『life』を「LIVE」で体現し、ひとつの到達点を示したplenty全国ツアー・Zepp Tokyo
plenty
今年の9月にリリースした彼らの最新アルバムのタイトルは、『life』だった。
life、つまり、生きるということ。
それはplentyというバンドがその始まりからずっとテーマにしてきたことであり、その中で彼らは昨年のアルバム『いのちのかたち』でひとつの答えと理想を描き出した。その上で今回の『life』は、「答え」ではなく、今もなおもがき抗い、焦燥に駆られ、時に不安や寂寥に押し潰されそうになりながらも、確かな信念と確信と願いを胸に、日々懸命に生きる彼らの生き様をそのまま映し出すアルバムになった。
そんなアルバムを掲げての、今回のツアー。
まだスタートしたばかりなのでセットリストの詳細な記述は控えるが、今回のセットリストは、その流れの中でまさに人生そのものを表現することを明確に意識して組み立てられたものだったように感じられた。何も持つことなくこの世に生まれ落ちた時と同じ、ただ「声」のみで表現されたイモージェン・ヒープの「hyde & seek」(彼らのライブではお馴染みのオープニングSE)が賛美歌のような荘厳な響きでフロアを満たした後、深く歪んだギターが轟いて始まったライブは、深い夜の孤独から次第に眩い朝陽へと向かっていくような、様々に葛藤し思い悩み、時に悲しみも歓びも手にしながら、やがて何にも負けない強い意志を胸に宿して明日へと向かう様を表していくような、まさに『life』を体現していく「LIVE」だった。
plenty・江沼郁弥
plentyは今回、全国9箇所を回るツアーのうち、初日の長野 CLUB JUNK BOXとこの日のZepp Tokyo、そして11月5日、6日に控える名古屋と大阪のZepp公演の序盤4本に関しては、江沼郁弥(Vo&G)、新田紀彰(B)、中村一太(Dr)というメンバーに加え、デビューの頃からの盟友であるcinema staffから辻友貴をゲストギタリストとして迎え、4人体制でライブを行っている。最初にその報せを聞いた時には「何曲か演奏を共にする形なのかな?」と思ったのだけど、蓋を開けてみれば、辻はなんとすべての楽曲に参加(もちろん、メンバーは最初からそのつもりで辻にオファーしたのだろうけど)。で、この4人で生み出す音塊が、本当に素晴らしいものだった。
plenty・新田紀彰
ギターが1本増えて音/フレーズのレイヤーが追加されれば、そもそも複数のギターを重ねて構築している楽曲を本来の姿で演奏することが可能だし、それだけ音楽的な表現性も増すというのは当然のことではあるのだけど、今回の辻の参加はただの足し算にとどまることなく、バンドの根幹の部分から大きな化学反応をもたらしていた。前回のツアーくらいからメンバーがその音の中に自らを解放し、その場でしか生まれ得ないエモーションとグルーヴが大きなうねりとなってライブを彩っていくことが増えていたのだけど、やはり、衝動のままに全身を大きく揺らしながらギターを掻き弾く辻のプレイに触発された部分も大いにあるのだろう。いつもよりもバンドのダイナミクスが増していたし、江沼の歌も、その強い芯を露わにしながら情感豊かに解き放たれていた。結果、サウンドの凄みと快感が格段に増幅され、それ自体に圧倒される瞬間が多々訪れるのと同時に、それぞれの楽曲に託されていた深い情動や生命の慟哭のような衝動が、音源以上に鮮やかに、生々しく、その場に立ち上がっていく。それがとても印象的だったし、そしてまさにその様にこそ、強く心を揺さぶられた。誰にも明かすことのできない、あるいは誰にも理解されることのない心の深淵から零れ落ちる孤独な想いが、その奥底から湧き上がってくる抑えきれない衝動が、生きることへの渇望と願いが、ダイレクトに伝わってくる。堰を切ったように感情が溢れ出し、大きなエネルギーの奔流に呑み込まれる。完成度の高いロックバンドサウンドにどこまでも興奮を掻き立てられる一方で、その歌にリスナー自身の生が重なり、それぞれの心の奥底に吹き溜まった何かが昇華されていく――そんな、これぞロックバンド・ライブの醍醐味だと言うべきライブが繰り広げられていた。
冒頭でも記したが、セットリストの組み方も本当に見事だった。「夜間飛行」や「誰も知らない」、「born tonight」といった、『life』の中でもディープな心象風景を表す楽曲群を持ってきて一気にその世界に引き込んだ前半戦から、<わらいあい わらいあおう/疑いもいらない距離で>と歌う「嘘さえもつけない距離で」、<すこし すこしでいいから/苦しみの中にいてほしくないのさ>と歌う「laugh」と、千切れそうな心を包み繋ぎ止めるようなあたたかで切なる願いを大きく響かせた後、MCを挟んでからの中盤では、近年精力的に推し進めてきた「より多彩なジャンルを巻き込んだplentyならではのオルタナティヴ」が見事に花開いた、バラエティ豊かで立体的な音楽世界が展開していった。
