GLIM SPANKY、Walkings、Glider 日本のロックシーンに風穴を開けんとする気鋭の3組が集結
GLIM SPANKY / Walkings / Glider
Virgin Rocks 1 2016.3.21 shibuya eggman
「日本にもっともっとロックを」
こんなメッセージがスクリーンに映し出されて開幕した『Virgin Rocks』。今回が初開催となる、Virgin Music所属のアーティストがキュレーターを務める対バンイベントなのだが、今宵はGLIM SPANKYがその意志を共有する2バンド、WalkingsとGliderを招く形で行われた。ここでいう意志とは、ザックリ言うと”自分たちの信じるロックをぶちかまして、メインストリームにしてやろうぜ”というもの。彼らはスタイルの違いこそあれ、流行などどこ吹く風、それでいて懐メロバンドには収まらない鋭い目と感覚を持ち合わせ、それぞれのロックを堂々と叩きつけてくれた。
Walkings
一組目はWalkings。高田風(Vo/G)が「こんばんは、Walkingsです。よろしく」と一言だけ告げ、彼のかき鳴らす歪んだギターと、ポップな出で立ちとは裏腹にヘヴィな吉田隼人のベース、ズドンズドンと打ち抜くような高梨貴志のドラムによるソリッドな、尖りまくった「ロック」からスタート。スモーキーでやさぐれ感たっぷりな高田のヴォーカルはafocやThe Birthdayを彷彿とさせながらも、もっともっとひりついて気怠い。
Walkings
「俺、知ってんだけど。みんなの心の中にまだ眠ってるロック魂があんだよね。目覚めさせてやんよ」と、何とも不敵な宣戦布告からノイズにまみれた剥き出しのロックナンバー「挽回のダンス」「風神とライジング」へ。楽曲タイトル一つとっても、やはりどこか人を食ったようなセンスを感じさせる。もちろん良い意味で。
そんな彼らだが、4月6日に初となるアルバム『穴』のリリースを控えており、後半にはそこからの楽曲を続けざまに投下。中でも、疾走するマイナーコードに強烈なリフと噛み付くような歌声がマッチした「台風」と、歪ませまくったベースと硬質な4つ打ちビートがポストパンク的風合いを感じさせる「無駄」は秀逸で、この日のライヴと新作をキッカケに、より多くの耳に触れる機会が出てきそうなバンドであった。とりわけ、近頃のバンドは貧弱で……と嘆いているそこのアナタには是非聴いてほしい。
Walkings
Glider
続いては2組の兄弟からなる4人組バンド・Gliderの登場だ。一曲目は自らのバンド名を冠した「Glider」。60’s~のブリティッシュロックやブリットポップを引き合いに出されることが多い彼らだが、栗田マサハルのディストーションギターが作り出すウォールオブサウンドと、図太い骨格を形成する椿田リュウジ(B)、ショウヘイ(Dr)兄弟からなるリズム隊に、栗田ユウスケ(Vo/Key)の清冽なピアノと切なげでクリーンなハイトーンが彩りを加えていく図式は、まさにUKロックの系譜といえる。だが、それと同時に日本人の琴線をビンビン刺激するセンチメンタルな歌メロも持ち合わせている。THE YELLOW MONKEYばりに妖しげなグラムロックサウンドと歌謡テイストを融合させた「蘇生」などでも同じことが言える。
Glider
また、マサハルがメインヴォーカルを採る「Glider’s Monkey Job」等の楽曲では文句なしにロックンロールバンドの側面も見せる。少しハスキーな声を張り上げるロック色の強い歌唱が持ち味のマサハルと、メロディアスな楽曲で輝く優しい声質のユウスケ。楽曲によって入れ替わるメインヴォーカルも魅力だが、2人のハーモニーも聴きごたえ十分だ。ありきたりな例えだが、オアシスのギャラガー兄弟を彷彿とさせる。もっとも、栗田兄弟の方は仲が良さそうで、そこは何よりだが。今のところは(笑)。
