山寺宏一、水島裕、高垣彩陽、寿美菜子、小野賢章らが生舞台! ラフィングライブの抱腹絶倒の神コメディ第二弾が開幕
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(左)水島 裕 (右)山寺宏一
ラフィングライブの第二回公演『Run for Your Wife』が2016年11月30日よりZeppブルーシアター六本木で開幕した(12月4日まで)。公演初日の当日におこなわれたゲネプロ(総通し稽古)のレポートはこちら。
ラフィングライブは、声優・俳優・タレントとして幅広く活躍する山寺宏一と水島裕、そして演出家の野坂実の3人が“飛び切り笑える芝居”を上演するために立ち上げた演劇ユニットだ。2015年4月に英国劇作家レイ・クーニーの『パパ、アイ・ラブ・ユー!』で旗揚げ、評判はすこぶる上々だった。そんな彼らが約1年半の熟成期間を経て、同じクーニーの書いたもう一つの大傑作『Run for Your Wife』に挑むという。しかも共演には高垣彩陽、寿美菜子ら著名声優の名がずらりと並ぶ。この戯曲で、この役者陣、これはもう抱腹絶倒間違いなしではないか。そうと知ったら矢も盾もたまらなくなった。公演初日の数日前に稽古場を見学させてもらい、その合間に山寺・水島・野坂から話を聞く機会も得た。
レイ・クーニーは、1932年ロンドン生まれで今年84歳。笑いの水準が世界一高い英国にあって、その最高峰にそびえ立つ笑劇の名手である。彼は劇作家のみならず演出家、プロデューサー、さらには俳優として八面六臂の活躍をする天才だ。彼の戯曲は日本での上演機会も多く、根強いファンも少なくない。
クーニーについて、山寺は「昨春『パパ、アイ・ラブ・ユー!』を演って、その魅力に憑りつかれました。ドタバタ・コメディなんですけど、脚本が驚くほど緻密に練られる」と讃え、水島も「山ちゃんと野坂さんと僕という三人の肌に一番合ってる作家」と言い切る。
そんなクーニーの代表作といえば、ラフィングライブが昨年上演した『パパ、アイ・ラブ・ユー!(It Runs in the Family)』(オリジナル初演1987年)と、今回上演される『Run for Your Wife』(オリジナル初演1983年)だろう。とくに後者はロンドンで9年間にも及ぶロングランを記録した大ヒット作品だ。2012年には映画化され、クーニー自ら監督(共同監督)を務めている(日本未公開)。そんな『Run for Your Wife』とは一体どんな話なのか。
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場
主人公はジョン・スミスという平凡な名前の、ごく平凡な英国男性。職業はタクシー運転手。しかし実はとんでもない秘密を抱えていた。二人の女性と結婚(つまり重婚)しているのだ。二つの家庭を持ち、それぞれの妻にバレないよう仕事のタイムスケジュールを完璧にコントロールしながら、重婚生活を楽しく過ごしている……はずだった。ところが、思わぬアクシデントが起こり、完璧だったはずのスケジュールが狂ってしまった。重婚が発覚しないようについたウソはすぐに破綻しそうになる。すると、更なるウソでどんどん上塗りし、やがて自分のついたウソに振り回され、友人のスタンリーや周囲の人々を巻き込んでのてんやわんや騒動に発展していく。
