約3年ぶりの共演「ラディアント・ベイビー」インタビュー

2016.3.9
インタビュー
舞台

柿澤勇人 松下洸平 「ラディアント・ベイビー」 撮影=こむらさき

柿澤&松下が“ラディってる”のはどんなとき!?

世界中で愛され続ける伝説的アーティスト、キース・ヘリングの生涯を、心揺さぶるロック&ポップミュージックで描くNY発の話題作!!『ラディアント・ ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』が、6月6日からシアタークリエにて上演される。

<ストーリー>
自分の居場所を求めて故郷のペンシルベニアからNYに出てきたキースは、初めての都会での生活に翻弄される。友人ツェン・クワン・チー、アシスタントのアマンダ、恋人のカルロス、そして自身が美術を教える3人の子どもたちに囲まれてアートに没頭するキースは、名声を得てもなお自分が信じる世界を探求し苦悩の日々を送る。病に冒され、31歳の若さでこの世を去ったキースが、全速力で駆け回り、追い求め続けたものとは―。


本作で主人公キースを演じるのは柿澤勇人、そしてキースの恋人カルロス役を松下洸平が務める。「スリル・ミー」以来、約3年ぶりの共演となる二人が本作に対して今、何を思っているのか。

柿澤勇人 松下洸平 撮影=こむらさき


――今はまだ、本国で上演時の台本を読んでいる、と伺っていますが、本作の印象はいかがですか?

松下:わりと史実に基づいて忠実に書かれているように思いました。田舎からNYに出てきて、自分が売れて、得たものと失ったものがあって、自分のバランスが取れなくなって…彼が堕ちていく様とか。全体的なイメージは「RENT」や僕が過去にやった「ネクスト・トゥー・ノーマル」のようなアングラな若者たちの群像劇のイメージでしたね。「RENT」が好きな人たちはたまらないでしょうね。本番は6月なので稽古が始まるのもあと2か月くらい後。不安もあり楽しみもありです。音楽を聴くとロックありポップスあり、いわゆる“ミュージカル”っていう曲ではないですね。ミュージカルといえば、歌い上げて心情を歌う感じの作品が多いですが、これはわりと現代風というか。どう台本と絡んでいくか楽しみです。


――そもそも、この作品に出演したいと思った動機はなんでしたか?

柿澤:僕の場合は、初めてのことづくしで。基本的に出演のオファーをいただいたら、選り好みはしないんですが、今回岸谷五朗さんとやるのも初めてで、キース・ヘリングという、ついこの前まで実在したアーティストを演じることもそうそうやる機会もないし。役者としては確実に成長させていただける役だと思って受けました。今、すごい楽しみですね。

松下:「スリル・ミー」という作品がありました。それ以外だとあまりミュージカルというものには出てないんですが、今年はわりと毛色の違う作品が続くんですが、その中でミュージカルにも挑戦したいという思いがありました。いろいろな作品に関わることで、僕自身も修行になると思っていたので。そこでこの作品のお話をいただいて、僕でいいならぜひやらせてもらいたいと。「スリル・ミー」以来3年ぶりなので、相当覚悟がいるんですが、キース・ヘリングの音源をいただいて、「これだったら楽しくやれそうだな。岸谷さんの演出には興味があるし、何より勇人が出るなら出たいです」と言いました。


――あの「スリル・ミー」から3年経ったんですね…。

松下:僕ら、プライベートでの交流が多いので、よく飲みに行ったり飯食ったりするので、まさか3年も同じ板の上でやってないんだな、ってびっくりしました。彼の芝居も観に行きますし、彼も僕の芝居をよく観にきてくれますし。だから仕事現場で会うのは新鮮ですね(笑)懐かしい感じがします。


――3年経ってお互いの印象に何かしら変化は出てきていますか?

