「ジミーズはこの作品の“光”、と感じて頂けたら!」味方良介が語る、ミュージカル『グランドホテル』の魅力!
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ミュージカル「グランドホテル」
1920年代のベルリンにある華やかな「グランドホテル」を舞台に繰り広げられる人間模様を描く本作は、のちに“グランドホテル形式”と呼ばれる画期的な群像劇の描き方を生み出した作品としても語り継がれている名作だ。今回上演されるのは、「2016年オフ・ウエストエンド・シアター・アワード」で最優秀ミュージカル作品賞と最優秀振付賞をダブル受賞したトム・サザーランド演出版。しかも、日本版のオリジナルとして〔GREEN〕と〔RED〕、キャストとエンディングを変えたふたつの『グランドホテル』が用意されており、開幕前からの注目度も高い。そんなホットな作品にシングルキャストとして出演しているのが、味方良介。次世代のミュージカル俳優として期待されている彼の胸に宿る『グランドホテル』への思い、そしてミュージカルに寄せる情熱とは?
〜味方良介インタビュー〜
ミュージカル「グランドホテル」味方良介
──公開稽古で披露された、オープニングを飾る大曲「The Grand Parade」。見応えのあるノンストップの20分間でした。
はい。演出家のトムさんも言ってましたが、オープニングで全てが決まる、と言いますか?オープニングを見ただけでも結末までわかるのではないか、というくらいとても大事なシーンで…。止まることなくどんどん進んでいくあの大曲のようにストーリー自体も止まることなく進んでいきますが(笑)全ての登場人物がフィーチャーされて人間関係が見えてくる歌。トムさんは“百科辞典”と呼んでいました。人間関係が分かっていくと言っても大いに複雑さもあり、お客様にはまだわからないけれどあのホテルに居る僕らにはわかることもあったりとか…。
──スリリングですね。
そうなんです。僕が演出がついたときに感動したのは、トムさんが“あの真ん中で盆が回ってキャストも回って…というスタイルはカジノのルーレットなんだよ”と言ったこと。そこにDEATH、愛と死の化身であるスペシャルダンサーの湖月(わたる)さんが姿を現し、あるひとりを選び出す。お客様は誰も気づかないかもしれないけれど、運命のルーレット、その死のギャンブルの結果はもうあそこで決められてるんだよって。…すっごいおしゃれですよね!
──並んでいるのはゲームの参加者である、と。
そうそう、そうなんです!そこに辿り着くまでの動きも含めてホントに凄いなぁ、とトムさんの素晴らしい演出に感動しました。その感動の反面、あそこは肉体的にも大変なんです。僕、ずっと回してますから(笑)。盆の上に全員乗ったときの重さはけっこうあるんですけど、でもホテルマンとしては一切顔に出さずキビキビ、スッとしてなくちゃいけない。初めてリフティングもしますし…そう、この作品はホントに自分がやったことのないことだらけなので新鮮だし、大変な分、やりがいも感じています。
──味方さんは元々ミュージカルが好きでこの世界に飛び込んできたんですよね。
はい。なので稽古場でもふと”あぁ、あの舞台に出ていた人だ!”とかって、ちょっとミーハーな気持ちになったり。 ”すごいなぁ~ここ” なんてちょっと他人事のように初めはドキドキしたり(笑)もちろんみなさん凄い方ばかりなので相当の覚悟を持って参加しましたが、もう緊張する暇もないほど歌、ダンス…とやらなければいけないことがたくさんあって! スタートから稽古についていくことに集中するのみ。自分の心構えや想像を遥かに超えた現実に、自然とゼロの状態から挑むことができました。
稽古場風景
──味方さんが演じるのはホテルの従業員であり、歌とダンスで宿泊客を愉しませるアメリカ人エンターテイナー・ジミーズというコンビのひとりということですが。
まず、やがてナチスが台頭してくるという時代背景があって、そういう意味ではここで描かれているのは華やかだったその当時の一番最後の時間です。風船が一番大きく膨らんで割れる寸前…のような状態ですね。当時はエリート意識の強いドイツ人はおそらくまだアメリカ人を下に見ていたと思うのですが、“バレエの時代は終わりだ。これからはジャズだ。アメリカの文化だ”っていう台詞があって、ジミーズはまさに崩壊に向かっていくベルリンにいるアメリカン人で、ジャズをやるし、アメリカの新しい文化を持ち込んで来ている当人たち。ある意味、未来の象徴なんですよね。彼らは上流階級の客にバカにされても、職場の同僚たちにバカにされても、まったく気にしていない。なにしろ歌もダンスも寝ててもできるくらい身体に染み付いていて、ひとたび自分たちのショウが始まれば“どんな人間でも関係ない。みんな俺たちについてこい!”ですから。
