楽譜を書かない音楽家・棚川寛子が、とよはし芸術劇場で市民劇に参加

2016.3.5
インタビュー
舞台

棚川寛子

約60人もの市民が演じ、演奏する『夏の夜の夢』

穂の国とよはし芸術劇場をのぞいたら、市民と創造する演劇『夏の夜の夢』の稽古が行われていた。60人近い出演者がオーディションで選ばれ、演出・扇田拓也のもと、シェイクスピアの名作に挑むという企画だ。

ふと、出番待ちで待機している舞台音楽家、棚川寛子さんを発見。最近ではSPAC(静岡県舞台芸術センター)の作品を中心に、劇世界を支える印象的な音楽を手がけ、注目を浴びている人だ。人懐っこい笑顔についつい引き寄せられて、ちょいと話を聞かせていただくことに。

『夏の夜の夢』の稽古より

稽古場ですべてを作る音楽家

棚川「普通は音楽って作曲して渡したらおしまいという感じでしょ。でも私の場合は出演者が演奏するので、稽古場に一緒にいる時間も長いんですよ。演出にも口を出しちゃうんです、ここ音楽が入るからちょっと待ってとか。使いずらい音楽家ですよね(爆笑)。稽古を見て、芝居の流れを見て、ここもっとリズムがほしいなあ、流れが悪いなあとその場で作り替えたりとか、すべてその場で調整していくんです」

もともと演劇が好きで20代のころは役者をやっていた。そのうちダンスのほうに移行し、nestではダンサーとして踊っていた。そんな時、当時渋谷にあった某スタジオで受付のバイトをしていたが、そこでミュージシャンの矢野誠と出会う。運命の瞬間である。矢野の勧めで音楽のワークショップを受け、初めて太鼓を叩くことになる。

棚川「演劇とダンスと音楽が時期を同じくして動き始めたんですよ。音楽大学にいたわけでもないですし、音楽の勉強もしたことがないんです。だから楽譜も書けないし、書かない。矢野さんからも自分でわかる書き方でいいよ、ドンタカ、タカタカみたいな感じでさって。矢野さんのバンドでも周りはもちろん楽器ができるんですけど“お前は耳がいいからパーカションをやってくれないか”と言われて、太鼓ばっかりだと思っていたらリズム感が大事だからって。宮城さんと出会ったのはク・ナウカの前のスーパーミヤギサトシショーの時代。私がオーディションを受けたんですけど、その時はダメで、でも舞台を観に行く先々でお会いするんです。それで次の芝居で太鼓を入れたいんだけど、出ない?って」

宮城と出会ったのは、かれこれ27、28年前のことだ。唐突に踊り始めたり歌ったりする芝居に違和感を持っていた。そのためか言葉に執着がなくなって、ダンスや音楽を渡り歩いてきたが、そうやって演劇に戻ってきた。

棚川「金管、木管とかは基本的に使わなくて、叩けば音が出る楽器で作曲する。演奏するのは俳優さんですから、リズムで構成する音楽をずっと作るようになって、その延長で今も仕事をしているんですよ。いつもと同じ作り方。台本を読んで、せりふを聞いて、このへんでこういう音楽があったらいいな、演出がこういう意図だからラストでこういうテンションがほしいかなという感じ。演奏はミュージシャンのほうが圧倒的に上手なのは当たり前ですけど、芝居的な音、自分の身体の延長の音、観念を乗せるという意味では、俳優の仕事とちょっと似ているんじゃないかな。1音で世界が変わるとか、音楽で芝居のテンポが変わるという作業だから、音楽なんだけど演劇をしている、そんな感じなんですよ。言葉ではなくて音楽でしゃべっているというか」

譜面が読めなくても、楽器ができなくても演奏できる

市民と創造する演劇『夏の夜の夢』では、数人のプロも含めた57人の出演者のうち、40人近くは楽器演奏も担う。出演者は自分の役を演じ終えると、今度はアクティングエリアの後方に設置されたさまざまな打楽器を演奏する。市内とシナジー効果をもたらす音楽は、なんだか、クレヨンや絵の具などさまざまな画材で、色付けしていくような、手作りだからこその温かさがじんわりとにじんでくる。

棚川「今回は私にとっては久しぶりの市民劇。何回もやることを変更するから皆さん最初は混乱していたけど、だいぶ慣れてきたかな。譜面のわからない方ももちろんいらして、台本にドツツ、ドツツ、ドドドドって私と同じように書いていますよ。すごく原始的なやり方だな(笑)。でも私にとっての楽譜は台本なんですよ。だから台本がないと作れない。当初、台本の会議に頼まれてもいないのにだいぶ参加しましたよ(笑)」

棚川がそう語る『夏の夜の夢』は、ただの祝祭劇ではない。最初はおなじみの『夏の夜の夢』を装いながらも、実は、二重、三重の仕掛けがあって、徐々に観客を裏切っていく。扇田いわく「新たに書き下ろした脚本は月と人間の関係を掘り下げて描いた未来、西暦3000年くらいの物語です。そして楽しさ、おかしさもあるけれど、今の日本のやっかいな状況、臭いものに蓋をしがちな風潮、切実な世界情勢などダークな根深さ、切なさも見せるものになっています」

棚川「私自身は音楽の全体の地図みたいなものを書いたんですけど、扇田さんが何を描きたいかを一緒に考えた中ではじき出した答えは、ラストは“鎮魂”や“レクイエム”だなと。扇田さんは縁や運、忘れちゃいけないもの、目に見えないものや言葉にならないものを大事にしている演出家と感じます。それを後押しできる音楽になればいいなと思っています。大変だけど面白いです。毎日いろんなことが起こるんです。でもその面倒なことは演劇を作る上で避けて通れないものだから、そこがいいのかなって最近よく思うんです。日々修行です(笑)。」


 
イベント情報
市民と創造する演劇『夏の夜の夢』

●日時:3/5(土)、3/6(日)両日14:30開演
●会場=穂の国とよはし芸術劇場 主ホール
作=W.シェイクスピア(河合祥一郎訳『夏の夜の夢』より) 
構成・演出=扇田拓也  脚本・演出助手=永妻優一 音楽=棚川寛子
出演者:オーディションで選ばれた一般市民/大木実奈/加藤紗希/橋本昭博
●料金:[全席指定]一般2,000円/ユース(24歳以下)1,000円/高校生以下500円
●問合せ:穂の国とよはし芸術劇場 Tel.0532-39-8810
●公式サイト=http://www.toyohashi-at.jp/event/performance.php?id=229