ポーター・ロビンソンインタビュー 天才プロデューサーとアニメーションの蜜月な関係 「作品を通して美しいものを作り上げたい」

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2016.11.18
 撮影=風間大洋

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世界を揺らす24歳の天才がいる。ポーター・ロビンソン。DJにしてプロデューサーの彼がMadeonと組んで制作した楽曲「SHELTER」は世界を激震させた。ジャパニーズカルチャー、特にアニメーションに対する愛を声高に叫ぶ彼が作り上げたのはアニメ製作会社A-1 Picturesと組んだオリジナルアニメーションMVだった。来日したポーターにSPICEはインタビューを敢行、今回の楽曲制作について、そしてアニメーションに対する思いを語ってもらった。


――『SHELTER』を見ました。僕はアニメーションを仕事柄沢山みてるんですけど、下手をすればワンクールのアニメを見るより心に響くものがありました、この作品はどういう経緯で作ることになったんですか?

Crunchyroll(クランチロール)というアメリカで大手なアニメ配信会社のサービスがあるんだけど、その会社と縁があってね。僕からオリジナルコンテンツを作りたいと依頼したんだ。実際アニメーションをっていう話になった時に「SHELTER」のアイデアが浮かんだんだ、自宅で三日間鍵をかけて、いっきに台本を書きあげたんだよ。

――ポーターの曲はエモーショナルなものを感じる曲が多いんですけれども、今作はストーリーラインもまさにポーターの世界観というか、本当に切ないストーリーでした。ポーターの中にそういうエモーショナルなものを表現していきたいという感覚があるんでしょうか?

実は僕自身も曲やPVを作り上げた時に、なんでエモーショナルなテイストになっているかわからないんだ。僕の人生にはべつに悲劇があったわけでもないんだけどね。自分自身がアートや好きなものに触れて、嬉しい感情や感動した瞬間があると、それをどうやって再現できるか、どうやって自分のファンにこの嬉しさ、感動を共有出来るかを考えるんだ。そういう感情的な部分が溢れてエモーショナルなものに仕上がるのかな。なんでちょっと切ないものになるかはわからないんだけど、いつもそうなっちゃうね(笑)。

――アウトプットすると勝手に出てくるんですかね?

そうかもね、僕にとって作品を作り続ける原動力は、やっぱり感動を感じさせることだよ。それは自分もそうだし、ファンに対してもそう。思いを高めることで出ちゃうものだと思うからね。

撮影=風間大洋

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――今回はマデオンとの共作という事になりますけれども、何故この「SHELTER」で、アニメを使ったものをマデオンと一緒にやろうと思ったのかっていうのが聞かせてください。

「SHELTER」のテーマとしては、一番は”親の愛情“だね。僕もマデオンも次の世代を守りたいっていう気持ちがあるんだ、だから二人で取り組んだんだよ。歌詞もMVのストーリーもそうなってると思う。「SHELTER」は曲の作りとストーリーの作りもすごい似ていて、どちらもちょっとハッピーなスタートで、後半はエモーショナルに高まっていく。ストーリーとしては最初は主人公の凛ちゃんがタブレットをいじりながら嬉しそうにしてるけど、後半は彼女の悲劇がある、僕とマデオンの2つの表現を合わせた時に、この曲は一番僕の作り上げたストーリーにあっていた。だからこういう形になったってことかな。

――A-1 Picturesが作ったアニメーションを最初に見たときに、どうでしたか?

言葉も表現できない嬉しさだよ!人生で最高の嬉しさだった。人生で一つの夢が叶った瞬間だったね。ストーリーを書いたのは僕だけど、第三者的目線で作品を見た時泣いちゃったよ。アニメファンとして単純に感動したよ。

――僕は去年のソニックマニアで初めて生のプレイを見させてもらって、やっぱりジャパニーズカルチャー、アニメだったりゲームだったりっていうものに対する、ポーターの「僕はこれが好きだ!」って言う気持ちが凄く伝わってきたんです。

それは嬉しいな、ありがとう。

――やなぎなぎの「春擬き」と「Divinity」のマッシュアップで凄い多幸感を感じたんですね、もうぶわーって泣いちゃって。それに近いものをあのムービーから感じました。

