名曲「紅葉狩」を初の完全演奏! 金属恵比須が開催した「猟奇爛漫FEST vol.2」をレポ
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金属恵比須@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
平成28年8月某日。昨今注目度が急上昇しているプログレッシブ・ロック・バンドの金属恵比須が、代表曲の「紅葉狩」を初めて全編完全演奏するとの噂を耳にした。急ぎ金属恵比須の公式Twitterを確認すると、どうやら本当らしい。私が金属恵比須を追い続けて早20年。半ば諦めかけていた、「紅葉狩」の全編演奏がみられるとは思わなかった。これは、行かねばなるまい。
早速「猟奇爛漫 FEST vol.2」と銘打たれた金属恵比須のワンマンライブの
平成28年9月18日(日)。私は高円寺駅南口からロス・プリモスの「さらば高円寺」を口ずさみながらライブ会場の高円寺HIGHに向かった。開場時間は幾分過ぎていたが、ライブ会場の前は、まだ人だかりができている。通りすがりの酔漢が「何だ?何が起こるんだ?」と寄ってくるほどの盛況ぶりだ。
会場内に入ると既に満員状態。舞台を見るのも一苦労な状況となっていた。入り口付近に設置された物販コーナーをチラ見すると、メンバー直々に手売り販売をしているではないか。触手を伸ばしたいところだが、舞台を見るポジション取りを優先し、全員の動きが見える位置をキープ。後ろの方の会話から、発掘された初回自主制作の名盤『箱男』が残り1枚であることが判明。気持ちが物販に向きかけたところ、舞台上にリーダーの高木大地が登場し前説を開始した。諸々の注意事項(撮影OKだが、自分だけで楽しむことは禁止。必ず拡散すること等)の他に、次回ライブの
ここで、演奏開始となるのだが、まだ本編は始まらない。高木が今年の4月に開催された20周年ライブで全身が攣ってしまい、満足な演奏ができなかったことを踏まえ、公開リハーサルが開始される。稲益宏美嬢を除くメンバーでブルースセッション開始。ドラムの後藤マスヒロとベースの多良洋祐が繰り出す盤石のリズムに、ギターの高木と、キーボードの宮嶋健一による見応えのあるソロが絡みつく。素晴らしい演奏で会場は一気に盛り上がる。が、これってリハーサルではなく、
「高木の“公開リハビリ”なのでは?」
という疑問が沸いたが、どうだろうか。生真面目に演奏した後、割と静かにメンバーは退場。開場は、若干狐につままれたような状況になったが、演奏のクオリティは本物であった。期待が高まる。
金属恵比須・高木大地@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
さて、いよいよ本編開始。
登場音楽は映画『八つ墓村』のサウンドトラックから「呪われた血の終焉」。荘厳な曲に合わせて、メンバーが登場。恐らく大半の観客は稲益宏美嬢の装いに目を奪われたことだろう。個人的には座敷わらしのイメージが強い彼女だったが、この日は妖艶なドレス姿。いつもと違う雰囲気に観客が飲まれた瞬間に登場音楽に合わせメンバーでの演奏が開始される。前説のゆるい雰囲気は微塵もない。緊張感と迫力あるステージに会場全てが一瞬で制圧された。
一曲目は「彼岸過迄」。
驚いた。グルーブ感が凄い。ドラムの後藤とベースの多良の繰り出すグルーブが凄いのだ。特に多良のうねるベースは秀逸。お客さんも心なしかタテノリではなく、オフビートを意識した体の動きになってる。うねるリズム隊に宮嶋の色彩豊かなキーボードの音色が重なる。高木のギターはリハーサルの甲斐あってか、勢いがある。歌も心なしかいつもより落ち着きがある様子。登場時に視線を一身に集めた稲益嬢は、コーラスとパーカッションの演奏。話題にされることは少ないが、稲益嬢のパーカッションはかなり効果的に曲に影響を与えている。この後の曲でも、ニコニコ笑いながら変拍子フレーズに完璧なタイミングでパーカッションを入れる姿は中々に猟奇的であった。
金属恵比須@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
二曲目は「匣庭の羊達」。
組曲『箱男』の1曲である。メジャー感溢れる「みつしり」に比べて地味な印象のある曲だが、初代金属恵比須では度々演奏された名曲である。現メンバーの重厚な演奏により、曲の持っているポテンシャルが最大に発揮されていた。
しかし、演奏後に稲益が衝撃の発言。「私いまだに『箱男』全部聴いたことないんだよね」とのこと。
これには、会場全体がズッコケる。結構イイ感じで歌ってたのに………。だが、『箱男』とはそういう運命の曲なのかもしれない。
