久保田利伸 デビュー30周年を迎えて思う、音楽と表現のこだわり

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久保田利伸 撮影=大塚秀美

久保田利伸 撮影=大塚秀美

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今年2016年6月にデビュー30周年を迎えた久保田利伸。日本の音楽シーンに本格的かつ良質なブラックミュージックを自然に融合させ、多くのフォロワーも誕生してきた。そうした功績を久保田自身はどうとらえているのか? 11月23日にリリースした初のコラボレーション・ベストアルバム『THE BADDEST ~Collaboration~』を紐解きながら、その魅力に迫る。

30年というこの節目でより思う事は、これからも、
こだわりを持って続けていきたいという事です。

――デビュー30年ですね。

長かった気もしますが、東京とニューヨークを行ったり来たりしているので、あっという間だったという感じもあります。僕よりも上の世代の諸先輩方も、いい音楽を作り続けて、ライブをやり続けている方がたくさんいます。30年って確かにひとつの節目で、ありがたいとは思いますが、決して“長くやれたなぁ”と落ち着く場所ではなくなりましたね、偉大な先輩たちのおかげで(笑)。

――1986年デビューで、それまでいなかった“匂い”のするアーティストが久保田さんで、本格的かつ良質なブラックミュージックを、日本の音楽に自然に融合させてくれました。

やりたい事がうまくやれた結果だと思います。決してマニアだけの音楽、特殊な、玄人ウケするものをやっているという意識がなかったんです。当時、日本ではブラックミュージックはどちらかというと、アンダーグラウンドなものだったと思いますが、僕がデビューする前の年に、黒人であるマイケル・ジャクソンの曲が世界中でヒットして、潮目が変わった気がします。1980年代は日本ではディスコが盛り上がっていて、そこで流れている音楽はいわゆるディスコミュージックというよりは、黒人音楽のファンキーな曲が多く、カフェバーに行けばAORやブラックコンテンポラリーが流れていて、みんな重くない、洗練されたブラックミュージックを聴いていました。僕もその時代の中の一リスナーだったので、そういう音楽を日本語で、オリジナルのものを作ると、アメリカから直輸入するものよりも馴染みやすかった。時代と僕が一致していたのかなと思ったりもしています。それは決して計算できるものではありませんが、時代の流れ、音楽的な事が、振り返ればそうだった気がします。

――久保田さんの音楽に影響を受けて、ミュージシャンを目指したという久保田フォロワーがたくさんいますよね。そういう意味でも、久保田さんが音楽シーンに残した功績は大きいです。

いえいえ、と言いたいところですが(笑)、色々な人からそういう話を聞いたり、僕よりひと回り、ふた回り下のミュージシャンで「最初に買ったCDは久保田さんです」という人が結構いて。ラップをやっている人からもそう言われたりすると、シンガー冥利に尽きます。僕のやっているジャンルって、同じ世代にはそんなに競い合っている相手がいなくて、今までコラボレーションしてきた日本のミュージシャンは僕より全然下の世代が多く、これから出てくる人はもっと下なので、変な競い合いにならずに済むと思います。

――日本の音楽シーンはいい意味でも悪い意味でも“流行”に敏感で、みんな右へ倣え的な動きをしていく中で、久保田さんはこれまでそういう動きとは全く無縁で、逆に流行を発信している側でしたよね。

それが僕の性分です。悪く言えばへそ曲がりで、人と同じものをやっている時は気持ち良くなくて、誰かがやっているスタイル、話題になっているスタイルは、最初に排除したい性分です。でも、へそ曲がりではありますが、誰も聴かないものを作るのではなく、なるべくたくさんの人に聴いてもらえるものをといつも思っています。欲張りといえば欲張りですよね。

久保田利伸 撮影=大塚秀美

久保田利伸 撮影=大塚秀美

――オリジナルアルバムの他に、自身の音楽的なこだわりに特化した“Parallel World“シリーズとして、レゲエのアルバム『KUBOJAH』(1991年)と、ボサノバのアルバム『KUBOSSA』(2013年)をリリースしています。オリジナルあり、カバーありで、こだわりつつもポピュラリティがあるものを作るというポリシーがここにも出ています。

そういうものが出せる環境に恵まれていました。さっきの話にも通じますが、そのジャンルの玄人と素人、両方に満足するものを作りたかったんです。『KUBOJAH』も、レゲエの専門家に認めて欲しい気持ちもありつつ、レゲエというジャンルのCDを、一枚も持っていない人が聴いて“これ気持ちいいな”と思ってもらえるものにしたかった。『KUBOSSA』もそうです。

――ここまで様々な作品を作り、発表してきましたが、特に印象に残っているプロダクツを教えていただけますか?

