tacica "珠玉の名品"を堪能した『三大博物館2016』東京公演、写真も満載の詳細レポート
tacica Photo by Pielle
三大博物館2016 ~太陽と月~ day2-月 2016.1.23 EX THEATER ROPPONGI
2日間観たほうがいいですよ、と言われてはいたのだが。『三大博物館2016~太陽と月~』、東京公演2日目、EX THEATER ROPPONGI。“月”のセットリストと、前日の“太陽”バージョンのそれとを見比べて、さすがに驚いた。初日、2日目ともに19曲、ダブる曲はわずか7曲。特別な仕掛けも余分な演出もなく、ただ音楽の力で、自らの存在意義をオーディエンスに問うストイックなスタイル。tacicaという音楽博物館に並ぶ、珠玉の名品たち。2日間通い詰め、すべて聴くことのできたファンは幸せ者だ。
tacica Photo by Pielle
照明を仕込んだ、5基のタワーが並ぶだけ。がらんとしたステージに3人が姿を現す。1曲目「黄色いカラス」から、猪狩翔一(Vo/G)のキレのよいカッティング、小西悠太(B)の骨太ベース、サポートの鈴木浩之(Dr)によるパワフルなドラミングが一体となり、速い上に重い、剛速球型アンサンブルで一気に飛ばす。「vase」もしかり。猪狩の野性味あふれる歌声と重厚なバンドサウンドが、風圧となって吹き付けてくる。
tacica・小西悠太 Photo by Pielle
tacica・猪狩翔一 Photo by Pielle
「三大博物館へ、ようこそ。tacicaです。……雪、大丈夫?」
猪狩の朴訥なMCに、さざ波のように笑いが広がる。相変わらずの茫洋とした存在感だが、演奏はひたすらシャープで熱い。3曲目、早くも新曲「発熱」を披露。TVアニメ『ハイキュー!!セカンドシーズン』エンディング曲だ。高速ビート、下降するコード進行にひりひりとしたせつなさを潜ませるストレートにエモいロック・チューンを、レコーディング音源よりも何倍も熱くやってのける。「HUMMINGBIRD 蜂鳥」では、歪んだギターをかきむしり、叫ぶように歌う。今日の猪狩、相当に気持ちが入っている。
tacica・猪狩翔一 Photo by Pielle
「なんかしゃべります。ここMCって書いてあるから。……曲やります」
一つ前の「コオロギ」に続き、「馬の眼」も端正なキックの四つ打ち。緊張感と、ナチュラルなあたたかみと、絶妙のバランスを保つダンス・ロックチューン。ポップな「贅沢な蝋燭」、『三大博物館』テーマ曲として昨年11月に配信限定で発表された「サイロ」。力強いリズムで前進する曲を連ね、極めつけは「HALO」。白いライトが派手に点滅し、サビでオーディエンスが拳を振り上げる。聴き入る曲がメインのtacicaレパートリーの中でも、屈指の盛り上げ曲。ステージと客席が、熱い空気を共有する。
鈴木浩之 Photo by Pielle
「2曲前にやったのが「サイロ」。いい曲すぎて感極まってしまった」
猪狩のつぶやきに、笑いと拍手。猪狩のギターが、シューゲイズ的な音の壁を作る「oops!!」と「幽霊のいない街」にも、痛みや鋭さの中に独特のほっこりと和む要素や大らかな開放感がある。パッと聴き、シンプルに聴こえるのに。つくづく、tacicaの曲は個性的だ。
tacica・小西悠太 Photo by Pielle
グッズ紹介は、小西の役割。ファンはご存じの通り、tacicaは、タオルやTシャツなどツアーグッズのデザインにもこだわるバンドだ。ワンマンライブ恒例の、来場者にプレゼントとして配られるスタッフパス風布製ステッカーの出来を自慢する猪狩。彼の頭の中では、様々なものがアートに見えているのだろう。風景や、動物や、人の感情さえも。アブストラクトで、繊細なタッチの、確信に満ちた言葉と音楽。tacicaというアート。
tacica Photo by Pielle
もう12曲目。ライブは終盤だ。「神様の椅子」ではワイルドなロックンロール・ビートを、「ジャッカロープ」ではクールなダンス・ビートをループする、ドラム鈴木のプレーが最高だ。「人鳥哀歌」は、イントロで早くも大歓声が沸いた。赤いライトが派手に回る。オーディエンスの拳が上がる。猪狩の、腹の底から押し上げる、全てを飲み込むような歌声の迫力が最大限に発揮される。「LEO」は、真っ白な灯りの下で、胸を張って堂々と。「From the Gekko」は、スピードに乗ってスリル満点に。ラストに向けて、テンションが上がり続ける。
tacica・猪狩翔一 Photo by Pielle
「楽しい。ありがとう」
その前にぽつり、“しんどいな”とつぶやいた言葉は、本音だろう。終演後に猪狩としゃべった話を先回りして言うと「昨日より今日のほうが、テンションの高い曲が多くて、しんどかった」そうだ。tacicaは盛り上がり至上主義のバンドではない。暴れないし、ジャンプもしない。が、演奏にかけるテンションの高さが尋常ではない。それがダイレクトに伝わるから、tacicaのライブは本当の意味でエモーショナルなものだ。ラスト・チューンは「DAN」。ロックバラードと言ってもいい、せつなさと伸びやかな開放感。“残り全部の、命を使って”。何度聴いても、最高のキラー・フレーズだ。
tacica・小西悠太 Photo by Pielle
アンコール。「オオカミと月と深い霧」は、張り詰めた本編のテンションから解き放たれた、穏やかなムードのロック・チューン。そして「最後の1曲だから、やりたくないんだけど」と、名残を惜しみながら披露した「アースコード」。猪狩のギター、ディレイをかけたフレーズが美しく響く。かすれた声を振り絞りながらの、堂々たる熱唱。ほぼ10年前、インディーズ時代から歌い続けている2曲をアンコールに据え、三大博物館の展示はすべて終わった。
tacica・猪狩翔一 Photo by Pielle
時を超え、キャリアを一望する、アンソロジーのようなライブだった。何かを総括し、何かを超える。tacicaは今、何度目かのターニング・ポイントにいるのかもしれない。次にどんな音と、言葉を届けてくれるのか。気迫みなぎるライブを体感して、今は期待しかない。
Photo by Pielle Text by Hideo Miyamoto
tacica Photo by Pielle
ニューシングル「発熱」
「発熱」