夏はアートが身近に楽しめるデパート企画展が続々!

レポート
アート
2015.8.7

あなたは、アート作品を買ったことがあるだろうか? 「そんな高いモノ、とてもとても…」と尻込みする人も多いはず。でも、もしそれが手頃な値段で買えるとしたら、いかが!? いま日本橋三越で開催されている「エンジョイ!アートフェス☆」は、そんな気軽にアートが買える企画展なんです。

夏らしいアートグッズがたくさん!

夏真っ盛りの時期ということもあって、涼感のある作品が並んでいます。うちわ、ガラス器、掛け軸……。価格はだいたい数千円〜。美術品というと通常は数十万〜数百万円以上が相場なので、かなりリーズナブルに買うことができます。

 
ほとんどは新進気鋭の作家たちによる作品なのですが、実用的なものが多かったり、技法がちょっと変わっていて、「ん!? これは!?」と興味を促されるものばかり。通りかかった中高年のおじさん・おばさんも思わず、熱心に見入ったりしています。そんなお客さんに、スタッフが寄り添って作品の解説もしてくれます。

 
デパートの美術品売り場というと、どうしても“お高い”イメージがあって近寄りがたい雰囲気があります。でも、ここはもっとカジュアルで身近にアートと接することができるんですね。


アートとの出会いを演出するアート・プロデューサー

実は、このイベントを企画したのはアート・プロデューサーの石橋圭吾さん。近年そのユニークな活動で知る人ぞ知る存在なんです。

 
そもそもは石橋さん自身もアーティストでした。京都で写真家やミュージシャンとして活動し、個展を開いたりして、友達にもアーティストが多かったのだそうです。それで、みんなのポートフォリオ(作品資料をまとめたファイル)を共有して閲覧できるギャラリーカフェ「neutron(ニュートロン)」を営業していたら、それが人気となって登録アーティスト数がのべ700人余りに増加。人の輪が広がり、様々なイベントを開催するようになったそうです。
 
さらに、東京・青山に企画ギャラリー「neutron tokyo」(ニュートロン・トーキョー)を開店して、期待の若手作家を数多く紹介しました。あるいは京都のホテルを借り切って独自にアートフェアを開催したり、海外のアートフェアにも積極的に出展したりと、めまぐるしい活動を展開してきました。
 

お寺も茶の湯も、昔は気軽に交流する“場”であった

しかし、アート界でも注目されていた「neutron」は、2012年末に京都・東京のギャラリー営業を終了。2013年からは「白白庵」として、企画事業にシフトしました。その理由を聞くと、「アートをもっと一般の人に楽しんでもらいたかったから」という答えが返ってきました。

 
どういうことかというと、一言にアートといっても「その業界内には既存のジャンル分けがあって、世界が閉じられている」のだそうです。すでに評価の定まったアーティストやファインアート(高額な美術品)だけを取り扱う美術商やコレクター、技法別のジャンル(日本画・洋画・彫刻・工芸・書道など)や、系統(師弟関係など)によって固定化されてしまっている美術業界の体制の中では、一般の人が純粋に作品と向かい合い、気軽にアートを楽しむことができないと感じたのだそうです。アートフェアをやっても、結局、来場者はアート関係者に限られてしまう。そのため、さらなる新たな展開を目指し、業態を変えて、生活の中にアートが入っていくようなアプローチを目指しているということです。

 
時々ギャラリーしても営業する「白白庵」では、アート作品とともに楽しむ「利き酒会」や交流会としての「お茶会」を催したり、お寺でのイベントを開催したりと、実に様々な取り組みにチャレンジしてきました。「昔はお寺も茶の湯(茶道)もそのようなものだった」と石橋さんは言います。好感度な人たちが集い、語らい、楽しむ“場”。そうした“場”が、昔はアートや文化を育んでいったのだと…。

デパートの空気が変わった

こうした考えをもっとストレートに押し進めたのが、今回のようなデパートでの企画。専門家や関係者ではない一般の人に、もっとアートの魅力を伝えたい、楽しんでもらいたい。会場からはそんな石橋さんの思いがジワッと伝わってきます。通常のデパートには美術品を専門に扱う美術部(美術画廊)がありますが、美術フロアに行く客層は限られるという判断から、現在はあえて階下のリビング売り場での催事を行っているのだと言います。

