ナチュラルであたたかな楽曲と名演に“ほろ酔い気分” ましまろ『ほーぼーツアー2016』 東京公演
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ましまろ 撮影=柴田恵理
ましまろ『ほーぼーツアー2016』 2016.10.6 渋谷CLUB QUATTRO
あまりにも楽しくて気持ち良くて、自然に笑いが込み上げながらも、同時に胸が熱くなって、泣き笑い状態になる瞬間が何度もあった。穏やかでほのぼのとしているのに、純粋かつ強靱な精神が音とともに伝わってくる。こんな音楽、そうはない。こんなバンド、めったにいない。ましまろの『ほーぼーツアー2016』の8本目、渋谷クアトロ2daysの初日にあたる10月6日。
「ムーンリバー」のSEで、真島昌利(G& V)、真城めぐみ(V&Per)、中森泰弘(G&V)にサポートの伊賀航(B)という4人が登場した。月明かりにとって替わるのは朝陽だ。オープニングナンバーは2ndアルバム『ましまろに』の1曲目の「朝」。中森のにじむような音色のエレキギターに、真島のアコギ、真城のパーカッション、伊賀のベースが加わって、生命力あふれるバンドサウンドが会場内を満たしていくと、夜明けの瞬間にも似たマジカルな空間が出現していく。真島の力強さと素朴さを備えた歌声に真城の柔らかなハーモニーが混ざりあうことで、不思議な高揚感が生まれていく。真島は座って弾き語り。中森も座ってギターを弾いている。ちなみに、真城は立ってパーカッションを叩きながらの歌。伊賀も立ちながら曲によってウッドベースとエレキベースを持ち替えながらのプレイ。下手側の2人はスタンディング、上手側の2人は着席という構図がなんだか新鮮だ。真島と真城の横のテーブルにはホッピーのジョッキが置いてあって、喉を潤しながらのライブ。中森のスライドギターも交えつつの「さがしもの」での4人の奏でるグルーヴは“ゴキゲン”そのものだった。真城のふっくらした歌声に真島のシャウトのハモリが加わると、不思議な化学反応が起こって、ついつい顔がほころんでしまう。
ましまろ 撮影=柴田恵理
「東京初日であります。うれしいなあ」と真城が最初のMCで語っていたが、ゴキゲンになっているのはメンバーも一緒らしい。軽やかでありながら、かすかなせつなさが漂うグルーヴに聴き惚れた「したたるさよなら」、みずみずしいハーモニーとアンサンブルが見事な「はだしになったら」などなど。歌声、ハーモニー、楽器のすべてが月の光のように柔らかに降り注ぐようだったのは「ナポリの月」だ。ギターのトレモロも深みのあるベースも心地良い。もしも記憶の宝箱があるならば、いつまでも大切にしまっておきたくなる、かけがえのない瞬間が次から次へと生まれていく。
MCではメンバーが“謎かけ”を紹介するコーナーもあった。いくつか紹介すると。「渋谷駅とかけまして、ボクシングの試合と解きます。その心はKO(京王)もあります」(真島)、「渋谷とかけまして、自動車保険と解きます。その心はどちらも等級(東急)があります」(中森)、「最近の渋谷駅とかけまして、豊洲問題と解きます。その心はワケわかんね」(真島)などなど。MCはゆる~く、演奏はなごやかでありながらも、胸が震えたり、鳥肌が立ったりするミラクルの連続。真島と真城の歌とハーモニーを堪能したのは「しおからとんぼ」。真島のブルース・フィーリングあふれるアコギとハーモニカで始まった「海と肉まん」は真島の迫真のスクリーミング・ボーカルと中森の絶品のギター・ソロに割れんばかりの拍手が起こった。「中森くん、ギター上手」と真島。「今日は良かったね、ギター」と真城が続けると、「えっ? 今日は?」と中森が首を傾げる。「いつもいいけど、今日は特にね」と真城が言うと、「マーシーの気合いが入っていたからね」と中森。すかさず真城が“ウオーッ!”と真島のマネをすると、真島がさらにその真城のマネをして吠える。こうしたやりとりからも、ましまろのライブの魅力が浮き彫りになる。誰かがいいプレイをすると、“なんと素晴らしいんだ!”という反応が演奏そのもので返ってくる。熱演がさらなる熱演を呼んでいく。これはお互いのプレイをしっかり聴いているだけでなく、それぞれの演奏を堪能しながら演奏しているからだろう。
