大竹しのぶ「客席で私たちのエネルギーを受け止めて」上演15周年記念公演『ピアフ』製作発表レポート

レポート
舞台
2025.12.10
(左から)彩輝なお、藤岡正明、大竹しのぶ、廣瀬友祐、梅沢昌代

(左から)彩輝なお、藤岡正明、大竹しのぶ、廣瀬友祐、梅沢昌代

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舞台『ピアフ』の上演15周年記念公演が、2026年1月〜2月に東京・愛知・大阪にて上演される。

シャンソンの女王と称されるエディット・ピアフの激動の人生を描く本作は、演出・栗山民也と主演・大竹しのぶのタッグにより、2011年から繰り返し上演されてきた。15周年を迎える2026年公演は、前回から4年ぶり6度目の上演となる。本公演では大竹しのぶ・梅沢昌代・彩輝なおら初演からの続投キャストに加え、マルセル・セルダン役で廣瀬友祐が初参加、イヴ・モンタン役で藤岡正明が2013年以来のカムバックを果たす。

開幕まで約1ヶ月となった12月9日(火)、都内にて製作発表会が開催された。会見には大竹しのぶ、梅沢昌代、彩輝なお、廣瀬友祐、藤岡正明ら5名のキャストが登壇し、それぞれの『ピアフ』への熱い想いを語った。

まずはひとりずつ挨拶の時間が設けられた。今回で6度目のピアフを演じる大竹は「ピアフに出会って、私としても、女優としても、多くのことを教えてもらった」と感慨深げに語る。さらに、大好きだというピアフのセリフ「あたしが歌うときは、あたしを出すんだ。全部まるごと。」を挙げ、「一回一回全力で演じていきたい。みんなで一緒に素敵な作品になるように頑張りたい」と意気込んだ。13年ぶりの返り咲きとなる藤岡は、前回と同じくイヴ・モンタンを演じる。イヴ・モンタン氏は身長が187cmあったそうで、「僕は171cmなんです。開演まであと1ヶ月くらいなんですが、あと15cm僕の背が伸びるようにお祈りいただけたら」とコメントして場を和ませた。

演出の栗山さんからのメッセージを代読する大竹さん。

演出の栗山さんからのメッセージを代読する大竹さん。

初演から演出を務める栗山民也からは会場にメッセージが届けられ、その場で大竹によって読み上げられた。

「2024年のパリ・オリンピックの開会式をTVで見ていたら、最後にセリーヌ・ディオンが現れて、ピアフを歌った。あぁ、やっぱり自由で過激で思いっきり素敵なフランスだなぁと、胸が熱くなった。ベルヴィルという移民たちの多く住む貧民街の、その路上に産み落とされたピアフが、高くエッフェル塔の上から世界を見下ろしながら、愛の歌をこの地球のみんなに送った。この舞台は、ピアフという名の一人の女の『革命劇』なのだと思う。来年1月、上演15周年記念公演として、日本のピアフであるしのぶちゃんが、再び劇場を熱い情熱でいっぱいにしてくれるだろう。僕はもう演出家というより、一ファンとして、熱い拍手を送ろう。」

栗山からの熱いメッセージを受けた大竹は、前回公演の初日である2022年2月24日にロシアがウクライナを侵攻したことに触れ、「あれから4年近く経ちました。今もまだ戦争はこの世界で行われていると、栗山さんはいつも稽古場で話してくれます。そういう想いも含めて、愛の歌を地球のみんなに届けられるよう頑張っていきたいと思いました」と応えた。

その後は質疑応答の時間となり、報道陣から途切れなく多くの質問が寄せられた。一部抜粋して紹介する。

ーー15周年ということですが、ピアフを演じ続ける重さをどのように感じていますか? ご自身の役者としての15年の蓄積を、来年のピアフにどんな風に活かしていきたいと思いますか?