昔話で申し訳ないが、初代金属恵比須がこのアルバムをレコーディングしていた際、当時のメンバーは誰もタイトル元の安倍公房の小説『箱男』を読んでいなかった。当然コンセプトの「箱(匣)」の元となっている京極夏彦の『魍魎の匣』を読んでいた者もいなかった。名曲揃いなのにメンバーからの扱いが酷い『箱男』。前述の2つの小説を読むと、よりアルバムの良さが分かる。ファンの皆さんも、メンバーの皆さんも是非。
金属恵比須@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
三曲目は「蝉しぐれ」。
久方ぶりの新曲である。コンセプトは「夏」。意外にも金属恵比須は夏以外の四季の曲を持っており、この作品で春夏秋冬が出揃うことになる。因みにほかの季節は以下の通り。
どうだろう。どの曲も、季節感を感じられる名曲揃い。さて、その「蝉しぐれ」であるが、曲自体には夏感がない。TUBE感がない。強いて言うならば、夏の気怠い夕暮れ時というところか。3拍子で進行する静かな曲に、稲益嬢の少し悲しげな歌声が重なる。後半のヘビーな展開では火の吹くような後藤のドラムがさく裂する。個人的には少々難しい曲だと思った。金属恵比須の新境地を見せられるような曲だと思うが、イメージがつかみにくい。次の夏までには、元ネタである三島由紀夫の『豊饒の海』を読んでイメージを膨らませおきたい。
金属恵比須@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
四曲目は「ハリガネムシ」。
現在の金属恵比須の代表曲。さすがにこの曲が、観客の盛り上がりが一番大きかった。演奏も円熟味が増しており、スキがない。後藤、多良の盤石のリズム隊。宮嶋、高木のソロのキレもよく、稲益のボーカルはいつにもまして伸びやかで、シャウトも大迫力だ。金属恵比須のハードロックバンドの側面を堪能できる大名曲。
金属恵比須@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
そして、五曲目は初の全編演奏が予告されていた「紅葉狩」!
万感の思いがある。私が「紅葉狩」を初めて聴いたのは10年以上も前のことだ。演奏は金属恵比須のものではなく「第二次トロツキイ」というバンドのものだった。リーダーは高木大地。前年に初代金属恵比須が絶頂期の中、音を立て瓦解。瓦礫の中で一人佇んでいた高木が、再起の第一歩として立ち上げたバンドでの演奏だった。当時は現在の「紅葉狩」の姿とは違い、インストゥルメンタルの小曲であった。
その後、前述のバンドを母体にした二代目金属恵比須が発足。現在の「紅葉狩」にまで昇華させた。苦界の中で作られた、高木の才能を結集したような名作であり、危機的な時代を支えた金属恵比須にとって最重要作品だ。
個人的な思いが続いて申し訳ない。私は、このアルバムが発表された際に
「ドラムが人間椅子・GERARDの後藤マスヒロだったら、とてつもない名曲になるに違いない」
と思いながら聴いていた。当時は、本当に実現するとは微塵も思っていなかった。今回演奏された曲を聴いて、感動で震えた。発表当時はやや強引に感じられた、第一部から第五部までの組み合わせが、現在のメンバーの卓越した演奏により説得力を持って披露された。未完の大曲がついに完成した瞬間に立ち会えたことに対し、感謝せずにはいられなかった。
金属恵比須・後藤マスヒロ@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
休憩後の六曲目は《ProjeKYt1》による演奏。
高木、宮嶋、稲益嬢によるトリオの演奏だ。このトリオは先日渋谷LOFT9にて開催されたスターレス髙嶋のトークイベントでも「紅葉狩」を披露し、好評を博していた。曲は「神田川」(かぐや姫)~「クリムゾン・キングの宮殿」という強引なメドレーでその名も「神田川の宮殿」。それに続き、定番曲「光の雪」。さすがに「神田川」では笑いが起きていたが、演奏は抜群。特に宮嶋のキーボード(カシオトーン)が素晴らしい。宮嶋の演奏には愛情がある。どんな楽器や曲に対しても深い愛情を注ぎ、演奏をしているのがよくわかる。激しい演奏をしたとしても、音色が汚くなることや、楽曲や楽器に対して乱暴な振る舞いをすることがない。現在の金属恵比須の曲の質感を高めているのは間違いなく宮嶋だと思う。
金属恵比須は楽器も含めると大所帯バンドだが、このトリオなら身軽に演奏できるに違いない。いずれ、別の場面でも見てみたいと思ったのは私だけではないはずだ。
七曲目は《ProjeKYt2》による演奏。
