96猫 伊東歌詞太郎、ろん、下田麻美らとのコラボミニアルバム『7S』を全曲解説
96猫『7S』
インターネットを中心に活動するシンガー・96猫が、11月23日に2ndミニアルバム『7S(セブンズ)』をリリースした。これまでにアルバムを複数リリースしてきたが、コラボ曲中心の作品は今作が初という。『7S』では、プライベートでも交流のある“伊東歌詞太郎”、もともとファンだったという“ろん”、声優の“下田麻美”らとコラボしている。本インタビューでは、それぞれのコラボ相手とのエピソード&今作に収録されている全楽曲を解説してくれた。
――2ndミニアルバム『7S』は、いろいろな方とのコラボ楽曲が中心となった構成が特徴ですね。
3年くらい前からずっと、いつかコラボアルバムを出したいとは思っていたんですよ。前作の『Crimson Stain』を6月に出してから2ヶ月後くらいに、「じゃあ、また次のを作ろうか」という話になりまして(笑)。「えっ! もう? 次は何をするんですか!?」って素でスタッフさんに訊いてしまったくらい(笑)、次にどんなアルバムを出すのかというところは完全に白紙のような状態だったんです。だけど、その時に「今、96ちゃんがやりたいことをやれば良いと思うよ」って言われたんですよ。
――なるほど。その流れで、長年温めてきたコラボという企画が動き出したのですね。
そうなんです。せっかくの機会だし、ずっとやってみたかったことだから「好きなことって、コラボCDとかもアリなんですかね?」って様子をうかがってみたら、即答で「いいんじゃない? やろう!」という風になりました。わりと軽いノリだったかな(笑)。
――そもそも、96猫さんからするとコラボをしてみたかった理由やキッカケというのは、どんなものだったのでしょうか。
もともと誰かと一緒に歌うとか、誰かと一緒に何かをつくるということが大好きなんです。ただ、それをCD化するとなると、意外に難しい部分が出てくるところってあると思うんですよ。
――まぁ、諸々の事情というものが絡んでくることは多いかもしれません(苦笑)。
いわゆる、オトナの事情というやつですよね(笑)。でも、今回はそこを無視して、わたしが一緒にやらせていただきたい方をダーっとリストアップしてみたんです。そうしたら、スタッフさんから「さすがにそれを全て実現してしまうと、ミニアルバムには入りきらないよ」と言われてしまい……。そこから絞り込んだ方たちにオファーをさせていただいて、快くOKをくださったのがこの『7S』に参加してくれている皆さんになります。
――では、ここからはさっそく個々の楽曲についてうかがって参りましょう。このアルバムのオープニングを飾っているのは、今作におけるリードチューンでもある「ブラックペッパー with ろん」。こちらは先日、動画も早々にアップされていましたね。ちなみに、ろんさんと96猫さんの関係性というのは……?
えーと、あの……ただのファンでした(笑)。あれは、自分で動画の投稿を始めて2年くらい経った頃でしたかね。ろんさんの歌っている「ジュブナイル」という曲があるんですけど、それを初めて聴いた時に衝撃を受けたんですよ。「なんだこれは! なんてカワイイ声の人なんだ!」と感じて、そこからどハマりしてしまったんです。ちゃんとCDも買って、「ライブはいつやるんだろう?」って楽しみにしながら、着うたとかも調べてiTunesで買って、ということを普通にやっていました(笑)。だから、今回こうしてコラボが出来たのは本当に幸せです。
――これまでに、イベントなどでの共演も無かったのですか?
ありませんでした。コンピレーション系CDで何度か同じ作品に曲を入れさせていただいたことはあるんですが、その時も「あっ! おんなじCDに入れた!!」って一方的に喜んでいたくらいです(笑)。
――だとすると、今回の「ブラックペッパー with ろん」については、どのようなプロセスを経て完成に至ったのでしょう。
ろんさんからは、「どんなことをやるかは96猫さんにお任せします」という風に言っていただいたので、お言葉に甘えて曲選びから、ふたりで歌っていく上での歌詞のパート分けなど、この曲ではかなり好き勝手にやらせてもらっちゃいました! たとえば、「ここのフレーズは、絶対ろんさんの声で聴きたい!」というところは全てろんさんに歌ってもらったり、みたいな。ほんと、ただのファンなんですよ(笑)。
――となると、レコーディングにも立ち会われたとか?
