エンデの絵本を小野寺修二が舞台化!『オフェリアと影の一座』 彩吹真央・彩乃かなみ インタビュー

インタビュー
舞台
2016.11.15
彩乃かなみ・彩吹真央

彩乃かなみ・彩吹真央


ドイツの児童文学作家で、『モモ』や『はてしない物語』などで日本でもよく知られているミヒャエル・エンデ。そのエンデの絵本『オフェリアと影の一座』をもとにした同名の舞台が、11月から12月にかけて新潟、東京、兵庫で上演される。

主人公は小さな声で囁くプロンプターのオフェリア。劇場が閉鎖になってしまったことから、オフェリアは集まってきた「影」たちと一座を組んで旅をする──。
 
演出は新たな身体表現で演劇の可能性を切り拓いている小野寺修二、オフェリア役には白石加代子が扮する。また「影」たちに、旺なつき、彩吹真央、彩乃かなみ、真瀬はるかなど、宝塚OGたちが出演するのも大きな話題だ。そんな多彩なキャストの中から、彩吹真央と彩乃かなみに、作品のこと、宝塚で一緒だった時代などを語り合ってもらった。
 

小野寺さんのワークショップを経験して
 
──エンデの『オフェリアと影の一座』をもとに作られる舞台ですが、この絵本については?
 
彩吹 こういう本があるということは知っていたのですが、内容については詳しく知らなかったんです。今回出演させていただくことになって改めて読んでみましたら、劇場とか演劇が出てくるお話で、哲学的で、人生についてすごく深く書いてあって、こんな面白い本だったんだと思いました。
 
彩乃 私は今回初めて知りました。どんなふうにも解釈できるし、読む人によって映る世界も違うような、そしてどこを切り取っても考えさせられる本だなと思います。今回は身体表現で見せる部分も多いと伺っていますので、どのように小野寺(修二)さんが演出してくださるのか楽しみです。
 
──小野寺さんの世界についてはどんな印象が?
 
彩吹 すでに1度、ワークショップを受けさせていただいて、とても面白かったのですが、難しくもあって。動きが表現する世界観には引き込まれましたし、それが何を表しているのか理解しようとするために、すごく集中力が必要だなと思いました。たとえば空とか海とかわかりやすいものを表現しているのなら簡単なのですが、もっと抽象的な世界なので。私たちもあるテーマを与えられて、「自由に動いてください」「自由にやってください」と言われたのですが、その自由がこんなに怖いものかと。
 
彩乃 怖かったですねえ(笑)。
 
彩吹 でも、宝塚時代から稽古場でしかチャレンジはできないと思っていましたし、恥をかけるのは稽古場だけなので、間違ってもいいから思い切りやろうと。とくに今回のようなワークショップは、私たちはゼロからの出発でしたから、恥ずかしいとか言っている場合ではないので、直感で感じたままを素直に出すことを心がけました。
 
彩乃 私もまったくゼロのわからないところからでしたから、戸惑いながらもとにかくやらねばという感じで。台詞があってそれをもとに何かを生み出すのでしたら、それまで培ったものが生かせるのですが、本当に自由な発想で動いていくので。でもそのギリギリのひりひり感も含めて、ユミコさん(彩吹)と「おもしろいー!」と。
 
彩吹 楽しいねーって。
 
彩乃 もっとやってほしい!と(笑)。
 

「相手を思いやる気持ち」が基本だから
 
──ワークショップから沢山刺激を得たようですね。
 
彩吹 新しい作品とか新しい役とかに出会う楽しさと一緒で、自分の知らない自分に会えるので。
 
彩乃 会えましたね。それから、長くレッスンをしていらっしゃる方も交えて、ペアになっての動きもあって、それも面白かったです。
 
彩吹 1対1で鏡に映っている状態で、初めは同じ動きをしていて、パンと手を叩いたらお互いの動きを逆にするとか。要は相手を感じながら動きをシンクロさせていくわけです。とても根本的な「相手を思いやる気持ち」という、踊りにしろ歌にしろ芝居にしろ一番大事なことに繋がる、基本的な部分を教えていただいたと思います。
 
彩乃 本当にそうです。お芝居をしてきた経験から、つい顔とか表情で感情表現してしまおうとするのですが、体の動きだけでそれを伝えるという、基本的なことを教えていただきました。
 
彩吹 面白かったのは、2人とか3人ずつで動きを見せていく中で、動いている人の舞台上でのクセみたいなものも見えるんです。たとえば歩き方とか、体のどこに力が入るとか、それは欠点ということではなく、メリットになることもあると思いますが、そういうクセみたいなものは、きっと自分にもあるだろうなと。そういうふうに自分自身をブラッシュアップできる機会がそうはないので、この作品で小野寺さんと出会えたことは、私にとっても、ミホコ(彩乃)や真瀬にとって大きな意味があると思います。
 

