渋谷のセルリアンタワー能楽堂で味わう「能楽の世界」

2016.2.2
インタビュー
舞台

セルリアンタワー能楽堂

能楽は、日本の伝統芸能の中でも、あらゆる無駄がそぎ落とされた"究極の芸能"だ。大がかりなセットや、派手な舞台演出はない。それでも、何百年にもわたって日本人を楽しませてきた能楽の世界を体感できる場所が東京・渋谷にある。「セルリアンタワー能楽堂」は、スタンダードな能楽公演はもちろん、クラシックと能楽をコラボレーションさせた公演を開催するなど、あらゆる形で能楽を発信し続ける能楽堂だ。

今回は、セルリアンタワー能楽堂の喜多村麻有さんに能楽の歴史や、その楽しみ方について語っていただいた。

 

―能の歴史を教えてください。

奈良時代のはじめに、中国大陸からやってきた芸能が日本固有の芸能と融合してできたものが、今の能・狂言の土台になったとされています。諸説ありますが、町中で面白おかしくモノマネのようなパフォーマンスをする「猿楽」という大衆芸能が起源ともいわれており、約650年前の室町時代、それまでルールがなかったパフォーマンスに観阿弥・世阿弥がストーリーを盛り込み、体系化したことで能が完成したと言われています。

―能楽とはどのようなものでしょうか?

「能楽」と言うのは能と狂言の総称で、実は明治以降の呼び名なんです。能は歌舞劇、狂言は台詞が中心の喜劇と言われ、日本で最も古い演劇の形式です。能には、多くの演目で、神様や仏様、あの世に行った人などが登場します。おそらくそれは、昔の人にとって「あの世」が近かったためだと思います。主なテーマとしては、「神」「男」「女」「狂」「鬼」が取り上げられます。(※)また、伊勢物語や源氏物語、平家物語のスピンオフ的な演目もあります。きっと昔の人たちにとって、それらの物語は馴染みのあるものだったので楽しんで観ていたんでしょうね。能は余計なものをそぎ落とした芸能と言われることもあり、能楽師が一切動いていないように見えることもありますが、「高速回転するコマである」と表現することもあるぐらいで、実際に生で観ると、じっとしているように見える能楽師の方からすごいオーラが出ていますよ。また能楽は「お囃子」や「謡(うたい)」と共に演じられるので、「和製ミュージカル」とも言われています。一般的な演劇の場合は、日々稽古をして改訂を重ねて作っていくかと思いますが、能楽の場合はそれぞれの流儀や家、演目によって型が決まっており、演者も囃子方もそれらを身体に沁み込ませているので、直前に一回合わせるだけでも成り立ちます。また、能楽は基本的に連続公演をしませんので、一度きりの公演という場合がほとんど。その日その場にいらっしゃるお客様の反応や集中力によっても空気が変わりますので、これは生で観て体験してみてほしいポイントですね。また、狂言は能と共に発展した伝統芸能で、滑稽味の強いコメディなので能にくらべて見に行きやすいかと思います。

―セルリアンタワー能楽堂の客層は?

能のお客様は、50代以上の女性の方がメインです。狂言やコンテンポラリーダンスとのコラボレーション公演だと20代~30代の方も多いですね。能楽の話の中には、武将を扱ったものや日本の有名な刀剣が出てくるものも多いので、最近は刀剣女子や歴女の若い方も増えてきています。

―次回公演「弦楽の幽玄~神・修羅・恋慕・狂い・鬼~」について聞かせてください。

能楽師の津村禮次郎先生とヴァイオリニストの古澤巌さんを中心に、5つの能の名作と弦楽四重奏の名曲が競演する公演となっており、能とクラシックのコラボレーションを楽しんでいただけます。能楽堂は音の響きがすごく良い会場なので、ホールとはまた一味違う弦楽の響きを感じられると思います。普段の能やクラシックの公演とは、異なる世界観を味わうことができます。

―最後に、能楽に関心を持たれた方にメッセージをお願いします。

敷居が高いと思われている能楽ですが、どなたでも楽しめる芸能なんです。特に狂言はコメディの要素がありとても見やすいものとなっていると思います。公演によってはリーズナブルな学生席も用意しておりますので、日本の伝統芸能に触れる機会として学生の方にも来てほしいですね。渋谷駅から近くアクセスも良いので、気軽に足を運んでいただければと思います。公演のない日の14:30~17:30は、能楽堂を自由に見学していただくこともできますので、能や狂言の雰囲気だけでも味わいに来てください。

※「神」…神様、「男」…武将の戦い、合戦物、「女」…悲しい恋や女性、「狂」…物狂い、「鬼」…怨霊や鬼、 を題材にした演目表す。

【能楽堂見学体験レポート】

セルリアンタワー東急ホテル地下2階にある「セルリアンタワー能楽堂」の入り口は、暖かみのある木と淡いオレンジの照明によって、さながら古都のような和を感じられる内装となっていた。

舞台下手側にある幕(揚幕)の奥が「あの世」、本舞台の上が「現世」とも言われる。幕は陰陽五行(木・火・土・金・水)を表していてとてもカラフルだ。能楽師が登場する際に幕が上がるが、そのタイミングは全て演者次第。進行監督のいない舞台芸術といえる。

幕から舞台上に向かう橋掛かり(渡り廊下のような部分)に沿って並べられた松は一の松、二の松、三の松と呼ばれている。中央の舞台に近づくにつれ、松の高さが高くなっている。これは遠近法によって、「あの世」を遠くに感じさせるようにするためだ。

舞台は檜で出来ており、土足や裸足で上がることは厳禁。劣化を防ぐため、また舞台は神聖なものであるという考えから、綺麗な足袋でしか舞台上に上がることは出来きない。

舞台の正面奥は「鏡板」と呼ばれており、そこには神の依り代としての象徴的意味をもつ奈良県の春日大社の影向の松が描かれている。この影向の松の絵は全ての能楽の舞台に描かれているそうだ。また、能楽師は能面をつけており視野が狭いので、舞台上に立つ4本の柱や、床の木目、中央の階段などで自分の位置を把握している。

セルリアンタワー能楽堂では公演によっては、学生席も用意されている。場所は「脇正面」後ろの座敷の部屋で、畳の良い香りを楽しみながら能楽の世界に触れることができる。

公演情報
セルリアンタワー能楽堂 
「アコースティックライブ2016 弦楽の幽玄~神・修羅・恋慕・狂い・鬼~」

 
日時:2016年2月10日(水) 午後3時00分開演(午後2時30分開場)/午後7時00分開演(午後6時30分開場)〈残席わずか
会場:セルリアンタワー能楽堂

出演者:
古澤 巌 (ヴァイオリン)
TAIRIKU(ヴィオラ)
高木 慶太(チェロ)
福田 悠一郎(ヴァイオリン)
津村 禮次郎 (能楽師シテ方観世流)
 
お問合せ:セルリアンタワー能楽堂 03-3477-6412

 

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