いや、ろんさんは一切顔出しをされていないので、音とメールのやりとりだけで曲を完成させていきました。
――素晴らしい。これだけのシンクロ率とアタック感をもったデュオが、顔合わせもなしに生みだせるとは驚異的です。
ありがとうございます。わたしも、ろんさんも、個性が強いというかクセが強いので、中には「そこがぶつかるんじゃないか?」と予想する人も多いんじゃないかと思うし、わたし自身もそういう可能性もあるのかな?と考えていたところがあったんですけど……でも実際にはお互いがお互いの歌に寄っていくことによって、コラボならではの良さを上手く引き出せたような気がします。前に自分の生放送の時、ろんさんの曲を流しながらそこに重ねて歌って「やった、コラボした! うぇーい!」とかやっていたことがあったんですけど(笑)、そういう勝手コラボとは違う本物のコラボが出来たことが嬉しかったですね。「これこれ、本当のコラボってこういうことだよね! 一方通行じゃない歌って、ひとりで歌うよりもっともっと楽しい!!」って思いました。
――その一方で、「フタリボシ with 伊東歌詞太郎」も、非常に聴き応えのある逸品に仕上がっていますね。こちらは、どのような経緯で実現したコラボだったのですか。
もともと、歌詞太郎くんとはライブで一緒になることも多かったし、歌い手界隈の皆でゴハンに行ったりすることもあるから、以前から会う機会はわりと多かったんです。でも、そのわりにはコラボ動画とかって全然やっていないよね、という話をしたのが一昨年くらいだったのかな? でも、お互いにめんどくさがりなところがあるせいか(笑)、しばらく話はそのままになってしまっていたんです。
――つまり、今作『7S』が良いキッカケになったわけですね。
まさにそうだと思います。歌詞太郎くんに「今度、コラボCDを出すことになったんだよ」って言ったら、「えっ。そうなの? 僕は?? 僕ともやろうよ!」って言ってくれて(笑)。
――そうでしたか(笑)。この「フタリボシ」はお2人でスタジオに入られたそうで。
そこもとっても面白かったですね。歌詞太郎くんって、普段は本当につかみどころがない人なんですよ。会うたびに「96ちゃん、相変わらず背がちっちゃいね」とか、失礼なことを言ってくるし!(笑) わたしはわたしで「うるせーよ!」ってそれに返したりして、大抵いつもお互いに煽り合いばっかりしているんです(笑)。
――微笑ましいですね(笑)。
だけど、歌詞太郎くんには音楽の話をしだすと止まらなくなるような生真面目なところがあるし、ライブのMCなんかも妙に熱くて演説みたいだし、皆と一緒の楽屋でも時には誰も近寄れないような独特の“歌詞太郎ワールド”を構築しているような時もあるから、多分オンとオフがはっきりしている人なんだろうなと思うんですよ。それは前から分かっていたんですけど、今回のレコーディングではあらためて歌詞太郎くんがどういう人なのか、ということが良く分かりました。「そうか、この人はとにかく純粋に音楽に対して真剣な人なんだ」って。
――なんだか、わかるような気がします。
今回のレコーディングの場合、最初のうちの歌詞太郎くんはいつも通りな張った感じの声で歌っていたんですけど、途中で「ちょっと待ってください。96ちゃんの歌も聴かせてもらっいいすか?」って言って、わたしが先に歌ったテイクを確認してくれて、そうしたら途端に歌い方がガラッと変わったんですよ。会話をするようにというか、囁くようにというか、ふたりで歌うということをより意識してくれたんだと思うんです。それと同時に、サビではガツンと歌詞太郎くんらしい歌も聴かせてくれているので、40mPさんならではの素敵な曲がより表情豊かなものになったと思います。自分の想像していた以上のものが生まれてくるのがコラボなんだな、ということを実感したレコーディングでした。
――コラボだからこその完成度、という意味では「鬼KYOKAN with 下田麻美」の仕上がりにも驚きました。
下田さんも、わたしからすると4年くらい前からずっとコラボしたいと思い続けていた方なんです。以前、囚人PさんとCLΦSHというユニットを組んでいたことがあったんですけど、その時に『FINALΦFICTION』という小説付きのドラマCDを出したことがあったんですよ。
――2012年のリリースでしたっけ。
はい。そこに参加してくださっていた、豪華な声優陣の中に下田麻美さんがいらっしゃって、あの頃はそれこそリンレン(=鏡音リン・レン)が大ブームになっていたんですよ。その時期に、初めて下田さんとお会いして、下田さんも歌うことが大好きだとおっしゃっていて、「96猫さんと歌いたいです!」ということも、そこで言っていただいたことがあって。「あの下田さんがそんなありがたいことを言ってくれるなんて……!」って、本当に嬉しくて(笑)。「これは行くっきゃねぇ!」と思いつつも、ここまでは機会がなかなか無かったので、ようやくわたしの夢がこの曲でも実現しました。ほんと、『7S』を作って良かった(笑)。