この日は先日リリースされたアルバム『STAGE FLIGHT』からは3曲のみの披露となったが、現在開催中のツアーでは新作からの楽曲もたっぷり聴けそうで、思わず足を運んでみたくなる、そんなステージを見せてくれた。
Glider
GLIM SPANKY
ラストはこの日のホスト役、GLIM SPANKYが堂々たるパフォーマンスを展開してくれた。挨拶代わりに、堂々たる疾走感にあふれた「ワイルド・サイドを行け」を叩きつけ、「焦燥」へと繋ぐ。60’s風の花柄のワンピースに赤いリッケンのギターをさげた松尾レミは、ポーカーフェイスを崩さずに刺すような目線で客席を見据えながら、代名詞のハスキーボイスを響かせていく。低く抑えた「焦燥」の歌い出しなど、思わずゾクッとさせられるほど雰囲気があるし、高音部の伸びも素晴らしい。亀本寛貴(G)も松尾の存在感に一歩も引けを取らず、リフにソロに、時折アドリブも交えながら自在なギタープレイを見せる。思えばキッズのヒーローたるギタリストが不足して久しいが、革のライダースを着てレスポールを振り回す亀本のステージングとテクニックは、十分にその資格がありそうだ。
この日のセットリストは新旧バランスよく人気曲を押さえながら、ところどころに変化をつけていく構成となっており、オリエンタルな色彩を感じるブルース「MIDNIGHT CIRCUS」や、イントロから最前列まで出て大きな盛り上がりを見せた「褒めろよ」、最新作に収録のヘヴィな縦ノリとシンガロングでフィジカルな興奮を味あわせてくれた「NEXT ONE」など、一言にロックといっても様々なタイプの楽曲を、しっかりGLIM SPANKY色で演奏していく。ルーツ音楽への深い理解とそれを血肉とできる音楽的センスはやはり特別なものがある。
GLIM SPANKY
ライヴも後半にさしかかり、「リアル鬼ごっこ」で盛り上がりのピークを迎えたところで、ようやくMC。冒頭から実に9曲を連続投下していた。
「好きなバンドを呼んで良いと言われたので、好きなバンドを呼びました。最高だったでしょ?」
松尾の呼びかけに客席から大きな拍手が起こる。見渡せば、老若男女幅広いオーディエンスが詰めかけており、それこそ3バンドのルーツをリアルタイムで経験していそうな初老の男性もいれば、ほかのライヴ会場で大半を占めるような10代と思しきキッズもいて、親子連れなんかもいる。これは彼らが目指そうとする、時代を超えてスタンダードになり得る本物のロックが、着実に拡がりを見せはじめたことの表れではないだろうか。松尾はこう続けた。
「ここにいる全員が、(出演した)みんなのファンになれば良い……それがシーンになるでしょ。勝手に使命感を持ってやってます」
力強いその言葉は、いつか今夜の『Virgin Rocks』が、数年後の音楽シーンを引っ張るアクトたちが集った伝説的一夜として語られるかもしれない、そんな期待まで抱かせてくれた。
本編最後は「大人になったら」。ロックを標榜するイベントだけあって、全体的に激しめのセットリストであったが、GLIM SPANKYのもう一つの魅力である叙情的なメロディの良さを、しっとりとそれでいてエモーションたっぷりに歌い上げて本編を締めくくった。
GLIM SPANKY
アンコールでは全バンドがステージに登場して、プレミアムなセッションを披露することになり、選ばれた楽曲はビートルズの「Hey Jude」だ。松尾とユウスケ、高田が代わる代わる主旋律とコーラスを担当し、亀本とマサハルがギター、その他のメンバーも思い思いの打楽器などを打ち鳴らしながら、不朽の名曲をとびきりピースフルに奏でていく。そしてラストの<NA NA NA~♪>のリフレインが心地よい余韻を場内に残す中、終幕を迎えた記念すべき一回目の『Virgin Rocks』。今後の展開はまだアナウンスされていないが、贔屓のバンドのライヴというだけでなく、未知のミュージシャンとの出会いの場にもなるこのイベント、次回開催は誰が誰を呼び、どんな空間が出来上がるのか、今から楽しみだ。
レポート・文=風間大洋
GLIM SPANKY / Walkings / Glider