全部ですね。僕がやっている仕事の中で最も大切なのが作品作り、もう一つはライブですが、その時代時代のアルバムを作っていくこと以上に、大切な仕事はありません。なので、その一つひとつに甲乙はつけがたいですが、音楽イコール、ミュージシャン、スタッフ、全ての人との出会いだと思っています。人のレコーディングのやり方、音楽との向き合い方、コンディションのキープの仕方、それから日本人と外国人との違い、一人ひとりとの出会いが刺激的で、勉強になりました。ここまでの出会いをひとつの形にまとめるのもいいなと、5~6年前から思っていました。

――その、一つにまとめた今回のアルバムを聴いていると、やはりみなさん久保田さんへのリスペクトの気持ちが強いので、気合の入った好演が多いですよね。

みんな頑張ってくれました。僕の方から声をかけさせてもらう事が多いのですが、みんな“気合を入れていいものを作ります!”と言ってくれますし、僕も本気でぶつかっていきます。みんな僕の前ではいいところを見せたいと思ってくれるわけで、それぞれが緊張したまま終わってしまうような人たちではないので、ある意味気合と緊張がいい方向に向かいます。僕はコラボレーションが好きというよりも、素晴らしい奇跡が起こる音楽というものが好きなので、そういう気持ちが相手に伝わると、楽しいセッションになりますね。

――コラボに関しては、久保田さんの方から声をかける事が多いとおっしゃっていましたが、どんなミュージシャンに興味が湧くことが多いですか?

もちろん音楽のジャンル的に気が合う人というのは大前提としてありますが、共通点という意味では、唯一無二の存在の人。その人の歌、スタイルは他の人がマネをしようとしてもできないものを持っている人です。それと日本でレコーディングをしようが、日本でしか発売しないものでも、外国人に聴かせた時に恥ずかしくないものをやっている人です。

――今回の作品には新録が2曲、AIさんとの「Soul 2 Soul feat. AI」と、ミュージック・ソウルチャイルドとの「SUKIYAKI~Ue wo muite arukou~」が収録されていますが、この二組とやろうと思った理由を教えて下さい。

日本で一組、アメリカで一組入れたいと思って、AIに関しては僕の30周年というタイミングでもあるので、華やかで明るい人がいいなと思って(笑)。そういう中では、音楽の趣味も合って実力もあるアーティストって一人しかいないなと。彼女とは実は今までガップリ四つに組んでやった事がなく、でもお願いをしたら忙しい中「なんでもやります」と言ってくれて実現しました。普通に歌い合うのもいいのですが、景気づけにラップをやりたいと言ったら快諾をしてくれて。そしてアメリカ側からの一組、ミュージック・ソウルチャイルドは知り合いで、彼の音楽、歌声が大好きなんです。でも、うますぎるので本当は一緒に歌いたくなかった(笑)。女性とであれば気にならないのですが、男性で同じキーで同じスタイルでものすごくうまい人と歌うのって、ちょっと嫌だなと(笑)。結局、一番お願いしやすいけど一番やりたくない、一番うまいやつと演りました。

――「SUKIYAKI」をこのタイミングで歌おうと思ったのは?

これも30周年というタイミングで、普通のオリジナル曲よりも、特別感があって、かつアメリカ人が知っている曲がいいと思いました。「上を向いて歩こう」は50~60年以上前の曲で、30年位前にア・テイスト・オブ・ハニーというアーティストが「SUKIYAKI」という題名でカバーしてヒットし、それ以降HIP HOP界隈の人達もこの曲をネタとして使う人達も出てきて、アメリカではお馴染の曲なので。

――お二人の“張り合い”が素晴らしかったです。

もっと張り合いになると思ったのですが、彼は本当にいい人で、その優しさのおかげで、競い合うという感じではなく、曲と人間の優しさが歌に乗っていると思います。

――英詞でありながらこの曲が持つ優しいメロディや雰囲気が、きちんと伝わってきます。

いいものが作れたと思います。日本語のオリジナルバージョンに馴染んでいる人は、違和感があるかもしれませんが、僕が今やりたいスタイルとしてはすごくいいものができました。

久保田利伸 撮影=大塚秀美

久保田利伸 撮影=大塚秀美

―――『THE BADDEST』シリーズはこれまでに5作リリースされていますが、“いい作品”という安心感、信頼感と、その内容への“ドキドキ”感を感じさせてくれる、久保田さんの“ブランド”になっていると思います。

今回のアルバムのタイトルをスタッフと一緒に決めている時に、コラボレーションアルバムっぽいタイトルをいくつか考えたのですが、僕が今回のタイトルを言ったらみんな大喜びしていて、きっと『THE BADDEST』って付けたかったのだと思います(笑)。

――30年間活動をしてきた方にこそお伺いしたいのですが、昨今の日本の音楽シーンは、久保田さんの目にはどう映っていますか?

