あゆみくりかまきが“人間の姿”に 赤坂BLITZに刻んだ、揺るがぬたゆまぬ“熊魂”
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
ボクらの熊魂2016 ~ここで一句!「東名阪 仙台広島 まわるんやぁ」~ 2016.7.8 赤坂BLITZ
記念すべきメジャー1stアルバム『あゆみくりかまきがやって来る!クマァ!クマァ!クマァ!』リリースツアーのファイナルであり、あゆみくりまきにとって過去最大規模のワンマンとなる初の赤坂BLITZ公演である。だが、それらの要素以上に、この日のライブを特別なものとしたのは、彼女たちがこの日を機に「クマから“人間の姿”になる」という事実だ。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
おさらいしよう。あゆみくりかまきはクマのアイドルとして活動してきた。クマ年齢3歳で、都会の森に住み、ファンのことは“またぎ”と呼んできた。それが先日、「赤坂BLITZ公演までしかクマの姿でいられないこと」「再びクマの姿に戻るには2017年中に日本武道館でのワンマン開催を発表すること」という衝撃的な事実を突きつけられ……迎えたのがこの日のツアーファイナルである。クマとして活動を続けてきて、クマであることがそのままアイデンティティでもあった彼女たちにとって、素直に受け入れられる話ではない。それでも3頭は気丈に前を向き、ツアーをまわり、ついに赤坂BLITZのステージに立った。2016年7月8日のことだ。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
場内に流れる↑THE HIGH-LOWS↓の「日曜日よりの使者」に合わせ、クラップと合いの手を入れていくまたぎたち。すでに熱気と気合が充満している。オープニングムービーが流れたのち、尖りまくったSEをバックに走り出てきたのはくりかだ。中央のお立ち台に上がり、堂々と大きな旗を揺らしながら何度も拳を突き上げる。話すと柔和な彼女だが、こうした姿は文句無しのカッコ良さである。くりかがDJブースへと移動し、弾んだカントリー調のイントロとともに舞台袖からあゆみとまきの2頭の駆け出して始まったのは「スターライトジャンボリー」。3頭がそれぞれお立ち台に上がり、またぎたちをガンガン鼓舞する。スクリーンに映るポップでカラフルな動物たちと対照的に、ステージ上は初っ端から戦闘モードだ。「心友フォーエヴァー」は獰猛なまでの縦ノリヘヴィロック。照明で赤く染まったステージから緑の光線が乱れ飛び、まきが「そんなモンやないやんな!?」とゲキを飛ばせば、またぎたちも怒号のようなコーラスで応える。アツい。ひたすらアツい。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
「ジェットクマスター」では、フロア全体でまたぎ同士が肩を組んでヘドバンするなど、とにかく会場の一体感がすごい。和の要素を織り込んだ「クマトナデシコ」でも息のあったツーステップを踏む3頭をコールで後押し。マタギたちの気合も並々ならないものがある。「一曲一曲噛みしめて、クマらしいパフォーマンスを届けていきますので、楽しんで行ってください!」とまきが宣言すると、ライブは一層加速する。終始ステップを踏みながら歌い、煽り、めまぐるしく立ち位置を入れ替えていく3頭だが、笑顔やキメの表情、キレのある動きは乱れない。その歌声もキュートで溌剌として、力強く響く。前半最後の「鮭鮭鮭」では、のぼり旗を持ち出したまきを中心に、人力で紙吹雪を飛ばしたりと全力のパフォーマンスをみせてくれた。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
ここで着替えタイムを経て、ツアータイトルにちなんだ「ここで一句詠むんやぁのコーナー」が始まる。ちなみにその作品は、あゆみが「一句を 書けて嬉しかぁ ププププブリッツ」という、もはや5、7、5でもなんでもない自由すぎる仕上がり。くりかは「ぶどうかん まずは武道館 まずはやで」という意気込みの伝わる、そして意気込みしか伝わらない句を披露。最後のまきは「赤鰤で 肉球の花 満開に」。さすがはリーダー、季語も入れ込み綺麗にまとめてくれた。そしてとても字が上手い。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
