DIR EN GREY 名盤『VULGAR』を携えたツアーをいま行なう理由、最終日から見えたもの

TOUR 16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of VULGAR] 
2016.7.4(MON)Zepp Tokyo

DIR EN GREYがいかに個性的な音楽を創造しているのかは、改めて説明するまでもないだろう。進化の繰り返しだったその歩みは、ポジティブな意味で次の転換点を迎えようとしているようだ。

結成20周年となる2017年に向けては、過去のアルバムを冠した特別なツアーが断続的に行なわれる。この試みが、いわゆる懐古趣味に基づくものではないことは、彼らの活動を追ってきた人には明白だが、その第一弾となる『VULGAR』（2003年）を引っ提げての全国転戦『TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of VULGAR]』は、やはりDIR EN GREYの“今”を強烈に印象付けるものとなった。

各地のは即日完売。当初は7月1日（金）＆2日（土）の東京・新木場STUDIO COAST公演で締め括られる予定だったが、その直前に7月4日（月）のZepp Tokyoでの追加公演が急遽決定した。はライブ前日のみの一般販売だったにもかかわらず、すぐさまソールドアウトに。ただ、この驚くべき“瞬発力”は、単にDIR EN GREYの人気の高さを示すものではないだろう。すでに行なわれた他の公演の素晴らしい内容が、インターネットなどを通じて口コミ的に広まり、並々ならぬ期待が寄せられたとも推察できる。

事実、Zepp Tokyoでのパフォーマンスは、予想を遥かに超える充実ぶりだった。しばしば、彼らの音楽的な転機となった作品と言われる『VULGAR』は、ファンの間でも支持者が特に多いアルバムであるのは間違いない。そこに収められていた楽曲群が軸となるのであれば、長らく演奏される機会のなかったマテリアルも含めて、自ずから興味も湧くだろう。

しかし、5人のメンバーから繰り出された音塊は、“懐かしい”という思いを瞬時に吹き飛ばす勢いに満ちていた。今回のツアーでは、後述する一つの例外を除いて、『VULGAR』と現時点での最新アルバム『ARCHE』（2014年）のみからセットリストは構成されていたが、ここは大きなポイントである。バンドの音楽性を集約したような性格を持つ『ARCHE』が、初期の楽曲とも親和性が高いことを改めて証明するのは当然だとしても、その延長線上に当たるアプローチを続ける今のDIR EN GREYは、『VULGAR』にかつてとは異なるグルーブを持った躍動感を生まれさせていたのである。緊張と弛緩を自在に融合させる、ジャムセッションを突き詰めたかのようなステージだ。

加えて重要だったのが、“例外”である。アンコールに組み込まれていた新曲「詩踏み」だ。彼らが音源のリリース前にライブで先行披露したのは、かなり久々であり、意図しない違法な流出の問題などもあり、近年はむしろ避けていたことでもある。では、なぜ今回のタイミングで、このような試みをしたのか。実は来年まで続く一連のツアーでは、未発表の新曲をそのつど演奏していく考えなのだという。つまり、ライブでの実演を通して楽曲を完成形へと導いていこうとしているわけだ。ある種、これはバンドの黎明期を思わせる臨み方だが、相応のキャリアを重ねてきた現在のDIR EN GREYが挑むことに意味がある。

言わずもがな、彼らが見据えていたのは未来だった。『ARCHE』の先にあるべき像を少しずつ形にしていく過程を、堂々とファンに見せる。どんなアイデアも自分たちの手中に収めることができる、そういった自信があるからこそ、今回のような取り組みを選択したのだろう。無論、それも実験の一つでしかない。

この9月からは、『DUM SPIRO SPERO』（2011年）を冠した『TOUR16-17 FROM DEPRESSION TO ________ [mode of DUM SPIRO SPERO] 』が行なわれるが、彼らの究極の構築美を示した作品が、思いもよらぬスタイルでリビルドされる可能性もある。また、その際に演奏されるはずの次なる新曲の存在も、密接に関わってくるかもしれない。見逃せない日々が続いていくことになりそうだ。

撮影＝曽我美芽　文＝土屋京輔