これは年を取るとミュージシャンはみんな言いますが、昔よりもつまらないですし、大変です。理由は色々ありますが、まずオリジナルで素敵な曲が生まれる確率が、少なくなってきている気がします。それはたった十数個しかない音階の組み合わせでメロディというものはできているので、メロディが出尽くしている感があって。曲を作っていて“あ、これも何かに似ている”と思う事もよくあると思いますし。でも盗作なんてもってのほかだし、作る方は疲弊していると思います。僕も自分でたくさん曲を作っていますが、自分の中でも得意な事は決まっていて、その中で昔と違うものを作りたい、でもへそ曲がりな曲で終わるのではなく、みんなに聴いてもらえるものをと考えると、なかなか大変です。音楽はどんどん消費されていくものだけど、昨今の流れの中ではより消費度が高くなっていて、そういう意味でも大変です。音の作り方もどんどん変わっていって、アナログとカセットテープしかない時代から、CDやMDが出てきて、そのCDを介さない時代になって。僕は全部の時代を知っていてよかったと思います。音を伝えるメディアもラジオとテレビしかなかった時代から、多様な時代に変わってきて、聴く方にとってはどんどん便利になってきて、音の質がいい悪いという話もありますが、その違いも今はそこまでわからないです。音楽が身近にあればあるほどいい事ではあると思いますが、そんな中で音楽を作っていくのは、大変になったと感じています。

――“まだ”30年だと思います。これからやりたい事、やらなければいけないと思っている事は何ですか?

30年というこの節目でより思う事は、これからも、こだわりを持って続けていきたいという事です。でもそれは決して楽な事ではないと思うし、奇跡に近い事だと思っています。元々デビューできた事が奇跡だと思っているので、ここまでやってこれた事に対する感謝の気持ちが大きいです。この気持ちを持ってこれからも、こんな勝手な事を続けることができたらいいなと思っています。

取材・文=田中久勝 撮影=大塚秀美

久保田利伸 撮影=大塚秀美

久保田利伸 撮影=大塚秀美

 
リリース情報
久保田利伸デビュー30周年特別企画第2弾
初のコラボレーション・ベストアルバム『THE BADDEST ~Collaboration~』
久保田利伸『THE BADDEST ~Collaboration~』

久保田利伸『THE BADDEST ~Collaboration~』

2016年11月23日(水)発売
【初回生産限定盤】CD2枚組+特典DVD(MV10曲収録)
SECL-2092〜4 ¥4,200(tax in)
※久保田利伸による全曲レコーディングエピソード・ブックレット付き
【通常盤】CD2枚組 SECL-2095〜6 ¥3,600(tax in)
 
<収録内容>
DISC 1
1  M☆A☆G☆I☆C (KUBOTA meets KREVA)
2 LA・LA・LA LOVE SONG (Toshinobu Kubota with Naomi Campbell)
3 無常 (feat. Mos Def)
4 FLYING EASY LOVING CRAZY (TOSHINOBU KUBOTA feat. MISIA)
5 Let's Get A Groove ~Yo! Hips~ (Bass: Meshell Ndegeocello, Saxophon: Michael Brecker)
6 MIXED NUTS (P funk Chant: George Clinton, Bass & Guitar: William "Bootsy" Collins)
7 Soul 2 Soul feat. AI                                                                 
8 POLE POLE TAXI (feat. Maceo Parker)
9 Golden Smile feat. EXILE ATSUSHI                                  
10 Is it over ? (Hook Vocal: JUJU)
11 Keep it Rock (feat. WISE, Tarantula from Spontania) 
12 a Love Story (KUBOSSA ver.) (Flugelhorn: TOKU)
13 Moondust (poetry reading by Kyoko Koizumi)                               
14 Keep Holding U (SunMin thanX Kubota)    
15 Messengers' Rhyme ~Rakushow, it's your Show!~ (Rakushow Voice: Naoko Iijima)
16 Love under the moon (Harmonica Solo: Toots Thielemans)
(全16曲収録)
 
DISC 2
1  Never Turn Back (Feat. Pras)
2  Funk It Up (Guitar: Nile Rodgers)
3  LIVING FOR TODAY (Feat. Mos Def)
4  HOLD ME DOWN (Duet with Angie Stone)
5  Till She Comes (Produced by The Roots)
6  Nice & EZ (Produced by D'wayne Wiggins)
7  SUKIYAKI ~Ue wo muite arukou~ (feat. Musiq Soulchild)
8  Masquerade (Produced by The Roots)
9  Just The Two Of Us (Duet with Caron Wheeler)
10  VOODOO WOMAN (Feat. Renee Neufville)
11  Corcovado (Quiet Nights of Quiet Stars) (Acoustic Piano: Daniel Jobim, Guitar: Goro Ito)
12  NEVA SATISFIED (Produced by Ali Shaheed Muhammad)
13  Pu Pu (Produced by Raphael Saadiq)
14  FOREVER YOURS (Duet with Alyson Williams)
(全14曲収録)
 
特典DVD
1  Soul 2 Soul feat. AI
2  Golden Smile feat. EXILE ATSUSHI Recording Document Full ver.
3  FLYING EASY LOVING CRAZY (TOSHINOBU KUBOTA feat. MISIA)
4  M☆A☆G☆I☆C (KUBOTA meets KREVA)
5  Messengers' Rhyme 〜Rakushow, it's your Show!〜 (Rakushow Voice: Naoko Iijima)
6  LA・LA・LA LOVE SONG (Toshinobu Kubota with Naomi Campbell)
7  Masquerade (Produced by The Roots)
8  Funk It Up (Guitar: Nile Rodgers)
9  Just The Two Of Us (Duet with Caron Wheeler)
10  FOREVER YOURS (Duet with Alyson Williams)
(全10曲収録)
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