――また、「鬼KYOKAN」という選曲が非常に乙ですよね。
わたしも下田さんも、男の子っぽい声と女の子っぽい声の両方を使って、声を変えながら遊ぶのが大好きなんです。ということは、デュエット曲でパートチェンジをしながら歌うと面白いことが出来るんじゃないかと思ったし、普通は下田さんというと皆さんきっと可愛らしい雰囲気をイメージされると思うので、ここは逆に激しめの曲をやってみたらどうだろう?と考えたんです。下田さんご自身も、「実はかっこいい曲が好き」とおっしゃっていたので、思い切ってこの曲を選びました。この曲のレコーディングも、めちゃくちゃ楽しかったなぁ。もうね、下田さんが凄く可愛かったんですよー!!
――デレデレじゃないですか(笑)。
だって、下田さんって(レコーディングの時)踊りながら歌うんですよ? それまで静かでおとなしかった下田さんが、ブースに入って曲が始まった瞬間に急にスイッチが入ったみたいになって、(腕を振りながら)激しく踊り始めちゃって(笑)。でも、口の位置だけはずっとちゃんとマイクの前から動いていなくて、「プロ根性すげー!」って驚いちゃったんです。わたしなんか、普段パソコンの前で正座して歌ってるのに(苦笑)。思わず感動しちゃいました。ほんと、可愛かったなぁ。
――96猫さんのワクワクしている感じは、この曲のハイテンションなボーカリゼイションにも良く表れていそうですねぇ。
そうかもしれない(笑)。ちなみに、何回か録ったうち、このCDにはわたしが一番ズキュンと来たテイクを入れたんですよ。そして、使わなかったテイクは個人的に“お持ち帰り”しちゃいました(笑)。
――かと思うと、今回「Alive」にはあの野村義男さんがギターで参加されているそうですね。これはどのようなご縁で実現を?
昔から、わたしは浜崎あゆみさんが大好きで「MOMENTS」は、ライブでも歌わせていただいたりしていたんですね。今回、その「MOMENTS」を作られている湯汲哲也さんに、作曲というかたちでのコラボをまずお願いしてみたんです。そうしたら、リアルにどストライクな曲が出来てきて(笑)、そのうえ「野村さんにもOKもらっちゃったよ!」って、うちのスタッフさんから言われたんですよ。「えっ? 野村さんって、あのあゆのバンドの方ですよね?! そんな凄い方に弾いてもらっちゃって、良いんですか??」ってなっちゃいましたけど、完成したものを聴いてやっぱりやっていただいて良かったな、とつくづく思いました。特に、間奏のギターソロの部分とかマジでやばいので皆さん、絶対に聴き逃さないでください! 正直、そのあとに始まる自分の歌が要らないなって思うくらいです(苦笑)。
――いやいや! そこはやはり、96猫さんの歌あってこその今作ですよ。美しくピュアなバラード「MOTHER~7S Ver.~ with 奥華子」にしても、96猫さんの歌には説得力が備わっているとあらためて感じました。
この曲は、20歳の時に出したアルバム『アイリス』(2013年発売)に入れたことのある曲で、成人した時に母に向けて感謝の想いを込めた歌だったんですよ。あの時は、曲を作ってくださった奥華子さんのピアノ一本とわたしの歌のみで録ったんです。でも……今になって聴くと、あの「MOTHER」は「なんかどこかでカッコつけちゃってるな」と自分で思ってしまうところがあるんですよね。だから、今回はこのアルバムでもう一回また歌おうって思ったんです。
――ボーカリストとしてはもちろんのこと、人間としての3年分の成長がここには滲み出たのではありませんか。
だとしたら嬉しいですね。今回は奥華子さんと、弦楽器のカルテットの方と、わたしとで同時にスタジオに入ってライブに近いかたちで歌ったんですが、最終的に全員が「これだね」と納得が出来るテイクを録ることが出来たんですよ。わたしが素直でストレートな気持ちを歌っていこうとしていた中で、奥華子さんが後ろから支えるようにコーラスを入れてくださったことにも感謝しています。
――つまり、この曲を生んでくださった“母”とのコラボでもあったわけですね。
そうだ! そういうことですよねぇ。きっと、奥華子さんとわたしの想いをここにはたくさん詰め込めたんだと思います。出来ることなら、3年前に戻ってこちらの方を先に母に聴かせたかったなぁ(笑)。
――今回は今回で、さらに成長した96猫さんの歌を贈ってさしあげればよろしいかと。
これ、ほんとに良い曲ですからね。出来ることなら、聴いてくれている皆さんにも結婚式とか、お母さんの誕生日とか、母の日に歌ってみて欲しいです。
――そうなってくると、これは将来的に96猫さんの嫁入りの際にも活躍してくれそうではないですか?
