マドンナ “女帝”たる強さに彩られた世界最高峰のショー、10年ぶり来日公演レポート

レポート
音楽
2016.2.18
マドンナ/photo by Yoshika Horita

マドンナ/photo by Yoshika Horita

画像を全て表示(7件)

マドンナ 『レベル・ハート・ツアー』
2016.2.14(Sun)さいたまスーパーアリーナ

女帝。この言葉を用いることが許される唯一のアーティスト、マドンナ。13作目のアルバム『レベル・ハート』を引っさげて、昨年9月から始まったワールドツアー『レベル・ハート・ツアー』で世界を席巻している絶対女王がその一環として日本にやってきたのは2月13日と14日。来歴は5度目、日本公演は2006年の『コンフェッションズ・ツアー』以来、実に10年ぶりとなる2公演を開催し、プレミアムを手にした4万人がさいたまスーパーアリーナに集結した。

初日は開演が2時間遅れという部分がクローズアップされて報じられていたが、2日目となった14日の公演は、オープニングアクトのDJ Mary Macの終演後すぐ、20時にスタート。槍を手にして甲冑に身を包んだ兵士たちがセンターステージから伸びる花道に現われ、身体を縛られたマドンナがスクリーンに映し出されると物語が始まるカウントダウンの如く、不気味な鐘が静かに響いた。そのピンと張り詰めた空気を一瞬で蹴破ったのは、宙吊り状態の檻の中に囚われたリアル・マドンナの登場だった。

マドンナ/photo by Yoshika Horita

マドンナ/photo by Yoshika Horita

1曲目「アイコニック」で檻から脱出したマドンナは、なぎ倒した全兵士を従えてアリーナ中央に設置された長い花道をずんずん進んでいく。1曲目を終え、花道先端のハート型ステージに立ち、「Are you with me? 」(私についてこれてる?)と観客を軽く煽る。

続く「ビッチ・アイム・マドンナ」では、“雌犬(Bitch)”、“私はマドンナ(I’m Madonna)”や“お前は何様のつもりだ”といったドSな日本語が映し出される赤と黒を主とした映像をバックに、着物風の衣装に身を包み扇子を手に舞い踊るマドンナ。その両脇をAyaBambiが固めることで、斬新な和の世界が生まれていた。

マドンナ/photo by Yoshika Horita

マドンナ/photo by Yoshika Horita

黒の網タイツ姿で黒のフライングVをかき鳴らした「バーニング・アップ」の後は、花道中央で牧師から聖書と思しき金色の本を重々しく受け取った「ホーリー・ウォーター」、そして「デヴィル・プレイ」へ。宴の席に集うダンサーらの姿と、その台に生贄のように身を置くマドンナはまるでダヴィンチの「最後の晩餐」のようだった。

ここでステージからマドンナの姿は消え、「メシア」を巨大スクリーンの映像と、風に舞う白い布と一体となったダンサーによって見せることで空気を一変する。そしてキャッチーな「ボディ・ショップ」で再び登場し、「コンバンハ、ハロー、トウキョー! あなたたち、私の仲間の日本のビッチたちよね? なんてロマンティックなヴァレンタイン・デーなの! 今日は愛についてのこの曲を捧げるわね」と言い、ウクレレを携えて「トゥルー・ブルー」を披露。そして「ディーパー・アンド・ディーパー」の流れから本編のキーポイントである暗黒の失恋世界「ハートブレイクシティ」へと突入した。

ここでのキーワードは決別。雨の中をひた走る車から見える景色がスクリーンに延々映り、男と女の別れを歌うマドンナは、天井から降りてきた螺旋階段に身を預ける。その頭上では彼女を振った男が自由を求めて踊り、最後はその歌詞の通り、“すべてを与えてやったのに欲しかった名声を手に入れたら「自由が欲しい」と宣う男など私には不要”と言わんばかりに男を階段のてっぺんから突き落とし、啜り泣いた。

その重苦しい雰囲気を吹き飛ばしたのは「ライク・ア・ヴァージン」。失恋してもへこたれず、次の恋を探す賢くてしたたかな都会の猫のように、軽やかにステップを踏みながらセンターステージを走り抜けていく。

ダンサーの表現するエロスが前面に出た「S.E.X.」の後は、マドンナ流人生の歩み方が綴られた「リヴィング・フォー・ラヴ」だ。真っ赤なバラの花びらが舞い散る中、マタドールに扮したマドンナはマントを翻しながら闘牛(に扮したダンサー)どもを巧みに操る。続く「ラ・イスラ・ボニータ」ではフラメンコを、「テイク・ア・バウ」ではテキーラを煽ってスパニッシュな流れを締め、「日本に来るのがいつも楽しみなの。日本の文化が好きよ」と優しく語りかけると、今公演のメインテーマである「レベル・ハート」をしっとりと歌い上げた。

