舞台『オーファンズ』大千秋楽レポート
新神戸オリエンタル劇場『オーファンズ』
新神戸オリエンタル劇場にて上演していた舞台『オーファンズ』が2月28日に大千秋楽を迎えた。
先に行われた東京芸術劇場 シアターウエストでの公演は口コミで話題となり、日ごと動員を伸ばし続けると立ち見客も出るほど人気に。その評判を聞いてきたという、男女問わず幅広い年齢層の観客が数多く見受けられた。カーテンコールは5回にもおよび、鳴りやまない拍手と称賛の中、スタンディングオベーションでその幕を閉じた。
今作は1983年に初演後、映画化されるほどの人気を誇った。日本でも劇団四季時代の市村正親、椎名桔平や根津甚八などの名なだたる役者たちによって演じられ、いまなお世界中で愛され続ける、孤児の兄弟・トリートとフィリップ、ハロルドの奇跡の出会いと絆の物語である。
主演は俳優集団D-BOYSの柳下大。近年「真田十勇士」(宮田慶子演出)、「いつも心に太陽を」(岡村俊一演出)などに出演、舞台俳優としての評価を着実に高めている。この作品は宮田慶子の演出を熱望し、柳下自ら働きかけた意欲作。昨年は怪我に見舞われたが、役者デビュー10年目を迎え、自身が企画した作品で本格復帰を果たした。
柳下演じるトリートの弟・フィリップには、劇団プレステージの平埜生成。蜷川幸雄演出「ロミオとジュリエット」のティボルト役で頭角を現し、9月には「DISGRACED」(栗山民也演出)に出演と、今後がますます期待される逸材だ。
ハロルドは映画「そこのみにて光輝く」他、様々な舞台での好演が印象深い高橋和也が演じる。次回作には「御宿かわせみ」(G2演出)、「紙屋町さくらホテル」(鵜山仁演出)と続々控えている。
柳下は凶暴性をもって、自分の弱さを必死に守ろうとするトリートをデリケートに表現。暴力的な振る舞いの陰で弟への深すぎる愛情を垣間見せるが、その表情があまりに切ない。変化を受けとめきれない、複雑な心の機微を実に繊細に演じきっている。
平埜はトリートにおびえながらも、ひたむきに生きるピュアなフィリップを体現。兄が家に閉じ込めてでも守りたかった、無垢な少年をのびのびと演じ等身大でみせる。抑圧から解放されていく様は観る者の心を惹きつけ、物語に安らぎと希望をもたらしている。
ハロルドは高橋が演じることによって、謎の人物でありながら人情味あふれるキャラクターとなった。厳しさの中に優しさをもって父親さながらに兄弟と向き合う姿は、役に深みを与え、高橋自身にも重なって見える。
翻訳劇に定評がある作・演出家の谷賢一により会話が自然なものとなり、宮田の細部にわたる演出が随所に生きている。何より柳下、平埜、高橋が満身創痍になりながら見せる真に迫った演技が、心の奥底に突き刺さる。演劇作品として、またひとつ深く心に刻まれる舞台となった。