──エンターテイナーとしての自信と、マイノリティとして様々なことを乗り越えて来ている経験に裏打ちされた、タフなプライドを持ったふたりですね。
後半、ジミーズの歌から盛り上がるナンバーがあり、そのナンバーが終わると共にベルリンも崩壊していくので…いわば時代の風船を膨らませていくのが僕らの役目。登場人物はみんないろんな重いモノを抱えているんだけど、藤岡正明さんが演じるエリックと、木内健人さんと演じる僕らジミーズはその中に居て希望や輝きや…平和? 人間として大切なモノを備えた人たちなんじゃないかな。誰になにを言われても別にいいじゃんっていう強さを持ったキャラですし、作品に漂う不穏な空気に、常に一筋の明るさをもたらしているのではないかな、と思うのですが。
──俳優・味方良介という存在にも、そうしたタフな明るさ、好きなことを貫く強さを感じるときがあります。
いや、ここまでジャジーに、シニカルにすべてをやり過ごしたりはできませんが、確かに僕も人の言うこととかあまり気にしないほうですかね(笑)。なにごとも自分のペースでやっているので、そういう部分はジミーズとも通じるかも。俳優としての自分についてよく思うのは、僕はあまり自分のカラーというモノがなくて…こういうふうにしなきゃいけないとか、自分はこうあるべきだっていう考えがないんですよ。それよりも言われたコトをちゃんと吸収して、それを自分なりに表現していきたい。やっぱり求められているモノをしっかりやりたいし、やれる役者でいたいので。もちろんダンスや歌の技術、そこに至る鍛錬は自分のスタイルでひとつひとつ習得していくこだわりもありますけど、やっぱり演出家のビジョンや周りの空気をちゃんと受け止めていけるように、視野は常に広くありたいし。なんか…無色というか、色のない存在でありたいなって。
稽古場風景
──そうあるために心がけていることはありますか?
ONとOFFを大事にする。仕事では無色でいられるけど、普段の僕はまったく逆。もうわがままだし頑固だし(笑)、今自分はこうでいたい、ああでいたいって、友だちに迷惑かけてもやりたいようにやる、みたいな(笑)。そこのバランスでしょうね。稽古も自主練も勉強も好きだけど、それだけだったらつまらない人間になってしまうので、一日に一回は自分を開放してリセットできる時間を必ず作り、次へと備えるのが自分のリズムになっている気がします。
──では、今作で特に課題にしていることは?
ジミーズの在り方でしょうか。 自分たちのナンバーがどれだけお客様に印象を残せるか。ジミーズとしての存在をきちんとこなしたいです。トムさんも振付のリーさんも、二人が全てにおいて一緒なのが美しいと、そしてその中でも自分たちの歌では、一緒ではあるがそれぞれの個性が見える、というのができたらいいね、と。 頑張ります! あっ、あと闇の部分はなくして欲しい、ずっと光でいて欲しいと言われているように解釈しました。ですから僕らジミーズはこの「グランドホテル」の光であるよう、歌ももっと明るく、とにかく明るくしていこうと思います!!
──それは…とても重要な任務ですよね。作品の“光”であること。
はい。なので、時代の先を見ているというか、常に周りの人たちとはちょっと違う視点で居られたらいいなと思っていて。今回、ふたつの結末があるということで、同じ歌、同じ台詞、同じシーンでも転換の細かいタイミングだったり、やっぱり演出にも徐々にそれぞれの違いが反映されてきてるんです。やりながら“あ、違う”“ここも違う”、行く先が変わっていくんだなって、今まさにそれを体験しているのもわくわくですし、とにかく稽古が楽しくてしょうがないです。だってもう…みなさんの歌をこんなに間近で観て聴いて、しかも一緒に動けるなんて…こんな幸せな現場ってありますか?(笑)。 俳優だけじゃなく、音楽監督のマイケルさんも歌がすごく素晴らしくて、あの高音はどうやって出しているんだろうって考えながら、盗みながら…いろんな人の稽古のやり方をとにかく見まくっています。充実してます。
──普段から味方さんを応援してくれている方たちにとっては、この『グランドホテル』が本格的なミュージカルとの出会いのきっかけにもなりそうですね。