松下:全然変わらないんです。見た目が少しおっさんになったくらい(笑)で、当時の印象と今の印象は全く変わらない。勇人は本当にこのまんまの人なんです。そこがやっぱり信頼できる要因ですね。

柿澤:根本の部分は全く変化ないですね。ただ、役者として洸平は、映像でも舞台でもいい芝居をしまくっているんで、そこに刺激を受け続けてきた3年間でした。仕事で、「スリル・ミー」とは違う関係性なんだけど、また恋人同士をやるって、なんだか恥ずかしいですね。

柿澤勇人 松下洸平 撮影=こむらさき


 

――そんな二人が演じる今回の「恋人」役、どんな関係になりそうですか?

松下:「スリル・ミー」のようなツンデレな感じではないと思います。相思相愛ですが、その加減がどう変わっていくか…キースの場合、NYにきてからものすごく人間関係が変化していくので、その中でカルロスのことをどう思っているのか、は見どころになるのかも。何を優先するのか、誰を優先するのか。恋人なのか、仕事なのか、自分の将来なのか…何かをチョイスをしていく中で、恋人のカルロスが何番目に入ってくるのか。時にはカルロスのことがおろそかになっていく様も描かれます。いろんな事があり、いろんなチャンスが巡ってくる中でキースがその場で選択することが果たして正解なのか…そういうところも描かれていくことになると思うので。

柿澤:キースから見たカルロスの存在は…カップルにはいろいろな形があると思うのですが、キースは一人の人間として生きて、カルロスはキースを必要としている。「一緒にいたい」ただ、それだけじゃないかな。

松下:難しいよね。キース・ヘリングは実在している人だから、自分の芝居のプランだとこうはしないと思っていても、キース自身の考え方や思考に忠実に演じようとするとズレが出てくると思うんです。そこをどう折り合いつけてやっていくのか。


――キースってどんな人物をイメージしていますか?

柿澤:繊細な人だったという話は聞きますね。あまり人とコミュニケーションを沢山とる人ではなく、人間的に器用な人ではなかったと思います。今、キースの作品をまとめた分厚い本を読んでいます。全部英語なので単語を調べながら読んでいるんですが、そこにあった話で…友達のアフリカ出身の画家が、キースと同じように地下鉄にチョークで絵を描いていたら、白人の警官がやってきて逮捕されてしまう。逮捕のときに警官たちにボコボコにされたのが原因で死んでしまうんです。結局それってある種、人種差別なんじゃないかと。そのことを受けてキースは、社会、そしてアメリカに対する怒りを絵に描いていくんです。その友達の顔を描き、眼を真っ赤に描いて、南アフリカとNYを線でつないで…「おかしい」と思うことを言葉ではなく絵にこめる人なんだろうなって。

柿澤勇人 松下洸平 撮影=こむらさき


 

――さきほど、よく飲みに行く、という話が出ましたが、お酒はお二人とも強いんですか?

松下:強いというか…最終的には記憶が飛んじゃうんで、帰りのことは覚えてない。まあでもよく飲むよね。

柿澤:うん。

松下:この前も飲みにいってベロベロになって。沖縄料理屋だったんですが、ほぼ何を話したか覚えていないんです…あのさ、沖縄そばみたいなのを食べたの、覚えてる?

柿澤:あー!ソーキそば!

松下:ソーキそばを食べたいって言うので作ってもらって、それを二人で食べているんですが、テーブルの横にあったコーレーグス(島唐辛子を泡盛に付け込んだ辛~い調味料)をお互いのソーキそばにずっと振り入れてて(笑)

柿澤:・・・僕も?

