エンタメ業界の今に切り込む新企画【ザ・プロデューサーズ】第三回・野村達矢氏

2016.7.8
インタビュー
音楽
 

ザ・プロデューサーズ/第3回 野村達矢氏

――確かにサカナクションの見せ方、伝え方は半歩先を進んでいる感じがしていました。

そうかもしれないですね。あとはKANA-BOONが出てきた時は、キーワードはフェスですよね。音源が配信中心に広がって、CDもそんなに売れなくなってきた時代で、その中で、音楽を伝える場面ってどんどんリアルになっていて、フェスから新人が出て来るという図式も出始めていました。KANA-BOONはライブでの説得力が強いアーティストだったので、最初の年は夏フェスだけで12本ブッキングしました。毎週フェスに出ている状況で、そうするとフェス好きの子たちの間では、KANA-BOONの音楽が刷り込まれていって、ライブパフォーマンスも高いので気になって観に行きます。彼らの「ないものねだり」という曲がYouTubeで話題になって、YouTubeで観て気になったアーティストはフェスでちょっと覗いてみようと思うんです。それで良かったらワンマンライブに行ってみよう、そういう流れがあると思います。そこにKANA-BOONはハマっていきました。

――成功事例をあてはめるのではなく、その時の時代の“気分”に合った戦略を、ずっと貫いています。

人がやったことを追いかけるのではなく、自分が生み出したいといつも思っています。今、時代はこういうふうになっているな、変わってきているな、伝わりかたってこういう風になっているなと時代を客観的に見ることが必要です。アーティストもその時代に合わせて変わってくるものです。アーティストって一番敏感で、僕らがもしかしたら時代を作る一翼を担っているのかもしれませんが、実は時代に影響されたアーティストは必ず出てきていて、それは必然のような部分があると思います。インディーズが盛り上がっている時代には、インディーズの考え方を持っているアーティストが出てきたり、SNSの時代になってきたら、そういう影響をアーティストも感じながら音楽を作っているところもあって。“時代が生む音楽”というのもアーティストの中にはあるはずで、そこをどう結びつけていくかが大切だと思います。

――SNSに関してはフォロワー数をはじめ、数字をこまめにチェックしているとお聞きしました。

数字はバロメーターなので、それを確認しておきたいんです。今まではオリコンがその指標でしたが、ここ5、6年で単純にパッケージの数の論理でしかなくなってしまった感があります。実際のアーティストパワーが、オリコンのランキングに反映されているかというとそうではなく、それに代わるバロメーターがSNSでした。最初の頃チェックしていたのはYouTubeの再生数と、mixiのコミュニティの数。その後Twitterのフォロワー数で、mixiは急激に勢いが落ち始めてきてカウントするのをやめています。それでfacebookが出て、Instagram、LINEが出てきました。instagram、facebook、LINEは細かくチェックしています。そうすると、トレンドが移っているなと感じたり、最近の流行が見えてきます。

――パッケージの状況が厳しくなっていく中で、野村さんはライブを中心にファンを増やしていく考え方だと思いますが、音楽業界の将来をどう予測していますか?

今までは、レコード会社があってマネジメントがあってアーティストがいて、という三角形の座組でしたが、違う座組を考えていかなければいけないのではないでしょうか。やっぱりアーティストを発掘して、デビューの準備をしてブレイクまで、一貫してフォローできる仕組みが必要じゃないかと。それで、音楽雑誌「MUSICA」、マネージメント&レーベルの「A-Sketch」、音楽専門チャンネル「SPACE SHOWER TV」、そして我々「HIP LAND MUSIC」の4社で2013年にMASH A&Rという会社を立ち上げましたMASHというのはそれぞれの会社の頭文字です。レコード会社とマネジメントとメディアが一緒になっている珍しい座組ができました。