 
実際、エスカレーターを降りたところにある正面のスペースは、デパートの中でも誘客効果が抜群に良いスポットです。そのスペースを任されて、百貨店とともに企画ができるのは、それだけ石橋さんに対する期待や信頼が高い証でもあるでのしょう。

 
そして、この日(7/31)は双子の姉妹アーティスト、三尾あすか&あづちのお二人によるライブペインティングが行なわれていました。

 
相手の描いたモチーフに応えるようにキャラクターを付け足していったり、あるいは塗りつぶした上から描き直して行ったり、様々なモチーフとカラフルな色合いが次第に増殖し広がっていく様子が見ていて楽しい公開制作でした。
 
通りがかりのお客さんがしばし眺めたり、手前に展示した作品を手に取って買って行ったり、デパートに流れる空気が普段とは違って見えます。何より一番影響されているのは、すぐ近くにある洋食器売り場の店員さんたちだったのではないでしょうか?いつもと違う人の流れに見に行きたくても自分の売り場を離れるわけにもいかず、「何やってるのかしら?」とずっと視線を投げかけていました(笑)。
 
石橋さんはこうした企画展を今後も続けて行くそう。この後はすぐに伊勢丹新宿店で企画展「とんがりのススメ Let's TONGARI!!」(8/12〜24)を予定しています。見知らぬアートとの出会いが心を豊かにしてくれるかもしれない。この夏はデパートに自分好みのアートを見つけに行ってみたらいかが!?

イベント情報

日本橋三越本店企画「エンジョイ!アートフェス☆~こどもから大人まで楽しむ夏休み~」
http://www.pakupakuan.jp/event/mitsukoshi_enjoyartfes.html
日時:2015年7月29日(水)~8月11日(火) ※会期中無休
会場:日本橋三越本店本館5階リビングステージ&スペース#5
出展作家(五十音順・敬称略):伊豆野一政(陶芸 / 東京)角居康宏(金工 / 長野)赤部夏美(t nouge)(アクセサリー / 滋賀)富田啓之(陶芸 / 神奈川)名手宏之(紙工芸 / 神奈川)星川あすか(陶芸 / 東京)三尾あすか&あづち(絵画、立体ほか / 大阪・京都)やまだあやこ(misin-ya)(刺繍バッグ / 滋賀)吉田延泰(ガラス / 兵庫)企画:石橋圭吾(白白庵|有限会社ニュートロン)
※ユーモア溢れる造形で人気の星川あすかによる店頭公開制作あり。8/4(火)・5(水)・7(金)・8(土)・9(日)の14:00-17:00(※途中休憩あり)@会場内リビングステージにて。
 
伊勢丹新宿店企画「とんがりのススメ Let's TONGARI!!」
http://www.pakupakuan.jp/event/isetan_tongarinosusume.html
日時:2015年8月12日(水)~8月24日(月) ※18日(火)は休館日
会場:伊勢丹新宿店本館5階センターパーク/ザ・ステージ#5
出展作家(五十音順・敬称略):古賀崇洋(陶芸 / 鹿児島)赤部夏美(t nouge)(アクセサリー / 滋賀)大福志織(陶芸 / 滋賀)Task Q(絵画 / 神奈川)田村一(陶芸 / 秋田)前川多仁(染織 / 京都)山尾光平 a.k.a. BAKIBAKI(アート&デザイン / 東京)やまだあやこ(misin-ya)(刺繍バッグ / 滋賀)山田浩之(陶芸 / 滋賀)ディレクター:石橋圭吾(白白庵|有限会社ニュートロン)
※フリーハンドで描く「BAKI 柄」で縦横無尽に空間を支配するアーティスト、山尾光平 a.k.a. BAKIBAKIの公開制作あり。8/12(水)15:00-18:00(※途中休憩あり)、会場センターパーク/ザ・ステージ#5にて。
 
 
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