松下:俺も、お前も(笑) 「これ入れたらめっちゃうまいよ」って言ってるんだけど、なにせ二人ともベロベロだから、ぶわーって入れて「辛ああああああああっ!」「なんでこんなに辛いんだよー!」って言いながら食べていました(笑)

柿澤:…全然覚えてない(笑)あんなに酔ったの、久しぶりだよね。いつもはそうじゃないんだけど。あの日は「軽く飯くって、軽く飲んで帰ろうか」のつもりだったのに。

松下:その店のマスターが、僕らの会話を聞いてたみたいで、「役者なの?」「はい、そうなんです」…そこからあれこれ話をして、たまたま「ラディアント・ベイビー」の話をしたら、そのマスターが昔六本木でお店をやっていた頃、岸谷さんがよく通ってきていたんですって。だから「僕ら、今度岸谷さん演出の作品に出るんですよ」って話したらめちゃくちゃ喜んでくれて! だから今度、岸谷さんと3人で来ますって伝えました。それもあるから、早く岸谷さんと稽古がしたいんです。その店に行きたくて(笑)


――ものすごい縁ですね。ちなみに飲んでいるときに、演劇の話はするんですか?

柿澤:ほぼしないですねー。

松下:たまにこんな映画を観たよ、とか面白い作品の話をするんですが、芝居について熱く語った記憶はほとんどないですね


――他の人と飲んでも演劇論的な話にはならない?

柿澤:僕はならないなー。

松下:ただ、勇人相手だから話すんだけど、って話はします。僕はね。

柿澤:「勇人だから話すんだけど」っていう話は大体下世話な話が多いです(笑)

松下:(笑)誰にでも話せる話題じゃないときも「勇人だったら言える」という感じですね。

柿澤勇人 松下洸平 撮影=こむらさき


 

――では、最後に。「ラディアント」って「輝く」という意味があるんですが、自分が「輝く」瞬間ってどんな時ですか?

柿澤:いやあ、久しく輝いてないなあ…。

松下:おい!(笑)輝いていこうぜ!輝いているときって、自分で何か「楽しい!」ってなっているときかな。・・・洗濯物を取り込むときに、洗濯機から出してハンガーにかけていくけれど、がっと取り出したハンガーの数が洗濯物の数とぴったり合っていたときに、“ラディってる”なーって。ちっちゃなラディアントですね(笑)


――お二人とも…舞台の上でラディアントしてないんですか?(笑)

柿澤:僕、舞台の上ではしてないなあ。役によるけど、ツライ役をしているときは全然ラディアントしてない。ツライままなの。「デスノート the Musical」「スリル・ミー」もそうなんだけど。


――「タイトル・オブ・ショウ」くらい弾けている役は最近ご無沙汰ですしね。

柿澤:そうなんです。あ、でも人の芝居や映画を観ているときは…(ベネディクト・)カンバーバッチの「ハムレット」とか「フランケンシュタイン」を観てヤバイ!と思いました。ちなみに僕はカンバーバッチが怪物やってるほうが好き。ジョニー・デップの「ブラック・スキャンダル」のバルジャーとか見ても、うわぁ!っとなりますね。あと、僕、エドワート・ノートンが大好きで彼の作品はほとんど観たんですよ。疲れたときや、ちょっと映画を見ようかなとエドワート・ノートンが出ている映画を観ると、うわぁ!っと…。

松下:“ラディってる”と。

柿澤:そうかも!

松下:舞台に出ているときって必死すぎてね。結果的にお客様が観て僕らが輝いているならそれでいいんですが、こっちはもう必死な時が多くて。勇人は、しんどい役が多いんだよね。「サンセット大通り」もそうだったんだけど、なんでこう、しんどいほう、しんどいほうにもっていくのかね、と。・・・でもそこが、俺が勇人の好きなところなんだけどね(笑)
 

撮影・文=こむらさき

公演情報
『ラディアント・ ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』

■日時:2016年6月6日(月)~22日(水)
■会場:日比谷シアタークリエ
■脚本・歌詞:スチュアート・ロス
■音楽・歌詞:デボラ・バーシャ
■歌詞:アイラ・ガスマン
■演出:岸谷五朗
■出演:柿澤勇人/平間壮一/知念里奈/松下洸平 ほか
■公式サイト:http://www.tohostage.com/radiantbaby/