日本を代表する芸術・エンタテインメントの殿堂、フェスティバルホール西部宏志支配人に訊く!
こけら落とし公演はイタリアの名門オペラハウス、フェニーチェ歌劇場。 提供:公益財団法人朝日新聞文化財団 撮影:森口ミツル
大阪初秋の風物詩「大阪クラシック」最終公演、大阪フィル演奏会のアンコールでは指揮者 大植英次が、大阪市の市章が描かれたお馴染みの法被姿で「八木節」を演奏し、2500人が熱狂!
振り返ればそこは、ヘルベルト・フォン・カラヤンやレナード・バーンスタインといった偉大なるマエストロがタクトを振り、ビルギット・ニルソンやウォルフガング・ウイントガッセン、マリア・カラス、バーバラ・ヘンドリックスなどの名だたるオペラ歌手や、さだまさしや山下達郎、谷村新司、高橋真梨子といった人気のポップス歌手が歌う。そしてマイヤ・プリセツカヤやジョルジュ・ドン、シルヴィ・ギエム、熊川哲也が舞い、アンドレス・セゴビアやモーリス・アンドレ、マルセル・マルソーの名人芸が満員のお客さまを魅了してきた。ディープ・パープルやマイルス・デイビスなども演奏し、その模様がCDとなり現在も名盤として語り継がれている。そして何と言っても1967年、初の海外公演となったバイロイト・ワーグナー・フェスティバルの大成功!
それらすべての舞台となった日本を代表する芸術、エンタテインメントの殿堂、それがフェスティバルホールだ。
ライトアップされたフェスティバルホールの外観。 (C)飯島隆
高度経済成長真っ只中の1958年に誕生した旧フェスティバルホールは、開館50周年を迎えた2008年に再開発のため、惜しまれながら閉館。そして2013年4月、さらにパワーアップしたフェスティバルホールが「中之島フェスティバルタワー」の中に誕生した。関西の興行界にとってフェスティバルホールがいかに大切で中心的な役割を果たして来たか。その事はフェスティバルホール不在の4年半で十分に理解出来た。
新しいフェスティバルホールが誕生して3年半が経過した現在、オープン当初よりもさらにホールの評価は高まり稼働率も伸びているらしいとの噂を耳にする。そのあたりの事を旧ホール最後の、そして新ホール最初の支配人、西部宏志に訊いてみた。
笑顔が素敵なフェスティバルホール支配人 西部宏志氏。 (C)Isojima
---- 山下達郎さんの「フェスティバルホールを壊すのはカーネギーホールやオペラ座を壊すのと同じことで、愚行だ」といった言葉に代表されるように、アーチストの方たちからは解体には反対意見も多かったと思います。新ホールオープン当初、皆さんの感想はいかがでしたか?
西部宏志 : 「山下達郎さんにはホール完成前の段階から見ていただいていました。最初の公演を終えて、『ホールの空気感が旧ホールとほとんど同じ。旧ホールと同じ‘気’がする』と。直接音のことには触れられませんでしたが、3年目になって「ずいぶん良くなってきたね!」と言っていただきました。バレエダンサーの熊川哲也さんも、『旧ホールと同じ‘気’がする。新しいけど懐かしい。前よりも踊りやすくなった。』と高評価をいただきました。谷村新司さんには『旧ホール同様、客席の拍手が滝のように降り注いできて気持ちよかった。音響は以前と変わらず素晴らしい!』と。旧ホールで202回コンサートをされているさだまさしさんは、オープン前『せめて惚れた女の娘でいて欲しい!』と言われていましたが(笑)、コンサート2日目を終えて『紛れもないフェスティバルホール!余計なことはしなくていい。黙って自分の音を出せと言われた気がする。上手は上手に、下手は下手にしか聞こえないから怖さもある』と仰っていました。マエストロ井上道義さんは『余計な残響がなくリハーサルがしやすい。エントランスから客席までのアプローチが素晴らしい!』。マエストロ大植英次さんは『舞台と客席の一体感が素晴らしい。カーネギーホールと同じ匂いがする。』とお褒めの言葉をいただきました。