――MASH A&Rはオーディションがひとつ大きな特長になっています。

毎月異業種のスタッフが集まってデモテープを聴くのですが、その聴き方が4社4様で、スタンスによって判定の仕方が違っているのは刺激になります。「なるほど、そういう目線がありましたね」という意見交換が行われるので、我々の若いスタッフにとっては非常に有益なミーティングになっていて、アーティストの見方というのが多角的になってきています。マネジメント目線、個人の目線があるのですが、それプラス、メディアの目線もあって、他社のマネジメントやレコード会社の目線もあります。当然HIP LAND MUSICとA-Sketchとでは、スタンスもカラーもテイストも違いますが、それはそれで面白くて、影響を受けたりしています。発掘からブレイクまでを一貫して行うことがMASH A&Rという会社のコンセプトですが、実は、スタッフの育成にも繋がっていて、それが一番の収穫だったような気がします。もちろんTHE ORAL CIGARETTES やフレデリック、LAMP IN TERREN、パノラマパナマタウンといったいいアーティストに出会うことができ、それは大きな収穫です。THE ORAL CIGARETTESは、ブレイクに近づいているアーティストで、たぶん来年には日本武道館、大阪城ホールでライブができると思いますし、フレデリックも人気急上昇中です。

――オーディションに応募してくる数は増えていますか?

おかげさまでどんどん増えています。THE ORAL CIGARETTESが売れ始めてきているので、この仕組自体がより注目され始めてきています。

ザ・プロデューサーズ/第3回 野村達矢氏

――新しいアーティストが新しい音楽を提示してくれるように、音楽業界も新しい座組、スタイルをどんどん追求していかなければいけません。

うちのThe fin.というバンドは完全に英語で歌っていて、KANA-BOONやTHE ORAL CIGARETTESのメンバーは24、5歳でThe fin.も同世代で、片やドメスティックなJ-POP、片やオール英語という全く違うものが出てきているなと感じていて。やっぱりYouTubeで音楽を聴いている世代のアーティストって、時代と場所が入り組んでいるんですよね。だから’70年代’、80年代の音楽を今聴いたら新しく感じて、当然2016年の音楽も新しいわけで、彼らはそれを同時に聴いているんです。それとイギリスの音楽も日本の音楽もアメリカの音楽も、本当に同レベルで聴いているところあって、ジャンルや時代や場所に区別されていないんです。YouTubeの関連動画に上がっているのでいとも簡単に触れることができる。それを拾いながら観て、聴いていくとどんどん色々なものがボーダーレスになっていきます。時代も、場所、ジャンルの区別がなくなり、そういう音楽の聴き方をしているアーティストが出てきているなと思って出会ったのがThe fin.でした。最初から英語で歌っていて、それは別に世界進出したいわけではなく、たまたま自分たちが聴いていたのが英語の音楽で、それにシンパシーを覚えたからなんです。そこにものすごい気合とポリシーがあるわけではなくて、僕ら自然と英語で歌ってます、みたいな感じがあって。海外生活していたわけでもなく、英語で歌うことが楽しいなと思って、すごく英語を勉強したら喋れるようになっちゃった、そんな感じです。そういう図式もいままで聞いたことがない流れでした。彼らの音楽を聴いていただけるとわかるのですが、発音がよすぎて洋楽にしか聴こえません。外国人に聴かせても全然OKという感じです。そういうアーティストと出会えて、一緒に仕事ができるというのを今はすごく楽しみにしています。その子たちが普通に音楽を発信する時点で、日本人のためと考えているのではなく、普通に全世界の人達が聴けばいいじゃんって思っているんです。The fin.の音楽をSoundCloud(無料クラウド音楽サービス)にアップしたら、全世界の人が聴いてくれます。そういう時代になっているんだなと思いました。世界との距離が本当に近くなっていて、僕らの時代の価値観でいうと、イギリスやアメリカってものすごく遠い国で、でも彼らの中ではポチっとクリックしたすぐそこにあるみたいな感覚なんです。全然価値や感覚が違いますし、そういうアーティストが出てきたということと、さらに才能をもったアーティストに出会えたことが今すごくい面白いです。しっかりバックアップしていきます。

――海外進出に関してはどう考えていらっしゃいますか?

