違うツアーでした。ライブの本数で言えば5か所でしたけど、毎回すごく濃かったし、特にファイナルの大阪はみんなの声もすごくてお客さんからステージに返ってくるものもすごかった。それをこの先どんどん、もっと大きい会場でやっていけたらなって思いました。
柄須賀皇司(Vo.Gt):2人が言ってる通りで、the paddlesを見たくて日々の生活を頑張ってくれてる人が各地にこんなにおるんやって知れただけで良かったですよね。全会場ソールドアウトできて、例えばこれから先会場が大きくなっても、お客さんが10人の時にやってたライブと、今回のワンマンツアーでやったライブと、これから先に大きい会場でやっていくライブではたぶん何も変わらへんやろうなと思うし、その変わらへんところを信じてくれてる人たちが今年やった全部のツアー、ライブに来てくれたんかなって。どこの会場がどうだったとか僕的にはなくて、良い意味で全部同じライブ、変わらへんライブをちゃんとやれた感じはありましたね。
ーーなるほど。
柄須賀:単純な話、例えばこれから先に大阪でBICATとかなんばHatchでライブをするとなった時に、物理的な話で後ろの人の顔が見えへんとか全員の目を見たりとかができなくなっていくとは思うんですね。それでも、お客さんたちが「the paddles、遠くに行っちゃったな」っていう感じがないままずっといけんちゃうかな、という予感がありました。それは僕らが変わらず、いい意味で今回のワンマンで見てもらったライブと同じライブをどこに行ってもやるという信頼をお客さんから得られた。という感じがありましたね。
松嶋航大(Ba)
ーーそのツアーを経て、6曲入りの新作EP「結婚とかできないなら」が12月3日に発売されました。1曲1曲それぞれに色の違う楽曲が聴けますが、こちらを制作されたのはいつ頃なんでしょう?
柄須賀:今回のアルバムは、たぶんほんまに2週間ぐらいで全曲書いてますね。
ーー2週間ですか!?
松嶋:そうですね。ギリギリで(笑)。
柄須賀:ギリギリもギリギリやったよな。なんかあんま曲を作る気が起きないまま、「…なんかレコーディング迫ってんな」みたいな感じでした(苦笑)。書き始めたらスイッチ入ってビャーッと書くタイプなんで苦しくはなかったんですけど、「……もっと早よやれや」と思いながら。
松嶋&渡邊:あはは!
ーーなぜ制作時期をお聞きしたかというと、EPを聴いていてすごくリアルに今現在の3人が詰まっている印象を受けたんです。先月とか先々月あたりの今の3人の熱や気配が、曲にも演奏にも歌っていることにも現れている気がして。
柄須賀:あぁ、たしかにそれめっちゃありますね。いい意味でそんなに時間をかけなかったから、6曲とも3人の個性がすごく残ったままな感じはありますね。
松嶋:ああ、うん。
柄須賀:コンセプチュアルなものを作るというよりは、天然で、今自分から出たやつを作ってみようかなっていう感覚でした。そしたら結構バラバラの6曲ができて、似てる曲がないけど全部the paddlesやなっていうのがthe paddlesらしいというか。友達みんなに音源送ったりするんですけど、人によって気に入ってくれる曲がバラバラですごい良いなって思ってますね。
渡邊剣人(Dr)
ーー3人それぞれの好きな曲などお聞きしたいんですが。
柄須賀:メンバー 一同は「会いたいと願うのなら」ですね。一番僕っぽいですよね。
ーー会いたいと願うのならここ=ライブハウスに来ればいい、と歌う曲ですね。
柄須賀:僕と松嶋がずっと言ってるのは、できるだけ同じビートで最初から最後まで曲が走って、コード進行の展開も複雑じゃなくシンプルで、その中で歌詞が動いたりメロディが動く……みたいなのをすごく愛してるんですね。それを一番やれた曲で、なおかつ渡邊もそういうの得意なんじゃない?っていう提案も含めて書きましたね。
ーーこの曲は渡邊さんが加入したからできた曲だとラジオで話されているのを聴きました。
柄須賀:そうっすね。剣人が一番得意なミドルのビート感ありきでドラムから作りました。その感じは剣人じゃなかったら書いてないですね。これ歌詞とかどうやって書いたっけなぁ、なんかめっちゃ天然でやってたな。
松嶋:歌詞も最後にちょっと変わったよな。
柄須賀:変えたっけ?デモの時から変わったってこと?