「第53回大阪国際フェスティバル2015」 ワレリー・ゲルギエフ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 提供:公益財団法人朝日新聞文化財団 撮影:森口ミツル
外国のアーチストやマエストロは、一様に「ビューティフルシアター!」と言われます。マエストロ・チョン・ミョンフンもマエストロ・ティーレマンもそうでした。 新しいホールと云う意味だけではなく、佇まいやそこで生まれるサウンドなどすべてを評価して美しいと言っていただいているようで、嬉しいですね」
幅7,2m、51段の大階段は、フェスティバルホールの象徴。
---- 一般のお客様の声はどのようなものだったのでしょうか。
西部 : 「お客さまの多くは、昔旧ホールで聴いたベルリンフィルが良かった!などの思い出をお持ちです。思い出との戦いでは勝ち目はありません。私たちには良いものが出来たとの自負はありますが、厳しい評価を頂戴するだろうなぁと思っていました。しかし実際には予想以上にお褒めの言葉をいただいています。赤い絨毯や赤い椅子など旧ホールの象徴的な物を残してきたことが良かったのかもしれませんね。初めてお越しになられる方は、まず大階段でオオッと思われるようです。皆さま人気の撮影スポットです」
---- 音に関してはいかがですか?
西部 : 「フェスティバルホールと云えば‘天井から降り注ぐ音’が特徴的だと言われて来ましたが、新しいホールでは音響反射板と壁面の拡散体から生まれる側面からの音も随分強化しましました。そして残響何秒よりも、いかに音がクリアにお客さまに届くかのほうが大切だと考えています。ここをホームにしている大阪フィルの皆さんは「自分の音だけではなく他のパートの音もよく聞き取れるので演奏しやすい」と言っていただいています。オープンから3年半が経過し、エイジングと云うのですが、音も馴染んで来たのと同時に、演奏する側がホールの鳴らし方をわかってきたことも、音が良い!と言っていただける要因だと思います。
生音がしっかりしているからこそ、ポップス系のアーチストに帯同している優秀な音響オペレーターが理想のPAサウンドを作り出せるのではないでしょうか」
フェスティバルホールを本拠地としている大阪フィルハーモニー交響楽団。 (C)飯島隆
---- 現在、クラシックの占める割合としてはどのくらいですか?
西部 : 「およそ2割ですね。もともとフェスティバルホールは、エジンバラやザルツブルクの芸術祭に匹敵する国際的な音楽祭を開催しようという意図のもと、創設されました、「フェスティバル」という名前もそこから来ています。音楽祭「大阪国際フェスティバル」は、旧ホールから新しいホールまで毎年開催されていて、2017年には第55回目の開催を数えます。その創設時の理念は大切に継承していこうと考えています。その上で、ジャンルを問わずに良いものをやっていきたい。多彩なジャンルの公演が成立するフェスティバルホールだからこそ、ポップスやミュージカルを楽しみに来た人にもクラシック音楽に関心をもってもらいたいと思います」
---- ウィーンフィルをはじめとする海外の有名なオーケストラだけでなく、東京都響や読売日響など東京のオーケストラも気に入って使用されているようですね。
西部 : 「ホールを使用された皆さまがその感想を広めていただいているようで、ありがたいことです。客席数2700席(オーケストラピットを使用時は2524席)というのは東京からやって来るオーケストラには魅力なのでしょうね。都響も読響も満杯です。東京のオーケストラが満員になる事は、大阪フィルなど在阪のオーケストラにとっても刺激になるのではないでしょうか」
中之島フェスティバルタワーの中にフェスティバルホールはある。 (C)飯島隆
---- フェスティバルホールは関西のエンターテインメントを支える中心的なホールです。支配人として意識されていることは。
