エマの恋と涙に、忘れていた記憶が甦る! 濱田めぐみ主演『Tell Me on a Sunday』稽古場レポート
エマ役の濱田めぐみ
いよいよ今週10日(金)から開幕となる『Tell Me on a Sunday ~サヨナラは日曜日に~』。間近に控えた初日に向け、稽古場はますますヒートアップ。主演にして人生初のひとりミュージカルに挑む女優の濱田めぐみも一層気合いの入った表情で稽古に励んでいる。
今回は、そんな稽古場の通し稽古の模様をレポート。濱田本人のインタビューと合わせて、『Tell Me on a Sunday ~サヨナラは日曜日に~』の世界を覗いてみてほしい。
■つくづく役者ってけったいな職業だなって思います(笑)。
――初日が近づいてきましたが、現在のお気持ちは。
稽古が始まった段階から、もうずっと「ひとりでミュージカルってどうやるの?」という感じで。普通のミュージカルなら袖に入って休む時間があるじゃないですか。だけど、この作品はそれがない。ずっと舞台上に立ち続ける。ミュージカルとも音楽劇とも違うような、「これ、何のカテゴリーだろう?」って思いながら稽古をやっています(笑)。
――今までとまったく違う感覚なんですね。
だから初日の反応が私自身もわからないんですよ。たぶんお客様も最初はどんなふうに受け取ればいいか戸惑われるだろうなって。長く舞台をやっていると、舞台に立った瞬間のお客様の空気感で、ここからどう転がしていけばいいか予想がつくものなんですけど、今のところこれに関してはまったく作戦が立てられない。
――じゃあ、初日が結構怖いんじゃないですか。
怖いというか、本当にできるんだろうかっていう段階はもう通り過ぎて。今はどういう感じでお客様とコミュニケーションをとりながら終盤まで持っていけるかということに興味がある感じですね。
――コンサートに近いのかなという気もしていたのですが。
私も最初はそう思ってたんです。でも全然違った。コンサートってお客様ありきだから全部の意識が外に向いているんです。でも、この作品の場合、段取りが多いから、意識を外に向けると台詞が飛んじゃう。だからすごく自分自身に集中しています。それに、ひとり芝居ともまた違っていて。ひとり芝居だと台詞は自分のテンポで喋れるじゃないですか。けれど、ひとりミュージカルの場合、次から次へと曲が続いていく。自由に気持ちの余白を持たせられるところが皆無なんです。曲に合わせて自分の気持ちをつくっていかなくちゃいけない。音楽主導だから尺が短くなることも長くなることもないんですね。そこに生の感情を無理矢理つめこまなければいけないのが難しい。つくづく役者ってけったいな職業だなって思います(笑)。
■エマはかさぶたがとれないうちに、また怪我しちゃうような女の子(笑)。
――ここがすごいという見どころなどあれば教えてください。
やっぱり音楽ですね。アンドリュー・ロイド=ウェバーの楽曲って譜面を見ただけじゃ難しくてわからないんです。音符も全部オタマジャクシに見えるだけ(笑)。実際にオーケストラのみなさんが音を出して、私が喋って、それが融合して初めてどういう曲なのかわかる。それを70分もひたすら歌い続けるんです。普通の3時間の舞台をやっているよりもエネルギーを使うかもしれません。
――エマとご自身を比べて似ているところや違うところなどありますか。
エマは痛い目に遭ってもその傷が癒えないうちに次に行っちゃうんです。かさぶたがとれないうちに、また怪我しちゃうような女の子(笑)。彼女は、それが茨の道でもぬかるんだ道でも野っ原でも、ただ目の前に道があるから進んでいく。そして最後の方になって振り返ってみて、初めて「あら、とんでもない道を歩いてたわ」って気づくタイプです(笑)。私にはそこまでの勇気も元気もないかな。
――お気に入りのナンバーがあれば教えてください。
それがないんですよ。というのも、全部の曲がつながっていて、70分で1本の曲のようなものだから。この1曲っていうふうに切り取れない。物語の中で4人の男性と恋に落ちるんすけど、1人ひとりとのエピソードがそれだけで映画が1本できるくらいドラマティック。きっとみなさんが誰しも経験してきたような痛い恋愛がどこかにあると思う。だから、私が「くそっ!」って転げまわっている姿を生で見ながら、「ああ、私にもああいう時があったなあ」って懐かしんでいただけたら(笑)。
■この物語は、きっとあなた自身の物語。
インタビューを終え、いよいよ通し稽古が始まった。
物語は、エマがロンドンから夢のニューヨークへ旅立つところから幕を開ける。冒頭の数分間は歌詞も台詞も一切ない。ただ音楽に乗せて、濱田がくるくる表情を変えながら、マイムでエマの旅の様子を表現する。そのぱあっと輝く瞳から、ニューヨークの光景が目の前に広がっていくようだ。そして、1曲目の『放っておいてよ』が始まる。ここから70分、全25曲ノンストップ。観客がその歌声にため息を漏らす時間もないほどに、個性豊かなナンバーが映画のフィルムのように連なっていく。そこに焼きつけられているのは、若きエマの恋と夢の冒険記だ。
デザイナーになる夢と恋人との甘い生活を求めて、ニューヨークにやってきたエマ。しかし、その恋は儚くても崩れ去り、それから何度も恋をしては傷ついていく。濱田がインタビューで語った通り、ふっと自分の人生を振り返ってみれば、エマと同じような経験が甦ってくる人も多いだろう。
相手の好みに合わせて背伸びをしたこと。大切にしたいあまりに一途に尽くしすぎたこと。道ならぬ恋に溺れて周りが見えなくなったこと。エマを見ていると、まるで過去の自分をちょっと遠くの場所から眺めているような気持ちになる。それを濱田が時にコミカルに、時に悲痛に演じてみせるから、見ているこちらの方がクスッと笑ったり、ギュッと胸が締めつけられたり、たった70分の間に何度となく心の奥底に眠らせていた苦い記憶を呼び起こされてしまう。
ひとりミュージカルだけあって、視線は濱田に集中。その分、大人数のミュージカルでは見過ごしてしまいそうな細やかな心理描写も胸に深く突き刺さる。舞台上には他に誰もいないはずなのに、エマの視線を辿っていくだけで、涙でにじむニューヨークの夜景も、愛しい人の大きく温かい掌も、鮮明に浮かび上がってくる。
もちろん歌姫・濱田めぐみの歌声も存分に堪能したい。アップテンポのナンバーは躍動感たっぷりに、バラードはエモーショナルかつ繊細に歌い上げていく。特にその伸びやかなロングトーンは、この細い体のどこにそんなパワーを隠しているんだろうと疑いたくなるほどの迫力。キャリア20周年の集大成にふさわしい実力を見せてくれる。
悩み、迷い、傷つき、倒れ、そしてまた立ち上がり、恋をして、夢を見る。そんなエマの物語は、他でもない、かつて同じように悩み、迷い、傷つき、倒れ、そしてまた立ち上がり、今日まで生きてきたあなた自身の物語となるはずだ。
■日時:16/6/10(金)~16/6/26(日)
■会場:新国立劇場 小劇場 (東京都)
■音楽:アンドリュー・ロイド =ウェバー
■歌詞:ドン・ブラック
■演出・翻訳・訳詞:市川洋二郎
■出演:濱田めぐみ
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/sunday
【アフタートークショー】
濱田めぐみと演出・市川洋二郎が以下の回に異なるテーマでトーク。
◆14:00公演:6/14(火)、15(水)、16(木)、21(火)、22(水)、23(木)
◆19:00公演:6/24(金)