現代舞踊の気鋭・奥野美和が提示する「モノの見方」
コンテンポラリーダンスの気鋭・奥野美和
気鋭のダンサー・振付家である奥野美和が、ダンスインスタレーション作品『B/O/N/E』を今週末に発表する(1/30・31@東京・月島「TEMPORARY CONTEMPORARY」にて)。
奥野は、2007年より北村明子の率いる「Leni-Basso(レニ・バッソ)」に参加後、2009年よりソロ活動を開始し、近年は積極的に独自の創作に取り組んでいる。2013年には、横浜ダンスコレクションEXで「若手振付家のための在日フランス大使館賞」と「MASDANZA賞」をW受賞して、一躍注目された。
奥野美和
受賞作となった『ハイライト オブ ディクライン』では、映像とダンスを掛け合わせ、「自分では無い物質へ変貌と同化をする身体表現」を試みていた。もう少し詳しく説明すると、この作品ではホリゾント(舞台奥壁)に投射される映像が重要なファクターとして用いられていた。焚き火の中でゆっくりと焼け焦げていく果実が定点撮影されていたり、薄暗い日没の空を映し続けた映像などが投影される。タイトルとなっている「Highlight of Decline」を直訳すると、「薄暮の光」「衰退の輝き」といった意味だろうか。光の階調や色調、その場にいる質感が、微妙に変化していく様子をそのまま身体へ取り込み、徐々に増幅されるノイズとともに動きへと変換していくようなダンスを展開していた。
同時代のリアルな身体を探求する
今日、コンテンポラリーダンスの世界では、自らの感じている身体の感覚をどうオーディエンス(観客)へと伝え、シェアしていくのか? ということが重要なテーマとなってきている。特にスマホやiPodなどIT機器によって拡張されていく身体感覚を前に、同時代の表現としてのダンスをどう位置づけ表現していくのか? といった創作は様々に試みられている。
奥野も、そうしたリアルな身体感覚を追い求めるアーティストの一人と言えるだろう。例えば、モーガン・フィッシャー(Morgan Fisher)とインプロ・セッションした『Meltdown(メルトダウン)』では、そのアプローチがよく表れていた(2015年1月@キッドアイラック・アート・ホール)。サウンド&ビジュアル・アーティストのフィッシャーが、無音の状態から細心の注意を払ってノイズをリミックスしていく。おもちゃの電子音具や鍵盤ハーモニカ、ラッパ型のカズーといった携帯楽器を取り出しては、それらを叩いたり鳴らしたり吹いたりして音をマイクでサンプリングし、ディレイをかけてループさせる。その残響の隙間を埋めるようにしてキーボードで和音を侵入させ、あるいは自分の声でも歌いながら“響きの場”を形づくっていく。音楽ジャンル的にはミュージック・コンクレート、アンビエントなフュージョン、エクスペリメンタルなエレクトロニカといったところだろうか。リズムやメロディによってグルーヴや情緒に訴えるのではなく、ただチャーム(ステキ)な音の響きを増幅させながら、オーディエンスとともにシェアして味わい楽しみたいといったようなスタンスがあり、そうしたハイセンスな作業がそのままアート表現となっていて、他に比類のないフィッシャーならではの才能が表れていた。生み出した音触が心地良い快感となって、オーディエンスの身体に浸透してくるのであった。
そうした演奏がひとしきり続いた後に、映像が細いスリットライトのような白線を描きだすと、袖幕から全裸の奥野がゆっくりと姿を現し、暗闇の奥に陶器のような透ける白い肌を仄かに浮かび上がる。そして、フィッシャーの創り出す光と音を辿りながら、その感触を皮膚感覚で自らの身体に取り込み、同調し、やがて変容させていった。特定の空間、時間、素材の質感を感得し、内面から同化し体現していく作業とでも言ったらよいだろうか。タイトル「メルトダウン」は、もちろん原発事故の「炉心溶融」の意味にもとれる。人間の身体が、取り巻いている周囲の環境や状況に多大な影響を受けているという問題を実感させて、ポスト3.11のアート表現として、とても興味深いパフォーマンスとなっていた。
ダンスの枠を超えたインスタレーション
今回の作品『B/O/N/E』では、動作における「骨と肉の関係」をテーマとしている。身体表現を探求する過程で奥野が得た「ひとつの物事は要素に分解することでその本質が浮き彫りになる」というモノの見方を、パフォーマンスを通して提示しているという。
奥野美和『B/O/N/E』
2015年10月のソウル・インターナショナル・ダンス・フェスティバル「SIDance」で初演されたが、この作品を観たMASDANZAのディレクター、ナタリア・メディナは以下のように評している。
『B/O/N/E』は、体の関節の動きの可能性を探る作品であり、同時にそれを転移、分離、混乱、分解する動きの限界を探求する。唯一このパフォーマーだけが、その混沌とした手法を用いつつも、同時に独自の審美的な美しさでそれを見出す方法を身につけている。
—ナタリア・メディナ(インターナショナルダンスフェスティバルMASDANZA[スペイン]ディレクター)
"B/O/N/E" is a work of investigation on the possibilities of movement of an articulated body, and at the same time of the capacity to dislocate it, separate it, disorganize it and decompose it. Only this performer has this capacity, which she gets in a chaotic way,but at the same time with a unique aesthetic beauty.