plenty・中村一太
ポストロックからジャズドラムのアプローチまでを血肉化した確かなスキルと、タイトでモダンな、跳ね感のある踊らせるグルーヴを持ったドラマーである中村の加入後、plentyの楽曲群はより自由度を広げてきたが、その音楽的なバラエティの拡大が、生きるということを音楽に映し出し、そしてだからこそ飽くなき開拓精神で音楽表現の本当の楽しさを追求するplentyにとって必然であることが、今回のライブを通して強く伝わったことだろう。人は生きていれば日々いろんな想いを抱く。孤独の中で膝を抱え、出口の見えない悲しみや寂寥に沈み込む日もあれば、理不尽な世界に憤りを感じる日もあるし、見上げた空の美しさや大切な人の存在に愛おしさが溢れることもある。上手く行かないことの連続で不安や焦燥を覚えたり、やるせなさに押し潰されそうになる日もあれば、ふとした瞬間に生きている喜びを感じることも、さらには未来への希望が湧き上がる日もある。そういったことのひとつひとつが、楽曲ごとに巧みに表現されていく。時に鋭利でアグレッシヴなロックサウンドで衝動を全開にし、時にディスコティックなビートに乗って軽やかに揺らめき、時にミニマルなループから生まれる幻惑的なサイケデリアに身を委ね、そして時に軽快なリズムと抜けのいいサウンドスケープであたたかな開放感を生み出し――と、豊かに音楽的な表情を変えながら進むライブは、まさに私達が生きるこの日々を表しているようだった。
様々に感情を揺さぶられながら迎えた終盤、「in silence」で今一度深い内省に沈んでからの、本編ラスト数曲でもたらされた感動はとてつもなく大きなものだった。日々を乗り越え、<それでもいきてみたいよ あしたもあさっても>という切なる願いを告白した主人公が向かった先に広がっていたのは、その生を肯定し、生きる歓びと愛おしさをかみしめ、そしてまた「終わりの先へ」と向かっていく強く清々しい意志――夜の孤独から始まったライブは眩い光の中で朝を迎え、確かなる未来へと繋がっていた。これこそ、plentyがずっと表現したかった、体現したかった「ライブ」だったのではないか。終演後、大きな充足感の中でそんなことを思うような、plentyのひとつの到達点とも言うべきライブだった。
なお、11月12日@松山 W studio RED以降のツアー後半戦は、再び3ピースバンドに戻ってのライブとなる。4人で掴んだ確かな感触を、3人はどう消化し、いかなる進化を見せるのか。それも楽しみでならない。
取材・文=有泉智子 撮影=岡田貴之
※全ツアー終了後には、さらに詳細にセットリストも記載した完全版レポを掲載予定となっております。ご期待ください!
Open/Start:17:30/18:00 Info:キョードー北陸センター / Tel:025-245-5100
11/03(木・祝) 東京 Zepp Tokyo
Open/Start:16:15/17:00 Info:ディスクガレージ / Tel:050-5533-0888
11/05(土) 愛知 Zepp Nagoya
Open/Start:17:15/18:00 Info:サンデーフォークプロモーション / Tel:052-320-9100
11/06(日) 大阪 Zepp Namba
Open/Start:16:15/17:00 Info:GREENS / Tel:06-6882-1224
11/12(土) 愛媛 松山 W studio RED
Open/Start:17:30/18:00 Info:DUKE松山 / Tel:089-947-3535
11/13(日) 福岡 DRUM LOGOS
Open/Start:16:30/17:00 Info:キョードー西日本 / Tel:092-714-0159
11/15(火) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
Open/Start:18:30/19:00 Info:夢番地(岡山) / Tel:086-231-3531
11/17(木) 宮城 仙台 darwin
Open/Start:18:30/19:00 Info:キョードー東北 / Tel:022-217-7788
11/19(土) 北海道 札幌 PENNY LANE 24
Open/Start:17:30/18:00 Info:WESS / Tel:011-614-9999
※スタンディング、整理No.付、1ドリンク代別途必要、6歳未満入場不可
2016年9月21日(水) 発売
『life』
01. 夜間飛行
02. 星になって
03. 嘘さえもつけない距離で
04. 誰も知らない
05. born tonight
06. laugh
07. 独りのときのために
08. high&low
09. こころのままに
10. ワンルームダンサー
11. in silence
12. 風をめざして