うちにLITEというインストバンドがいるのですが、彼らはすでにアメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアでもツアーをやっています。インストなので言葉の壁がないというのが大きく、彼らの音楽は世界中で受け入れられていて、ある程度採算がとれているる状態です。そういう部分でのノウハウもいま蓄積されています。日本の音楽が海外進出するというと、クールジャパンという看板掲げて、アニメの要素やアイドルの要素を持つアーティストが出かけて行くことが多いです。でも、うちにはそういう側面を持っているアーティストはいないので、どちらかというとベーシックなロックミュージックという部分で、一緒に肩を並べられるようなアーティストが日本から出て、日本人が持っているきめ細かさ、ジャパンクオリティみたいなところで、日本の音楽が伝わっていって欲しいと思っています。

――日本の文化が注目されているといっても、なんでもかんでも海外で受け入れられるはずもなく、やはりアーティストのオリジナリティがポイントですよね。それと、野村さんというと、今社会的にも音楽業界的にも大きな問題になっています、コンサートの転売問題について、音制連の担当者として熱心に取り組んでいらっしゃいます。

そうですね。ユーザーが利便性という部分で、キャンプやヤフオクのようなのリセール、転売マーケットを利用しているのかなと思いきや、本当に一部のゲッターですが、それでお金を儲けているという事実があります。転売目的の人たちが、それを利用しているだけに過ぎず、多くの人たちは、が法外な値段になってしまうシステムにはやっぱり反対していることがわかりました。色々な調査をしてもユーザーの7割がやっぱり反対なんです。僕らとしても、ここまで時代が進んでいる中で、一概に、一方的に一度買ったはキャンセルできませんと言い続けているのは、どうなんだろうと思う部分はあって。のキャンセルはできないという事を言い続けることだけが、の転売を防止する策になるかといえば、当然そんなことはなく。まずはが転売されることによって、音楽ファンの人も困っているし、当然僕らも困っているし、アーティストも困っているということを、ユーザーに知ってもらいたいです。キャンプのようにCMを流したりすると、オフィシャル感が出て、音楽業界自体が認めていて、それを促しているんだと勘違いしている人がたくさんいると思います。そうじゃないということをまずは伝えていかなければいけないと思っていて。転売そのものが許されていることではなく、法外に値段が釣り上がったお金は僕らの知らないところにいっているということを知ってほしいです。あれが音楽に関連していることに使われていると思われたくないですし、そこの啓蒙活動はしていかなければいけないと思います。法律がまだ追い付いていないので、そこに関しては倫理観やマナーといったレベルでしか訴えることはできないのですが、ただ伝え続けなければ法律も変わっていかないと思っています。

――アーティストの創作活動にダイレクトに関わってくるということを、ぜひ多くのユーザーに理解して欲しいです。

そうですね。今CDが売れなくなってきていて、アーティストはライブの収入が大きなウエイトを占めてきていて、そういう状況の中でコンサート市場が荒らされるという状態は本当によくないことです。それを抑制していくことが必要で、音制連(音楽制作者連盟)という音楽団体、ACPC(コンサートプロモーターズ協会)というコンサートプロモーターの団体と、両者の最重要課題として取り組んでいます。

――結局需要がある限り、供給は止まらないということですよね。

きっとそうなんでしょうね。正規の二次流通市場を早急に作らなくてはいけないと考えています。の金額が上がることによって、そのを手に入れるために、健全な青少年がどうやってお金を手入れるのかということも、今後絶対社会問題になってくると思います。もっといえば反社会勢力の人達との繋がりという問題も出てくる可能性もあると思います。転売で儲けた人は何に使っているかわからないですし、その儲けたお金の税金はちゃんと払っているのかといえば払っていないわけで。そういう社会問題が含まれていると思います。

 

企画・編集=秤谷建一郎  文=田中久勝

 

 

プロフィール
野村達矢

(株)ヒップランドミュージック 常務取締役執行役員 兼 制作本部本部長
(有)(有)ロングフェロー 代表取締役 社長
(株)MASH A&R 取締役
一般法人 日本音楽制作者連盟 理事
 
1962年 東京生まれ
86年明治大学卒業後(株)渡辺プロダクション入社
89年に現職(株)ヒップランドミュージックコーポレーションに入社
BUMP OF CHICKEN、サカナクション、KANA-BOONなど多くの時代を牽引するロックバンドの新人発掘からアーティストプロデュース及びマネージメントを行う。