東京文化会館が川端康成原作のオペラを日本初演へ
長塚京三、原田美枝子
東京文化会館は12月10日、11日、開館55周年と日本ベルギー友好150周年を記念し、川端康成の小説に基づくオペラ《眠れる美女〜House of the Sleeping Beauties〜》(作曲:クリス・デフォート)を日本初演する。
ベルギー・ゲントの制作プロダクションLODと、Toneelhuis(ベルギー・アントワープ)、ベルギー王立モネ劇場により共同制作された本オペラは、2009年にベルギー王立モネ劇場で初演。演出のギー・カシアスが振付のシディ・ラルビ・シェルカウイ、ベルリン国立歌劇場とミラノ・スカラ座の共同制作による「ニーベルングの指環」の美術・衣裳・照明スタッフらを起用し、日本文学、オペラ、演劇、舞踊など、様々な芸術分野を融合させて創られた現代オペラだ。
原作は全5章からなる中編小説『眠れる美女』(1961年 新潮社刊)。老人、江口由夫が友人の紹介で訪れた海辺の近くにある秘密の館で、5人の“眠れる美女”と出会い、それぞれと過ごした一夜を描く。全5章からなる原作をオペラ化にあたって3夜(3人の女性との一夜をつづる)に再構成した。単行本初版刊行から55年にあたる今年の日本初演に向け、台詞部分を日本語で、歌唱部分は英語でと、東京文化会館オリジナルバージョンで上演される。
演奏は、東京文化会館の次世代や新進演奏家の育成事業の一環として、東京芸術大学の2〜4年生により構成される「東京芸大シンフォニエッタ」が、振付はシディ・ラルビ・シェルカウイが担当する。シェルカウイはこれまでに日本で、森山未來と『テヅカ TeZukA』(2012年)、『プルートゥ PLUTO』(2015年)や、今年話題となった少林寺僧侶との公演『sutra』などの演出・振付を手がけ、日本でも人気を誇る演出家・舞踊家である。
公演に先立ち行われた会見で、オペラ初出演となる長塚京三と原田美枝子は、公演にかける想いを次のように語った。
(会見:2016.5.10 東京文化会館 Photo:J.Otsuka/TokyoMDE)
●長塚京三(老人)
「昨年の夏にお話をいただき、演出のカシアスさんとお話して出演がきまった。彼らの枠組みの中で一所懸命やるしかないとしかいえないが、今回はこれまで共演してきた原田さんと出演することを頼もしく思う。何ヶ月の期間稽古して本番は2回!大変な大冒険だが、冒険は大好きなので、ここは一つ大冒険してみようと思う」
長塚京三
●原田美枝子(館の女主人)
「東京文化会館はクラシックバレエやクラシック音楽の公演を見聞きしてきた場所。この大舞台に立たせていただくのは最初で最後だと思うし、オペラに出演するのことは想像したことがなかったので、どんな作品になるのか楽しみ。川端作品の日本語の美しさと、不思議な世界へと誘う道案内のような役割なので大変だと思うが、いろんな色が滲んでくるのではないかと楽しみ」
原田美枝子
またベルギー初演時に「眠れる美女」役として出演、東京公演でも同役を演じるダンサーの伊藤郁女(かおり)がワークショップを行い、本作の創作や役柄について語った。
(ワークショップ:2016.9.14 東京文化会館 Photo:H.Yamada/TokyoMDE)
伊藤郁女
◆海外での活動等について
18歳で渡米後、海外での活動が多く日本との繋がりがありませんでしたが、笈田ヨシさんが演出する日仏創作オペラ『YUME』(2014年初演、原作:能阿弥『松風』、作曲:成田和子、台本:ジャック・ケリギー、演出:笈田ヨシ)に振付・ダンサーとして携わり、日本との繋がりが久しぶりにありました。
以前、フランスの振付家・ダンサーのアンジュラン・プレルジョカージュと仕事をした際、彼の振りが自分にあまり合わなかったのです。彼は日本の影響を受けて振付をされている方で、どうして日本の踊りがしっくりこないんだろうと思いました。笈田さんに話したところ、「能楽の歩き方を習ったら、センターが分かるよ」と。
今回の来日は2ヶ月日本に滞在し、このワークショップの他に、京都にヴィラ九条山でのレジデンスリサーチを行います。
