チェロ奏者・柏木広樹インタビュー「“お行儀よく”じゃなく“気楽に”音楽を楽しんで」
柏木広樹
チェロを携え、ポップス・映像の音楽・民族音楽などジャンルの枠を軽々と飛び越えながら、多彩な活躍を続けている柏木広樹。今年8月には、昨年も好評だった『夏の宴』と題したライブを再び開催する。8月3日の熊本を皮切りに広島・京都を経て、8月10日の東京・渋谷はリビングルームカフェ(eplus LIVING ROOM CAFE&DINING)までツアーが行われる。そんな夏のライブに向けて、現在の心境を聞いた。
―――「チェロのイメージを変えるような音楽を届けたい」という思いがあるそうですが、世間一般のチェロのイメージをどのように変えていきたいですか?
「まず、クラシックの曲は、咳払いひとつしないできちんと聴くものだっていう、ネガティブなイメージから変えたいんですね。学校の音楽の授業だと、“ベートーヴェンは素晴らしい”なんて押し付けるから、こどもをクラシック嫌いにしちゃいかねない(笑)。最近では、やっとチェロやヴァイオリンもライブハウスで活躍する時代になった。それこそが、本来の姿だと思うんです」
―――「チェロ=クラシック=堅い」というイメージが根強いですよね。
「モーツァルトやハイドンの時代は、お金持ちが作曲を依頼して、みんなで食事しながら聴いていた。それが、ベートーヴェンの時代になって、普通の人のためにも曲を作るようになった。考えてみると、その時代は、ポピュラー音楽=クラシックだったわけです。それが伝統的な音楽になってゆくにつれて、きちんと聴かないといけない雰囲気になった。そのうちジャズやポップスのような音楽がでてきて、クラシックは音楽の中の一つのカテゴリーになったんです。その中で、『チェロはクラシックの楽器だ』と決められちゃった。でも、音楽をやる上で、どの楽器でどのジャンルの曲を弾くかはまったく自由だと、僕は思ってる。だから“お行儀よく”じゃなく、“普通に、気楽に楽しめる”チェロを追求していきたいんです」
「サンデー・ブランチ・クラシック」より 光田健一(ピアノ) 柏木広樹(チェロ) 撮影=原地達浩
―――そんな柏木さんの夏のライブが今年も行われることになりました。
「『柏木広樹 Cello Live 2016 “夏の宴~Cellos LIFE”』と言って、ギターの天野清継さん、ピアノの光田健一さん、パーカッションの岡部洋一さんと一緒に、熊本・広島・京都・東京の4都市を巡ります。出演する4人とも、とにかく音楽が好きな人間ばかり。僕たちの音楽っていうのは、“音による会話”みたいなものでね。それも、宴会での会話みたいに気軽なものなんです。だから“夏の宴”というタイトルをつけました。その気軽な雰囲気を、ぜひ皆さんに楽しんでいただきたいと思っています」
―――私たちも宴に参加する気持ちでライブを聴きに行けばいいですか。
「はい。やはり僕らのライブは、生で聴いていただきたいという思いが強くあります。もちろんテレビやネットでも、ライブの映像を見ることはできます。それで満足な人も多いでしょう。でも、映像で見られるものは、誰が見ても同じものしか見えない。ところが生の場合、“今はピアノの人を見ていたい”とか“今はギターの人に注目したい”といった視点が、その都度、人によって様々に変わってくるはずです。一人一人が思い思いのパートに注目して、それぞれの記憶に紐付いた脳内の映像が、お客さんの数だけ存在するようになる。その豊かさこそが生のライブの魅力ですよね。だから、たくさんの人に聴きにきていただきたいのです」
―――東京の会場はリビングルームカフェですね。
「以前ライブをした時に、お客さんがとてもくつろいで聴いてくださいました。僕自身もとても気に入っている独特の空間です。チェロの音楽を気軽に楽しんでいただくには、うってつけの場所でしょうね」
柏木広樹
―――今回のプログラムはどんなものになりますか?
「プログラムは現在検討中ですが、とにかく演奏する4人の顔が見えるものにしたいですね。僕だけが目立つのではなく、それぞれの良さを出したい。また、最初から終わりまでずっと4人で弾き続けるという気もなくて、途中で編成も変えてデュオなどもやるつもりです」
――――演奏曲はツアーの会場ごとに変更されてゆきますか?
