近藤良平(コンドルズ主宰、振付家、ダンサー)“アニバーサリーイヤー”におくる新作 大いに期待
近藤良平 (写真:吉田タカユキ)
近藤良平率いるコンドルズは学ラン姿で踊る男達。じつに20年にわたって愛され続けているのは、驚異的といっていい。そんな彼らが、ほぼ毎年新作公演を重ねているのが彩の国さいたま芸術劇場である。しかも今年は10作目という節目の年だ。
「この劇場はピナ・バウシュやイリ・キリアンといった『コンテンポラリー・ダンス王道の人達が上演する』というイメージ。他のメンバーはともかく、僕だけは『我々がここでやっていいのか』と密かにプレッシャーを感じていましたね(笑)」
ただ、そこには劇場なりの熱い思いがあったと近藤は語る。
「この劇場のダンス公演は海外招聘ものが多かったので、佐藤まいみプロデューサーは日本のアーティストにも登場して欲しいと考えていたようです。いまでも覚えているのは、佐藤さんの『これまでにないダンスで新しい観客を作っていきたい』という言葉。地元の人は、蜷川幸雄さんの演劇のついでにダンスも観に来たという感じでした。だから作品中に埼京線とかローカルな話題を混ぜて、地元の観客の反応を測っていたんですが(笑)、確実に増えている実感がありましたね。ロビーでも『来年もあったら観に来るわー』と声をかけてもらって、埼玉は温かいお客さんが多い。東京近辺でも、これだけ強固なタッグを組んでやってくれる劇場はないですから」
第1回公演『勝利への脱出 SHUFFLE』(2006年)以降、この10年間で、印象に残っている公演は何だろうか。
「第6回の『十二年の怒れる男』(12年)ですね。それまではやはりコンドルズの得意な手法で楽しんでもらう、という作り方でした。しかし前年に東日本大震災が起こって、色んな意味で『怒って』いたんだと思う。ドラマティックすぎて封印していた曲『ボヘミアン・ラプソディー』も丸々使ったシーンを作ったり、『これを言いたい、伝えたいんだ!』という気持ちが、自分で思っていた以上に出ていました。コンドルズの作品としては、ひとつ次のページをめくった、という感じがしますね」
震災の直前、彩の国さいたま芸術劇場は改修工事に入っていた。改修前の最後の公演を飾ったのがコンドルズ『ロングバケーション』(11年1月)だったのである。その2ヶ月後の震災発生時は工事で休館中だったため、観客に影響はなかった。しかし近藤の胸には、強い衝動が沸き上がってきたという。
「それ以降の『アポロ』(13)、『ひまわり』(14)、『ストロベリーフィールズ』(15)は、勢いだけじゃなく、強く訴えかけるシーンが必ずあります。『ひまわり』では舞台一面のひまわり畑を作って、その中で踊りました。鎮魂とか葬送というつもりはないけど、深い奥行きの舞台の向こうから、ひまわり畑がゆっくりと前に出てくるシーンは忘れがたいですね。翌年の『ストロベリーフィールズ』では舞台中に十字架が現れて、その中で踊る。『格好いい、面白い』ではなく、やるべき事をやる、という思いが強いんです」
今回のタイトルは『LOVE ME TenDER』。もちろん10周年にちなんだネタが盛りこまれることになるだろう。今年はコンドルズも20周年を迎える。
「タイトルはだいたい映画や歌に関連していますが、その時点で頭の中に引っかかっていた言葉。世代によって浮かぶイメージが違うのが面白いですね。うちは特殊技能を持つメンバーがそれぞれの技を持ち寄って作る作品なので(笑)、いま作っている最中です。若いメンバーとは2世代くらい離れているので、互いに乖離しないよう積極的に介入していきます(笑)」
近藤にとって、彩の国さいたま芸術劇場とは、どのような場所なのだろうか。
「この劇場は不思議なところで、様々なダンスシーンが、必ずこちらが狙った以上の、心に残るものに変わっていくんですよ。機構や照明など、まだまだ使い切っていない魅力が一杯ある。この劇場だからこそ見せられるシーンが、数々あります。ぜひ、お越しください!あと『ひまわり』で使った約2000本の造花がまだうちにあるので、誰か何とかしてください(笑)」
取材・文:乗越たかお 写真:吉田タカユキ
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年5月号から)
6/18(土)14:00 19:00、6/19(日)15:00
彩の国さいたま芸術劇場
問合せ:彩の国さいたま芸術劇場 0570-064-939
http://www.saf.or.jp