高橋悠治 ピアノ・リサイタル 「夜の音楽」

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クラシック
2016.2.14
高橋悠治(え/柳生弦一郎)

高橋悠治(え/柳生弦一郎)

ショパンで始まりウルマンで閉じる“暗黒の旅路”

 高橋悠治の2月のリサイタルは『夜の音楽』と題し、同名の自作の他、様々な作曲家の死にまつわる作品が集められた。

 まずはショパン。甘く切ない歌で夢の時間を紡ぐ「夜想曲」(op.27-2, op.48-2)が、夜のとばりを静かに開く。op.59-1の「マズルカ」で光が差すのもつかの間、「マズルカ」op.68-4のめまいのように下降する音型で、憂いの淵へと引きずり込まれる。そう、これはショパンが臨終の床で綴った音楽なのだ。ヤナーチェク「霧の中で」は晩年の作でこそないが、朴訥とした語り口が作曲者の苦悩をひたひたと浮かび上がらせる。

 続くシマノフスキの「2つのマズルカ」では、マズルカのリズムを通じて同国出身のショパンと共鳴しあうという仕掛けだろう。舞曲でありながら、どこか足場がはっきりしない不安定さが漂う作品だが、実はこれもシマノフスキの最後の音楽なのである。この後に高橋の自作「夜の音楽」が演奏される。いまのところ筆者には作品の詳細についての情報はないが、上記のような文脈を踏まえて、少々趣の異なる次の曲への転換を促すものになるのではないか。

 暗黒の旅路の最後に演奏されるのはヴィクトル・ウルマン「ピアノ・ソナタ第7番」。ウルマンはアウシュヴィッツのガス室で殺されたユダヤ人で、これは死の2ヵ月前に収容所内で書かれた、いわば辞世の句だ。全5楽章25分ほどの堂々たる音楽に表現されているのは、意外にも暗さではなく希望である。最終楽章の「ヘブライの民謡による変奏とフーガ」が全曲を力強く締める。
 意味深な選曲からは高橋の現在の境地が伝わってくるようだ。会場で確認したい。

文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年1月号から)


高橋悠治 ピアノ・リサイタル 「夜の音楽」
2016.2/23(火)19:00
浜離宮朝日ホール
問合わせ:朝日ホール・センター03-3267-9990
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu
WEBぶらあぼ
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