えっ……恋愛経験とか無いんですけど大丈夫ですかね(苦笑)。
――そこは今後に期待しましょう(笑)。なお、恋愛といえば今作中では「晩秋ロストイン」も切ない恋愛系バラードとして、強い存在感を放っていますね。
この曲は、前作『Crimson Stain』に入れられなかったすこっぷさんの曲なんですけど、何よりも自分が聴いていて励まされた楽曲だったので、どうしても今回は入れたかったんです。ただ、歌詞は当初の友情を描いたものから、より曲の切なさを引き出す恋愛系のものになりまして……先ほども言った通り恋愛経験の無いわたしとしては(笑)、きっと恋ってこういう感じなのかな?っていうイメージをしながら歌っています。
――そうなってくると、もしや今作中で最も感情移入が出来たのは……
ボーナストラックの「どう考えても私は悪くない」ですね(笑)。今回もアニメソングのカバーをしたくて、どれにしようかな?っていろいろ考えたんですけど、まずはアニメ自体も好きだったし、それ以上にこの歌詞の内容が自分とすごく重なったんです。ほんとにもう、わたしはプライベートだとコミュ障で……ネット弁慶なんです。
――だとしても良いではないですか。こんな風にたくさんの方々とのコラボアルバムを作れる96猫さんは、特殊なコミュニケーション能力をお持ちだと思いますよ?
いやいや、これはむしろ皆さんのおかげで出来たアルバムなんですよ。この『7S』というタイトルも、7人の方と7曲のコラボをしました、っていうことを出来るだけわかりやすく伝えたくてつけたものなんです。後付け的には、Sには満足するという意味でのSatisfyとか、浸透していくという意味でのSaturation、かたちづくる的な意味のSharp、特別なSpecialtyとか、いろいろと重ねることも出来るんですけど。それにSって……なんか良いですよね。攻めか受けかでいうと、わたしはS寄りの性格だし(笑)。
――いきなり話の方向が変わっちゃいましたね(笑)。
ほらだって、今回いろいろな人とコラボをするのにあたっては、わたしの方からグイグイ攻め入ったので! 『7S』のSには、いろんな意味があるんです(笑)。
取材・文=杉江由紀
2016年11月23日発売
応募ハガキ封入
A賞 都内某所で開催のイベントへご招待 100名様
※開催日時はオフィシャルサイトにて発表
B賞 直筆サイン入りジャケット絵柄パネル 5名様
C賞 直筆サイン入りポスター 5名様
・通常盤(CD only):SRCL-9230/1,780円(税別)
02. 鬼KYOKAN with 下田麻美
03. 晩秋ロストイン ※すこっぷ書き下ろし曲
04. Alive ※ギタリスト野村義男参加
05. フタリボシ with 伊東歌詞太郎
06. MOTHER ~7S Ver.~ with 奥華子
07. どう考えても私は悪くない [bonus track]
08. ブラックペッパー -Instrumental-
09. 晩秋ロストイン -Instrumental-
10. Alive -Instrumental-
11. MOTHER ~7S Ver.~ -Instrumental-
02.「高尾山を登ってみた。」