今回、主役のジョンを演じるのは山寺。その妻メアリー役に高垣彩陽、そしてもう一人の妻バーバラ役を演じるのが寿美菜子。つまり山寺は、スフィア(人気声優ユニット)の二人と重婚してるというヒジョ~に罪深い設定なのだ(笑)。そんな至福は長続きするはずもなく、他人の喧嘩の巻添えで負傷したために、二人の妻、二人の警部、新聞記者らが彼のもとに次々やって来て、重婚発覚の危機に見舞われる。二人の警部を演じるのが、声優でおなじみ岩崎ひろしと高橋広樹。新聞記者は、今回唯一の演劇畑・横田健介。そして、階上の部屋に引っ越してきた“おネエ”のドレスデザイナーを、なんと小野賢章が演じる。そしてジョンのウソに付き合わされ振り回される哀れな友人スタンリー役を演じるのが水島裕、といった、このうえなく楽しい配役なのである。
キャスティングは山寺・水島・野坂で考えた。「最初から声優さんに限定していたわけじゃないんですが」と水島。「でも、この役は誰がぴったりかを考えると、僕らのよく知ってる人ということで、声の仕事をしてる人に行き着いてしまった」という。山寺は「知り合いの中でも舞台が好きな人ばかりに声を掛けさせていただきました。その結果として、僕らが一番やって欲しいなと望んだ人たちが揃いました。とても嬉しいです」
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場
さて、いよいよ稽古場を見学。一つのソファに、腰かけている三人は山寺・高垣・寿。あれれ? この三人が同じ空間にいるって、どーゆーこと? しかも、山寺と寿は隣なりに坐っていながら電話で会話してる。説明は省くが、これぞ演劇マジックなのだ。
「最初、お客さまは“なんだこりゃ?”と違和感を感じるでしょうね」と水島、「でも、見てるうちに段々“あぁ、なるほどね”と分かってきます。お客さまは、頭を使いながら楽しめるんです」。山寺も「われわれは体に汗をかきながら演じますけど、お客さまには脳に汗をかいていただくコメディですね」と語る。
同じ舞台空間・同じ舞台装置でも、ある時はジョンとメアリーの住む部屋、またある時はジョンとバーバラの住む部屋になる。その二つの場所を行き来する登場人物たち。しかし事態はどんどんジョンにとって具合の悪い方向に。緊迫の極限から、いよいよ彼はとんでもない出まかせを繰り出し、状況を取り繕おうと悪戦苦闘する。そう、これこそが、ヨーロッパの伝統的喜劇における定番のスタイルであり、醍醐味なのだ。そのスタイルは笑劇(ファルス)とか、シチュエーション・コメディなどと言われるが、「最高の悲劇こそ、最高の喜劇」と述べるクーニーのそれは、笑いの攻撃力が格段に強力な、筋金入りのものである。
いろいろな人物が現れるにつれ、ジョンや、ジョンのウソに加担させられる友人スタンリーの運動量もどんどん増大してゆく。クーニーの芝居は、事態をごまかそうと、登場人物たちが本当に慌ただしく駆け回り、動き回る。タイトル『RUN FOR YOUR WIFE』(妻のために走れ)は英語の慣用句「RUN FOR YOUR LIFE」(命懸けで走れ)を捩ったものだが、ジョンやスタンリーはまさに必死になって走る!
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場
走る!
走る!
そして、この種のコメディに欠かせない道具、それはドアである。会ってはならない人を遮るためのドア! 都合の悪い人を押し出すためのドア! ドア! ドア! ドア! 「ドア・コメディ」などという言い方もあるほど、ドアの使い方の巧みさが芝居の良し悪しを決めるといっても過言ではない。
上手前ドア!
下手前ドア!
下手奥ドア!
上手奥ドア!