「基本は変えないと思います。よくインストゥルメンタル系の人は、飽きないようにライブの曲を毎回変えることが多いんですね。でも、僕の考えは違う。ライブをどう組み立てたらお客さんが楽しめるか、という発想です。ライブ自体の質感として、どの会場でも同じようにお客さんが楽しめるようにしたいんですね。
今回、地震のあった熊本にも行きますが、そこでも湿っぽくならずに普通のライブをやろう、と思っています。熊本といえば、以前『ドリームボックス』という曲を作ったことがあります。作曲のきっかけのひとつになったのが、熊本市の動物愛護センターが犬の殺処分ゼロを達成した、というニュースでした。そのセンターが4月の地震で被災したこともあって、僕に何かお手伝いできることはないか、と思っています」
柏木広樹
―――柏木さんは、盲導犬を普及させるための活動も行っていますね。盲導犬支援に興味を持った理由は?
「2010年に新潟で『盲導犬チャリティーコンサート』に参加し、以後コンサート会場に募金箱を置くようになりました。以前から動物に関する曲はずっと作ってきていたのですが、せっかくだからそのコンサートのために、盲導犬についての曲を作ろうと思ったんです。それで、事前に盲導犬の訓練センターに取材に行きました。そこで得たユーザーの声や自分自身の訓練体験などをもとに作曲をしました。もともと僕は動物が好きでしたけど、特に犬は太古から人間のパートナーだったということもあって、盲導犬との関わりをみんなにもっと理解していただきたいと思うのです。そこで、募金箱を置いたり、盲導犬の曲を弾いたりしています。盲導犬がいると、視覚障害者の屋外での動き方がすごくスムーズになる。盲導犬の数が足りるようになれば、視覚障害者の人たちはもっと外に出られます。コンサートにも行けるようになりますし、人生の楽しみを増やせると思い、僕はこの活動をしています」
―――そんな柏木さんの演奏活動のテーマは「人間・動物・自然へのメッセージ」ですよね。どのような経緯で、そうした思いを抱くようになったのでしょうか?
「僕ね、子供の頃は動物と話せたんです。話せる気になってたというか(笑)。誰にもなつかない犬とも僕は話をしていました。大人になって純粋さをなくしたら、できなくなったけど(笑)。『人間・動物・自然へのメッセージ』なんて書くと大げさだけど、一番言いたいのは、音楽はもっと自由に楽しんで欲しい、ということ。都会には都会の、田舎には田舎の空気があるように、音楽ごとに違う空気を楽しんでほしい。僕の弾いているチェロという楽器は、特に自然な音を出せると思っています。小さい頃から動物や自然が好きなことが、自分の音楽の根っこにあるのかな。何かを大声で主張したいというよりは、みんなで楽しむ方法を考えたいタイプです。ライブのあと、お客さんが『感動したね』っていうよりも、『楽しかったね!』と話してくれるほうが、僕にとっては嬉しいですね。今夏のライブも、そういう方向に持ってゆきたいと思っています」
柏木広樹
【日程】2016年8月3日(水) 開場18:30 開演19:30
【会場】Restaurant Bar CIB(熊本市花畑町11-14 KOHENビル2F)
【料金】前売一般 6,000円 (全席自由・整理番号順入場) 要1ドリンク
【問合せ】Restaurant Bar CIB TEL:096-355-1001 (月~土 18:00~25:00・日定休)
【日程】2016年8月4日(木) 開場18:30 開演19:00
【会場】Live Juke(広島県広島市中区中町8-18 クリスタルプラザ19F)
【料金】前売一般 6,000円 (全席自由・整理番号順入場) 要1ドリンク
【問合せ】キャンディプロモーション広島 TEL:082-249-8334 (月~金 11:00~18:00・土日休)
<京都>
【日程】2016年8月5日(金) 開場18:30 開演19:30
【会場】Live Spot RAG (京都市中京区木屋町通三条上ル 京都エンパイヤビル5F)
【料金】前売一般 6,000円 (全席自由・整理番号順入場) 飲食代別途
【問合せ】
ラグインターナショナルミュージック TEL:075-255-7273 (月~土 11:00~19:00)
Live Spot RAG TEL:075-241-0446 (20:00~)