西部 : 「オファーに任せるのではなく、全体のバランスを考慮して自主事業を年間20本程度はやっています。これはブランディング戦略的にも必要な事ですね。来年、向かいにもタワーが建つと15000人のオフィスワーカーを抱える街、フェスティバルシティが出来ます。仕事を終え帰る時に「今日フェスは何をやっているのかな?」などと云う風に潜在的に意識してもらえるようになりたい。自信を持ってトップランクのアートやエンターテインメントをお届けしますので、ぜひフェスティバルホールにお越しください」
---- この先の自主公演から、おすすめの公演をご紹介してください。
ヨーロッパを主戦場に活躍中の笈田ヨシが日本で初オペラ演出。
蝶々夫人を演じるのは、活躍中のソプラノ中島彰子。
西部 : 「2014年に全国の劇場施設が共同で制作したオペラ「フィガロの結婚~庭師は見た!」は、野田秀樹演出、井上道義指揮で上演され、オペラというジャンルの枠を超え、音楽界、演劇界で大きな話題となりました。この共同制作オペラの第2弾として上演されるのが今回ご紹介する「蝶々夫人」です。
演出は、ピーター・ブルックの作品には欠かせない日本を代表する演劇人であり、ヨーロッパを主戦場とする笈田ヨシ。今回、83歳にして日本での初オペラ演出となります。「蝶々夫人」の有名なラストを変えるとマスコミの取材でも語られているだけにどうなるのか私も楽しみです。タイトルロールを演じるのは中嶋彰子。このところの活躍が目覚ましい方なので、素晴らしい蝶々夫人をお目にかけられると思います。どうぞご期待ください。
オープン以来3度目の「祝祭大狂言」に出演する人間国宝 野村万作。
フェスティバルホールの大空間でしかできない狂言を見せたい!と語る野村萬斎。
それと、こちらはクラシック音楽ではありませんが2013年のホールオープンに際し、伝統芸能のこけら落とし公演として上演されて以降、2年ごとに上演している野村万作、野村萬斎による「祝祭(フェスティバル)大狂言会」もお勧めいたします。通常狂言を上演している能楽堂は客席数は500席ほど。その数倍の2700席という大ホールの舞台を生かしした音響、照明など、演出面の工夫を重ねたまさに大狂言会と呼ぶに相応しい内容となっています。
茂山家による「千鳥」、野村萬斎による「那須与一語」、万作の会一門による大作「唐人相撲」という豪華な作品を上演します。他では絶対に見られないスペクタクルな大狂言会をご堪能ください」
高さ18m、3層吹き抜け構造のメーンホワイエが気分を高揚させる。 (C)飯島隆
コンサートやお芝居、バレエなどに足を運ぶワクワク感をさらに増幅してくれるホールがフェスティバルホールだ。中之島フェスティバルタワーの1階に入ると、いきなり飛び込んでくる大階段。そこから続く赤い絨毯と旧ホールのデザインを継承したシャンデリアは、非日常への入り口エントランスホワイエ。そして薄暗い中を90秒かけてゆっくり進むエスカレーターは、日常から非日常へ、ケからハレへと気持ちを切り替えてくれる時間でもある。そしてエスカレーターを降りるとメーンホワイエ。そこは満点の星空。
今日も一流のアートが、最高のエンターテインメントがここで行われている。
ぜひ一度フェスティバルホールを訪ねてみることをお勧めする。この空間、知っているのといないのでは人生の豊かさにおいて格段の差が付くように思うのだが。
(取材・文:磯島浩彰)
会場:フェスティバルホール
指揮:ミヒャエル・バルケ
曲目:プッチーニ/蝶々夫人
演出:笈田ヨシ
合唱指導:清原浩斗、清原邦仁
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団
料金:SS席14,000円 S席12,000円 A席10,000円 B席8,000円 C席6,000円 D席完売 BOX席17,000円 バルコニーBOX席24,000円(2席セット・電話予約・窓口販売のみ)
公式サイト:http://www.festivalhall.jp
一般発売日:12月11日(日)10時~
窓口販売は12月12日(月)10時~