青木美樹(ピアノ)が届ける“身近に聴ける音楽”とは
青木美樹(ピアノ) 撮影=鈴木久美子
青木美樹「お客様と音楽を分け合える素敵な時間でした」 第45回“サンデー・ブランチ・クラシック” 9.18ライブレポート
三連休の中日となった9月18日(日)のeplus LIVING ROOM CAFE&DINING。穏やかな空気が流れる『サンデー・ブランチ・クラシック』では、音楽界の各方面から高い評価を得るピアニスト・青木美樹が日曜日の午後を彩った。
青木は、1920年代のパリをテーマにクラシック音楽がカフェやバーでも“身近に聴ける音楽”となるように努力したパリの作曲家たちの作品を収録したCD『メランコリー』を7月に発売している。この日も、“クラシック音楽をもっと身近に”というコンセプトを掲げる『サンデー・ブランチ・クラシック』にぴったりの曲を用意してくれた。
発売中のCD 撮影=鈴木久美子
まず1曲目に演奏されたのは、CDにも収録されているサティ作曲の「ジムノペディ」第1番。実に穏やかなメロディで知られるこの曲は、セラピーなどにも用いられることがあるそうで、まさに“癒しのクラシック”だ。ピアノの音色が、じんわりを胸の奥を温めてくれる。
「皆さんこんにちは、青木美樹です。今日はカフェでのブランチコンサートということで……私も先日、今から約100年前のパリで、カフェなど身近な空間にクラシックを広めるために作られた曲を集めたCDを作りましたので、実際にこうしてカフェで演奏できる機会を頂き、嬉しく思います」
食事と共にクラシックを 撮影=鈴木久美子
この「ジムノペティ」も、ドイツのロマン派から日常でも聴ける堅苦しくない音楽へ、という時代の変わり目にサティが自身の音楽活動に悩みながら作り上げた曲だという。その想いは、青木自身はもちろん、現代の若き音楽家たちの抱える想いにも通じるものがあるように感じた。
続いては、ガラッと雰囲気を変え、イギリスの作曲家であるエルガーの「愛の挨拶」と「愛の言葉」、2曲続けての演奏となった。「愛の挨拶」は、エルガーが婚約した際に妻にプレゼントしたことでも知られ、多くの人が耳にしたことがあるであろう名曲だ。一方、「愛の言葉」はあまり演奏される機会がないが、エルガーが「愛の挨拶」の返し歌として書いた曲。2曲続けて聴くとより一層エルガーらしい、暖かみのあるチャーミングなメロディが際立った。
MC中の青木 撮影=鈴木久美子
子どもの頃、少しの間イギリスで暮らしていたことがあるという青木。「イギリスは、伝統を重んじる国という印象です。古い時代のいい音楽を通して、現在もあまり変わらないイギリスの雰囲気を感じて頂けたら……」と、早くも4枚目のCDの構想を考えていると明かしてくれた。ちなみに、演奏されたエルガーの2曲も入る予定とのこと。
3曲目は、ショパン作曲「バラード」第3番。ショパンは、バラードを4曲書いているが、その中で3番は最も穏やかな印象の曲だ。バラードには文学を取り込んだものが多いが、ショパンの「バラード」は具体的な創作の動機となったものがはっきりしているわけではない。バラードながら、最後、明るい曲調で終わるこの曲。ショパンがイメージした物語に想いを馳せながら聴くのもまた一興だ。
あたたかい音色が響く 撮影=鈴木久美子
この日のプログラムの最後を飾ったのは、ファジル・サイ編曲「サマータイム変奏曲」。元となっているのは、言わずと知れたガーシュインの代表曲である。世界で活躍するピアニストであるファジル・サイを、青木はとても尊敬していると言い、「彼はトルコで生まれ、ドイツの音楽院で伝統的な教育を受けた方で、演奏家として非常に優れているのはもちろんなんですが、作曲家としても自分の故郷のトルコの音楽やジャズを取り入れた曲を書いたり、とても構成的な編曲をしたりと、自分を表現する方法をたくさん持っている方です」と紹介した。