作品のアプローチとしては本当に嬉しいな! たとえば10人居たら、その中のひとりが感じてくれれば僕は充分なんだ、10人にまあまあの印象を受けるよりは、一人の心をギュッとしたいんだよ。アニソンをEDMフェスで流すことで、一人でもそういう感じを受けてもらえたならいいと思うんだ。

撮影=風間大洋

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――この「SHELTER」のムービーをポーターをあまり知らないアニメファン見せたらびっくりしてたんです。曲もMVのクオリティも最高だって言っていました。そういう風に今回の作品でアニメファンもポーターを注目することが増えると思います。自分の曲を聞いたことのない、もしくはこれから聞くアニメファンに対して、どういうアプローチをしていきたいか、どういう思いを伝えたいとかはありますか?

オーケー、簡単な自己紹介するよ(笑)。 僕は24歳で、アメリカ人で、電子音楽のプロデューサーと作曲をやっています。音楽もそうだけど、作品を通して「美しいもの」を作りたいんだ。音楽と映像の美しいものを作るっていうゴールが僕のテーマ。日本のアニメファンに僕が伝えたいのは、僕は皆さんの力になりたいということです。

――力になりたい、とは?

世界中のアニメ業界が盛り上がって、アニメ―ション制作を長く続けてほしいし、アニメの良さを世界中に広げたいと思ってるんだ。特にアメリカではアニメは人気にはなってるんだけど、一般の人達は日本のアニメに対して、ちょっと暴力的なものやセクシーな表現が多いものだと思ってる。もちろんそれだけじゃなくて、美しいものもあるじゃない? 美しさも含めた様々な感情が入ってるものが日本のアニメーションで、そういうところを宣伝していきたい。日本のアニメはすごい幅広いジャンルがあるから、一面だけを切り取らないでほしいし、皆にわかってもらいたいね。

撮影=風間大洋

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――ポーターが『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』が好きって言うのは凄く有名ですが、アニメを好きになったキッカケの作品は何なんでしょう?

キッカケは2点あるんだけど、1点目としては中学生の時にアニメを初めて観たんだ、チョイスがよくわからないTV局で、たまたまライセンスされたものだと思うんだけど、『あずまんが大王』や『妄想代理人』とかよくわからないチョイスだったんだよね(笑)。

――かなりマニアックなチョイスですね(笑)。

まだネットも普及してない時代だったしね、『カウボーイ・ビバップ』とかは当時でも結構アメリカで放送されてたんだけどね。ここではちょっと知って、気になったというか、ハマりはしなかったんだよ。で、今から4~5年前にツアー中にイギリスに行ったんだ。そこは何もない街でね、やることなかったのでホテルでネットをしながらでオススメのアニメを調べていたんだ。そうしたら誰かのオススメに『とらドラ!』があって……。 全部観終わった後に感動を受けて、ドハマリした感じだよ。だから本格的にはまってからは4~5年ってところかな。

――日本のアニメファンには、毎年クリスマスにとらドラ!を見る人が多いですよ。

アメリカのアニメファンも皆そうだよ!(笑) あとは『花咲くいろは』とかもハマったね!

――『花咲くいろは』とか『とらドラ!』って日本の高校だったり、旅館だったり、日本固有の文化が下敷きになっている話ですけれども、アメリカ人から観て文化が違うところで、そこに対して理解出来るのか?感銘を受けられるのかどうか気になるんですが。

逆にわからないからこそもっと面白くなるんだよ。例えば『花咲くいろは』を見て、あれは旅館が舞台だけど、「これはホテル?温泉?どっちなんだろう?」みたいな。日本人は旅館と言うものを分かってるけど、僕らからしたら「旅館とは?」っていうところも勉強するのが楽しいんだよ。日本人から観ると日常の普通な風景なのかもしれないけど、僕から観ると、そういう普通の日常からも「美しいもの」を感じてるんだよね。それが刺激にもなるんだよ。

撮影=風間大洋

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――なるほど。そういうポーターが今回「SHELTER」を作ったんですね。僕はポーターがクリエイトするアニメ作品をもっと観たいと思いました。

本当に世界中の才能がある人たちと仕事ができたのはすごい幸運なことなんだ、一生頑張ってもかなわない人がいるのに、自分がどれだけ幸運かっていうのはわかっているつもりだよ。だから1回だけで凄く満足してる。もちろんまた機会があれば、ぜひ作ってみたいけど、欲張りは言わないよ!