大竹:15年経ったからといって何が変わったのか、何が新しくなったのかはうまくは言えないんです。もちろん、いろんな作品を通して自分の中に蓄えているものはあります。ピアフをやっていて感じるのは、歌の持つ力です。歌うことは祈りに近いと感じています。客席に向かって歌っているのではなく、歌には天と地を結ぶ役目があるということをピアフに教えられました。必死に生きること、必死に愛することもなんて素敵なんだろうと思います。彼女はいろんな男の人を愛しながらも孤独で、ただマルセルに対する大きな愛がいつもどこかにあるんです。だから寂しさもあるけれども、人としての歓びを持っている人だなと感じます。何を感じるかはお客様の自由なので、私たちは一生懸命やるしかないですね。

『ピアフ』舞台写真

『ピアフ』舞台写真

ーー改めてこの作品のどこに惹かれるのか、また、みなさんの役柄についても紹介していただけますか?

彩輝:私の役を通して見たピアフは「人々に愛を与え続けた人」という印象で、それは機会を得る毎に強く感じています。私はマレーネ・ディートリッヒを演じさせていただきます。マレーネはピアフと歳が離れているのですが、親友のように、そして母親のようにピアフを愛していました。魂が惹かれ合う者同士、そういった間柄だと思います。
もうひとつの役として、ピアフがアメリカに滞在中の秘書マドレーヌを演じます。マレーネとは対照的なキャラクターでして、ピアフに尽くして参りたいと思います。他にもいろいろな役を演じさせていただきますので、場面場面を大切に、その中で生きていられるように、息づいたものをお客様にお届けできるよう努めたいと思います。

藤岡:作品の魅力を2つ挙げさせていただくとしたら、ひとつはピアフの周りで生きた一人ひとりが、例えば僕自身と比べたときに遥かに高い熱量と、パッション、覚悟を持って生きている人たちのお話だということ。もうひとつは、愛とは一体何なのだろうかというところ。作品全体に全く割り切れていない数字ばかりの愛、丸や四角や三角のいろんな形の愛があって、しかもそれらは整理整頓できないんです。だからこそ「ピアフが語る愛って何なんだろう」と、現代に問いかけられる大きなメッセージなんじゃないかなと感じています。
僕が演じるイヴ・モンタンも、そんな中に生きている、強い熱量、想い、野望、希望を持っている人。ピアフを踏み越えてでも上に行こうとするような側面もあると思います。それらも含めて一筋縄ではいかないような気がしています。イブ・モンタンがピアフをどれだけ愛していたのか、どれだけ利用したのか、お客様にも回想してもらえるような深い役作りができたらいいなと思います。

廣瀬:僕もマルセル・セルダン以外にも演じさせていただきますが、マルセルはピアフが最も愛した恋人と言われる役です。恥ずかしながら僕はまだ生でこの作品を観劇したことがなく、作品の持つメッセージ性やいろんな魅力はみなさんのようには語れないんです。でも資料映像を見させていただいて間違いなく感じたのは、誰もが認める大竹しのぶさんの演技だと思います。それが、僕が思ったこの作品の魅力です。

梅沢:この作品はものすごいスピードで展開していって、ピアフが亡くなる前に自分の人生を走馬灯のように見ているような作品だと思います。演じる方はとっても忙しいんですけれども、観ている方はしっかりついてきてくださるので、 みなさんにいい作品をお見せしたいです。
私の役(トワーヌ)はピアフとずっと一緒で、少女時代から人生を共にし、貧しいからこそのたくましさと、優しいけれども愛を押し付けないところが好きです。私にもそういう友人がいますが、何年も会っていなくても同じ時代を生きた人とはすぐに時間が戻って当時の話をできるんですね。そういう人がひとりでもいると、人は幸せなんじゃないかなと思います。今、愛することや傷つくことを怖がる人が多い世の中なので、そういう人たちにもぜひ観ていただきたいです。

大竹:みんなが言ってくれていること、そのままです。本当に愛を分け与えるというか、劇場の客席へ薔薇の花がいっぱい降ってくるような、そんな気持ちになってもらえたら嬉しいなと思います。梅ちゃん(梅沢)が話してくれたようにワンシーンが短くて、それをすごいスピードでみんなで作り上げるので、この出演者全員のエネルギーを見せつけたいなと思います。