松嶋:そう。メロも変わったし。
渡邊:最初はメロディ違いましたね。
柄須賀:そうやな、メロディは全然違った。
松嶋:そのメロと歌詞が変わったタイミングでライブハウスのことを歌ってる曲になったんですけど、そうなったことでぎゅっとイメージが作れたかなって。
柄須賀:そうや、東香里のそばで歌詞書いたわ。なんか家じゃだめで、外じゃないと歌詞書けなくて、ドライブスルーできるスタバがあって、そこで。さっきのワンマンの話もそうなんですけど、歌詞って特定の誰かに歌ってる感じはなくて、単純に僕がここまで生きてきて感じてる、それだけを書いてるんですよね。誰か想像して当て書きとかもやらないし、そうなった時に一番普遍的で真ん中にあるもの、<悩める友 愛する君 故郷の母親と夕日>って誰しも持ってる原風景みたいなものから歌詞を書き始めていって。この曲自体は一番地味かなと思ってますけどね。
松嶋:最初、どの曲をリードにするかって話をした時に、僕らの中ではこの曲でいいのかどうかで結構悩んでて。ちょっと地味かなみたいなのはあって(笑)。
柄須賀:かっこよすぎるからな(笑)」
松嶋:そう。僕らはめっちゃ好きなやつなんですけど、これはそういう分かりやすい感じで伝わるよりも、ライブハウスでやって、ライブで伝える曲やなって。
柄須賀:だから最初はライブで育っていくアンセムになったらいいなという風に思ってたら、FM802のヘビーローテーションに選ばれて、ラジオでも何回流れたんやろっていうぐらい流してもらって、それでまたちょっと自分たちの中でもこの曲の見え方が変わったというか。ラジオでも、今日もこうやって喋れば喋るほど、今のthe paddlesってこれが真ん中なんやってすごく思える曲になっていったっていう感じですね。
ーーめっちゃいい曲ですよね。
柄須賀:めっちゃいい曲ですよね(笑)。そう思います。
ーー「夏の幻」は、聴いていると「ブルーベリーデイズ」が頭をよぎります。
柄須賀:「ブルーベリーデイズ」はthe paddlesの運命を変えた曲ですし、みんなが今も一番好きで聴いてくれてる曲ではあるんですけど、自分でその続きを書いてみたい気持ちになって。続きがあるってすごく素敵やなって思うし、俯瞰的な感じで、完結はしないと思うんですけど続きをずっと書くことはできるんじゃないかなって・
ーーそういう遊び心も面白いなと思いつつ、EPのタイトルにもなっている最後の曲「結婚とかできないなら」は、なによりもまずタイトルにビビるというか。
柄須賀:ビビらせたかったんですよ(笑)。ドキッとする言葉選びってすごい素敵じゃないですか? 僕、本をたくさん読むんですけど付箋を立てて読むタイプで、「え?」みたいな言葉とか自分の中に残ってる言葉、映画とかのセリフも全部書き留めていくんです。
ーーあぁ分かります。自分もそっち派なので。
柄須賀:そういう言葉の残り方をしてほしいんですよね。今って、僕らが高校生だった時よりみんなもっといろんな趣味を持ってるし、もっといろんなエンタメに触れたりする中で、たぶん音楽って選ばれなくなっていってると思うんですよね。「音楽を聴こう」と思って聴いてないというか。そういう中で、例えばSNSのスクロールなのか、例えばライブハウスのフライヤーなのか、何でもいいんですけどパッて見た時に「結婚とかできないなら」っていうワードがビャッて飛び込んできてほしいというか。
ーーなるほど。
柄須賀:いろんな趣味があって、生活も忙しいのがわかるからこそ、こっちから強めにアプローチして刻みつけたいっていう、それだけでEPのタイトルも曲タイトルも選びましたね。
ーー歌詞もそうやって書いていったんですか?
