ズービン・メータ、80歳を自らの指揮で祝う

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クラシック
2016.5.9
まったく老いを感じさせないズービン・メータも「傘寿」を迎えた (c)Marco Brescia / La Scala

まったく老いを感じさせないズービン・メータも「傘寿」を迎えた (c)Marco Brescia / La Scala

昨年末「ズービン・メータのキャンセルのため小澤征爾がベルリン・フィル定期に復帰」と報じられ、4月に開催された演奏会が大成功に終わったことは皆さまもご存知だろう。しかしながら、このとき演奏会を小澤に譲った格好になったズービン・メータの事情はほぼ伝えられず、心配された方もいらしたのではないだろうか。なにせ、メータと小澤はまったくの同世代、若き日から活躍を続ける彼も言ってみれば高齢のマエストロなのだから。

しかし、公演を前に発表されたそのキャンセルの理由は意外なもの、「自身の80歳のためのスケジュール変更のため」だった。そう、ズービン・メータは2016年4月29日に誕生日を迎え、80歳になった。イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団とのコンサート・シリーズは、縁の深いイスラエル、そして出身のインドで多くのゲストを招いて4月11日から開催された。記念すべき誕生日を自らの指揮で祝うそれらの演奏会はWeb配信もされ、メータの健在ぶりを世界の音楽ファンに伝えている。

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インドの、ゾロアスター教徒の家庭の出であることは、ズービン・メータをクラシック音楽の伝統の外から登場した、ある意味エキゾチックな存在に見せていたかもしれない。だがズービンはインドを代表する偉大な指揮者メーリ・メータの子として音楽家一家に生まれ、長じてウィーンでハンス・スワロフスキーの元で学び(つまりクラウディオ・アバドと同門なのだ)、と経歴を見れば彼はキャリアのはじめから伝統的なクラシック音楽の教育を受けた、才能ある指揮者として登場している。

彼の活動を長く見続けてきたファンには、彼は若い時期からモントリオール交響楽団、ロサンゼルス・フィルハーモニック、そしてニューヨーク・フィルハーモニックと歴任し、と北米大陸での活躍が印象深いところだ。しかしフィレンツェ、バイエルンでのオペラハウスの仕事も長いことを見逃してはならないし、ベルリン・フィルの定期演奏会にもキャリア初期より常連として登場し、恒例のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートには五回も指揮し名誉団員として遇され……とその華麗なる経歴を見れば誰もが彼を”クラシック音楽界を代表する巨匠”と認めることだろう。また、80歳の誕生日を祝うコンサートでも共演したイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団との関係は特にも深く、1981年からは終身の音楽監督として、数多くの歴史的演奏会を成功させている。

その彼が、この秋ふたたびウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と来日公演を行う。サントリーホール開館30周年を記念するガラ・コンサート、そして東京、大阪、川崎で開催される一連の「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2016」はメータの80歳、そしてサントリーホール30周年を祝うフェスティバルとしてこの秋最大の話題を呼ぶことだろう。「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2016」のは5月15日(日)から一般発売されるが、相当に厳しい争奪戦となることはご覚悟いただきたいところだ。


(ズービン・メータ80歳を記念し、彼のキャリアを振り返る動画がバイエルン放送YouTubeチャンネルに公開されている:ドイツ語)

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さて、定期演奏会を「共通の友人」小澤征爾に譲った格好になったズービン・メータとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団だが、その後関係が悪くなったかといえばそんなことはまったくない。現地時間4月28日に発表された2016/2017年シーズンの定期演奏会ラインナップの中で、2017年3月に二つのプログラムを指揮しての彼が再登場すると告げられた。きっとその時、ベルリンは約一年遅れの生誕80年を祝うのだろう。今後のさらなる活躍を期待し、ここにマエストロの80歳をお祝いさせていただきたい。

公演情報
ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2016

■東京・サントリーホール 10月7日(金) 19:00開演、10月10日(月・祝) 16:00開演、10月12日(水) 19:00開演
■大阪・フェスティバルホール 10月6日(木) 19:00開演
■川崎・ミューザ川崎シンフォニーホール 10月9日(日) 18:00開演

■出演者:
指揮:ズービン・メータ
ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー(10/7)
独唱:吉田珠代(ソプラノ) 藤村実穂子(メゾソプラノ) 福井 敬(テノール) フランツ=ヨーゼフ・ゼーリッヒ(バス
合唱:サントリーホール30周年記念合唱団(10/12)
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

■曲目:

・10月6日、10月10日
モーツァルト: 交響曲第36番 ハ長調 K425 「リンツ」
ブルックナー: 交響曲第7番 ホ長調 WAB107

・10月7日
ブラームス: ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 op. 15
ドビュッシー: 交響詩『海』-3つの交響的スケッチ
ラヴェル: ラ・ヴァルス-舞踊詩

10月9日
モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
ドビュッシー:交響詩『海』-3つの交響的スケッチ
シューベルト:交響曲第8番「グレート」

・10月12日
モーツァルト: 交響曲第36番 ハ長調 K425 「リンツ」
ベートーヴェン: 交響曲第9番 ニ短調 op. 125 「合唱付」


 

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