水の都の春に舞う~「第五十五回 金春松融会春の会」観劇レポート

レポート
舞台
2016.4.12
シテも舞い、桜も舞う(撮影:u1729)

シテも舞い、桜も舞う(撮影:u1729)

 

桜満開の4月3日(日)、江戸時代初期より熊本の神事能を支えてきた金春流の能の会が、熊本市の水前寺成趣園(水前寺公園)で開催された。

主催・演能ともに金春松融会で、毎年春に行われている例会である。公園内にある能楽殿に於いて、一門総出演、三時間に及ぶ見応えのある会となった。

(撮影:u1729)

(撮影:u1729)

当日はまさに花曇りと呼ぶにふさわしい、やや冷え込んだ曇天模様。
観客は数十人ほどで、お歳を召したご夫婦、親子、若いカップルと老若男女まんべんなく、フランス語を話されていた外国人カップルもいて、なかなか盛況のようであった。
午前11時、会は一門全員での連吟“鶴亀”より始まり、若手による仕舞へと進んでいく。

金春流は奈良を根拠地とする流派で、下掛かり諸流(観世、宝生の上掛かりに対して、金春、金剛、喜多の三流をいう)の中で最も古い家柄と格式をもつと言う。
豊臣秀吉や加藤清正などに愛され栄えたが、江戸時代以降は徳川家と縁のある観世流に押され、熊本など一部の地域で継承されている。
熊本市は水の都ととも言い、市内のあちこちに阿蘇の伏流水が噴出している。人口50万人以上の規模を地下水だけでまかなっている都市は、世界でも熊本市だけである。
水前寺公園にも豊富な地下水が湧出し、その有様を“雄渾”と表現することもある。“雄大で勢いのよい”とか“書画・詩文などがよどみなく堂々としていること、そのさま”と言う意味である。
そして金春流の特徴をひと言で表すと、まさに古来の型を残した“雄渾”な型、自在闊達な謡と言うことであり、熊本の地にふさわしい流派であるようだ。

(撮影:u1729)

(撮影:u1729)

(撮影:u1729)

(撮影:u1729)

桜舞う中、次々と演者が変わり、演目が変わり、進められていく能の会は、季節的な効果もあり、なんとも幽玄な雰囲気に満ちている。
『熊野』『田村』と言った桜にちなんだ演目がよく似合い、思わず引き込まれる。

会が進むと、中堅や師匠たち、達者が登場し、俄然見応えが出て来る。
特に先月稽古を拝見させていただいた田中秀実さんの『舟弁慶』は、稽古時よりさらに構えが大きく、弁慶にふさわしい力強さがよく表現出来ていた様に感じられた。

『舟弁慶』(撮影:u1729)

『舟弁慶』(撮影:u1729)

また築地豊治師匠の『清経(曲)』は重心の低い風格ある舞で、さすがと思わされた。なにより姿形が美しく、色気があった。

『清経(曲)』(撮影:u1729)

『清経(曲)』(撮影:u1729)

会の途中で、後ろの席で若いカップルが「まるでモノクロの世界ね」とおっしゃっていたが、それも「時間を忘れるようで幻想的」と言う意味であろう。
公園のすぐ外の県道には市電やバスが走り、普段と変わらない生活が営まれているはずだが、能楽殿の周辺では非日常的な時間が流れているようだった。
しばし浮世を忘れて、幽玄の世界に遊ぶにはうってつけの会だったと思う。
来年の春が早くも楽しみになった。



第五十五回 金春松融会春の会
■主催:金春松融会
■公演日時:4月3日(日) 午前11時~
■会場:出水神社能楽殿(熊本市・水前寺成趣園) 熊本市中央区水前寺公園8-1 http://www.suizenji.or.jp/map/3-4.html
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