柄須賀:歌詞は一筆書きみたいな感じでびゃいーんって(笑)。「結婚とかできないなら」はたぶん1日くらいで書いてたんじゃないかな。
渡邊:そうっすね。デモの時点と歌詞もあんま変わってないですよね。
ーー見事にその術中にハマったというか、私も最初はタイトルに驚き、恋愛のさなかの情景が綴られていってるのかなと想像しながら聴いていたんですが、だんだん聴いていくうちにこの曲はもしかしたらthe paddlesのことを歌っているんじゃないか?と思いはじめて。
3人:あはは!
ーー聴いていくうちに、歌詞の<いつか君と別れてしまうならこんな歌もない方が良かった>とか、<切っても切れない僕たちの永遠で結ばれた運命は〜>のあたりに、今年渡邊さんが加入されて、高校時代の同級生で組んだ3人組とは違うスタートを切った今のthe paddlesが重なってきて。そんなふうに聴いていると、曲の最初にドラムから始まってベースが聞こえてきて、曲調はミドルなのかスローなのか、「ワンスター」みたいなバラードかと思いきや後半グッと加速して、いろんな情景が浮かんできたり熱くなる瞬間もあるけど、余韻を残さずスパッと気持ちよく終わる。その感じも今のthe paddlesなのかなって。
柄須賀:たしかに歌詞は何にでも重なる感じはあるんですよね。でもめっちゃ嬉しい受け取られ方な気がしますね。僕も「このシチュエーションで、こうやって聴いてくれ」とかまったくないし、歌詞なんかはそれぞれの人生の中で切り取られるべきやと思ってるんですね。どんなふうに聴いてくれても、「そうやって切り取ってくれんねや。ありがとうな」だけというか。勝手に解釈されたいですよね。たまに「その解釈違うやろ」みたいなのもあるけど。
松嶋:ああ、あるな。
柄須賀:そう。でもその議論さえ美しいと思うんですよね。僕自身、普段から別にそんな歌いたいことがあるタイプではないんで。だから歌詞を書くのも一番最後ですし。
ーーそんなに歌いたいことがないっていうのは、ちょっと意外に感じますね。
柄須賀:意外がられますわ。こだわっていそうですよね。ただ、言葉の解像度を高くしていたいので、今こうやって喋る瞬間も作品として落とし込む時も、そこは全くサボりたくないんですよね。それって時間をかけたから完成に近づくとかそういうことでもないというか、ちょっと粗い言葉の削り方とか残り方の生感みたいなのを最近は特にすごい大事にしてるんですね。
ーー最近? そうなんですか。
柄須賀:ちょっと前まではメロディーに馴染む言葉が乗ってたらなんでもいいかとさえ思ってたところもあって。僕、宇多田ヒカルさんがすごく大好きなんですけど、『宇多田ヒカルの言葉』という本があって、それで歌詞を曲無しで読んだ時に美しい言葉ばっかりで。読み物じゃないのに読みたくなるんですよ。(松嶋に向かって)俺、そんなんやりたい。
松嶋:ああ。
柄須賀:そういうのをやりたいぐらい、今はすごく言葉にこだわってますね。
ーーそれもお聞きしたかったんですけど、音楽的に影響を受けたバンドがいるように、柄須賀さんが歌詞を書く、言葉を生み出す上でのルーツになった人や作品があるのかなって。
柄須賀:アーティストの歌詞から影響を受けたことはあんまりなくて、僕は銀色夏生さんがすごい大好きで、歌詞を書く時は銀色さんの詩集や江國香織さんをめちゃくちゃ読みますね。2人の言葉がすごく好きで。銀色さんの言葉って、こういうと語弊があるかもしれないけど粗くて良いんですよね。飾り気がないですし、独り言みたいな詩とかめっちゃ短い詩もあったり。たぶん言葉って本来そういうものでいいというか、伝えるためのツールやけど、書き殴ったものでも綺麗に印刷されて世に出るものでも形はどうあれ、言葉本来の持つ生感みたいなものが一番大事よなと僕は思っていて。銀色さんの本を読んでるとほんとに生のままやっていらっしゃる。そういうところにめっちゃ影響を受けてますね。
ーー銀色夏生さんと江國香織さん。どちらも女性作家さんですね。
柄須賀:あとこれはあんまりインタビューとかで言ってないんですけど、TSUTAYAとかヴィレバンに行ったら女性エッセイ集みたいなコーナーに置いてある、いわゆる恋愛教則本的な本とか、「これ誰が読むねん?」みたいなエッセイとかもすごい読むんですね。特に目新しいことが書いてあるわけじゃないけど、それでも飛び込んでくる言葉があって、そういうところからフラッシュアイデアみたいなのをもらって歌詞を書いたりもします。
ーーthe paddlesの曲にある恋愛の情景描写の中にはそういうところから生まれてきたものもある?