ましまろ 撮影=柴田恵理
そしてこの日の「わたりどり」の素晴らしさをなんと形容すればよいだろうか。おおらかさと伸びやかさを兼ね備えた真城の歌声と、そのボーカルを包み込むような温かさと繊細さと素朴さを備えたエレキとアコギとベース。演奏が終わってもしばらくの間、会場内が感動に包まれていた。真城が涙を流している。素晴らしい音楽に接して感動するのは聴き手だけではない。演奏する側も一緒だ。彼らの奏でる音楽がみずみずしいのは、音楽を愛する心、音楽を楽しむ心が根底にあるから。真城と真島の突き抜けたハモリと軽快なグルーヴが気持ち良かったのは「妙なねじれ」だ。この曲、真島のカウントで始まったのだが、曲の終わりで真城がすかさず「作者のテンポ感はいいですね。ベストのテンポです」といいながら、笑顔を浮かべていたのが印象的だった。真島の気迫あふれるボーカル、中森の軽やかなギターソロが見事だったのは「公園」だ。「成りゆきまかせ」「ローラ・コースター」「ガランとしている」「遠雷」などなど、演奏するほどに気持ち良さが増幅していく。彼らの生み出すグルーヴが気持ちいいのは、あらかじめ定められたテンポ、リズムを奏でるのではなくて、その場の空気に合わせて、4人が柔軟かつ自在に演奏しているから、そしてその4人のタイム感やテンションが互いに影響しあいながらナチュラルなうねりを生み出しているからだろう。
ましまろ 撮影=柴田恵理
「明日もありますが、これでましまろの東京のライブ、最後になります」という真城の言葉に続いて、本編最後の曲に入っていくのかと思いきや、真島がビートルズの「ブラックバード」をつまびいて、真城が歌い出す場面も。が、うろ覚えなところがあって納得がいかないのか、真城が「もう1回やっていいですか」とトライする場面もあった。こうした即興性もましまろのライブの魅力のひとつ。本編最後の「ひき潮」は中森のマンドリンも交えて。繊細かつ優美な歌と演奏に聴き惚れた。とても美しいエンディングだ。本編の演奏が終わると、真島は「またね」と言いつつ、カラになったジョッキを持って退場して、アンコールではホッピーを補充したジョッキを持って、戻ってきた。ちなみに真城のジョッキは置きっ放しだったから、ホッピー摂取量は真島>真城ということになる。その真島のアコギとハーモニカで始まったのはシングル「遠雷」のカップリング曲、ボブ・ディランの「天国の扉」のカバーだった。ノーベル文学賞は受賞してないけれど、真島の日本語歌詞には激しく胸を揺さぶられた。聴き手の胸の中を鷲づかみするようなボーカル。ラストの「ずっと」でも真城と真島のハーモニーがあまりにもチャーミングで、つい顔がほころんでしまった。この曲では観客もハンドクラップで参加。観客の思いも全部受けとめていくような包容力のある演奏によって、胸の中が温かくなっていく。
ましまろというバンドのかけがえのなさを強く感じた日。星がとてつもなくきれいだったとか、雨上がりの空に虹が架かっていたとか、そんな感覚に近い。こんなライブと出会えたことの幸せをしみじみと感じた。ましまろはハイペースで活動を展開していくタイプのバンドではないので、今後に関しては彼らの歌のタイトルのように「成りゆきまかせ」ということになるのだろうが、いつか再び彼らのステージが見られる日が来ることを強く願わずにはいられない。ほろ酔い気分の真島と真城に負けずに、素晴らしい演奏の数々に酔いしれて、ホッピーならぬハッピーな夜となった。
取材・文=長谷川誠 撮影=柴田恵理
発売中
『ましまろに』
12inchアナログ盤
¥3,241+税 BVJL-22
1. 朝
2. さがしもの
3. けあらしの町
4. ひき潮
5. ひき潮(inst)
6. ナポリの月
Side-B
1. 遠雷
2. ローラー・コースター
3. 成りゆきまかせ
4. 妙なねじれ
5. わたりどり
CD
¥2,913+税 BVCL-745
2. さがしもの
3. けあらしの町
4. ひき潮
5. ナポリの月
6. 遠雷
7. ローラー・コースター
8. 成りゆきまかせ
9. 妙なねじれ
10. わたりどり