オフェリアという老女の中にある神聖なもの
 
──この作品は宝塚OGの方たちも含めて、とても多彩なメンバーですね。
 
彩吹 まず白石加代子さんという素晴らしい女優さん、そして旺なつきさんという宝塚の大先輩とご一緒にできることが光栄ですし、さらに舘形(比呂一)さんやフィリップ・エマールさんという優れたパフォーマーの方々とご一緒できることに、とてもワクワクしています。
 
彩乃 私はそういう方々の中に、自分が入らせていただけることが信じられないくらい幸せで、とても光栄ですし、この公演は自分にとって宝になると思っています。
 
──設定もとても面白くて、白石加代子さんのオフェリアは、声が小さくてプロンプターにならざるを得なかった女性で、演劇好きなら引き込まれますね。
 
彩吹 まさに大人の絵本ですよね。もちろんお子さんたちにも読んでほしいと思いますが、大人が向き合わなくてはいけない人生についての話が深く書かれていて、オフェリアという長く生きてきた女性の想いや感情は、きっと観ている方々の心に届くのではないかと思います。
 
彩乃 そのオフェリアの中にある神聖なもの、それをわかっている存在が「影」なんですよね。「影」というとついネガティブなイメージに捉えがちですが、追いやられてしまうものの中にある大事なもの、みんなが美しいと思っていないものの中にある輝いているもの、そういうものを表しているのかなと。表面だけでは判断できないそういうものは、大人になるほどに理解できるもので、まだ私もそんなに理解しきれていないのですが、そういう深さをこの絵本から感じます。
 

劇中劇で演じる『トゥーランドット』
 
──オフェリアの物語を外枠に劇中劇が演じられますが、その1つが『トゥーランドット』で、彩吹さんと彩乃さんが演じるのですね。
 
彩乃 私は『トゥーランドット』とはご縁があって、宝塚時代に有り難いことに3人の女性を演じさせていただきました。最初はタマラ、オペラではリューという名で、今回は真瀬さんがやる召使の役、新人公演ではトゥーランドットを、そして博多座公演ではアデルマという他国の王女を演じたんです。そんなに色々な役を演じさせていただいた作品と、またここにきて出会えるというのは本当に不思議ですし、目に見えない力に導かれている想いさえします。
 
──彩吹さんはカラフ役ということで、男役を久しぶりに演じますね。
 
彩吹 男役の前に音符をどうにかしないといけなくて(笑)。
 
彩乃 音符が本当に難しいんですよね!
 
彩吹 いわば劇中でオペラをやるようなものですから。もちろん劇中劇で「影」たちが演じるということで多少ファンタジーにはなっていますが、やはり原作オペラの素晴らしさはきちんと伝えないといけないので。しかもあの有名な曲を歌うんです。
 
──彩吹さんの「誰も寝てはならぬ」が聴けるんですね?
 
彩吹 そうなんです。でも本当に難しい曲で、宝塚時代もけっこう難しい歌を歌わせていただいていたのですが、音取りの苦労が蘇ります(笑)。
 
彩乃 大抵の曲は譜面を何回か見たらなんとかなるのに、このオペラは本当に難しいですよね。
 
彩吹 プッチーニさんはなぜこんなに難しい曲を書いたのかと(笑)。でも素晴らしい曲ばかりなので、ミホコと真瀬と一緒にがんばります。
 

密度の濃い時間を過ごしてきた仲
 
──このへんで宝塚時代のお話も伺いたいのですが、花組で1999年から2001年の半ばまで、約2年半一緒でしたね。
 
彩乃 そんなに短い期間とは思えないくらい、ユミコさんは沢山お世話になった記憶があるんです。新人公演とかバウ公演とか、とにかくさんざんご迷惑をおかけしたことしか覚えてなくて(笑)。
 
彩吹 ミホコは初舞台の時から知ってて。
 
彩乃 そうなんですよね! 雪組の『仮面のロマネスク』が初舞台でした。
 
彩吹 私は当時雪組で、そのときから注目していたし、私が花組に組替えで行ったらもうどんどん抜擢されてて、でも当然だなと。
 
彩乃 ユミコさんこそ本当の意味での優等生で、何でもお出来になる方で、組のその学年で成績が良い方は、同期だけでなく下級生もまとめなくてはいけないのですが、ユミコさんは意見をきちんと厳しく言われる中にも優しさが滲み出ていて、お人柄を感じました。
 
