ライブハウスシーンを盛り上げる四者四様の個性が共鳴、『TALTOナイト-EXTRA-』でSAKANAMON、KEPURA、Broken my toybox、SPRINGMANが熱演

SAKANAMONやマカロニえんぴつが所属するmurffin discs内のレーベル、TALTOのアーティストが一堂に会するイベント『TALTOナイト』。設立8周年を迎える同レーベルが主催するイベントで、今年2月に初めてゲストを招いての『TALTOナイト-EXTRA-』と題して東名阪で開催。早くも2回目となる今回は、2025年12月12日（金）に東京・下北沢ADRIFTにて開催された。TALTOに所属するSPRINGMAN、SAKANAMONに加え、ゲストにBroken my toybox、KEPURAを迎え、ライブハウスシーンで精力的に活動している計4組が、3時間にわたって熱演を繰り広げた。今回SPICEでは、その当日の模様をレポートする。

SPRINGMAN

露払いを任されたのは荒川大輔（Vo.Gt）によるソロプロジェクト SPRINGMAN。ギター、ベース、ドラムからなるサポートバンドとともにオンステージ。序盤から「またねだね」「wander?」と2025年に配信リリースしたシングルナンバーを立て続けに披露して、現在進行形の姿をアピール。個人的に久しぶりに見るSPRINGMANは4つ打ちのビートも含め、バンドサウンドにダンサブルなグルーブも滲ませるようになっていた。

同期でパーカッションも鳴らしたディスコなファンクロックナンバー「wander?」ではギターを持たず、ハンドマイクのパフォーマンスにもトライ。続けて、披露した新曲の「オークション」はSPRINGMANらしいアンセミックでパワーポップなロックナンバーだ。

「どれだけいい音楽を届けられるか挑戦しています。曲をいっぱい持ってきました。喋るのが苦手なんで。でも、だから音楽をやっているんです」

その言葉通り後半戦はフォークロックなバラードの「エスケープコール」から「さよなら北千住」「カポック」とライブの定番と言えるロックナンバーをたたみかけるように繋げ、観客に手を振らせる。そして、「クリスマスソングを最後に」と歪ませた音色がグランジィなロックバラード「ポットパイ」を披露。ギターソロを思う存分に泣かせたギタリストら、サポートバンドのメンバーとともにガッツあふれるパフォーマンスを繰り広げ、30分の熱演を締めくくった。

Broken my toybox

「TALTOに道場破りを仕掛けに来ました！」藤井樹（Vo.Gt）が開口一番、気概を見せたBroken toy boxは2025年5月にTALTOと同じmurffin discs内のレーベル、ECLOに加わった3ピースポップ・ロックバンドだ。（この日、Ba.Choの郷間直人は病欠）

ドラムのビートが躍動する1曲目の「apPETite」からエネルギッシュな演奏を繰り広げながら、手拍子とシンガロングを求め、観客をぐいぐいと自分達のペースに巻き込んでいった。続く「コピーライト」は性急なロックナンバー。そこから一転、3曲目の「レッドオーシャン」ではボカロ風の楽曲をバンドサウンドに落とし込んでみせる。グリッサンドを使って、高田健太郎（Gt）がフレーズを泣かせるギターリフも聴きどころ。

曲ごとに曲調を変えながら、どの曲も彼ららしいと思えるのは、ハイトーンで歌い上げる藤井の歌声によるところが大きい。同期もふんだんに使った緻密なアレンジとバンドのテクニカルな演奏も大きな武器だと思うが、それらが壮大な世界観に帰結するところが、彼らの一番の魅力なのだろう。

メランコリックな「椿の唄」では藤井がその歌声に凄みも滲ませる。そこからモータウン風のポップナンバー「幸福のすべて」に繋げ、最後はオーケストラルポップな「Fantasia」でダメ押しするように壮大な世界観を見せつけたのだった。

KEPURA

ケプラ改めKEPURAは1曲目の「Abduct」からいきなり、あれ!?と思わせた。その「Abduct」はritsuki（Vo.Gt）の伸びやかな歌が牧歌的と思わせる一方で、淡々とした演奏にじわじわと熱を込めていくインディロック・ナンバー。続く「Alian」は、kenta（Gt）のギタープレイが浮遊感を醸しだすせいか、60年代のガレージ～サイケ・ロックも連想させる。kazu（Ba）とhayato（Dr）の演奏がアンバランスに大きな音で鳴るところも実験的だ。