後藤、多良のリズム隊による演奏。まずは、後藤のドラムソロ。後藤マスヒロのドラムソロなどめったにお目にかかれるものではない。昨今テクニカルなドラマーは少なくないが、後藤の叩く1発1発はその説得力が桁違いに高い。ドラムのポテンシャルを限界まで引き出し、マスヒロ印のついたフレーズを怒涛のように繰り出しドラムソロが終了。ベースの多良が引き継ぐ。ブリンブリンのベースソロに後藤のドラムが加わる。今の金属恵比須の演奏に芯を通しているのが後藤で、うねりを与えているのが多良であることが良く分かる、迫力満点の演奏から次の曲に突入。
金属恵比須・多良洋祐@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
八曲目は「みつしり」。
この曲も観客のボルテージが高かった。曲構成が複雑にも関わらず完璧なタイミングでこぶしを突き上げる観客がいて感動した。『箱男』の一曲だが、発表当時から完成度が群を抜いて高かったこの曲。金属恵比須の最新アルバム『阿修羅のごとく』でも再録されている。展開が激しく、バンドとしての一体感が強く求められる曲だが、テンションの高い演奏により、原曲を遥かに凌駕する迫力で突き抜けた。
金属恵比須・宮嶋健一@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
九曲目は「阿修羅のごとく」。金属恵比須の新境地を開いた名曲。稲益嬢がいなければこの曲はどうなっていただろうか。曲もメロディーも歌詞もコンセプトも難解で解釈の難しいこの曲の手綱をしっかり握り歌い上げた。
金属恵比須・稲益宏美@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
十曲目は「猟奇爛漫」。高木本人が凝縮された私小説の様な曲だがファンは多い。猟奇爛漫体操なるヘンテコダンスを求められるが、最後の〆に相応しいハードロックだ。稲益嬢のシャウトもよくよく聴いてみると、女子目線の猟奇であり楽しい。
金属恵比須@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
アンコールは予告通りのクイズ大会と「イタコ」。
クイズ大会の後「イタコ」が演奏される。後藤の、
「もう演奏するテンションじゃないよ(笑)」
は衆目の一致するところだと思うが、演奏が始まれば瞬時にテンションはレッドゾーンに突入。万雷の拍手の中、大団円を迎えた。
2時間を超える長尺のライブであったが、あっという間に終わってしまった。弱り切った足腰が許してくれればもっと見ていたいくらいであった。
セットリストは以下の通り。
さて、この2時間の間に、多くの名曲たちが隠されていた。会場にいた皆さんはどれくらい気づいただろうか?
何だか、こちらの方がクイズっぽいぞ。開場に来られなかった方もyoutubeで動画がアップされた際には、探してみていただきたい。
ライブの後はライブ会場での打ち上げが開催された。私は不参加であったが、非常に盛況であったらしい。「会えるアイドル」もいいが「一緒に飲めるプログレバンド」もまた素敵ではないか。
さて、最後になるが、プログレッシブ・ロックの定義とは何かご存じだろうか?
私はよくわからないので、勝手に
「ジャンル不問の異種格闘技」
だと解釈している。つまり、私の解釈によると金属恵比須のコンセプトの
「プログレというジャンルに囚われた幅狭い音楽」とは、
「ジャンル不問でやりたいことを突き詰める」
ということになる。いかがだろうか?プログレというと、「難解でとっつきにくい」とか「長大で飽きる」とか「もはや死語に近い終わった音楽」とか思われがちだが、そんなことはない。ぜひ一度金属恵比須のライブに足を運んでほしい。兎に角楽しいから。音楽もトークもクイズも楽しい。
現在進行形で進化中のプログレッシブ・ロック・バンドを見ていただきたい。ファンが過去のスーパーバンドと進化の歴史を共に歩むことは最早不可能に違いが、金属恵比須にはその楽しみがある。年明けにも大きなイベントが開催される予定の金属恵比須。次なる進化がどのようなものになるのか、ファンの一人として共に歩めることに期待しつつ筆を擱くこととしたい。
金属恵比須@高円寺HIGH(写真撮影:飯盛大)
(取材・文:深見ススム 写真撮影:飯盛大)
■日時:2017年1月28日(土)18:00開演(17:00開場)
■出演:
金属恵比須
難波弘之 & 荒牧隆
塚田円 & 石嶺麻紀
WARM SOUND PROJECT
■料金:前売 4,500円 当日5,000円
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11/25(居酒屋ROUNDABOUT)
11/26(e+)
■公式サイト:http://ameblo.jp/roundaboutkannai/