「いまクラシックの音楽家たちは、クラシックの楽しさや面白さを知ってもらう機会を作ることや、若い人たちにも受け入れてもらうことなど、“クラシックをどう変えていけるか”を考えることが多くなっています。多くの人に心に留めて頂けるよう、様々な形でメッセージとして届けていきたいと思っています」と語った青木の熱い想いは、曲にさらなる熱を持たせ、観客は届けられたメッセージに大きな拍手で応えた。
青木美樹 撮影=鈴木久美子
アンコールには、CD『メランコリー』にも収録されているオネゲル作曲「ショパンの思い出」を披露し、30分のプログラムを締めくくった。
終演後、青木に感想を聞くと「お客様と身近に音楽を感じながら一緒に分け合えるような、すごく素敵な時間でした。3枚目のCDがクラシックを身近に感じられる音楽にしようと取り組んでいた作曲家の音楽というものだったので、まさにそのコンセプトにぴったりな空間で演奏する機会が頂けて嬉しかったです」と振り返った。
ヨーロッパ各地、日本だけでなく、トルコ、インドネシア、カンボジア、タイ、カナダ、アメリカ、ロシアなどの演奏会に出演したことのある青木は“音楽への熱”を様々な形で体験したという。
インタビューの模様 撮影=鈴木久美子
「カンボジアでは、内戦でバラバラになってしまった集落の人たちが、出自の地区の伝統的な音楽で出身を確かめ合った、ということがあったそうなんです。だから、音楽は“平和の象徴”。クラシックの演奏に行った際も、熱烈に聴いてくださいました。ミャンマーでは楽譜が入手しづらい状況なので、外国から演奏家が訪れた際には楽譜をコピーして自分たちの音楽を増やしているそうです。音楽を求める気持ちは、世界のどこへ行っても同じなんだと感動したんです」と自身の体験を語ってくれた。
最後に、「とても暖かい雰囲気の中で、たくさんの方に演奏を聴いて頂くことができてとても嬉しく思います。こういった機会を通して、クラシックを身近に感じていってもらいたいです」と話していた青木。MCの中で、次回のCD制作の構想もちらっと飛び出したが、これからも青木の思う音楽の形が届けられるのを楽しみにしたい。
青木美樹(ピアノ) 撮影=鈴木久美子
『サンデー・ブランチ・クラシック』、次回もお楽しみに!
東京に生まれる。9歳で渡英。12歳で、ナショナル・フィルハーモニー・オーケストラとのロンドン・フェスティバルホール共演でデビュー。ロンドン、パーセルスクール卒業後、渡米。インディアナ大学、イェール大学大学院卒業。さらに、ドイツ・ハンブルグ音楽大学国家演奏家コースを首席で卒業。故ジョル ジー・シェベック、練木玲子、ボリス・ベルマン、エフゲニー・コロリオフの諸氏に師事。
これまでにハンブルグ音楽大学、(ドイツ)ローザンヌ音楽院(スイス)にて教鞭を執る。2012年秋からはグラーツ国立音楽大学(オーストリア)シニア・レクチャラー(上級講師)。2010年、ドイツ・ゲーテインスティチュートの推薦で3週間に渡り東南アジア・ツアーを行う。演奏会を行う他、各地の音楽学校で子供達の指導にあたった。2011年にはCDレーベル、プロフィール・ヘンスラー(ドイツ)と契約。2011年9月に発売されたデビューCD、コダーイのピアノ曲集は幅広く紹介され、ピアノニュースマガジン、BBCミュージックマガジンでも高く評価された。2013年春には2枚目のCD、 「ベリャーエフ・プロジェクト」をリリース。
The Rev Saxophone Quartet/サクソフォンカルテット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
藤原功次郎/トロンボーン&原田恭子/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html