青春を謳歌するバンドという彼らに対するイメージと結びつかず、記憶違いしているのかしらと思ったら、彼らは10年後、20年後も続けられるバンドになりたいと考え、バンドの充電期間中に新たな音楽性を追求したのだそうだ。「こんなに温かい場所に招いてもらってありがとうございます」とritsukiが語りながら、この日、彼らが演奏したのは充電期間の成果とも言える最新アルバム『Abduct』からの5曲。

緊張感に満ちたロックンロール「BIRTHDAY」、ファンキーなポップナンバーの「Nevertheless」、ジェット音を交えたkentaのギターがサイケデリックに鳴る「Tonight」。ミラーボールが映し出す星空の下で奏でられる「Tonight」の美しさは格別だ。観客達は体を揺らしながらうっとりと聴いている。最後に演奏したのはフォーキーなバラード「Dream」。メンバー全員で歌声を重ねるハーモニーを聴きながら、生まれ変わったバンドの姿を見ることができた幸運に感謝した。

SAKANAMON

トリを飾ったのは、もちろんTALTOの最年長バンド、SAKANAMONだ。「行くぞ！」と木村浩大（Dr）が声を上げながら演奏になだれ込んだステージの3人は、藤森元生（Vo.Gt）が歌いながら、ギターをジャキジャキと鳴らしてテクニカルなリフを閃かせる「光の中へ」から「幼気な少女」、さらに「ミュージックプランクントン」とアンセミックなロックナンバーを一気にたたみかけると、観客に拳を振らせ、シンガロングの声を上げさせる。

序盤からフロアの空気をクライマックスに持っていってやろうと彼らが目論んでいたことは選曲からも明らかだった。その直後に「ご覧ください。みなさん！ これがライブです！」と藤森が言ったのは、大きな手応えを感じていたからこそ。

「『TALTOナイト-EXTRA-』にお越しいただきありがとうございます。いつもライブがお世話になってます」（藤森）

TALTOの最年長バンドとして挨拶するつもりが、なぜかライブを代表してしまったところが藤森らしい。その藤森による「TALTOとはレーベルです。まずはTALTOを覚えてください」というおぼつかない説明を、「好きな音楽をやっている人達が集まったのがTALTOです」と森野光晴（Ba）がナイスフォロー。

「今日もそれぞれの好きな音楽を感じてもらえたと思います」とも森野が続け、後半戦は「クリスマス関係の歌」と藤森が紹介しながら孤高の人＝藤森の面目躍如と言える「ケーキ売りの女の子」と来年1月21日にリリースするミニアルバム『kodomo to otona』からリード曲の「unique」を披露していく。

ポップスとタイトなロックナンバーという違いこそあれ、ともにちょっぴりせつなさが滲む。「ケーキ売りの女の子」に垣間見える藤森のクリスマス観に共感するSAKANAMONのファンは少なくないのでは。＜僕は寝みい 糞して寝ます お休み＞という歌詞がグッと来る。

再び渾身の演奏を繰り広げた「LOSER」で本編を締めくくると、前述のミニアルバムには子供向けと大人向けの曲が交互に収録されていることを明かして、「それをリリースさせてくれるんだから」と森野がTALTOに感謝を語った。そして、この日、アンコールに選んだのは、フォーキーともノスタルジックとも言えるバラードが、やがて3人が重ねるハーモニーとともに8ビートのロックナンバーに展開する「箱人間」。ミラーボールがそこに集った人達を称えるように眩い光を放つ中、藤森はこのライブハウス賛歌を存分に感情を込め、歌いあげたのだった。

「それぞれの好きな音楽を感じてもらえたと思います」とSAKANAMONの森野光晴が言ったように4組が三者三様ならぬ四者四様の個性を表現しながら、どこか共鳴するものが感じられたところにこそ『TALTOナイト』と冠した理由があるのだろう。レーベルの輪をレーベル内だけにとどまらず、さらに広げていきながら、ライブハウスシーンを盛り上げ行こうという試みなのだと、『TALTOナイト -EXTRA-』の趣旨を受け取った。この日、新しい出会いを経験したという観客は筆者も含め少なくなかったんじゃないか。そうだとしたら、ぜひとも3回目、4回目、5回目と続けていってほしい。

取材・文＝山口智男　撮影＝満田彩華