柄須賀:あるでしょうね。自分の経験から引っ張り出してくるのはもちろんなんですけど、それを引っ張り出すためのスイッチ的な役割になったり。今回のEPは特にそういうとこからアイディアを引っ張り出してくることが多かったですね。
ーーそういうものが大衆というか聴き手の求めているものだったりするのかなとも思います。
柄須賀:そうなんですよね。「25歳」も僕の日記をそのまま歌にしたみたいな感じやし、「会いたいと願うのなら」も「the paddlesってこういうバンドです」というエッセイですよね。
ーー今回のEPを携えて2026年1月から始まるツアー『the paddles「いつか君と別れてしまうならツアー」』も発表になりました。ツアータイトルも良いですね。
柄須賀:最近は歌詞から取るようにしてますね。わかりやすくないですか?タイトルという形で一個テーマが定まってる方がいいよなって。
松嶋:そうやね。昔はリリースツアーというだけやったから。
柄須賀:今思ったらイキってんな(笑)。こだわりがないというか言葉への責任がなかったね。あの時はまだ。
ーーツアーはワンマンとゲストバンドありの2パターンありますがこれはどういう意図で?
柄須賀:僕ら頑なにワンマンをやらなかったんですけど、やった方がいいねとなったので、やっとツアー後半の3月に東名阪ワンマンをやります……! で、the paddlesの原動力って対バンライブがめちゃめちゃ大きいんで、それは絶対やろうというので今回初めてツアーの前半、金沢までは2マンですね。いつものやつをやるって感じで(笑)。
ーー前回SPICEに柄須賀さんがインタビューで登場された際に、「これまでは誘われることが多かったから、2025年、26年は自分たちの責任で憧れの先輩とかを呼べるようになったらもっと自信を持っていろんなことがやれるんじゃないか」と言われていて。ツアーの先にそういうこともあることを期待してます。
柄須賀:そうですね。まだまだめちゃめちゃいろいろあるんで、本当に楽しみにしててほしいし、「the paddlesやったら、このツアーのファイナルでまた次の解禁やるやろ」と思っておいてほしいですね。the paddlesなんやからそれぐらいするやろ、くらいの感じで思っててください」
ーーわかりました。最後に2026年に向けて一言お願いします。
柄須賀:僕はいっぱい喋ったんで2人どうぞ(笑)。
松嶋:今年は剣人が加入して、大阪では初めて梅田CLUB QUATTROもやってワンマンツアーもやっていろいろ変化の年でした。今年経験したことを踏まえて、来年はこの3人でさらに密度を高めていける一年にしたい。そういった意味で頑張っていきたいですね。
渡邊:今年は加入バフじゃないですけど、”加入後初”とか加入後なんとかみたいなのがすごく多くて、僕的にも楽でもあったんですね。けど、来年はそうもいかない(笑)。バンドにもより馴染んで、そうしていく中でいろいろ分かっていくことも増えてきたのでそういう経験を重ねた僕で来年はもっと頑張りたいですね。
取材・文=梶原有紀子 撮影=桃子
リリース情報
2025.12.3 release
レーベル:Paddy field/流通 : PCI MUSIC
2.赤いアネモネ
3.恋愛ヒステリック構文
4.夏の幻
5.会いたいと願うのなら
6.結婚とかできないなら
Web : thepaddles.themedia.jp
Twitter : @the_paddles
Instagram : thepaddles_official
TikTok : thepaddles_official
ツアー情報
3月 8 日(日)大阪 心斎橋 CLUB JANUS ※ワンマン
▼TICKET ¥3,600(税込)
CD封入先行:受付中〜12月21日(日)23:59まで