彩吹 私はミホコのジュリエットが大好きだった。
 
彩乃 えーっ!あのジュリエットですか?(笑)
 
彩吹 確かに丸かったけど(笑)、それは若さの良さでもあるので。花組では本当に色々な役をさせていただいたし、それぞれに思い出があるけれど、『ロミオとジュリエット’99』は本当に大好きな作品で、曲も役柄もそれぞれ出演者にマッチしていたし、マーキューシオもすごく好きな役だったので、自分にとっても印象深い作品なんです。
 
彩乃 あの作品は稽古場でもみんなの集中度がすごかったので、長い期間一緒にいたという感覚があるのかもしれませんね。それも含めてユミコさんとはすごく密度の濃い時間をご一緒したんだなと思います。でも、その集約された時間を振り返って思うのは、やっぱりユミコさんのすごさで、いつも相手のことや全体を俯瞰して見ていらっしゃって、さりげなくポンと大事なことを言ってくださったり、相手に負担にならないようにサッと手を差し伸べてくださったり。
 
彩吹 さっきからポンとかサッとか擬音が多いんだけど(笑)。
 
彩乃 (笑)でも本当に助けていただいたという記憶ばっかりです。
 
──そんなお二人が退団後はじめて共演するわけですが、最後にお互いにエールを。
 
彩吹 宝塚をやめて、もう7年目になるんです。辞めたばかりの頃は、まだ女性になって何年目でーす(笑)とか、新人ぶっていられたのですが、もうそんなことも言っていられませんので、今回共演するのを良い機会に、彩乃かなみさんからいっぱい女性らしさを学ばせていただこうと思っています。
 
彩乃 やめてください!(笑)
 
彩吹 それから、宝塚のOGが普通の公演でこんなに揃うことは珍しいと思いますので、お客さまもぜひそこをお楽しみにいらしてください。
 
彩乃 ユミコさんとは退団後、オフではお会いする機会もあったのですが、お仕事をご一緒にできるのは初めてで、本当に嬉しいです。とくにこんな素敵な作品でご一緒できることは光栄ですので、この機会を大切に。そしてエンデの絵本の素晴らしい世界を皆様にお届けできるようにしっかり務めたいと思っています。
 
彩乃かなみ・彩吹真央

彩乃かなみ・彩吹真央

あやぶきまお○大阪府出身。94年宝塚歌劇団に入団、10年に同歌劇団を退団。退団後も女優としてミュージカルを中心に活動。最近の主な舞台は『ラブ・ネバー・ダイ』、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、『Argentango  DANCE LEGEND vol.2』、ミュージカル『道化の瞳』、SHOW-ism Ⅷ『ユイット』彩吹真央LIVE 2015『The woman Y』、舞台『アドルフに告ぐ』、『End of the RAINBOW』(初演・再演)、『THE Sparkling Voice ー10人の貴公子たちー』、~崩壊シリーズ~『九条丸家の殺人事件』、ミュージカル『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』、映像はフジテレビ『女性作家ミステリーズ美しき三つの嘘』第1話「ムーンストーン」など。
あやのかなみ○群馬県出身。97年宝塚歌劇団に入団、05年に月組のトップ娘役に就任、08年『MEAND MY GIRL』で退団。以降、女優として活躍中。最近の主な舞台は、ミュージカル『天翔ける風に』、ミュージカル『ひめゆり』、TAKARAZUKA WAY TO 100th ANNIVERSARY『DREAM, A DREAM』、『ONE-HEART MUSICAL FESTIVAL 2013夏』、ミュージカル『何処へ行く』、『セレブレーション100! 宝塚』、『マホロバ』、『SUPER GIFT』、『クリエンターレ!』、『夜の姉妹』、ロシア文化フェスティバル2016『バレエ ガラ 夢 コンサート 2016』 など。
 

〈公演情報〉


 
りゅーとぴあプロデュース
『オフェリアと影の一座』
原作◇ミヒャエル・エンデ(岩波書店刊)
上演台本◇笹部博司
演出◇小野寺修二
出演◇白石加代子/旺なつき、彩吹真央、彩乃かなみ、真瀬はるか、舘形比呂一、フィリップ・エマール 他
公式サイト:http://www.ryutopia.or.jp/schedule/16/1126t.html​

11/26(土)19:00、11/27(日)14:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
問合せ:りゅーとぴあ専用ダイヤル025-224-5521
 
11/30(水)~12/4(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
問合せ:MTP 03-6380-6299

12/6(火)~16/12/7(水) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール (兵庫県)
問合せ:芸術文化センターオフィス 0798-68-0255

 
 
【取材・文/榊原和子 撮影/アラカワヤスコ】
演劇キック - 宝塚ジャーナル
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