結成31年! 名古屋のてんぷくプロが15年前の戯曲を大改稿して上演
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てんぷくプロ『トランジット・ルーム ii』チラシ表 イラスト:あいまいもこ
アラ還メンバーも肉体を酷使! 歌って、踊って、波乱万丈…てんぷくの魅力が凝縮された作品に
“皆様と共に走る”をキャッチフレーズに、今年で結成31年目を迎えた名古屋の劇団・てんぷくプロが、15年前の上演作を大幅改訂した『トランジット・ルーム ii』を、2年ぶりの本公演として9月29日(木)から「七ツ寺共同スタジオ」で上演する。
1985年の結成以来、特定の作家、演出家を持たない役者集団として活動を続けているてんぷくプロ。第2回以降、劇団員全員の話し合いによって台本を作ったり演出を行う「菊永洋一郎」名義の共同制作スタイルを軸に上演を行ってきたが、本作もそのひとつで、2001年に上演した『トランジット・ルーム』の再演となる。
稽古風景より
エジプト周遊8日間ツアーに参加した一行が、ある事情から空港で足止めを余儀なくされる様子を描いた本作。初演の半年後にはアメリカで同時多発テロが発生、一昨年には中東でISが登場するなど15年の間に世界情勢は大きく変わり、とりわけ中東・北アフリカ地域は治安が悪化。今回の上演にあたってはそんな状況をふまえ、人気の観光地ながら渡航者の減っているエジプトに今わざわざ出かける動機や緊張感をどう表現すべきか、という観点から台本改訂を始めたという。
異国の空港で何の情報もなく待たされ続ける一行の不安や緊張。そこへ、1週間前に初めて出会い一緒に旅をしてきた人々の微妙な人間関係、それぞれが日本で抱える事情などが入り混じり、みな普通の会話をしながらも少しずつ壊れていく。そして彼らは、もうひとつの幻想のエジプトを旅し始め…。
稽古風景より
今回、みんなでアイデアを出し合って改訂した物語を台本にまとめ、演出を担当するのは、スタントマンの経歴も持つメンバー随一の肉体派、いちじくじゅんだ。てんぷくの舞台といえば、歌やダンス、楽器演奏などを盛り込んだアクティブな印象の作風が元々多いが、今作ではいつも以上に「身体」にこだわって役者の関係性を見せていくという。再演とはいえ、前作とは全く違った様相になりそうな本作がどう創られているのか、稽古初日から身体表現の基礎訓練に邁進しているという稽古場に伺い、いちじくに話を聞いた。
── 今回は、現在の中東・アフリカ地域の情勢をふまえ、初演から台本を大幅に改訂したということですが、大きく変わった点はどんなところですか?
概要としては、飛行機が飛ばない空港のトランジット・ルームが舞台というのは同じなんですけど、前回から15年経った現在は、地中海沿岸の国にとってデリケートな状態になっていますよね。それでもエジプトは観光の国であまり渡航制限はしないので、日本からパックツアーが行くわけですが、いよいよ日本に帰る時にカイロ空港で飛行機が4時間飛ばない。何があったか知らされず、前回より緊迫感のある設定になっています。実際、エジプトに渡航すると治安部隊が結構いるらしいんですね。移動するバスにも武装した治安部隊が乗ってくるそうです。そういう状況下なので、旅行そのものにもみんなストレスを感じていて、さらに飛行機が飛ばないと。ずっとストレス状態で気持ちが持たないので、ちょっとずつみんなが〈お遊戯〉をしだすんです。その中でアトラクションをいろいろ作りました。お客さんが楽しんでいただけるように。
稽古風景より
── それは身体を使ったものなんですか?
そうですね。身体を使ったり物を使ったりいろいろと。お遊びのシーンや歌を歌ったりとか、てんぷくお馴染みのところは〈お遊戯〉っていう形で見せていこうかなと。前回はわりと何も事件が起きないお芝居だったんですけど、今回は何らかの事件を起こそうと思って。僕は添乗員の役で、サブの女添乗員はずっと居るんだけど僕はなかなか現れない。やっと現れたら、自爆テロリストと勘違いされて連れていかれてしまうんですよ。それによって常に治安当局に監視されているということにもう1回気づくことになって、ちょっと和んだみんなが再び緊張状態に置かれて、「本当に日本に帰れるんだろうか?」っていう不安感に苛まれていく。そこから一人、キーパーソーンになる人物が出てくるんですけど、その人をきっかけに、不安感からみんなフワッと“幻の旅”に出ちゃうんですね。実際にはどこにも出掛けないんですけど、部屋の中で幻の旅に出てしまう。
それが前回と違うところで、そこで身体をいっぱい使います。久しぶりにみんな身体を使って芝居をやろうかという。前回は会話劇だったけど一転して、私が演出するとこうなっちゃう(笑)。それも極めて原始的な、役者の身体と照明と音だけという、僕らが昔やってきたそのままのスタイルだけで見せようと、原点に戻る感じですね。みんな高齢化してますけど(笑)。ダンスもafter imageの服部哲郎さんが振付で入ってくれているので、いつもよりも面白いダンスになってます。
── どんな感じのダンスになるんでしょう。
全員が同じ振り付けで「はい、てんぷくダンス」って、レビューのように踊るのがいつものスタイルで、そういうところもあるんですけど、今回は服部さんが一人ひとりに振りを付けてくれていまして、ダンスの中にまたちょっと物語があるような感じになってるんですよ。お芝居にリンクするような感じで。後半は、どこまがダンスでどこまでが身体表現かわからないような感じで物語がガーっと進んでいきます。
稽古風景より
── “幻の旅”というのは?