ーー今回初めて『ピアフ』を観るお客様や、若い観客の方に向けて伝えたい本作の魅力を教えてください。

梅沢:怖がる人生じゃなくて、傷ついても何かに挑戦していってほしいです。そして今、戦争があちこちで起きている、そういうことにも関心を持っていただけたら。この芝居にも戦争のシーンや戦争が終わったシーンが出てきます。戦争で人がどれだけ傷ついて、どれだけ終わりを喜ぶか。そういうエネルギーを届けたいなと思います。婆さん頑張っているなあって思われたいです(笑)。

廣瀬:いろんな若い方がいらっしゃると思うので、どういうメッセージが一番響くのか分かりませんが……生の大竹しのぶさんが見れるよ、と(笑)。ちょっとそんなことしか思いつかなかったです……(笑)。

大竹:梅ちゃんが言ったみたいに「こういうものなんだぜ!」と叩きつけてやりたいです(笑)。「ちゃんと愛せよ!」って(笑)。そういえば私、いつだったかお稽古で相手役の人がふにゃふにゃ〜となっているときに、その男の人たちに向かって「愛してよ〜!」って叫んだことがあるんです。そのときはもうピアフになっていたから、楽屋を走って「もっともっと! 愛して愛して!」って。怖いね〜(笑)。 

藤岡:現代って生きづらいなといつも思うんですよ。例えば何をハラスメントというのか、何をリスペクトと受け取るのか。どういう風に人と人が付き合っていくことが最善なのかがわかりにくい世の中ですが、僕はこの作品がひとつの形だと思っています。人と人とが、強い重力で引っ張り合うとこういうことが起きるはずだよねっていう。きっと、今のしのぶさんの話は、片方の重力がちょっと弱かったんでしょうね。だから「もっと愛して」とおっしゃったんじゃないかなあと思います。

彩輝:ピアフの生きた時代もとても過酷で、みなさんたくましく生き抜いたと思いますが、今もまた違った意味で過酷なのかもしれません。そんな中でたくましさは必要ですし、人間なんですから魂の解放も大事だなと感じることが多いです。なので劇場にいらしていただいて、肌感でそれを感じていただけたらと。みなさんが自由に受け取ったメッセージが、少しでも元気になる支えになったらいいなと思います。

ーーこれまでの15年間で、大竹さんはすごいなあと思ったエピソードなどありましたら教えてください。

梅沢:私の役は毛糸のマフラーをしているんですけれど、それがチャックに引っかかってしまったことがあったんです。でもすぐにそれを脱がなければいけなくて、セリフを言いながら「きっとしのぶちゃんは気づいてくれるだろう」と思っていたら、本当にスッと取ってくれて。いつも全体を見ている人なので本当に安心です。
あと、ピアフが亡くなるシーンでは、いつどのタイミングで亡くなるのかがわからないので目が離せないんです。セリフの途中でちゃんと反応しないと嘘になってしまうので、本当に毎日ライブ感があってすごいなあと思いますね。

彩輝:初演のときに初めてお会いして、おっとりしていらっしゃる方なのかなと想像していたんですけれど、全然行動派で。あまりじっとしていることがないと言いますか、何でもテキパキやってしまわれるような感じなんです。休憩時間にもお稽古をされたり、努力を怠らないすごさがあります。
あと、私はみなさんより出番が遅いので、大竹さんが楽屋から出るときに「いってらっしゃい」と送り出せる時間があるんです。そのときにいつも「どうしよう! 間に合わない!」と言いながら口紅と紅筆を持って走っていらっしゃって。そのままの勢いで舞台に立っても、一瞬にしてピアフになってしまうんです。その切り替えは本当に凄まじいなと思います。

『ピアフ』舞台写真

『ピアフ』舞台写真

藤岡:しのぶさんのかわいいエピソードと、天然なエピソード、どっちがいいですか?(笑)

ーー両方お願いしてもいいですか?