̶Natalia Medina (Director MASDANZA, The International Contemporary Dance Festival of The Canary Islands [SPAIN])
奥野美和『B/O/N/E』
奥野美和『B/O/N/E』
私たちは、日常的に骨格や関節など身体内部の構造を意識することはあまりないだろう。奥野はそれをあえて意識化し、“身体の動作”を通した「モノの見方」を提示する。さらに今回は、劇場ではなく、東京・月島にある「TEMPORARY CONTEMPORARY」というギャラリー空間に合わせて、内容を再構築するという。ファッションデザイナーの清水千晶、音楽・音響に藤代洋平を迎え、映像、音響、ファッションとともに、単なるダンス公演の枠を超えたダンス・インスタレーションを発表する。気鋭のダンス表現が、何らかの“気づき”をもたらしてくれることだろう。ぜひ立ち会ってみてほしい。
■日時:
1月30日(土)18:00開演
1月31日(日)16:00開演
※開場は開演の30分前
■場所:月島TEMPORARY CONTEMPORARY(東京都中央区月島1-14-7 旭倉庫2階)
※東京メトロ有楽町線・都営地下鉄大江戸線「月島駅」7番出口より右手奥徒歩2分
http://www.space-tc.com
■料金:前売2700円/当日3000円
■予約:www.miwaokuno.com/tickets/
■問い合せ:
nk.info.jp@gmail.com
http://miwaokuno-bone.tumblr.com
【前売予約の締め切りの案内】
2公演とも、1月29日(金)23:59に前売予約締め切り。予約フォームより早めに申し込みのこと。 当日券については、前売販売終了後、nk.info.jp@gmail.com宛のメールにて受付する。メール件名を「当日券予約」とし、本文に①来場日 ②名前 ③枚数を記載。直接来場でも当日券購入できるが、数量限定のため、メール予約推奨。
※全席自由席。
※先着順での案内。 見えにくい席や立ち見となる可能性あり(早めの来場推奨)。
※販売状況によっては、当日券の対応内容が変更になる場合あり。公式サイトにて最新情報を確認のこと。
「B/O/N/E~EXHIBITION~」
※本公演に関連する作品の展示・販売、開演前のリハーサルを公開(入場無料)
■日時:
1月30日(土)14:00-20:00
1月31日(日)12:00-18:00
※1月30日(土)17:30-19:00、1月31日(日)15:30-17:00は公演のためCLOSE
■構成・振付・映像・出演:奥野美和
■音楽・音響:藤代洋平
■衣装:清水千晶
■舞台監督:福島奈央花
■映像技術:VIDEOART CENTER Tokyo
■宣伝美術・展示構成:矢野純子
■物販デザイン協力:伊藤圭衣
■企画・運営:N///K
■協力:TEMPORARY CONTEMPORARY
奥野美和:ダンサー・振付家・映像作家。2007年より北村明子率いるLeni-Bassoに参加し国内外で活動後、2009年よりソロ活動を開始。映像作家や写真家など各分野のアーティストとのコラボレーションの経験をきっかけに、【自分では無い物質へ変貌と同化をする身体表現】に興味をもち、それらを具体化するために実写映像の編集/構成を自ら手掛け、身体、映像、音響を扱う総合的な空間芸術創りを開始する。2013年、映像とダンスを掛け合わせた作品『ハイライト オブ ディクライン』は横浜ダンスコレクションEXにて「若手振付家のための在日フランス大使館賞」「MASDANZA賞」をW受賞し、渡仏。半年間のフランス滞在中、スペインのインターナショナルダンスコンペティションMASDANZA18では「審査員賞-Jury Prize best of solo-」を受賞し、現在までに、日本、スペイン、パナマ、シンガポール、マレーシアの5カ国にて計13回の再演を行う。2014年、シンガポールのT.H.E dance companyに招聘され、マレーシア人ダンサーとの共同制作作品『The Body Speaks』の振付と映像を担当。2015年春より、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻に入学し、映像と身体表現を使用した空間創りの研究を本格的に行う。同年10月に、ソウルインターナショナルダンスフェスティバルSIDanceにて本作『B/O/N/E』を発表。現在、母校の大東文化大学モダンダンス部の監督として在籍中。
▶www.miwaokuno.com
清水千晶:東京藝術大学美術学部デザイン学科を経て、2002年同大学大学院修士課程修了。LEDなどを使用したメディアアートを研究。在籍中に鷲田清一氏の著書『ちぐはぐな身体』(ちくま文庫)に感銘を受け、卒業後、ファッションの道を志ざし渡英。London Fashion for Studiesにてパターンカッティングや立体裁断を学ぶ。2年間の英国滞在後、帰国。2007年~2011年、パリのfashion weekに毎シーズン参加。同時にフリーのテキスタイルプリントデザイナー、衣装デザイナーとして活動。2014年度より、東京藝術大学大学院博士後期課程に在籍。「空間とファッション」をテーマとし、ファッションを独自の経験と視点で研究するかたわら、デザイナーとしても活動している。今回の作品では、骨と衣装がどのように溶け合うかを熟考し、透ける素材から感じられるダンサーの肉体と、生地に施した背骨を髣髴とさせるテクスチャーとの一体感を追求した。
藤代洋平:幼少期からLEGOで創作活動を始める。その時の感覚のまま絵画や映像、立体などを造り続けている。Evelyn Glennieに衝撃を受けてから音楽を 造りはじめる。体験したことのない感覚を求め、創作活動中。