エジプトの古代文明へずれていくっていうところをやりながら、死生観を表したいというか。エジプトでは、「死は再生の物語の始まり」という言葉があるらしいんですけども、ひょっとしたらどこか日本人に通じるものがあるかなぁと。輪廻転生とかね。古代文明の、ある思想や哲学みたいなものにふれていく旅でもあるという。もうひとつは、海外で客死する人の気持ちってどんなんだろうと思いまして。例えば、テロリストに捕まって殺害されたジャーナリストの方とか、そういう時に自分は、彼の地や彼の地の人々を恨んだり憎んだりせずに死を受け入れられるか、とか、そういうようなことを幻想的なシーンでちょっとやってみようかなと。
── 今回は客演の方も多いですが、キャスティングもいちじくさんが?
そうですね。岡本理沙さんとか、あんまり他の芝居で出会えない岡本さんに出会えるんじゃないかと。うちのメンバーもそうなんですけど、みんなそれぞれ得意なところからちょっとずらしたキャストにしてます。役に向かって行ってもらうために。
稽古風景より。右端は演出をつけるいちじくじゅん
── 舞台美術や音楽などはどういった感じになりますか。
空港内の空いてる部屋をあてがわれてそこに居る、という設定なので、いわゆるひとつの部屋なんですけど、ちょっと違和感がある感じにできたらなぁと。出入り口がちょっとズレてたり、なんで壁が斜めなの?とかね。そういう、日本人がちょっと違和感を感じるものにしようと。音楽は既成のものを使いますけど、効果音はある程度作ってもらったりしています。前回と同じく、「月の砂漠」はみんなで歌いますよ。
例によって、みんなのいろんなアイデアを凝縮した合作で、まとまりがないまま「あ、終わったの?」っていう作品が多いんですけど、前回の『ふなぞこ』あたりから決着をつける方向になっているので、今回はまぁ、うまくまとまってるんじゃないかなと。なんとなく筋は通って終わったんだな、っていう風に構成したつもりです。
「いつもとはちょっとずらしたキャスティング」とはいえ、個性豊かなてんぷくメンバーは、今作でも各々の魅力が炸裂! それに負けじと奮闘する豪華な客演陣も加わり、顔ぶれも実に盛りだくさんだ。背景に深刻な社会問題や死生観といった大きなテーマを盛り込みつつ、怒号あり、バカバカしい笑いあり、ファンタジーあり、圧巻の身体表現あり、そして感動も…と、てんぷくの醍醐味がたっぷり詰まった本作は、見逃すと後悔するかも!
前列左から・二宮信也、小熊ヒデジ、YA-SU、うえだしおみ 中列左から・滝野とも、斉藤やよい、ジル豆田、谷内範子、美月ノン、岡本理沙 後列左から・入馬券、矢野健太郎、くらっしゅのりお、喜連川不良、いちじくじゅん
■作:菊永洋一郎
■演出:いちじくじゅん
■出演:いちじくじゅん、うえだしおみ、小熊ヒデジ、喜連川不良、くらっしゅのりお、ジル豆田、滝野とも、入馬券、矢野健太郎/以上てんぷくプロ、岡本理沙(星の女子さん)、二宮信也(スクイジーズ)、美月ノン(劇団テアトロ☆マジコ)、斉藤やよい、YA-SU、谷内範子(座★NAGAKUTE)
■日時:2016年9月29日(木)19:30、30日(金)19:30、10月1日(土)1400、19:30、2日(日)14:00
■会場:七ツ寺共同スタジオ(名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:前売2,800円、当日3,000円、学生(大学・専門学校生)2,000円、高校生以下1,500円 ※学生・高校生以下は前売り当日同料金、当日要学生証
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から徒歩約5分
■問い合わせ:てんぷくプロ 080-3618-5632 tenpukuprosince1985@icloud.com
■公式サイト:http://tenpukupro.f2cweb.com