藤岡:両方ですか!? ではまずかわいいエピソードから(笑)。シアタークリエは舞台上から楽屋に行く間に、ケータリングのコーナーがあるんです。あるとき、大竹さんがケータリングの前でモジモジしていたんです。「何やってるんですか?」と聞いたら、「これ美味しそうだなあ」と言うので「食べればいいじゃないですか」って言ったんです。そしたら大竹さん、「え〜デブる〜」って言ったんですよ! 僕はその瞬間、恋に落ちましたね。(廣瀬さんを見ながら)気をつけないと『ピアフ』の期間に、本当にメロメロにされますからね。……というのがかわいいエピソードです(笑)。

「大竹さんにメロメロにならないように」と廣瀬さんに釘を刺す藤岡さん。

「大竹さんにメロメロにならないように」と廣瀬さんに釘を刺す藤岡さん。

天然のエピソードはですね、以前参加した『ピアフ』の公演が終わって間もない頃に、僕が結婚式をしたんです。オフレコで。当時は妻が身重だったものですから、結婚式後に検査をして問題がなければ公表しようと思っていて。でもその翌日「藤岡さん結婚されたんですか?」と、ワーッと事務所に電話がかかってきたんです。結婚式でも「SNS等に投稿しないでくださいね」とアナウンスしてもらったはずなのに何でバレたんだろうと思ったら、しのぶさんが結婚式翌日のラジオの生放送で「昨日ね、藤岡正明くんの結婚式に行ってきたんだ〜」と話していたという(笑)。しのぶさんのとっておきのかわいい天然のお話でした(笑)。

藤岡さんからの13年越しの暴露に、驚き謝罪する大竹さん。

藤岡さんからの13年越しの暴露に、驚き謝罪する大竹さん。

その後はフォトセッションを経て、囲み取材が行われた。

まずは女性陣3人に、「初演から変化したと思うことは?」と質問が投げかけられた。大竹は「変化しなければと思うのは、歌が上手になりたいということ」とし、今回の目標に歌の技術向上を掲げる。梅沢は、公演を重ねる毎にセリフに下ネタがどんどん増えていると言い、「(アドリブではなく)演出なので、私が望んでやっているわけじゃないんです(笑)」と笑った。一方の彩輝は「見えてくるものや感じるものも少しずつ違ってくるので、悪くないなと思います」と、歳を重ねてきたからこその変化を挙げた。

続いて「大竹さんが演じるピアフに愛されるために、今していることはありますか?」と質問された男性陣。廣瀬は「少しでも役に説得力が出るような体作りを頑張っています」とコメント。自身の演じる役がミドル級のボクサーであるため、縄跳びでの減量に取り組み始めたのだという。それを聞いた大竹は「私も縄跳びします」と笑顔で返した。料理が趣味だという藤岡は、13年前に本作で共演していた辻萬長のリクエストでキャスト全員にお弁当を作ったエピソードを明かした。廣瀬の減量の話を受け、「今回はみんなにヘルシー弁当を作ってこようと思います」とやる気満々だ。男性陣2人の印象を問われた大竹は「廣瀬さんはさっき初めてお会いしたばかりなのですが、すごく爽やか」「藤岡くんは本当に歌が上手。彼が歌う『帰れソレントへ』は、いつも感動しながら聞いていました」とそれぞれにコメントした。

囲み取材の最後は、大竹から観客に向けたメッセージで締めくくられた。「栗山さんを中心に、私たちみんなで作る『ピアフ』という芝居は、観た人が心臓をえぐり取られるような衝撃のある、強いエネルギーと強い愛を渡せる作品です。なので、それが実現できるように一生懸命頑張っていきます。どうぞ劇場に来て、客席に座って、私たちのエネルギーを受け止めてもらいたいなと思います」。

取材・文・撮影=松村蘭(らんねえ)

公演情報

上演15周年記念公演『ピアフ』

作:パム・ジェムス 演出:栗山民也
主演:大竹しのぶ(エディット・ピアフ)
出演:梅沢昌代(トワーヌ) 彩輝なお(マレーネ・ディートリッヒ)
廣瀬友祐(マルセル・セルダン) 上原理生(シャルル・アズナブール)
藤岡正明(イヴ・モンタン) 山崎大輝(テオ・サラポ)
川久保拓司(ルイ・バリエ) 前田一世(ブルーノ) 土屋佑壱(ルイ・ルプレ) ほか
 
【公演日程】
2026年1月10日~1月31日 日比谷シアタークリエ
2026年2月6日~8日 愛知・御園座
2026年2月21日~23日 大阪・森ノ宮ピロティホール
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