小林有沙(ピアノ)ラフマニノフの表現法に魅せられて

インタビュー
クラシック
2016.2.13
小林有沙(ピアノ) ©Yoshinori Kurosawa

小林有沙(ピアノ) ©Yoshinori Kurosawa

 

 国内外の数々のコンクールで上位入賞を果たし、2012年にはモロッコ王妃国際ピアノコンクールで優勝を飾った小林有沙。彼女の新譜が約2年ぶりにリリースされ、記念のリサイタルも開催される。デビューCDはシューマンとリストの作品集だったが、今回はラフマニノフに取り組んだ。
「デビュー盤も今回のアルバムも、自分らしさを出すことと、クラシック音楽をあまり聴かない人にも楽しんでいただけるもの、その2つを意識して作りました。ラフマニノフは、映画やフィギュアスケートを通じて広く知られるようになりましたね。今回はソナタ第2番を中心に選曲しました」

 ソナタ第2番は、昨今では1913年のオリジナル版を演奏するピアニストも多いが、小林は31年の改訂版を選んだ。
 「オリジナル版よりも洗練されています。私が作曲家だったら、やはり改訂版を演奏してほしいと願うのではないかしら」と微笑む。ソナタと並んで、大曲「コレルリの主題による変奏曲」にも挑んだ。
「ソナタは大きな枠組みの中で統一感を持たせて構築していきますが、変奏曲は一つのテーマから様々なバリエーションを展開していきます。20通りもの変奏を描いてみせたラフマニノフのアイディアには脱帽ですね。後期作品であるこの曲は、メロディ・ラインの横の流れだけでなく、声部が多く縦の響きも充実しています。そこにこそ、ラフマニノフの革新性があると思います」

 アルバム後半は編曲作品でまとめた。「編曲ものは、より開放的な気分で演奏できる」という小林は、ラフマニノフ自身の歌曲「ひな菊」「ヴォカリーズ」やクライスラーのヴァイオリン曲「愛の喜び」「愛の悲しみ」のピアノ・ソロ版を取り上げた。妹のヴァイオリニスト小林美樹とのデュオや、豊富な室内楽経験も活かし、「原曲が弦楽器作品の場合は、弓がアップする音、ダウンする音のイメージを、ピアノの音色でいかに表現するかを考えました」と熱を込める。

 2月にヤマハホールで行うCD発売記念のリサイタルには、ラフマニノフの他にリストの「2つの演奏会用練習曲」や「コンソレーション 第3曲」、「オーベルマンの谷」、「イゾルデの愛の死」なども組み込んだ。「スケールの大きなピアノ曲を書いた代表的な二人の作品を通じ、さまざまな表現に出会っていただきたいです」

 ベルリンとウィーンで学んだ留学時代に得意としていたのはベートーヴェン。「今後はベートーヴェンのソナタにも、再び向き合っていきたい」と言う。ロマン溢れる小林のピアニズムは、さらに深みを増していくだろう。

取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)

小林有沙(ピアノ)
2/23(火)19:00
ヤマハホール
問合わせ:1002(イチマルマルニ) 03-3264-0244
http://www.1002.co.jp/arisakobayashi
CD
『ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2番』
オクタヴィア・レコード
OVCT-00122
¥3000+税
2/19(金)発売
WEBぶらあぼ
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