ワンマンならではの楽しさと3頭のキャラクターに触れたあとには、カバー曲披露のコーナーでaikoの「花火」をカバー。これからの季節にピッタリでちょっとセンチメンタルな名曲だ。そこから、3頭の名前が歌詞に組み込まれ盛り上がり必至の「What’s my name?」、軽やかに疾走する胸キュンポップな「アイノウタ」を終えたところで、クマとしての活動を一旦終えることに触れる。まきが「今までと変わらず熱い熊魂を持って、一人一人に歌声を届けていきたいと思います。これからも側におってください!」「必ず武道館に立って、みんなと一緒に見たい景色があるから頑張っていきます!」と決意を表すと、大きな大きな拍手と歓声がBLITZを包んだ。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
そんな彼女たちの想いを乗せた「春色ディスカバリー」からはラストスパートだ。大きなBLITZのステージでよりスケール感が増した「自分革命」。「まだまだ本気でぶつかってこいよ!」と容赦ないアジテーションも飛び出し、またぎたちのジャンプに会場が揺れた「KILLLA TUNE」。最後は、そこらのロックバンド顔負けのキラーリフでイントロから大いに沸いた「WAR CRY」だ。くりかのラップも冴えをみせ、一斉に拳を掲げての<WOW WOW>というコーラスには思わずグッとくる。曲が終わり、最後の挨拶。これまで元気印でグループを、またぎたちを引っ張ってきたまきは、感極まっていた。これまでの道のりを思い返したことだろうし、またぎたちへの感謝、クマの姿でなくなることへの不安……さまざまな想いがあったに違いない。それでも彼女たちはさらに大きくなるために、勇気をもって一度自らの個性を封印し、改めて地力でシーンを勝ち抜いていくことを選んだのだ。そんな「3人」の新たな姿はアンコールで提示された。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
異様なボリュームで耐えることのないアンコールが4~5分ほどは続いただろうか。ステージを覆う紗幕が落ちると、そこには人間の姿になったあゆみくりかまきが立っていた。どよめく場内に向け、手はじめにデジロックな「弾進 GOOD!!」を投下すると、最初はイメチェンした姿に見入っていたまたぎたちもすぐさま盛り上がっていく。3人はバンドT風のTシャツの上にショート丈の白いサロペットという衣装になっており、あゆみはアシンメトリーなショート、くりかはポニーテール、まきは三つ編みと、髪型も含めかなり見た目の印象は変わっているものの、全力でキレキレの動きと歌は何も変わっていない。続けて「旅立ちの唄」。<さよなら ありがとう ここから 羽ばたこう>という、まさに現在の彼女たちの心境が綴られた歌だ。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
新曲2曲が終わると最後のMC。3人それぞれに心境を吐露した。クマでなくなることへの葛藤。ライバルと差別化できない、忘れられるのでは?という不安があったこと。「クマかどうかではなく中身や気持ちが大好き」というまたぎの声に励まされたこと。それによって「変化することを恐れちゃダメだ」と思えたこと。最後はまきが叫ぶように言った。「必ずクマの姿に戻れるように、人間の世界でも頑張っていきます! 絶対に武道館でまたみんなと(クマの)肉球ポーズや肉球ダンスをしたいと思います!!」。そして、ラスト2曲「素敵な世界」「ナキムシヒーロー」をドロップ。もう迷いは無かったように思う。前へ前へと押し寄せるまたぎたちに笑顔と魂のパフォーマンスで応えきり、深々とお辞儀をして3頭はステージを去っていった。
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)
“クマであること”が、これまでの彼女たちにとって一つのアイデンティティであったことは間違いない。ただそれよりも、彼女たちが提唱し体現し続けてきた”熊魂”というワードこそ、もっと深い部分で”あゆみくりかまきとは何なのか”を表すもの。どんな格好をしているかよりも、ずっとずっと大切なことだ。ハングリー精神をたぎらせ、いつだって全力で、激しくて、エモくて、真っ直ぐであること――すなわち“パンク魂”・“ロック魂”と置き換えても良い。大丈夫、この日叩きつけてみせた彼女たちの”熊魂”は、微塵もブレていなかった。
まぁ、自他共に認めるクマ好きの筆者としては、一抹の寂しさを覚えないこともないけれど……ここはひとまず人間の姿のあゆみくりかまきを存分に堪能しながら、一回りもふた回りも成長した3頭のクマに、武道館のステージで再会出来る日を待とうではないか。
レポート・文=風間大洋
あゆみくりかまき 撮影=橋本塁(SOUND SHOOTER)