◆オペラ《眠れる美女》について
このオペラは色々と贅沢な総合芸術となっています。私が演じる「眠れる美女」役は、3人の美女を踊る役です。場面は全部で3夜あり、各場で女性の描かれ方が異なります。1人目はピュア、2人目は魅力的でお化粧をしている。3人目は変わっていて、体臭がしているのですが、それでも惹かれてしまうような女性です。そして全員処女。
舞台上で私はハーネスをつけえて空中に吊らされながら踊る、人を惹きつけなくていけない役です。私の対象は男ではなくお客様だと思っています。この作品はすごく内密的な作品で、男の願望をオーケストラで歌っていますし、さらに俳優とダンサーが男の願望を探っていきます。それはとても日本的だなと感じます。秘密の大人の世界を大々的にやってしまうという……。
川端さんの小説を読み、日本の女性の“美”というものに対する見方が変わりましたし、怖いところもあるのですが、そういう点は外国では出さなかったりする部分なので、すごく面白い発見でした。この作品をオペラやダンスにすることは、結構狭まれた世界だと思います。細い感情的な衝動がありますが、音楽がすごく工夫されています。例えばため息、寝ているときの息使いというものも、コーラスにして曲に混ぜたり、すごく独創性を感じます。
◆振付の創作と日本初演にあたり変更点は?
振付はラルビと一緒に創作しました。舞台上ではハーネスで吊されたり、ロープがあったりする状況の中で踊るため、どういうものが良いかということをオープンに話していきました。彼は最初から振りを決めるのではなく、状況を見て会話をしながら行います。例えば私がやれるなというところがあると、「もっと郁女、もうちょっといけるよ、やってみたら」と意見を言ってくれて、とてもやりやすい方です。
舞台上では約10メートルのドレスを着ていたり、2番目に登場する女性の時は赤いドレスで、縄でしばってあったりして……。ポジションを替えながら、足を開いたりするとそこがベッドになったりと、演出はすごく大人な世界をスタイリッシュに出しているなと感じます。
自分のカンパニーを持って振付をしているので、ダンサーとして出る仕事をお断りしている状況でした。そのため「ダンサー」として出演する機会は久しぶりです。初演時とは身体的に変わってきていますし、つらいと思います。こんなことやりたくないなと最初は思いましたが、年齢を重ね「女の魅力」ということが分かるようになってきたので、その辺が初演時と変わってくるのではないかと思います。ディテールも色んな所で挑戦してみたいなということがあるので・・・。大人の世界が36歳でやっと分かったという感じです。
東京公演の内容については、作り直すところがあります。ラルビは振付しても信用して好きにしてくれという感じですし、演出家のギー・カシアスさんも同様の意見なので、私なりに作り直していきます。そこに興味がありますね。
伊藤郁女
【日本初演/原語(英語)上演(日本語字幕付)・日本語台詞】
12/10(土)、12/11(日)各日15:00 東京文化会館
台本:ギー・カシアス、クリス・デフォート、マリアンヌ・フォン・ケルホーフェン
ドラマトゥルク:マリアンヌ・フォン・ケルホーフェン
指揮:パトリック・ダヴァン
演出:ギー・カシアス
振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ
老人(俳優):長塚京三
女(ソプラノ):カトリン・バルツ
館の女主人(俳優):原田美枝子
眠れる美女たち(コーラス):原千裕
眠れる美女たち(コーラス):林よう子
眠れる美女たち(コーラス):吉村恵
眠れる美女たち(コーラス):塩崎めぐみ
美術:エンリコ・バニョーリ/アリエン・クレルコ
照明:エンリコ・バニョーリ
映像:アリエン・クレルコ
衣裳:ティム・ファン・シュテーンベルゲン
舞台監督:菅原多敢弘
共同制作:LOD(ベルギー)
特設サイト http://www.t-bunka.jp/hsb/
東京文化会館 http://www.t-bunka.jp/