英国コメディには“おネエ”キャラもよく登場する。今回“おネエ”のデザイナーを演じる小野は、イキイキとしながら好演。役が板についてきた感じが如実にわかる。水島曰く「彼が本格的に“おネエ”を演じるのはこれが初めて。今後、やるかどうかもわからない。たぶん、この芝居でしか見ることができないでしょう。貴重ですよ」
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場❤
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場❤
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場❤
劇中では思いがけないアクシデントも次々と起きる。誤って薬を大量に飲んでしまったメアリー(高垣)がひきつけを起こす場面では、演出の野坂が最も効果的な痙攣の見せ方を高垣の間近で丹念に探る。
ラフィングライブ『Run for Your Wife』稽古場
ひきつけの効果的表現を探る演出家
かくも迫力満点のドタバタ風景をまのあたりにしながら筆者は終始笑いっぱなしだったが、演出の野坂は、くすりともせず、常に淡々とした表情で役者たちの言動を見つめていた。野坂によると「僕、稽古場では一切笑わないですね。心の中では面白いなと思っても、いま起きてることをもっと面白くするにはどうしようとか、そういうことばかり考えているから、笑っている場合ではないんです」……だそうで。
野坂は過去に劇団を主宰していた時代において、自ら笑劇の脚本を書き、その演出に磨きをかけて来た人だ。だから笑劇には人一倍のこだわりを持っている。そんな彼の演出について、水島は「頑固」と言い、山寺は「冷静」と言う。そのうえで山寺は「僕は前回も今回も、野坂さんから一度も褒められたことがないんです。前回は千秋楽の直前までずっとダメ出しの嵐でした」と振り返る。「今回の稽古場でも、“今日はうまく出来たな”と自分で思っていても、“えー、ジョンですけども”、“ジョンですけども”と次々とダメ出しが飛んでくるんです。“あぁ、そんなにあったかぁ”と(笑)」
演出家・野坂実「えー、ジョンですけども」「ジョンですけども」
しかしそれは、クーニーのこの作品を演じることがいかに難しいかということの証でもあろう。野坂によれば「最初に本を読んだ時には前回の『パパ、アイ・ラブ・ユー!』に比べて難易度が低いのではないかという印象を持ちました。しかし読み込むうちに、この本が途轍もなく緻密に作られていることに気付かされました。だから稽古では5分演じて30分ダメ出しをするとか、セリフ1行につき2つ3つダメ出しをするといったことが続きました。僕のダメが多すぎるなどとも言われてますが(笑)。でも細かいところを全部押さえたうえで、あとは俳優さんの力でもっと深めてくれれば、物凄い破壊力をもった作品たりうるんですよ。そのためにも、まずは細部を全部おぼえていただかないと(笑)」
その一方で野坂は「今回の役者さんたちは、稽古を“もっとやりたい”“もっとやりたい”と言ってくれるのが僕は嬉しいですね。それは、お客さまによりいっそう楽しんで欲しいから、という気持ちからなんです。それは演出家冥利に尽きます」と、俳優陣に厚い信頼を寄せていることも明らかなのだった。
演出家・野坂実
山寺も水島も着実に年齢を重ねてきている。クーニーのような、緻密で複雑でハードな喜劇を演じるのも決して簡単ではない。野坂曰く「前回公演では僕を含め三人とも体調を崩しました(笑)」
山寺は前回、『おはスタ』に毎朝出演しながら舞台に出ていた。公演前に肉ばなれを起こしたこともあった。「だから今回は、この舞台のために『おはスタ』を卒業したんだという気持ちで臨んでます」と語る。傍らで水島も「僕は最近、稽古中に立ち眩みがして、星が飛ぶんです」と言う。すると山寺すかさず「今回の成功は水島さんの体がどれだけもつかにかかってます」と口を挟む。「あら~、そうなの~?」と水島は困惑の表情を浮かべつつ、「そんな僕たちの生の舞台をぜひアナタの目で見届けてくださいね!」と締めのメッセージをSPICE読者に投げかけてくれたのだった。
(左)水島 裕 (右)山寺宏一
(取材・文・写真撮影:安藤光夫)
■日程:2016/11/30(水)~2016/12/4(日)
■作:レイ・クーニー
■翻訳:小田島雄志/小田島恒志
■演出:野坂 実
■出演
ジョン・スミス:山寺宏一
バーバラ・スミス:寿 美菜子
ポーターハウス警部:岩崎ひろし
トラウトン警部:高橋広樹
ボビー・フランクリン:小野賢章
新聞記者:横田健介