マドンナ/photo by Yoshika Horita

マドンナ/photo by Yoshika Horita

この「ハートブレイクシティ」から「レベル・ハート」までのくだりは、アルバム名でもありツアータイトルでもある『レベル・ハート』(反逆精神)を表した物語の核であり、愛に生きる一人の女性のストーリーとも受け止められるその完璧な流れと演出は圧巻だった。女帝マドンナも一人の女性だ。愛に破れ、俯く時もある。だが決して引きずったりはしない。そんな歌詞の世界観とマドンナの生き様が見事にシンクロ表現された今公演のハイライトと言えるだろう。

「イルミナティ」ではシルク・ドゥ・ソレイユでも見られるような激しい演出とダンサーの超人的な肉体美と技によって表現される人間美を目の当たりにし、観客が大いに沸いたところで「MUSIC」「キャンディー・ショップ」「マテリアル・ガール」と畳み掛けた後、エディット・ピアフの「バラ色の人生」をアコースティックにカヴァー。アカペラで「ダイアモンズ・アー・ア・ガールズ・ベスト・フレンド」を聴かせ、やっぱりマドンナはそうでなくちゃ! と思わせる「アンアポロジェティック・ビッチ」では悪びれない女の代表として駄メンズに「Fuck you!」と叫ぶマドンナ節が炸裂し、胸のすく思いだった。

アンコールの「ホリデイ」を含めた2時間のスペクタクルは、ライヴと言うよりもショーと言う方がしっくりくる、一貫して女を感じさせる物語だった。女とは、美しく、華やかで煌びやか。時に挫けることもあるがくよくよしないで感じたまま前へ進め! と語る女王の背中を見て、自分は女を捨ててはいないかと自問させられてしまった。

30年かけて築き上げられた女帝の君臨するその頂はあまりに高すぎて、追随する者でさえ彼女の後ろ姿を遠目に見ることしかできない。そして、観る者を圧倒するその存在感は、切り開いてきた道を肯定する自己愛の深さと絶対的な自信から生まれているのだろう。そんな女の強さが其処彼処に滲む王者・マドンナによる世界最高峰のショーは、観る者の心に勇気と夢を存分に降り注いでくれる、素晴らしい芸術だった。

photo by Yoshika Horita/text by Yuko‘DORAMI’Sotome

マドンナ

マドンナ


 
セットリスト
Madonna Rebel Heart Tour / マドンナ レベル・ハート・ツアー
2016.2.14(Sun)さいたまスーパーアリーナ
01. Revolution(video intro; with "Iconic" snippets)
02. Iconic
03. Bitch I'm Madonna
04. Burning Up(アルバム『Madonna/邦題:バーニング・アップ』収録)
05. Holy Water(with "Vogue" snippet)(“Vogue”はアルバム『I’m Breathless』収録)
06. Devil Pray
07. Messiah(video interlude)
08. Body Shop
09. True Blue(acoustic)(アルバム『True Blue』収録)
10. Deeper and Deeper(アルバム『Erotica』収録)
11. HeartBreakCity(with "Love Don't Live Here Anymore" snippet)( "Love Don't Live Here Anymore"[愛は色あせて] アルバム『Like A Virgin』収録曲]
12. Like a Virgin(with "Heartbeat" sample)(アルバム『Like A Virgin』収録)(“Heartbeat”はアルバム『Hard Candy』収録)
13. S.E.X.(video interlude)
14. Living for Love
15. La Isla Bonita(アルバム『True Blue』収録)
16. Take a Bow(アルバム『Bedtime Stories』収録)
17. Rebel Heart
18. Illuminati(video interlude)
19. Music(with "Give It 2 Me" sample)(アルバム『MUSIC』収録)(“Give It 2 Me”はアルバム『Hard Candy』収録)
20. Candy Shop(アルバム『Hard Candy』収録)
21. Material Girl(アルバム『Like A Virgin』収録)
22. La vie en rose(Édith Piaf cover)(acoustic)
23. Diamonds Are a Girl's Best Friend(Jule Styne cover)(a cappella snippet)24.Unapologetic Bitch
<Encore>
24. Holiday(アルバム『Madonna/邦題:バーニング・アップ』収録)

 

リリース情報
アルバム『レベル・ハート』
2015年03月11日発売
UICS-1293 ¥2,646(税込)

アルバム『レベル・ハート(スーパー・デラックス)』
2015年3月18日発売
UICS-9148/9 ¥3,780(税込)
※未発表曲4曲+リミックス2曲を追加収録したCD2枚組

アルバム『レベル・ハート[ジャパン・ツアー・エディション]』
2016年1月22日発売
UICS-9152 ¥¥3,564(税込)
※2016年2月に10年ぶりの来日公演「レベル・ハート・ツアー」を行うマドンナの来日記念盤。日本オリジナル作品!
※アルバム・ジャケットは、日本盤の『レベル・ハート』、『レベル・ハート(スーパー・デラックス)』とは違う絵柄を採用
※最新アルバム『レベル・ハート』からのシングル3曲と「ビッチ・アイム・マドンナ feat. ニッキー・ミナージュ」のリミックス・ヴァージョンの計4本のミュージック・ビデオを収録したDVD付

>>AmazonでCDを購入する

 

シェア / 保存先を選択