プラシド・ドミンゴ(テノール、バリトン)「最も大切なのは聴衆とのコミュニケーションです」

インタビュー
クラシック
2016.11.18
プラシド・ドミンゴ ©Kaori Suzuki

プラシド・ドミンゴ ©Kaori Suzuki


 近年、テノールからバリトンへの転向で世間を驚かせ、いまやヴェルディ・バリトンの役を徐々に広げ、各地のオペラハウスで精力的に活躍しているプラシド・ドミンゴ。彼は2011年の震災後、多くのアーティストが来日中止を発表するなか、いち早く来日してコンサートを行い、日本の聴衆に勇気と活力を与えた。そのドミンゴが、日本でのリサイタル・デビュー30年を迎える17年3月、ソプラノのルネ・フレミングとともに来日し、たった1夜だけの特別な演奏会を開く。

「あのときは日本に行って歌うことが自分の“運命”のように感じたのです。私は地震の多いメキシコに住み、自分も家族を地震により亡くしているからです。あのコンサートでは特別な空気が生まれました。まさに“魔法の時間”が流れたのです。今回のルネとのコンサートでも、そういう空気が流れることを願っています。ルネ・フレミングは素晴らしい歌声と表現力の持ち主。努力の人でもあり、いまや世界最高のソプラノのひとりです」

 ふたりの初共演は、彼女がメトロポリタン歌劇場にデビューしたヴェルディの《オテロ》のとき。フレミングがデスデモナ、ドミンゴが得意とするオテロを歌った。

「彼女は人間性も素晴らしく、とても上品ですよね。お互いの得意とする曲を組み、さらにデュオも披露し、特別なコンサートにするつもりです」

 このインタビューは、2016年9月18日、ドミンゴが総監督を務めるロサンゼルス・オペラで行われた。前日はヴェルディの《マクベス》が幕開けし、ドミンゴはその主役を歌い、深夜までパーティーが行われた。しかし、翌日は颯爽と、ある種のオーラを感じさせる雰囲気で元気よくインタビューの場に登場。輝かしく陽気な笑顔で雄弁に語った。

「いま、私はバリトンの役柄に魅せられています。テノールはヒーローであり、王子や若き恋人やロマンティックな役が多いのですが、バリトンはより深い歌声と表現力と演技が要求される。特にヴェルディの父親役は、声が成熟しないと歌えません。ようやく私はその域に達したと思っているのです。6年前にバリトンに転向しましたが、もう9ロール(役)をレパートリーにしているんですよ」

 ドミンゴは147ロールものレパートリーを誇り、いまなお世界のオペラハウスで歌っている。さらに指揮も行い、「オペラリア」と題した国際コンクールを主宰し、若き才能の発掘や育成にも尽力。もちろん歌劇場総監督の仕事もある。

「昔からとにかく学ぶことが好きでした。どんな公演も、必ずひとつは学ぶことがあります。私はテノールとして舞台に立ってきましたが、この50年間ずっといろんなバリトンと共演し、偉大な歌声を聴いてきたのです。それがいま、大いに役立っています」

 歌手は他の人の歌を聴かないという人が多いが、ドミンゴは自分の好奇心と勉学心、向上心の赴くままにいろんな歌を聴きに出かける。

「すばらしい歌声をもつ歌手はたくさんいます。でも、もっとも大切なのは、いかに聴衆とコミュニケーションがとれるかということだと思います。自分よがりの歌では、だれも感動してくれません。コンクールも同様で、聴衆に語りかけることができる人を選んでいます」

 ドミンゴは、オペラではバリトンを中心に歌うが、来日コンサートではテノールの曲も歌うと明言。今回の日本公演では自身のルーツでもあるサルスエラ、そして歌曲も披露。フレミングとのデュオでは、踊り(!)も登場するかもしれないという。最後にドミンゴがこう語った。

「私は声を通じて自分の生き方、魂の在り方を伝えています。そういうことができる職業を選んで幸せだと思っています。歌を聴いてくれる人の心と対話できるわけですから。そのためには作曲家の意図した深いところまで楽譜を読み取り、それに肉付けしていかなくてはなりません。まだまだ日々勉強ですよ」

 そんな前向きなドミンゴの歌は、再び聴き手を“魔法の時間”へと誘うに違いない。

取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ 2016年12月号から) 


プラシド・ドミンゴ & ルネ・フレミング
プレミアムコンサート イン ジャパン 2017

2017.3/13(月)19:30 東京国際フォーラム ホールA
12/10(土)発売
問合せ スペース03-3234-9999
http://www.ints.co.jp/
WEBぶらあぼ
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