五嶋 龍(ヴァイオリン) 今回は、フィラデルフィア管の素晴らしい音色を楽しみたい

インタビュー
クラシック
2016.5.18
五嶋龍 ©Ayako Yamamoto UMLLC

五嶋龍 ©Ayako Yamamoto UMLLC

 世界的な人気ヴァイオリニスト・五嶋龍が、アメリカの名門フィラデルフィア管弦楽団の日本ツアーで、武満徹の「ノスタルジア」とプロコフィエフの協奏曲第1番を弾く。これは本ツアーの大きな聴きどころだ。
 ニューヨーク在住の五嶋だが、フィラデルフィア管と指揮のヤニック・ネゼ=セガン共に今回(日本ツアー直前にマカオで公演)が初共演となる。
「フィラデルフィア管は、CDでずっと聴いていました。特にアイザック・スターンがオーマンディの指揮で弾いたプロコフィエフの協奏曲第1番は、この曲を最初に聴いた録音で、いまだに大好きなんです。しかし、ニューヨークにはジュリアード音楽院、フィラデルフィアにはカーティス音楽院を中心としたネットワークがあり、互いにライバル心をもっています。ですから、どちらにも在籍しなかった私が共演できるのは、彼らが私のことを認めてくれたからかもしれないと、光栄に思います。また、ネゼ=セガンは若い音楽監督なのに、就任後からオーケストラの評判が凄く上がりましたから、相当力のある優れた指揮者に違いありません。共演が楽しみです」

 アメリカの楽団との日本ツアーも初めてだ。
「アメリカのオーケストラは、どうしても身近に感じます。アメリカンな英語が通じるからかもしれませんし、音楽家が自由で、ヨーロッパの文化を取り入れながら、自分たちのアイデンティティを作り上げている。特に著名オーケストラからのメッセージはダイレクトに伝わってきます」

 武満の「ノスタルジア」には、日本的なものを感じるという。
「タイトル通りの“追憶”を感じさせる曲ですよね。武満の場合は、モティーフやパターンの並びやサウンド・エフェクトを組み合わせることで、そこから恋しい感情が生まれてくるのが凄い。直接は表れないけれど無意識の内に恋しさが出る、一見冷めていながら内面では何かを感じているというのが、彼の素晴らしさだと思うのです。いわばモノクロの写真から色彩感を想像させるようなイメージ。それは外国人から見れば非常に日本的に感じるのでしょう」

 プロコフィエフの1番は、「絶対に弾きたかった曲」だ。
「スターンの録音を聴いて、こんなに素晴らしい曲があるのか! と思いましたが、曲の知名度や演奏時間の関係から弾く機会がなかったので、今回の共演はとても嬉しい。最初のテーマがとても大事で、それが何度も繰り返され、皮肉な部分を経て、最後にはまた素直になる。私のイメージとしては、『薄暗い林の中を歩いていて、知らない鳥や野獣の鳴き声を聞き、孤独を感じる』といったファンタジー。亡命したプロコフィエフが古き良きロシアを懐かしんでいるのかなとも思いますが、そうしたものが音色やハーモニーで表されている、天才的な曲です。特にスターンの演奏は凄いですよ。“ミステリアスで哀愁がある”のがよくわかります」

 ちなみに大阪公演(6/2)のみ、2曲を続けて演奏する。「音楽を聴く場合、次の曲とのコントラストを感じる部分が大きいので、弾き方や雰囲気を変えないといけない」と言うから、1曲の時とは違った感触を味わえるはず。いずれにせよ、共演者も演目も全て初という今回のツアーは、彼の未知の面を知り得る興味深い公演となる。

取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年5月号から)


ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
フィラデルフィア管弦楽団
共演:五嶋龍(ヴァイオリン)

6/2(木)19:00 フェスティバルホール
6/3(金)19:00、6/5(日)14:00 サントリーホール
6/4(土)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問合せ:カジモト・イープラス0570-06-9960
http://www.kajimotomusic.com



 
他公演(オーケストラのみ)
5/31(火)東京文化会館(都民劇場03-3572-4311)

 
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