そうだと嬉しいですね。僕が同年代の役者たちとやっている作品は、どちらかというと若さや勢いに乗ってキラキラ輝く世界を描くモノが多いんですが、そうした舞台とはまた違う作品のカラーを、この機会に楽しんでいただきたいです。経験豊富な先輩方の表現をその目で体験して、僕と一緒に共有して欲しいな、って思います。そして一度観ただけではわからないところも多々あるのではないかと思うので、まずどちらかを観て全体を把握したら、もう一度観て細部を愉しむ。そして違いを味わうためにもう一方も2回観てもらって、最後はGREENかRED、自分が好きになったほうを観て締めくくる。ちょっと欲張りだけど、計5回観てもらうのがベストかな(笑)
稽古場風景 味方良介
──大変! でもそれくらい愉しみどころが盛りだくさんなのは確かです。
5回までいかなくても(笑)、できれば両方のバージョンを観ていただきたいですよね。Wキャストのアプローチの違いも味わい深いですし、僕らシングルキャストもメンバーが違うとどう違って見えてくるのか…と、見比べてみるのも楽しいと思いますよ。
──昨年末の残酷歌劇『ライチ☆光クラブ』や今年最初の舞台『回転する夜』などでの活躍も印象深かったですし、この『グランドホテル』は念願のミュージカル作品への出演。俳優としてはチャレンジングな日々が続きますね。
ミュージカルがやりたいという強い思いは変わりないですが、去年ストレートプレイを結構やったことも、自分にとってはすごく大きなことでした。『回転する夜』でもお芝居の大切さとか面白さを強く実感しましたし、例えばミュージカルを観ていて“この人素敵だな”と思う人がいて、それはなぜだろうって考えると、歌を歌うのでもただ感情を乗せているとか音符の通りに歌うとかではなく、ちゃんとお芝居としてその歌を歌っているからこそこちらに響いて来るものが大きいんです。自分もそういう音符を超えたところにある深い表現ができるようになりたいですし、そうすると基本はやっぱりお芝居なんですよね。だから今はあらためて“もっとお芝居を勉強していきたい”という欲が出ています。その上で、もっともっと歌もダンスもしっかり身に付けていかないと…と。この作品では僕は台詞がほとんどないので、歌の中での居方、ここで生きている、ということを芝居でもしっかり感じて頂けるようにしたいです。このグランドホテルという空間の中で、嘘がない表現を追求していきたいと深く思っています。一生懸命に演じますのでどうぞご期待ください。
〜公開稽古より〜
3月上旬、都内のスタジオで行なわれた公開稽古には多くの取材陣が集まっていた。演出家のトム・サザーランドの挨拶のあと披露されたのは、オープニングナンバーの「The Grand Parade」。豪華なホテルのドラマティックな一夜の幕開けにふさわしい、全キャストが入り乱れる約20分のビッグナンバーだ。
成河率いるREDチーム、中川晃教率いるGREENチームの順で両バージョンのパフォーマンスが展開されると、そこにはすでにそれぞれのカラーが生まれていて…同じ曲でも全体的なニュアンスが異なって聴こえるのが面白い。同時多発に様々な出会いが重なり、事件の種が蒔かれ、無数の人生の歯車が複雑に関係していく。まさに大ホテルのロビーでの喧噪をそのまま写し取ったこのナンバーがこのあと起こるすべてを暗示しているのだから…ついついどこに目をやったらいいのか迷ってしまうほど。実際、情報量の多さにも圧倒され、すでに「やはりリピートは必須かも」という予感も。
楽曲披露後のキャストの表情は一様に晴れやかで、カンパニーがいい空気のなかで創作活動に没入している充実感も伝わって来た。「ふたつのバージョンを同時に上演するという夢のようなアイデアが実現できて嬉しい」と語ったトムからは、楽観的な切り口で希望を抱きながらゴールに向かっていくのがRED、夢や希望が剥奪されていく悲劇的な結末を暗示するGREENと、キャストもこの日初めて明かされたそれぞれのバージョンの行く末についての発表もあり、できたてホヤホヤの日本版『グランドホテル』の最前線を覗き込むことができた。
公開稽古動画
<GREEN>
<RED>
ミュージカル「グランドホテル」
【東京】
赤坂ACTシアター
<GREEN team>
中川晃教/宮原浩暢(LE VELVETS)/戸井勝海/昆夏美/藤岡正明/味方良介/木内健人/大山真志/金すんら/友石竜也/青山航士/杉尾真/新井俊一/真瀬はるか/吉田玲菜/天野朋子/岡本華奈/スペシャルダンサー湖月わたる/光枝明彦/安寿ミラ
<RED team>
成河/伊礼彼方/吉原光夫/真野恵里菜/藤岡正明/味方良介/木内健人/大山真志/金すんら/友石竜也/青山航士/杉尾真/新井俊一/真瀬はるか/吉田玲菜/天野朋子/岡本華奈/スペシャルダンサー湖月わたる/土居裕子/佐山陽規/草刈民代
脚本:ルーサー・ディヴィス
作詞・作曲:ロバート・ライト&ジョージ・フォレスト
追加歌詞・作曲:モーリー・イェストン
演出:トム・サザーランド