ドラゴンクエスト生誕30周年 『ドラゴンクエストと僕』

コラム
アニメ/ゲーム
2016.5.27
 © ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

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本日5月27日、あの『ドラゴンクエスト』が生誕30周年を迎えた。
発売日にこのソフトを買っている僕も相対的に30個歳をとったということだ。間もなく40になろうというのに未だにアニメやゲームが好きで、それに纏わるお仕事をさせてもらっている。

これは幸運なことなのだろうが、小学生の僕から見た30すぎの大人はそれはそれは立派で、子供も居て家庭を持ち、漫画やアニメやゲームなんて目もくれない、という印象があった。しかしいざ自分が30代後半になってみると、僕の周りにはアニメやゲームやコミックが溢れかえっている。アニメは夕方の「こどもまんが」から深夜に放送される大人向けのものになり、コミックも世界的に展開される日本を代表するコンテンツになっている。

いつからこのシフトは起こっているのだろうか? 僕はそのキッカケの一環を担っているのが『ドラゴンクエスト』なのだと思っている。

1986年5月27日の事を僕はとても良く覚えている。

僕の父は僕にとても甘い父親だった。母の目を盗んで二人で街に出た時におもちゃをねだると「ママには内緒だぞ」と言いながらこっそり買ってくれる……勿論帰ったらそのおもちゃで遊ぶわけだからすぐバレて怒られるのだが。

その時も僕は学校から帰ってきて父親と出かけて、おもちゃ屋に向かった。少年ジャンプで情報が出て気になっていた『ドラゴンクエスト』、こっそり父に買ってくれとねだっておいたのだ。

男の子で「剣」や「冒険」、「ドラゴン」が嫌いなやつなんて居ない。大人になったって好きなんだから間違いない。

その好きなものがドラクエのパッケージには全部つめ込まれていた、未だに僕はドラクエのメインビジュアルとしてはドラクエⅠに勝るものは無いと思っている。あの鳥山明先生のイラストにはドラクエがドラクエである全ての理由が完璧につめ込まれている。

「大事にするんだぞ、嬉しいか?」父はそう言って僕の頭をなでた。とても嬉しかった僕は「ありがとう」と答えたのを鮮明に覚えているのが何故か不思議だ。忘れていることも山ほどあるのに、こういう何気ない思い出ばかりが美しく輝くのは僕が年をとったからなのだろうか。

そこからのアレフガルドでの冒険の旅は楽しくも過酷なものだった。少しづつ強くなる僕の勇者、なかなかどうのつるぎを買える180ゴールドがたまらない感覚、ローラ姫を救うために戦ったドラゴンとの緊張の一戦。ドムドーラでのあくまのきしに負けた時の悲しみ、竜王の城で道に迷い、なかなかロトの剣を手に入れられなかったこと……全部忘れられない思い出だ。

自分自身がゲームのキャラクターとして冒険ができるというのも新しかったが、何よりも最初はスライムにすら苦戦していた勇者が最後にはあの強大な竜王をも打ち倒すほど強くなる。それは紛れも無く数字という形で表現された「成長」であり、プレイヤーである僕達もあの世界に精通し、成長していた。

厳密に言えばドラクエ以前にもコンピューターゲームとしてのRPGである『ウィザードリィ』や『ウルティマ』、国産ゲームとしては『夢幻の心臓』シリーズなどもあったが、それらとドラゴンクエストの明確な違いは「敷居の低さ」と「家のテレビでプレイできること」だと思うのだ。

ドラゴンクエストの世界は、ハードなRPGの世界に身をおいていた当時のゲーマーからすると親切すぎるほど親切だ。きっちり人々の話を聞き、経験を積めば必ず世界を救える。それは小学生だった僕達から大人までだ。それだけの間口の広い冒険を家のテレビで行える。誰かがゲームをしているとみんなでその画面を見る。あの時に僕たちは「ファンタジーの世界を共有する」という楽しみを知ったんだと思う。

学校に行けばドラクエの情報交換と「どこまで進んだ?」という自慢話が飛び交う、それはまさに80年代アーケードゲームの世界で行われていたゲームに対する情報交換と同じものだった。『ゼビウス』、『ドルアーガの塔』などの情報はゲームセンターで飛び交い、噂が流れていく。狭いコミュニティで行われていた会話が日本中の学校で行われたのだ、これはある意味革新だったと思う。

ドラゴンクエストをキッカケとして、大人も子供もファンタジーの世界で冒険し、創作し、遊ぶことが許された、僕は少々乱暴だがそうだと思っている。

あれから30年が過ぎた。僕は38歳になり、僕がキラキラした目で「やっとほのおのつるぎが買えたんだよ!」と言ったら、わからないながらも自分のことのように喜んでくれた父ももう亡くなった。ゲームを取り巻く環境は大きく変わり、子供たちの情報交換のうわさ話はネットでのコミュニケーションにすり替わった。

それでもドラゴンクエストは未だ終わらない。シリーズは新たなステージに向かい進化し続けているし、何よりも生みの親の堀井雄二先生も未だお元気だ。

僕の周りも「そろそろ結婚しろよ」とうるさくなってきた。僕の子供が生まれる時はドラゴンクエストはいくつまで発売しているのだろうか? そして僕の子供もいつかドラゴンクエストをプレイする日が来るのだろうか?

その時はあえてファミコンの実機を持ってきて、初代ドラゴンクエストのカートリッジを差し込もう、接触が悪ければ端子に息を吹きかければいい、きっと最新作と同じロトのテーマが流れるはずだ、そして僕は子供に言うのだ。

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「コレが始まりなんだよ、お前のおじいちゃんがお父さんに与えてくれた大事なものなんだ」

伝説は世代を超えて受け継がれる、ドラゴンクエスト30周年、龍を探す冒険の旅は終わらない。


30周年、心からおめでとうございます。
SPICEアニメ・ゲーム編集長 加東岳史

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