――これから期待しているアニメ作品がもしあれば聞きたいです。

期待よりは最近見たアニメの話になっちゃうけど、アメリカでは日本ほどアニメのニュースが流れないから、珍しいものとかはあんまり知らないんだ。でも今年一番見てたのが『Re:ゼロから始める異世界生活』かな。新海誠さん原作の『彼女と彼女の猫 -Everything Flows-』も見たよ。

――リゼロは日本でも超ポピュラーな作品ですね。

うん、新海誠監督は大ファンなので、『君の名は。』を見たいんだけど、まだ見れてないんだ。まだ英語字幕がないのでずっと待ってるんだよ。

――僕は2回見に行っちゃいました(笑)。

予告編だったら100回くらい見てるんだけどなぁ(笑)。

――早く観てもらって感想を聞きたいですね。

新海監督の作品は写真みたいな繊細で美しい絵が素晴らしいよね、おしゃれな感じも好きだな。

――『君の名は。』はジブリ作品と同じくらいのビッグヒットになっています。そんな中で「SHELTER」をポーターが作って、アニメと音楽がコラボしていくことがどんどん増えていく気がします。例えば新海誠さんの音楽をやってくれって言われたらどうしますか?

もちろん新海さんだったり、細田守さんが大好きなので、言われたらすぐやるよ!(笑)。 アニメファンだけじゃなくて一般の人も皆見に行くっていうような作品を作る監督さんがどんどん出てきて嬉しいよね。アニメももっと普及して欲しいし、新海さんのいちファンとしても『君の名は。』のビッグヒットは凄くうれしいよ。

撮影=風間大洋

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――最後に日本のミュージックシーンの話もさせてください。秋葉原にあるクラブ『MOGRA』などでもプレイされたりしていますが、日本のクラブフロアの温度だったりとか、自分がプレイされたときの感じを聞かせていただけますか?

まず僕は普段ライブフォーマットが中心で、あまりDJはしていないんだよね。実は「SHELTER」を作るときにも来日していて、夜暇だったんだ。だから友達のDJに「何か無いの?」って聞いて回ったりして、急遽ゲリラ的に「ANISON MATRIX!!」に参加したりして、そういう自由な時にアニソンをかけてみたりするんだけどね。

――『MOGRA』でプレイされたときは見に行きました、オールジャンルで最高に楽しかったですね。

うん、中々ああいうのはアメリカではなかなか出来ないし、向こうでは反応も薄いんだけど、日本だと好きなアニソンでメチャクチャ反応してくれて、フロア中が強い感情でいっぱいになってて……。 アニソンDJセットは僕にとってもすっごい楽しい体験だったね。楽しみたいっていうみんなの気持ちを全身で感じられたよ。

――多分これから先、『SHELTER』を持ってマデオンとツアーを組んで日本に来ることもあると思うんですけど、多分それはいわゆるクラブミュージックファン、今までのファン以外であるアニメファンも行く可能性があると思います、日本だからということで特別に意識することってありますか?

『SHELTER』のツアーに関してはマデオンとツーマンなんでちょっと話さないといけないかな。マデオンもアニメが好きなんだけど、『DEATH NOTE』とか『名探偵コナン』とか僕の趣味とちょっとテイストが違うんだよね。でもマデオンも『SHELTER』のアニメを気に入ってくれているから、相談の余地はあるかな(笑)。 でも自分のセットだとちょっと変わると思うな。ソニックマニアでも、多めにアニメの曲を入れたんだけど、あれはロスアンゼルスの『ANIME EXPO』でも同じセットをやっていたんだよ、ソニックマニアも「日本だし!」というところでやってみたんだ。好評なのが嬉しいね。早く日本で大きなイベントがやりたいよ、待っててほしいな。

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インタビュー・文=加東岳史 撮影=風間大洋

 

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